【医師監修】認知症は本当に一気に進むの?認知症が進む原因や進行を遅らせる方法を解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「認知症は一気に進むの?」

「認知症の進行を遅らせる方法はないの?」

ご自身や家族が認知症と診断されて、このように心配されている方もおられるでしょう。認知症はなぜ起こるのか、どんな症状が出てくるのかも気になるところです。

この記事では、認知症は本当に一気に進むのか、認知症が進む原因や進行速度を遅らせる方法などをわかりやすく解説します。この記事をご覧になれば、認知症の進行についての基本的な情報がよくわかります。

認知症の進行についてざっくり説明すると
  • 認知症は必ずしも一気に進むわけではなく、人それぞれである
  • アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症・レビー認知症の三大認知症がある
  • アルツハイマー型認知症の症状は7つの段階を経る
  • 認知症には中核症状と周辺症状がある

認知症は一気に進むの?

最初に、認知症は一気に進むのか、進行速度がどのようなものかについて、見ていきましょう。

認知症の進行の早さは人それぞれ

結論から言うと、認知症の進行速度は、個人差があり、人それぞれです。症状がゆっくり悪化する場合もあれば、段階的に変化することもあります。一気に進むことがないとは言えませんが、必ずしも一気に進むと決まっているわけではありません

認知症にも種類がいくつかあります。進行速度は、種類によっても違います。

よく知られているアルツハイマー型認知症は、進行速度が遅く一気に進むことはありません。初期症状は、人や物の名前が出てこない、日付や道を忘れることです。次第に物忘れが頻繁になり、生活にも支障が出てきます。10年程度の間にゆっくり進行して、寝たきりになることもあります。

三大認知症の概要と進行について

ここでは、一般的に知られている三大認知症の概要と進行について解説します。

三大認知症とは、次の3つです。

  • アルツハイマー型認知症:脳に蓄積したタンパク質が、神経の働きを妨げて発症します。認知症の約半数はアルツハイマー型です。
  • 脳血管性認知症:脳の血管が破れる脳出血・くも膜下出血、脳の血管が詰まる脳梗塞など、脳卒中がもたらす認知症です。血栓ができ、脳の一部に血が回らなくなり、脳細胞が死滅してしまいます。
  • レビー認知症:大脳皮質の神経細胞内にレビー小体というタンパク質が溜まって起こります。先に幻覚・幻視やパーキンソン症状が現れ、認知機能障害・記憶障害が後から現れるのが特徴です。

上の2つの認知症について、より詳しい情報を以下のリンク記事で紹介していますので、ぜひそちらの記事も参照してください。

アルツハイマー型認知症とは?症状や原因・患者さんへの対応法をわかりやすく解説!

アルツハイマー型認知症は徐々に進行

アルツハイマー型認知症の進行

アルツハイマー型認知症は、記憶障害から始まり、広範な障害へと症状がゆっくりと進行するのが特徴です。最初は、年月日が不確かになったり、同じ話を繰り返すなどの軽度な症状が見られますが、日常会話に困るほどではありません。

その後、料理や買い物が思うようにできない、季節に合った服を選べない、など症状が進みます。さらに、家のトイレの場所がわからなくなったりして、ついには記憶をほとんど失い、肉親もわからなくなってしまうのです。

アルツハイマー型認知症の症状は、医学的に7つの段階を経るとされています。各段階の特徴は、次のとおりです。

レベル1

レベル1は、医師の診察を受けても、病院で詳しく検査してもらっても、特に異常な所見が見られるわけではありません。

周りの人にも違和感はなく、正常な認知機能を維持していると認められる状態です。

レベル2

レベル2は、物忘れが目立つようになったと言われる段階です。

日常的に使っている物の名前が出てこなくなったり、今置いたばかりの物の置き場所をつい忘れてしまうなど、何となく様子がおかしいと感じ始める段階です。

レベル3

レベル3になると、アルツハイマー型認知症とはっきり認められる段階です。物忘れがひどく、多少複雑な文章なども理解しにくくなり、周りから見ても言動がおかしいと感じられます。

整理整頓や、計画的に物事を進めるなどの日常生活の基本的な能力が低下します。

レベル4

レベル4は、医師による詳しい診察によって、認知機能に明らかな障害が確認できる段階です。

つい最近あったことがわからなくなることや、ちょっとした暗算もスムーズにできない、お金の管理が困難などの症状が見られます。

レベル5

レベル5は、認知機能が大きく低下し、周りの人などのサポートがないと日常生活を送れない状態です。

自宅の住所や電話番号を忘れたり、自分の経歴も思い出せなくなります。さらに自分の居場所や日付もわからなくなり、簡単な暗算もできません。ただ、自分や家族の基本的情報は覚えています。食事や排泄のサポートの必要もありません。

レベル6

レベル6になると、生活のほとんどの場面で周囲のサポートが必要です。

睡眠障害や徘徊が始まり、トイレも一人でできなくなります。性格も大きく変わることがあります。つい数分前の出来事も覚えていません。自分の名前はわかり、家族・知人と全く知らない人の区別はつきますが、生い立ちを思い出せません。

レベル7

レベル7は、アルツハイマー型認知症の最終段階です。生活全般について介護が必要です。

周囲の環境にほとんど反応できません。会話することも、自分自身のコントロールもできません。全身が硬直してしまい、姿勢を保つことも困難になることもあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症の進行

脳血管性認知症は、原因となる疾患によって症状の現れ方は異なります。

大きな脳梗塞や脳出血が起こった時は急激に発症しますが、小さな脳血管障害を繰り返して徐々に認知症が進む人もいます。比較的急に発症し、段階的に進行するケースが多いです。

全体的な症状は、初期は不眠・めまい・頭痛・手足の麻痺などが多く、一方で記憶障害は比較的軽度です。進行すると言語障害や歩行障害になります。突然症状が出現することもあれば、落ち着いていると思うと急に悪化することを繰り返すこともあります。

また、ある分野はしっかりできるのに、他のことはできないなどの、まだら認知症が特徴です。

【医師監修】脳血管性認知症とは?原因・症状の特徴から薬物治療の方法まで全て紹介

レビー認知症

レビー認知症の進行は、個々人により異なります。調子の良い時と悪い時を繰り返しながら進行しますが、急速に進行することもあるのです。日や時間帯によって、物事をよく理解できる状態と、ボーっとしていて極端に理解力・判断力が低下している状態が入れ替わり起こります。

レビー認知症には、認知機能の変動・幻視・パーキンソン症状、レム期睡眠行動異常症の、4つの特徴的な症状があります。どの症状が目立つかによって、経過も異なるのです。

一般的には、初期状態から常に介助が必要となる後期状態まで10年未満で到達することが多く、アルツハイマー病や血管性認知症より進行は速いとされています。

参考文献:櫻井博文:パーキンソン病とレビー小体型認知症

認知症が進行する原因は?

ここでは、認知症が進行する原因について、中核症状と周辺症状の進み具合や、そもそも具体的にそれらがどのような症状をもたらすのかを見ていきます。

中核症状

中核症状は、脳の病変による認知機能の低下によって起こります。理解力・判断力の低下、見当識障害、記憶障害、失行・失認・失語などの症状が見られます。

程度に違いはありますが、認知症患者には必ず現れると言ってよく、次第に重い症状に進行していきます。完全に治すことはできませんが、薬の服用などで進行を遅らせることは可能です。

見当識障害

見当識障害は、時間・場所、周囲の人々と自分との関係などを理解して見当をつける能力(見当識)が低下するものです。以下の順番で生じる例が多いです。

1.時間の見当識障害

最初は、現在の時刻・日付がわからなくなることから始まります。さらに、昼と夜の区別や季節などがわからなくなります。

2.場所の見当識障害

外出すると自分がどこにいるかわからなくなり、道に迷うことが多いです。次第に自宅を認識できずに他人の家に帰ろうとしたり、トイレの位置がわからずに排泄のトラブルを起こします。

3.対人関係の見当識障害

始めは近所の人や普段あまり会わない人がわからなくなり、症状が進むと、親しい人やついには家族もわからなくなります。たとえば、例えば自分の妻を近所のおばさんと認識(誤認妄想)することもあります。

短期記憶と長期記憶の障害

記憶障害は、記憶を司る脳の海馬が破壊されて起こる障害です。記憶には、数分~数日以内の短期記憶と、数か月~数十年前の長期記憶があります。

記憶障害は単なる物忘れとは、違います

  • 長期記憶は保たれ・短期記憶ほど失われやすい

認知症の初期段階では、短期記憶が失われやすいです。症状が進行するにつれ、長期記憶障害も広がります。

  • 体験したことを丸ごと忘れる

物忘れでは、体験した記憶を丸ごと忘れることはまずありません。認知症の場合、丸ごと忘れてしまいます。

  • 一般的知識や体感したことは忘れ難い

短期記憶やエピソード記憶はすぐに失われますが、一般的な知識や意味記憶、体で覚えた手続き記憶は失われ難いです。

失行・失認・失語など

失行」は、一連の動作をスムースに行うことができなくなることを言います。例えば、使い慣れた道具などを適切な手順で使えなくなります。

失認」は目から得た情報を適切に認識できなくなる症状、「失語」は言葉の理解・表現が難しくなります。

どれも脳神経の障害のために起こる症状ですが、障害の出るタイミングや部位によって、症状にも違いが見られます。発症時期も、個人差があります。

ただ、いずれの症状も、外見的には異常がみられないものです。しかも、他の症状が目立たない初期段階から起こるため、認知症による症状と理解され難いことも多いです。

周辺症状

周辺症状は、本人を取り巻く環境や人間関係に影響されて生じます。本人は中核症状のために不安や混乱をきたしますが、その状況に対する周りの人の対応が絡み合って起こる行動・心理症状です。

本人が、何とかよりよく適応しようとした結果でもあり、環境を変えることにより軽減したり消滅したりすることもあります。しかし、逆に、さらに症状を引き起こす恐れもあります。

外出時の迷子・徘徊

外出時に、道に迷いやすくなったり、自宅がわからなくなったりします。自宅など見慣れている景色も、初めての場所と感じられてしまうこともあるのです。本人にしてみれば、何とか家にたどり着きたいという気持ちから、徘徊状態になってしまうこともあります。

また、自分がいる場所がどこか確かめたくなり、外出することもあるのです。本人にとっては必死の思いの行動ですから、無理に出かけないようにするのではなく、見守ってあげる姿勢も大切です。

ただ、このような行動がリスクを生む場合もあります。徘徊の理由を探りつつ、徘徊に伴うリスクを上手に管理することがポイントです。

被害妄想(物盗られ妄想など)

次によくあるのが、被害妄想です。特に財布やお金を盗られたと主張する物盗られ妄想は初期からよくみられます。また、いじめられた、理不尽な対応をされた、などの被害妄想、嫉妬妄想もみられます。

周りの人が客観的にあり得ないと言っても、本人は確信を持っているのです。いくらなだめても納得できずに、本人は次第に孤立していきます。

逆に疑われるのは、身近な人です。自分にとって大切な人との関係が悪化していると、不安を強く感じてしまうのです。落ち着いている時に話をよく聞いてあげて、不安感を軽減してあげましょう。

感情が不安定になってしまう

感情が不安定になってしまうことも多いです。抑うつ感や不安な状態が続くこともあり、次第に思うようにできないことが増え、落ち込んで無気力になってしまいます。

特に意欲の低下が顕著です。あれこれ理由をつけて、行動しないようになります。たとえば、外出したくない、物事に関心がもてないなどの症状が見られます。脳が疲れやすく、行動を起こそうという意欲が出てこないのです。

ここで大事なことは、無理に強要しないことです。自分が今できることをできたら十分と言ってあげましょう。

興奮・暴力や暴言・介護への拒否

興奮・暴力や暴言・介護への拒否もよくある周辺症状です。前頭葉の萎縮などから、脳が疲れやすく感情コントロールが難しくなるのです。そのため、暴言や暴力などの直接的行動で、自分の気持ちを表現しようとします。食事を食べない、薬を吐き出す、入浴拒否などの介護拒否も見られます。

本人は自分が正しい、周りの扱いが理不尽と信じ込んでいるのです。このため、尊厳が傷つけられたと感じて、症状が強く表れることもあります。

ただ、必ず暴言・暴力を伴うわけではありません。暴力や暴言に訴えるのは、複数の原因が重なる場合が多いのです。原因の1つでも解消できれば、このような事態が生じるリスクが少なくなります。

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認知症の進行を早める環境的要因

認知症の進行を早める環境的要因として、以下のようなことがあります。

ストレスのかかった環境に身を置く

ストレスの影響

ストレスのかかった環境は、認知症進行の原因となるリスクが高いです。認知症の初期段階では、本人自身が違和感を持つことも多く、その状況を改善しようとします。それが不安・自信喪失などの心理的なストレスにつながっていくのです。その結果、介護拒否をしたり、うつ状態になり、徘徊・幻視・睡眠障害などの周辺症状を引き起こすのです。

また、長年連れ添ったパートナーを失うと、社会から取り残される感覚に陥ることもあります。このような出来事が契機になって、大きなストレスとなることもあるのです。ですから、生活の中で大きな変化があった時は、注意して様子を見守ってあげる必要があります。

参考文献:Chu B et al. Physiology, Stress Reaction

叱られたり行動を制限されるとより悪化

認知症は、叱られたり行動を制限されるとより悪化します。たとえば、認知症のために起こしたミスを責められると、萎縮して自発的な行動をためらうようになります。

また、本来、本人の自由に任せるべき行動を制限してしまうと、喪失感を抱かせるでしょう。そのようなことが原因でうつ状態に陥り、認知症が悪化することもあるのです。

基本的な生活習慣が乱れる

食事・運動・睡眠などの基本的生活習慣の乱れが認知症の進行につながるとも言われます。たとえば、入院などをすると、自分の身の回りのことさえもやる必要がなくなります。その結果、ただボーっとしているだけの時間が増えて、認知症が進行するケースもあるのです。

これまで自由に行っていた趣味を楽しめない、飲酒や外出ができないなど、活動や生活パターンに制限が生じる場合も同様です。そのような身に付いた習慣が制限されれば、不自由と感じ、活気を失い、認知症進行の原因にもなりかねません。

さらに、周りの人たちとの関係も影響します。認知症による物忘れで怒られたりすると、精神的な不安定さが増し、症状の悪化につながることもあります。

急な変化が起こる

生活環境の急な変化が起こると認知症の進行を早めることになりがちです。認知症の方は、変化に順応するのが苦手なのです。

たとえば、長年住み慣れた部屋の模様替えをすると、それが悪影響になることもあります。また、ずっと自宅で暮らしていた方が急に施設に入ると、認知症が進行することもあり得ます。

施設入居は大きな環境の変化です。ただ、環境変化が影響することは、施設入居に限ったことではありません。近くにいた親しい友人が引っ越したり、病気で体が不自由になるなどの変化で、認知症が進行することもあります。

思考する機会が減る

思考する機会が減ることも認知症の進行に関係しています。認知症だからといって周りの人が介助し過ぎると、自分で考えて判断する力が衰えます。良かれと思った過剰なサポートが、認知症を進行させるのです。

人は生活していく際に、常に脳を働かせて自分で判断しながら生活しているのです。家事をするときも、次の手順を考えながら行動しています。

ところが、自分でやることを他の人にやってもらえるようになると、考える必要がなくなってしまいます。そのことが原因で、認知症が進行してしまうこともあるのです。

施設に入ると認知症が進行したと誤解されることも

施設に入ると認知症が進行してしまうと思い込んでいる方もいるでしょうが、それは誤解です。

施設入居により認知症を進行させるリスクがないとは言えませんが、逆に施設に入ったからといって、認知症が必ず進行するということもありません。入所によって眠前の風景や生活パターン、自由度などが変化し、認知症の悪化につながることが考えられます。

施設入居は確かに大きな環境変化です。ただ、施設入居して認知症が進んだ、と思われる場合も、実際には、以下で説明するように、「進んだように見えているだけ」で誤解ということもあります。

薬の増量や変更により悪化したように見える

薬の増量や変更により認知症が悪化したように見える場合があります。たとえば、施設入所当初は環境になじめず眠れないために、睡眠薬を使うこともあります。急に薬を使い始めると、日中もボーっとしてしまうこともあるのです。

家族の方などには、症状が悪化したように見えるかもしれませんが、認知症が進行しているわけではありません。ただ、放置すると、実際に状態が悪化してしまうリスクがないとは言えないので注意が必要です。

一方で、自宅にいたときは、薬を飲み忘れたりしていた方が、施設に入ったことで、きちんと薬を続けることで、症状が改善するケースもあります。つまり、薬の増量や変更をするときは、悪い影響が出ることがないように、入居者の状態に合わせて慎重に調整する必要があるのです。

対人関係を築くのは大変

誰でも新しい対人関係を築くことは結構大変なことです。まして、認知症の人は人間関係を築くのが苦手な人が多いでしょう。

特に、先に入居している人同士の関係ができ上っている中に、後から入っていくことは難しいものです。また、施設には様々な状態の入居者がいますので、上手に関係を築くためには、どんな方でも時間が必要です。

そのため、家族から見ると、最初は孤立しているように見え、認知症が進んだのではと心配になることもあるでしょう。ただ、多少時間はかかっても、人とのかかわりができることで、次第に刺激を受け、認知症の進行を遅らせることにもなるのです。

他の入居者や担当スタッフとの関係が新しくできることは、最初のうちは戸惑いがあっても、とても大切なことです。

慣れた自宅のほうが様々なことがこなせたように見える

慣れた自宅にいたほうがいろいろできていたように見えてしまうこともあります。自宅でできたことができないのは、施設に入居して認知症が進行したためだと思い込んでしまうこともあるでしょう。

しかし、どんな方でも、新しい環境に入り、対人関係が変わると、それまで当たり前であったことが、思うようにできなくなることがあります。認知症が進行したのではなく、ただ新しい環境や対人関係に慣れていないだけなのです。

誰でも、生み慣れた環境下での決まった相手との会話や定型化された作業手順は、脳をそれほど使わなくてもできます。しかし、新しい環境下での全く初対面の人が相手となると、それまでできていたことが困難になるのはやむを得ないことです。それでも、時間が経てば、以前のようにできるようになってきます。

認知症の進行を遅らせるには

一旦発症した認知症を完全に治すことはできないと言われていますが、進行を遅らせることはできます。ここでは、認知症の進行を遅らせる方法を見ていきます。

正しい食生活にしよう

まず、正しい食生活をすることです。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβという脳内物質の蓄積によって脳が破壊されて、認知機能が低下します。

アミロイドβの蓄積を防ぐ効果が高いのが、「DHA」「ポリフェノール」「カテキン」「EPA」「葉酸」などです。これらを含有する食品を積極的に摂取すれば、認知症の進行を遅らせる効果があるとの研究もあります。

以下では、認知症の進行を遅らせるために取り入れたいおすすめの食材と、控えるべき食材を紹介します。

【医師監修】認知症予防に効果的な食事は?ボケ防止に効く食材・食事方法を徹底解説

おすすめの食材12選

まず、積極的に取り入れたいおすすめの食材は、次の12個です。

  • 緑黄色野菜(ポリフェノールがアミロイドβの生成を阻害する)
  • その他の野菜(トマト、にんじんにはカロチンが「含まれる。小松菜、ほうれん草にはビタミンE, Cが多く含まれる。
  • ナッツ類 (ビタミンEが多い)
  • ベリー類(ポリフェノールが多い)
  • 豆類(特に女性でイソフラボン摂取による認知症リスクが低下する)
  • 全粒穀物(大麦、小麦、ライ麦、エン麦など)
  • 魚(DHAやEPAなどの脂肪酸)
  • 鶏肉
  • オリーブオイル
  • カマンベールチーズ

カマンベールチーズの摂取によって高齢者でBDNFという脳の栄養因子を増加させたがMMSEの点数改善は示されていない。

  • ワイン(グラス1杯程度)

軽度〜中程度のアルコール摂取によりアルツハイマー病または血管性認知症を発症する相対リスクも低下させる

参考文献

控えるべき食材6選

逆に、控えるべき食材は、次の6個です。

  • 肉の脂身
  • バター
  • マーガリン
  • チーズ
  • 揚げ物
  • ファストフード

人との繋がりを大切にしよう

人との繋がりも大事な要素です。中には「ひとりの方が気楽でいい」という人もいるでしょう。しかし、元来、人間は社会的交流が必要な生き物です。ひとりがいいわけはありません。

一人で長時間過ごしていると、ボーっとしてしまうだけでなく、寂しさや不安が高じて認知症が進む要因となってしまいます。

逆に人と適切なコミュニケーションをとることができれば、脳が活性化されるだけでなく、心も落ち着き、安心感を持てます。まして、周りの人が絶えず笑顔で明るく接してくれるなら、楽しさ・嬉しさが湧いてきて、認知症の進行を抑えることにもつながるでしょう。

適度な運動

体を適度に動かすことも大切です。適度に運動しないと、特に脚力が弱くなり、転倒して骨折することも多くなります。結果として、動けなくなり、認知症が進行することもよくあります。

そのような事態を避けるために、散歩をするなど、無理のない範囲で身体を動かしましょう。そうすれば脳が活性化され、運動能力の衰えも防げます。

ただ、過度な運動は、ケガにつながる恐れもあります。必要なのは、自分の体力に見合った運動です。車いすの方や寝たきりの方も、できる範囲で体を動かしましょう。気分転換に足踏みする、手を握ったり開いたりする、などの軽い運動でも良いのです。 有酸素運動によってアミロイドβを分解するネプリライシンが活性化されて、アミロイドβの沈着を防ぐと言われています。

参考文献:島田裕之:認知機能低下予防

脳を鍛えよう

脳トレなどで脳を鍛えるのも良い方法です。簡単なゲームや計算でも脳に刺激を与え、認知症の予防に効果的とされています。

脳トレは、一人で楽しむだけでなく、介護施設などでのレクリエーション型脳トレもあります。レクリエーション型は、入所者がコミュニケーションをとりあって一緒になって楽しく考えることができると、大人気です。

計算問題・漢字問題・間違い探しなどいろいろな脳トレがありますので、毎日の生活に取り入れて、脳を活性化させましょう。

伊藤智子ら.七田式脳トレーニング法による健常高齢者の認知機能への影響

以下の記事では、認知症の予防に適した脳トレを紹介しています。

【専門家監修】認知症予防におすすめの脳トレ13選|実施する際のポイントも紹介

薬を利用して進行速度を遅くしよう

薬の服用も認知症の進行を抑えるのに効果的です。きちんと医師の診断を受けて早い段階から薬を服用すれば、軽い症状に留めることが期待できます。

主な抗認知症薬として、4種類の薬があります。目的に合った薬を服用しましょう。

意欲を向上させる薬

まず、意欲を向上させる薬があります。ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種類の薬です。いずれもコリンエステラーゼ阻害薬に分類され、脳内でアセチルコリンという神経伝達物質が足りなくなるのを防ぐ薬です。

このうち、ドネペジルは、軽度・中等度・高度のどの段階の症状にも使用できます。軽度・中等度の方だけに効果的なのが、ガランタミンとリバスチグミンです。

抑うつ症状やアパシーなどの認知症の行動・心理症状を改善させる効果があると言われています。 コリンエステラーゼ阻害薬.日本医師会雑誌雑誌147(2):218-219

心を穏やかにする薬

次に、心を穏やかにする薬です。中等度・高度の症状の方に使用することが多いメマンチンは、NMDA受容体拮抗薬に分類され、神経細胞の死滅を防ぎ、心を穏やかにする効果がある薬です。

メマンチンは、単独でも認知機能障害のの悪化を抑制することが報告されていますが、上のドネペジル・ガランタミン・リバスチグミンの3種類の薬の1つと併用することもあり、これらの薬の効果に上乗せ効果を示すことが報告されています。

メマンチン.日本医師会雑誌雑誌147(2):220-221

以上の計4種類の薬が、認知症の進行を抑えるのに効果的です。

他にも周辺症状を軽減させるために、漢方や抗精神病薬・抗不安薬・抗うつ薬などを使用することもあります。

飲み忘れや過剰な服用に注意

注意すべき点は、薬の管理です。進行を抑えるのに効果的な薬も、飲み忘れや逆に余分に服用すると、逆効果になります。

薬の管理は高齢者には難しいので、家族の方などが、服用時にきちんと適切な量を飲んだことを確認するようにしたいものです。それが難しい場合は、ピルケースを活用して1回に飲む分を分けて保管したり、飲んだらカレンダーに印をつけるなどの配慮が必要です。少なくとも2・3日に1度は正しく薬を服用しているか確認するようにしましょう。

薬では完治はできないことを知っておこう

ただ、現状では、薬の服用で、認知症の症状を完全に治せるわけではありません。あくまでも症状の進行を遅らせたり、症状の緩和を期待するものです。

そのため、薬物療法とともに、脳に刺激を与える認知機能のリハビリテーションや、家事などの生活リハビリテーション、園芸療法や音楽療法などの非薬物療法も重要です。

家族・周囲はどのように対応すべき?

認知症と聞けば、家族や周囲も動揺するでしょう。しかし、一番不安なのは本人です。大事なことは、行動をよく観察することです。そして、できるだけ本人に合わせてあげましょう。

認知症の方は、外出したい・トイレに行きい、などと思っても、自分でうまく表現できないことも多いのです。ですから、小さな変化も見逃さないようにしましょう。何となく気分が上の空だなと思ったら、何を望んでいるのか考えてあげることです。

また、認知症の方にも、できることはたくさんあります。「何もできない」と決めつけずに、できることは本人にやってもらい、自分ができることがある、必要とされているとの気持ちを持ってもらいましょう。

家族が本人に寄り添い、気持ちを理解してサポートすることで、信頼関係を築くことが大事です。

早期発見・早期治療が非常に重要

認知症は、早期発見・早期治療が重要です。

脳の細胞が徐々に破壊されるアルツハイマー型認知症は、回復しないというのが一般的な見解です。一方、脳内出血などが原因で一時的に認知症と同様の症状が出た場合は、早期に診断して治療すれば、症状の進行を食い止めることもできます。

また、回復困難な認知症も、早期に診断を受けて早い段階から適切に対応すれば、進行を遅らせることは可能です。周囲の理解を得ながら本人に適した介護サービスを上手に利用すれば、周辺症状も軽減できます。

認知症は治らないと、はなから決めつけないことが大事です。

認知症の早期発見のための初期症状チェック

認知症の早期発見・早期治療のためには、まず初期症状チェックを行ってみることです。

以下に自分でできる認知症のチェック項目の例を記載しておきます。「認知症では」と気になるときは、自分自身で、あるいは家族と一緒にチェックしてみましょう。

初期症状チェック項目例
  • 5分前に聞いた話を思い出せない
  • 同じことを何回も話す・尋ねる
  • 物の置き忘れが増えたり、置いた場所を忘れる
  • 今日が何月何日かわからない
  • 以前はできた料理や買い物に手間取る
  • お金の管理ができない
  • 周りの出来事に関心がない
  • 意欲がなくなった
  • 怒りっぽくなった・疑い深くなった
  • 言いたい言葉がすぐに出てこない
  • 一人で外出できない

当てはまる項目が複数ある場合は、医師に相談してみましょう。

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認知症の進行についてまとめ

認知症の進行についてまとめ
  • ストレス・生活習慣の乱れ・生活環境の急変・思考機会の減少などが認知症の進行を早める
  • 正しい食生活・人との繋がり・適度な運動・脳を鍛える・薬の服用などで、認知症の進行を遅らせられる
  • 家族が本人に寄り添い気持ちを理解してサポートすることが大事
  • 認知症は早期発見・早期治療が重要である

認知症は本当に一気に進むのか、認知症が進む原因や進行速度を遅らせる方法などを解説しました。

認知症は必ずしも一気に進むものではなく、生活環境や周りの人の対応によって、症状も変わります。

治らないと諦めるのではなく、本人の状況を理解し、進行を促す要因や環境を取り除くために、周りの人からのサポートが重要です。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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