【医師監修】大腿骨頸部骨折とは|症状や治療の方法・大腿骨転子部骨折との違いまで解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「大腿骨頸部骨折って何?」

「大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折は何が違うの?」

こんな疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

高齢になってくると骨粗しょう症が進行し、転倒などをきっかけに転倒しやすくなります。

大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)は、太ももの骨の股関節部分の骨折を指します。高齢者に多く、骨折をきっかけに寝たきりとなることも少なくありません

骨折してしまった場合は、速やかに適切な治療を受けてリハビリを行う必要があります。また日ごろから転倒しないように骨折を予防することも大切です。

この記事では、大腿骨頸部骨折を引き起こす原因や治療法、予防法についてくわしく説明します。

大腿骨頸部骨折についてざっくり説明すると
  • 太ももの骨(大腿骨)の股関節部分の骨折
  • 転倒をきっかけとして高齢者におこりやすい
  • 寝たきりになりやすいため治療や予防が重要

大腿骨頸部骨折とは

大腿骨頸部骨折

大腿骨頸部骨折は転倒をきっかけに起こることが多い骨折です。

大腿骨とは、骨盤と膝をつなぐ太もも部分の大きな骨のことで、その上端の骨盤との接合部分を大腿骨頚部とよびます。大腿骨頸部は、股関節の一部とされています。

大腿骨頸部骨折は、筋力やバランス機能の低下した高齢者が転倒することによっておこりやすい骨折です。

高齢者には骨がもろくなる「骨粗しょう症」をかかえている人が多いので、軽く転んだりひねっただけでも骨折しやすくなっていると言われています。

太もも部分の大きな骨で、体を支える大切な役割を担っている大腿骨を骨折してしまうと、ほとんどの人は立つことができません。

転んだ時に立ち上がることができないといった症状は、大腿骨頸部骨折が疑われます無理に動かすことは禁忌です

速やかに医療機関にかかり、適切な検査や治療をうける必要があります。本人にとって楽な姿勢を取り、救急車を手配するようにしましょう。

大腿骨転子部骨折との違い

部位の違い

大腿骨の股関節の外側部分である転子部(てんしぶ)が骨折すると大腿骨転子部骨折と呼ばれます。頚部骨折との違いを説明します。

転子部骨折では頚部骨折と比較すると、骨折の治癒が早いことで知られています。転子部は骨折を癒合するのを助ける外骨膜に覆われており、骨に栄養を届ける血管が傷つかないためです。

一方で頚部骨折は、その外骨膜がなく、栄養血管も傷つきやすいという特徴があり、転子部骨折よりも回復に時間を要します

また、大腿骨頸部骨折は折れ方によっては骨が癒合しにくいという特徴があり、偽関節になったり、場合によっては大腿骨頭壊死という合併症を起こすリスクもあります。

転子部骨折よりも、頚部骨折の方が治癒に時間がかかるため、寝たきりになるリスクも高くなります

高齢者に頻発

大腿骨頸部・転子部骨折の年間発生率は2007年では年間15万例です(大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改訂第2版)。50代以降から徐々にみられはじめ、70代以降から大きく増加しているようです。

このように、なぜ高齢者に頻発しやすいのでしょうか。それは高齢者はバランス感覚が低下して転倒しやすいことと、骨粗しょう症により骨がもろくなっている人が多いからです。

実際、大腿骨頸部骨折の受傷原因としてもっとも多いのは転倒です。高齢になると運動能力や視力が低下し、転倒しやすくなります。

そして軽く転倒してしりもちをついただけでも、骨粗しょう症のある高齢者は大腿骨頸部骨折を発症します。

そして骨折してしまうと、ほとんどの場合痛みが強く立つことができません

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大腿骨頸部骨折の理由

大腿骨は体を支える機能がある、人体の中で最も大きな骨です。大腿骨頚部で曲がっており、構造的に外からの力に弱いという特徴があります。

骨粗しょう症により骨がもろい高齢者は、軽く転んだだけ、ひねっただけといった少しの外からの圧力でも骨折してしまいます。実際、大腿骨頸部骨折は、骨粗しょう症のリスクが高い高齢の女性に多くみられます。

そして寝たきりの高齢者など、深刻な骨粗しょう症を患う人は、体位変換やおむつ交換などが原因で大腿骨頸部骨折を発症するケースもあります。

そのため、骨粗しょう症で寝たきりの高齢者を介護するときには、介護者は股関節に圧をかけないように工夫する必要があります。

大腿骨頸部骨折しやすい人

大腿骨頸部骨折は骨粗しょう症にかかっている高齢女性に多く発症すると説明しましたが、実際には男性と比べてどのくらい発症率は高いのでしょうか。

大腿骨頚部・転子部骨折に関する全国的調査をみてみると、男性と女性の発生頻度を比較すると1:4の比率で圧倒的に女性の発症が多くなっています。

女性の方が平均寿命が長く、高齢者の人口割合を比較すると女性の方が男性より多いことは事実です。

しかし4倍もの発症率の違いは、閉経後のホルモンバランスの影響や、スポーツや肉体労働の経験が男性よりも少ないことから女性の方が骨粗しょう症を発症しやすいためとされています。

大腿骨頸部骨折の症状

大腿骨頸部骨折の症状と禁忌についてご紹介します。

転倒した直後には不全骨折で、痛みを伴うもののある程度動ける状態であったとしても、進行してしまうと完全骨折となってしまうことがあります。

そのため、転倒をきっかけに骨折が疑われる場合は、無理に動くことは禁忌です

股関節の強い痛みと歩行障害が特徴

症状の特徴としては、痛みが強いことが挙げられます。体を支える役割のある大腿骨を骨折してしまうと、ほとんどの方は脚の付け根に痛みを感じて立ったり歩いたりすることができなくなります

また、大腿骨頚部が骨折していると、仰向けの状態から膝を立てたり足を持ち上げることができなくなることも症状のひとつです。強い痛みで体の動きが制限されることで寝たきりになりやすく、肺炎や褥瘡、認知症の発症といった合併症にもつながりやすくなります。

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大腿骨頸部骨折の検査・診断

大腿骨頸部骨折の診断には医療機関での画像検査が必要になります。

高齢者が転倒し、「強い痛み」そして「立てない」「歩けない」といった症状を訴えた場合、医師は大腿骨頸部骨折を疑います。

多くの場合は、まずレントゲン検査を実施します。しかし、不全骨折はレントゲン検査による確定診断が難しい場合があるので、必要に応じてCT検査やMRI検査を追加します。

CT検査はレントゲン検査よりも骨折の形状を細かく評価できる上に、MRIよりも短時間で行えるので高齢者に負担が少ないとされています。

一方、MRI検査では、骨の異常だけでなく大腿骨頸部周囲の筋肉に損傷がないかも調べることができます。

大腿骨頸部骨折の治療法

骨折後は早期の治療を受けることが、合併症予防のために重要とされています。

基本的には手術が必要

麻酔管理法や手術方法が進歩し、近年、多くの大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折の治療は手術が一般的となっています。

治療法は骨折後の転位の程度、年齢や全身合併症を考慮して選択されますが、転子部骨折では骨接合術が一般的です。では代表的な術式を紹介します。

骨接合術

骨接合術は骨を専用の器具で固定して骨折した部分を接合する手術で、転子部骨折では一般的に行われる術式です。

比較的短時間で行える手術である一方、骨接合術には偽関節や骨頭壊死、遅発性骨頭陥没という合併症を生じる危険性があります。

合併症が生じた場合、再手術として固定していた金属器具を抜去し、人工骨頭置換術を行う必要があります。

人工骨頭置換術

人工骨頭置換術は、骨折した頸部から骨頭までを切除し、金属やセラミック製の人工骨頭に置き換える手術です。

骨接合術よりも手術時間が基本的に長く、輸血をすることが多いなど、侵襲がやや大きいとされています。また、術後に感染症を発症するリスクも高いという特徴があります。

骨接合術のように術後に偽関節や骨頭壊死、遅発性骨頭陥没はありませんが、合併症として関節脱臼を生じることがあります。

ギプスで固定する保存的療法も

手術方法が確立されていないころは、多くの大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折は保存的にギプスでの固定治療がされていました。

ギプスを使用する場合、骨折した部分を引っ張り元の形状に近づけるようにして固定します。しかし治療が長期間に及ぶ上に痛みを伴い、変形や脚短縮といった後遺症が残ることも多いことが実情です。

人工骨頭置換術を受けた方は禁忌肢位に注意

人工股関節置換手術を受けた人は、手術後に禁忌とされている体勢があります。

禁忌肢位は、股関節を深く曲げること、股関節を伸展・内転・外旋させるような複合運動をすることです。

これらは股関節に負担をかけてしまうため、脱臼を起こす危険があります。脱臼は、筋力や軟部組織が回復する術後3週間以内に発症することが多く、その期間はとくに禁忌肢位をとらないように注意しましょう。

大腿骨頸部骨折のリハビリテーション

大腿骨頸部骨折後は寝たきりになる危険が高いため、適切な治療と合わせて早期からリハビリテーションに取り組む必要があります。

代表的なリハビリを紹介

リハビリ3種

手術後は、翌日からベッド上で座る練習から始めます。手術翌日の早い段階から、寝たきり予防と、筋力低下や関節拘縮が起きないようリハビリを行うことが推奨されています。

全身状態や生活環境なども考慮してリハビリ士の他、看護師、栄養士なども交えたチーム医療で具体的な治療プランが立案されます。

座った状態で、太ももを上げ膝を伸ばす大腿四頭筋へのリハビリ、立位で足を後ろへ上げる中殿筋へのリハビリ、臥位で足をゆっくりと上げ下げする腸腰筋に対するリハビリなどが代表的です。

歩行練習は平行棒から開始し、歩行器や松葉杖、そして杖へと股関節にかかる負荷を考慮して段階的に進めていくことが一般的です。

ただしエビデンスが確立したリハビリメニューはまだありません。(大腿骨頚部/転子部骨折治療ガイドライン改定第2版)

リハビリで気をつけること

骨接合術を受けた人は、手術部位の接合具合に合わせて手術した側の下肢にどのくらい体重をかけて良いかを調整する、「荷重制限」を行います。この荷重制限が正しく守られないと、再骨折のリスクを高めてしまうため注意しましょう。

人工骨頭置換術を受けた人には荷重制限の必要はありませんが、股関節脱臼の危険があります。とくに手術少なくとも数後ヵ月から6ヶ月間は股関節を深く曲げたりねじったりしないようにしましょう。

また、術式によって脱臼しやすい運動方向や程度は違うため、医師やリハビリスタッフに正しい予防方法を確認することが大切です。

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大腿骨頸部骨折の予防法

大腿骨頸部骨折をきっかけに、長期間の安静が必要で身体機能や認知機能の低下がみられる廃用症候群となり、寝たきりとなってしまう方も多いことが問題となっています。大腿骨頸部骨折の予防方法を解説します。

骨粗しょう症の予防

すでに骨粗しょう症と診断を受けている方は、骨粗しょう症の治療をしっかりと行うことが大切です。骨粗しょう症の治療では、薬物療法、運動療法、食事療法の3つをバランスよく行うことが一般的です。

また、骨粗しょう症と診断をうけていない場合でも、リスクが高いとされている閉経後の女性は、定期的に健診を受けて骨密度を測定するようにしましょう

転倒の予防

大腿骨頸部骨折の原因の多くは、立位時や歩行時の転倒です。日常生活の中で転倒せずに過ごすことができるように、家のなかの環境を整えておくことが大切です。

段差をスロープにしたり、立ち上がりやすいように手すりを設置するといった環境調整が必要な場合は、介護保険の利用を検討しましょう。

また、よく歩く範囲は、つまづかないように床のコードをなくすといった小さな工夫も有効です。

大腿骨頸頚部骨折の治療後に気をつけること

リハビリが開始されたら、できるだけ家族がリハビリを見学するようにしましょう。

リハビリの見学を行うと、本人の行えることが骨折前と比べてどのように変化しているかを理解することができます。また、禁忌肢位や注意点の説明を受けることができるので、治療後の生活をイメージしやすくなります

また、ほとんどの方が、退院時に杖や歩行器が必要になります。入院中に介護保険の申請や、区分変更の手続きを行っておきましょう。介護保険制度を利用することで、車椅子などの福祉用具のレンタルや、介護リフォームを割安に受けることができます。

そして、退院後の家族の介護負担を考慮し、訪問介護や通所サービスなどの利用も検討しておくといいでしょう。

早めにリハビリを始めることが重要

治療する上でもっとも重要なことは、できるだけ早期にリハビリを開始し寝たきりを予防することです。

そのため手術後は翌日からリハビリが開始されます。痛みや荷重制限によっては、腕や骨折していない側の足の運動などからリハビリを始めることもあります。

そしてリハビリは手術を行った病院だけで終了するものではありません。リハビリ病院への転院や、自宅や介護施設への退院後も、最低でも6ヶ月ほど必要とされています。

しかしながら、適切なリハビリを行っても骨折前と同じように歩くのは難しい場合もあります。どこにもつかまらずにスタスタと歩いていた方も、杖が必要になることが多いです。「歩行レベルは骨折前と比べ低下する」と考えておいた方がいいでしょう。

大腿骨頸部骨折についてまとめ

大腿骨頸部骨折についてまとめ
  • 大腿骨の股関節部分の骨折で転倒をきっかけとしておこりやすい
  • 高齢で、骨粗しょう症が危険因子
  • 寝たきりのきっかけとなるため治療や予防が重要

大腿骨頸部骨折は、高齢者が転倒をきっかけとして発症することが多い骨折です。予防するためには、骨粗しょう症の治療と転倒しない工夫が必要になります。

また、発症してしまうと廃用症候群や寝たきりになるリスクが高いとされています。

日ごろから生活環境の調整を行ったり転倒しないように注意して、大腿骨頸部骨折の予防を心がけましょう

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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