建築の道を目指したときのことは、今でもまだよく覚えています。時は1964年、東京オリンピック開催で日本が盛り上がっていた時期でした。新幹線が開通したり、首都高速が開通したり、さまざまなインフラ整備がその年からスタートし、カラーテレビを見て、気持ちが高揚しました。そして何といっても感動したのは、国立競技場・代々木体育館(丹下健三の設計)の竣工です。こういった建築物をつくりたいと思い、大学では建築を専攻しました。ただ、卒業研究のテーマは、いわゆる建物の設計ではなく、都市計画=街づくりでした。
今、私が学研ココファンで街づくりに関わっているルーツも、ここにあるのかもしれません。でも、大学卒業後に入社したのは設計事務所。街づくりではなく、特別養護老人ホームや病院などの建物設計の仕事をしていたのですが、だんだんと単体の施設、建物を作ることに限界を感じるようになりました。それこそ私が子どもの頃に胸をときめかせたオリンピック関連のインフラ・拠点整備のように、みんながワクワクする、面白い仕掛けができる仕事がしたいと思ったのです。ちょうどそういった仕事に関われそうな設計コンサルタントの会社があり、26歳のときに転職。30年ほど働いていました。その会社では街づくりや高齢者施設の設計、コンサルティングなど、多岐にわたる仕事をしてきたのですが、そのなかのひとつに高齢者向け住宅の開設をテーマにしたセミナーの講師という仕事がありました。あるときそのセミナーに、今の学研ココファンの小早川代表取締役 兼CEOが参加されていたのです。
それがご縁で学研ココファンのことを知ったのですが、「この会社でなら、自分のやりたいことが実現できるかもしれない」と感じました。当時、学研ココファンの高齢者向け住宅はまだ数棟だけの展開でしたが、この会社の方針のもとで街づくりがやりたい、と。その頃大手企業が新規事業として有料老人ホームに参入していたのですが、それがほぼすべて富裕層が対象の施設。それだと限られた人向けの施設になってしまいあまり広がりがないので、私にとっては面白いと思える開発ではありませんでした。一方、学研ココファンがやっていたのは中間所得層が対象の住宅であり、多くの人が使える住宅を展開しているところが「面白い」と感じ、直接入社させてほしいとお願いしたのです。そして学研ココファンに入社したのは2010年4月。複合拠点第一号の「ココファン日吉」が誕生してから1ヶ月後でした。
入社してからすぐに街づくりに関わったわけではありません。そのとき会社は年間20棟以上を開発していく方針で、私も単体のサ高住の開発をかなり多く担当しました。そうしたなかで、ココファン日吉が話題になったこともあり、個人はもちろん、自治体や他の企業などが学研ココファンの複合拠点モデルに注目するようになってきたのです。
学研ココファンの複合拠点というのは、サ高住を中心とした高齢者支援サービスだけではなく、子育て支援、学習塾などのサービスを1つの建物に集めて運営しています。ココファンだけではなく、学研グループが持っている高齢者支援・子育て支援・教育サービスのリソースを生かしながら、コンビニや薬局などそれぞれの地域や拠点に合ったサービスを組み合わせて開発しています。組み合わせるサービスによってさまざまな可能性が広がるのですが、ここが学研ココファンの複合拠点の特長であり、面白いところだと思っています。サ高住を中心とした複合拠点は、その地域に暮らすすべての世代の人たちの暮らしを支える街の拠点としての役割を果たす場所です。これが「学研版地域包括ケアシステム」という考え方で推進している学研ココファンの街づくりで、入社してからほぼすべての複合拠点の開発=街づくりに関わってきました。
なかでも1番印象的だったものは、「ココファン藤沢SST」です。この拠点はパナソニックが推進しているサスティナブル・スマート・タウンプロジェクトに学研グループとして参画し、2016年にウェルネスサービスを包括的に提供する拠点として開発しました。サ高住、保育園、学習塾、薬局などを併設しています。街全体のコンセプトに「100年後も住み続けられる街」を掲げているので、現在もさまざまなプロジェクトや実証実験が動いており、街の進化が続いています。私もずっとこのプロジェクトに関わらせていただいていますが、新しい取り組みが次々と始まっています。開発は建てて終わり、と思われがちですが、むしろ建物が完成してからが始まりだと思います。ココファン藤沢SSTだけではなく、長く住み続けていただけるような支援をしていく仕事は増えていくと思います。
ちなみに、複合拠点の開発には3~5年ほどの長い時間がかかります。また通常のサ高住ですと、運営事業者である学研ココファンと土地・建物のオーナー、ゼネコン、設計事務所で進めていくことになりますが、複合拠点の場合はとにかく登場人物がとても多いです。登場人数に比例してプロジェクトの難易度があがっていくのですが、そこを調整していくのが複合拠点開発の楽しいところですね。拠点への想いや希望を関係者の皆さんに伝え、それぞれの担当者や専門家の方々に動いていただきます。開発を担当していると、私にすべての知識があるように思われがちですが、そんなことはありません。プロジェクトが大きくなればなるほど、金融、土地、法律、運営のことなど、それぞれのプロの皆さんに伝え、目的に向かって支障なく動いていただけるようサポートしていくことが重要になります。プロジェクト進行中にいつも考えているのは、メンバーの皆さんが理解しやすい伝え方、サポートやフォローの仕方、ほぼこれだけかもしれません。本当に、複合拠点の完成までには多くの時間と、人が関わっています。それだけに想いも強く、完成したときの喜びは他に代えがたいものがありますね。
学研ココファンでは200拠点ほど(2024年7月現在)のサ高住を運営しています。サ高住は今までの介護施設にない、横の広がりをもつ事業です。サ高住は2011年の高齢者住まい法により策定され10年以上が経ちました。法律や補助金などに縛られているところもありますが、まだまだ多くの可能性が残されていると感じています。今後は多様な世代をミックスし、子どもも大人も自由に楽しめる、そういった新しいかたちの複合拠点を作り上げていきたいと思っています。学研グループの教育と医療福祉の強みを生かし、お看取りやお葬式など人生の最期まで心ゆたかな暮らしを送っていただく。DXやグローバルを取り入れて、外国人と日常的に交流できる拠点があっても良いですし、もしかしたら起業家が集まる場所を提供することや町の食堂、ワーキングスペースを併設するなど、様々な街の拠点となれる可能性があります。もっと多くの交流を生むことができるのではないかと思うのです。「街づくりといえば学研!」と言われるように、地域やお客様のニーズに応えていきたいです。
子どもたちには未来にワクワクし、いろいろなことに興味を持ち、「生まれてきて良かった」と思ってもらいたい。おじいちゃん、おばあちゃんの最期の時には「ああ、生きてきて良かった」と言われるような世の中にしたい。複合拠点の開発を通して、そんなお手伝いができたらと思っています。