【医師監修】MCI(軽度認知障害)とは?症状や早期発見のためのチェック方法まで紹介

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「MCI (Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)って何?」

「MCIと認知症はどう違うの?」

このような疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

MCI(軽度認知障害)はどのような症状がでるのか、また認知症の違いとはどこなのかなど、MCIについての詳しい知識を得る機会はあまりないかもしれません。

この記事を読むと、MCIとはどのような状態のことなのか、またMCIと診断された場合どのように向き合っていけばよいかなどがわかります。

この記事を読んで認知症を予防しつつ、将来なった時のための準備をしておきましょう。

MCI(軽度認知障害)についてざっくり説明すると
  • MCI(軽度認知障害)は健康な状態と認知症の間
  • 65歳以上の1~2割が発症していると推定されている
  • もとの健康な状態に回復することもある
  • 本人とその周囲が支えあって改善していくことが重要

MCI(軽度認知障害)とは?

MCI(軽度認知障害)とはどのようなものなのでしょうか。以下で定義などについて見ていきましょう。

軽度認知障害ってどんな状態?

MCI(軽度認知障害)とは、簡単に言うと健康な状態と認知症の間の症状認知症の前段階として考えられています。日本では65歳以上の高齢者の中で13%がMCIであると推定されています。

厚生労働省はMCIを

物忘れが主たる症状だが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態

厚生労働省 eヘルスネット 軽度認知障害

と定義しており、具体的な症状は

  • 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
  • 本人または家族による物忘れの訴えがある。
  • 全般的な認知機能は正常範囲である。
  • 日常生活動作は自立している。
  • 認知症ではない。
厚生労働省 eヘルスネット 軽度認知障害

などがあります。

認知機能障害と認知症の違いとは?

認知機能障害と認知症の関係性についてですが、まず認知症には中核症状と周辺症状(BPSD)が存在しています。

中核症状とは、記憶障害や認知機能障害を表し、周辺症状(BPSD)はそれに伴った環境要因・身体要因・心理要因などの相互作用の結果として生じる様々な精神症状や行動障害のことを指します。

したがって、認知機能障害とは認知症の症状の一部になります。

また、認知症の詳しい解説につきましてはこちらを参照してください。

【医師監修】認知症の症状とは?初期症状・中核症状から進行のしかたまで徹底解説!

65歳以上の4人に1人はMCIもしくは認知症

4人に1人が認知症になった図

厚生労働省「認知症施策の現状について」によると、2010年代前半の時点で日本の65歳以上の推定13%(約400万人)がMCI(軽度認知機能障害)を、また推定15%(約約462万人)が認知症を患っていると報告されています。

このように非常にたくさんの高齢者が認知症を患ってしまっているのが現状です。

この現状に対して、イギリスで2013年の12月に「G8認知症サミット」が開催され、世界に認知症への資金投資などの呼びかけが行われました。

その後も何度もサミットの後継イベントなどが開催され、世界規模で認知症が問題視されていることがわかります。

日本もG8サミットに参加し、「新しいケアと予防のモデル」というテーマのイベントをのちに開催しています。

また、日本独自の施策としては「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」というものがあります。

認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で暮らし続けることができる社会の実現を目指す。

厚生労働省 認知症施策の現状について

という理念のもと行われた施策で、医療、介護サービスを2013年度から2017年度までの5年間の計画として進めていくというものでした。現在は2025年度末までの新オレンジプランが推進されています。

日本は認知症に対して、社会全体で支えようとする施策を設けているのです。

MCIになるとどうなるの?

では、MCI(軽度認知機能障害)になると私たちはどう変化してしまうのでしょうか。

MCIの移行

まず、健康な状態から認知症になる時は上記のように進行していきます。

MCIから軽度認知症は、1年で10%、5年で40%の割合で移行すると考えられています。

一方、認知症に移行してしまってからは症状が解消することはめったにありません。

しかしMCIの状態で発見できれば、16~41%の割合でもとの健康な状態へと回復することもできます。

参照:日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」

MCIから認知症への進行を防ぐには?

このような現状の中、認知症の人口を減らしていくためには、中間であるMCI(軽度認知機能障害)がカギになってくるわけです。

なぜなら、MCIは認知症の前段階でもありますが、健康な状態にも回復する可能性もあるからです。

MCIから認知症への進行を防ぐのにまず大切なのは早期発見です。

早い段階でMCIを発見し、適切な対策を行うことで、進行の確率を大幅に下げることができます。

また、MCIから認知症への進行を防ぐことで、私たちが普段から行えることはあるのでしょうか。

MCIの予防として、下記のような生活習慣が効果的であるといわれています。

食事

まず食生活に関しては

  • バランスのよい食事
  • 摂取カロリーを守る
  • 塩分を控える
  • 野菜や果物、魚の積極的な摂取
  • ポリフェノールを多くとる(コーヒーや緑茶、チョコレートなど)

などがあげられます。

運動

続いて運動では

  • 適度な運動
  • 有酸素運動を行う(ジョギングなど)

などが効果的です。無理のない範囲で継続して行うことが重要です。

認知機能トレーニング

最後に、認知トレーニングでは

  • 読書
  • ゲーム
  • 楽器の演奏
  • 生きがいづくり
  • 友人との会話

などが効果的です。

これらの認知機能トレーニングは、脳の活性化に効果があります。

認知症対応可能なおすすめ施設はこちら!

検査による早期発見が非常に重要

ここまででわかるように、MCI(軽度認知機能障害)は早期発見が非常に重要になってきます。

しかし普通に日常生活を送っているだけでは、自分でMCIと気づくのはなかなかに難しいと思います。

そこで、MCIの早期発見のためのMCIスクリーニング検査ApoE遺伝子検査があります。

MCIスクリーニング検査の受診がおすすめ

まず代表的な検査としてMCIスクリーニング検査があります。

まず、血液にはアルツハイマー病の原因となるアミロイドβペプチドという老廃物を排除、弱体化する機能を持つ血液中の3つのタンパク質(アポリポ蛋白質、補体蛋白質、トランスサイレチン)があります。

MCIスクリーニング検査は、そのタンパク質を調べることでMCIのリスクを検査するというものです。

検査は7ml程度の採血のみで、2~3週間後に検査結果を受け取ることができます。

MCIスクリーニング検査ができる医療機関は全国に多く存在しており、2万円前後(健康保険適用外)で検査を受けることができます。

ApoE遺伝子検査

また、ApoE遺伝子検査はMCIスクリーニング検査とは違う視点から認知症の発生リスクを判定する検査です。

まずApoE遺伝子とはさきほど説明した認知症の原因となるアミロイドベータペプチドの蓄積と大きく関係のある遺伝子です。

ApoE遺伝子には4種類のタイプがあり、型によっては10倍以上もアルツハイマー病のリスクが高まってしまいます。

そこでApoE遺伝子の型を血液検査で判定するというのがApoE遺伝子検査です。

診断はこちらも血液検査のみで行われ、2~3週間後に検査結果が受け取れるような形になっています。

こちらも2万円前後の料金(健康保険適用外)で診断することが可能で、MCIスクリーニング検査と同時に受けると割引がある医療機関も多くあります。

さらなる進行が気になる方は認知症検査を受けてみよう

以上が2つの検査が存在しますが、これはあくまでもリスクの診断であり、さらなる進行が気になる方もいると思います。

認知症の診断についても別記事で詳しく解説していますので、認知症検査を受けたいと考えている方はこちらを参照してください。

【医師監修】認知症の検査方法とは?種類や診断の流れ・注意点まで詳しく解説

MCI(軽度認知障害)の症状は?

それでは、MCI(軽度認知障害)にかかるとどのような症状が現れるのでしょうか。

MCI解説

他のMCIの症状は下記のようなものが多いです。

  • 記憶障害
  • 計画の管理ができない
  • 注意力ややる気の低下
  • 無気力
  • 同じ会話を繰り返す
  • 複数の動作が同時にできなくなる
  • 家事の段取りが悪くなる
  • 外出するときの身だしなみをあまり気にしなくなった
  • 疲れやすい

このような症状が当てはまっていたら、注意が必要です。

MCIのサブタイプと判定の方法

MCI(軽度認知機能障害)にはいくつかのサブタイプがあり、それは以下のフローチャートで分類することができます。

MCIフローチャート

MCIは記憶に障害がでるタイプと、記憶障害ではなく他の認知機能に障害が出る2通りに分類することができ、それぞれ「健忘型MCI」「非健忘型MCI」と呼ばれます。

そこから単一の機能障害か複数の機能障害かの分類でフローチャートのような4通りに分けることができます。

この分類された4通りのMCIは、認知症へと進行すると、現れる症状に違いが発生します。さらに、多重領域のMCIの場合は脳血管性の認知症を発症する可能性も出てきてしまいます。

非健忘型MCIは記憶障害も出ないため家族も症状に気づきにくく、知らないうちに進行してしまっている場合があり注意が必要です。

MCI(軽度認知障害)かセルフチェックしよう!

何度も繰り返しになりますが、MCIは早期発見が非常に重要となってきます。

そこで、下記のチェックリストで自分が疑わしいかどうか確かめてみましょう。

チェックリスト 選択肢① 選択肢② 選択肢③ 選択肢④
財布やカギなど、ものを置いた場所がわからなくなることはありますか 全くない(1点) ときどきある(2点) 頻繁にある(3点) いつもそうだ(4点)
5分前の聞いた話を思い出せないことがありますか 全くない(1点) ときどきある(2点) 頻繁にある(3点) いつもそうだ(4点)
今日が何月何日かわからないときがありますか 全くない(1点) ときどきある(2点) 頻繁にある(3点) いつもそうだ(4点)
言おうとしている言葉が、すぐに出てこないことがありますか 全くない(1点) ときどきある(2点) 頻繁にある(3点) いつもそうだ(4点)
貯金の出し入れや、家賃や公共料金の支払いは一人でできますか 問題なくできる(1点) だいたいできる(2点) あまりできない(3点) できない(4点)
一人で買い物に行けますか 問題なくできる(1点) だいたいできる(2点) あまりできない(3点) できない(4点)
バスや電車、自家用車などを使って一人で外出できますか 問題なくできる(1点) だいたいできる(2点) あまりできない(3点) できない(4点)
自分で掃除機やほうきを使って掃除ができますか 問題なくできる(1点) だいたいできる(2点) あまりできない(3点) できない(4点)
電話番号を調べて、電話をかけることができますか 問題なくできる(1点) だいたいできる(2点) あまりできない(3点) できない(4点)

参照:東京都福祉保健局保健局 とうきょう認知症ナビ

20点以上だった場合は、認知機能や社会生活に支障が出ている可能性があります。

一度お近くの医療機関や相談機関に相談してみたほうが良いかもしれません。

医療機関にかかる際に知っておくべきこと

チェックを受けてみて心配になった方は、ぜひ一度医療機関の診断を受けてみることをオススメします。

しかし、どの医療機関にどのように相談すればよいのでしょうか。

MCI(軽度認知障害)は、内科的要因も複雑に関係した結果起こるものと言われています。

ですから、まずは一度、内科のかかりつけ医に相談するのがよいと思います。

その際にあると便利なものは、症状の記録です。

いつ何を物忘れしたのか、どのぐらい無気力な時間が続いていたのかなど、症状の頻度やそれが現れる原因などの記録は、医師が診断する際の非常に良い判断材料となります。

また、このような記録は自分の物忘れなどについて客観的にふりかえる機会を与え、MCIに気づきやすくなりますのでぜひ一度やってみてください。

MCI(軽度認知障害)と診断されたら?

本人の心のケアが最重要

まずMCIと診断されてしまったら、本人の心のケアを考えましょう。

MCIの場合は症状が軽度なこともあり、本人が自分の状態を自覚していることも多いです。

このような時、一番に不安を感じているのはやはり診断された本人なのです。

MCIは正しい習慣で回復する可能性もあります。MCIと診断された人がいた場合、その人が前向きになり進行の予防や回復に取り組めるように、本人の不安や感情に配慮し、前向きなサポートが必要です。

家族をはじめ周囲の人々で協力し、支えていくことが重要です。

ご本人と家族ができる生活改善の取組み

MCI及び認知症と付き合っていくには、本人、そして家族がともに改善のために行動することが重要です。

ここでは、本人と家族が改善のために実践できるような例をいくつか紹介していきます。

認知症について深く知ろう

認知症のことを深く知ることで、認知症になったときの準備をすることができます。

認知症は進行を遅くするような生活習慣が多くあります。

認知症という病気としっかり向き合い、知識を蓄積し、準備をしていくことでMCIの症状が出る前でも認知機能の低下を防ぐこともできます。

また、たくさんの知識を蓄えておくことで様々な状況下においても前向きに改善に向けた行動をとることも可能になります。

魚中心の食生活に変えてみよう

食生活を改善することで、生活習慣病が治り改善へ向かう場合があります。

食生活を改善していくことは健康管理の基礎です。

野菜や魚などからビタミンやタンパク質などの栄養素を豊富に摂取することで、脳の健康が改善していくことが期待できます。

宅配サービスなども利用しつつ、無理のないペースで健康な食生活を形成していきましょう。

運動習慣を身につけよう

適度な運動の習慣も、生活改善のための方法の一つです。

軽い運動でも、脳の血液循環がよくなるうえに心地よい疲労やリフレッシュ効果などの認知機能を向上させる可能性も大いにあります。

具体的な運動の種類としては、有酸素運動がよいといわれています。

ランニングや体操など様々な種類がありますが、ウォーキングなどをはじめ手軽に取り組み始められるものが多いです。健康維持のため、無理のない範囲で積極的な運動習慣を取り入れてみましょう。

地域の仲間と親睦を深めよう

人との会話、コミュニケーションは脳へ良い影響を与えます。

地域の仲間との親睦、また趣味や町内のイベントなど、家族以外とも社交の場を作り、積極的にコミュニケーションをとっていきましょう。

地域包括支援センターや広報の雑誌などで高齢者向けの地域イベントの情報を集めてみましょう。

新たに交友範囲を広げ、充実したコミュニケーションを楽しみましょう。

趣味などでリフレッシュしよう

趣味などで心をすっきりさせることも、生活改善に役立ちます。

特に趣味がゲームや麻雀などの、細かい作業や頭の回転が要するものだと脳を刺激し、認知機能の低下防止にも効果があります。

また、趣味で出会った友人とコミュニケーションをとることでさらに脳に良い影響を与えることもできます。

無理のない適度な趣味を始めてみましょう。

口腔機能を良くしよう

口腔機能を改善することも、認知症改善の方法の一つになりえます。

よく噛んで食事をすることは脳の活性化を促進させるため、軽度認知障害の予防に効果があるからです。

日々の歯磨きだけでもその効果は現れます。

またそれ以外にも、虫歯や歯周病などのほかの生活習慣から発生する症状も予防することができるため、口腔衛生はよくしておきましょう。

認知症対応可能なおすすめ施設はこちら!

MCI(軽度認知障害)まとめ

MCI(軽度認知障害)についてのまとめ
  • MCI(軽度認知障害)は健康な状態と認知症の中間の状態
  • 65歳以上の1~2割が発症していると推定されている
  • 進行してしまう場合もあるが、健康な状態に改善する可能性もある
  • 本人の心のケアを第一に、その周囲が支えあって改善していくことが重要

認知症へ進行してしまったら、症状は回復しづらい一方で、MCIの時点で早期発見できたら、改善する可能性もあります。MCIチェックシートやMCIスクリーニング検査、ApoE遺伝子検査などを活用して早期診断をすることが大切です。

そしてMCIと診断されたら、まず本人の心のケアが最優先です。

本人が自分の症状と向き合い、家族や周囲の人々が支え、生活改善をすることでMCIを改善、回復させていきましょう。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター副センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 准教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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