【専門家監修】構音障害・失語症のリハビリ|訓練方法から家族ができるサポートまで解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「構音障害や失語症は何が違うの?」 「構音障害のリハビリ方法は?」 このような疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。 構音障害・失語症とは、脳梗塞や脳出血などを原因とする脳の障害や、加齢による機能低下、パーキンソン病などの神経難病などによって生じる言語障害です。 構音障害や失語症は、発症後に段階的に行われるリハビリテーションによって回復するといわれています。 この記事では、構音障害と失語症のリハビリ方法や注意点について、詳しく解説します。

構音障害・失語症についてざっくり説明すると
  • 脳の障害や加齢によって起こる症状
  • 構音障害は言語の理解に問題はないが呂律が回らず聞きとりにくい状態
  • 失語症は言葉が出にくかったり、相手の話していることを理解できなかったりする症状
  • リハビリテーションが効果的

構音障害のリハビリ方法

構音障害の主なリハビリ方法

構音障害は、言いたい言葉を話すことや相手の言葉を理解することができますが、運動中枢がうまく働かなくなることで、呂律が回りにくく言葉を聞きとってもらいにくい特徴があります。構音障害に対する様々なリハビリ方法について紹介します。

発声発語訓練(パタカラ体操など)

発声発語訓練の代表的なものとして「パタカラ体操」があります。パタカラ体操とは、「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発声しながら行う、口の体操のことです。呂律の回りにくい構音障害を持つ方に効果があるとされています。 パタカラ体操は構音障害だけでなく誤嚥性肺炎の予防にも効果的です。 加齢によって口の周りの筋肉や舌の動きが弱まると、咀嚼し飲み込む力(嚥下機能)が低下します。嚥下機能の低下は、誤嚥性肺炎の原因となります。 パタカラ体操で口や舌を動かずことは嚥下機能の向上にもつながるため、誤嚥性肺炎予防のリハビリテーションとしても効果的です。

呼吸・ストレッチ

深呼吸やストレッチには、発生する時に使用する呼吸筋をリラックスさせ、血流をよくする効果があります。 深呼吸をするときは椅子に座り背筋を伸ばしましょう。お腹に手を当てて鼻から1秒かけて吸い、口から3秒かけてゆっくりと吐き出します。 ストレッチは、首や肩・腕などの上半身を中心に行うといいでしょう。

口の体操・舌の体操

構音障害や失語症のある方は、話す機会が減少する傾向があり、口や舌の筋肉が硬くなったり筋力が弱まってしまいがちです。 口を開ける、頬を膨らませる、唇を突き出すといった口の体操や、舌を前後左右上下に動かす体操を行うといいでしょう。

発話以外のコミュニケーション方法の練習

パタカラ体操や、口や舌の体操を行っても構音障害が回復しない方もいます。そのような方に無理に発語を強要してしまうと、気分の落ち込みや回復への意欲が低下してしまう危険も。 現在では、文字を音声化することができるさまざまなスマホアプリがあります。その他、手話や文字盤、コミュニケーションボードなどといった福祉用具もあります。身近にある紙やホワイトボードに文字を書いて貰うことも有効です。 症状に合わせたツールを使用することによって、発語をしなくても意思の疎通を図ることができます。構音障害を持つ方がストレスなくコミュニケーションをとることができる手段を模索してみましょう。

失語症のリハビリ方法

失語症の主なリハビリ方法

失語症は、言語中枢がうまく働かなくなることで、会話をするときに言葉がでにくく、相手の話している内容を理解することができない状態を指します。失語症に対するリハビリについて紹介します。

スクリーニング検査を受けてからリハビリを始めよう

失語症のリハビリを開始する前に、スクリーニング検査を受けるようにしましょう。どのような種類の失語なのかを正しく知っておくことで、適切なリハビリを選択することができます。 スクリーニング検査は、特別な装置や検査設備が無くても行うことができます。検査は多くの場合、診察室や入院中の場合はベッドサイドで、医師が行います。 基本的には、簡単なあいさつや会話から行う自発する語数の量の観察や、身近な品物の名前が答えられるかの確認、医師が言った単語や文章を復唱してもらうといった容易なものから開始します。 Yes/Noで答えることのできる「ペンギンは空を飛びますか?」「ツバメは卵をうみますか?」などといった質問もします。また、右手を上げるなどの簡単な指示に応えることができるかも確認します。

言語の機能訓練

スクリーニング検査のあと、症状に合わせたリハビリとして言語機能訓練を行います。実際の訓練内容について、ご紹介します。

字を書いてみよう

まずは、自分の名前をかくことができるかを確認します。漢字での記入が難しい場合には、ひらがなやカタカナでもかまいません。名前が書けたら、生年月日、住所、性別などを書く練習を開始します。 もし記入できない場合は、文字をなぞったり、手本を見ながら書き写すことから初めて少しずつ自分で書ける文字を増やしていくことを目標に練習します。失語症の方に対して、サインの代筆などはせず時間がかかっても自分で書くことを目標に励ますかかわりをすることもリハビリの一環と言えるでしょう。

日記をつけてみよう

名前や生年月日、住所が問題なく記入できる方には、日記を提案してみることもおすすめです。しかし、失語症の方が日記をつけるのは、氏名を記入するよりもはるかに難しい作業であることを知っておく必要があります。 はじめは、日付とその日のエピソードを1行記入するだけでも十分です。本人にとって負担にならない量から開始して、継続できるような声掛けが有効です。

メールや手紙(葉書など)を送ってみよう

メールや手紙を書くこともおすすめです。親戚や友人への季節の挨拶として、暑中見舞いや寒中見舞い、年賀状を書いてみるのもいいでしょう。 挨拶状は定型文に沿って書くことができるので、オリジナルな文章が浮かびにくい失語症の方にも取り組みやすくなるメリットがあります。

市販の教材を使うのも有効

失語症のリハビリ教材が市販されていることはご存じですか? 家庭でもリハビリに取り組みたいときには、失語症のリハビリ教材のほかに、ペン習字のテキスト、小中学生の漢字ドリルなどを利用するのも良いでしょう。どれを選んだらいいか迷う場合には、主治医やリハビリ専門職に相談してください。

実用コミュニケーション訓練

実用コミュニケーション訓練は、日常的なコミュニケーションが円滑に行えるようになることを目的とたリハビリです。主に失語症が中等度~重度と診断された方で、言語を使ったコミュニケーションが困難な場合に行います。

会話をしてみよう

リハビリ訓練室で専門家が質問すると返答できる方が、家族との会話はうまく行かないといったことはめずらしくありません。 失語症の方に話しかけるときは、落ち着いた環境で、表情がわかるような位置や目線に注意しながらゆっくりと平易な言葉で話しかけましょう。 「これ、お土産の、お菓子。食べる?」と、単語ごとに区切りながら短い文で話しかけて、ゆっくりと返答待つようにしましょう。

コミュニケーションメモや・ノートを見ながら話してみよう

書くことや話すことが難しいときには、あらかじめ伝えたい言葉をカードに書いておいて、それを見せて伝えるという方法が有効です。 行きつけのお店での注文や、タクシーの行き先などは、あらかじめ決まっている内容を伝えることが多いため、事前に準備しておくことができます。日常生活で良く行く場所や使う言葉を書いたカードやノートを「食べ物」「場所」などとジャンルごとに分けてまとめておくと、失語症の方の安心感にもつながります。

環境調整

周りの人が症状とコミュニケーションの取り方を理解し、本人が過ごしやすいと感じられる環境を整えることも重要です。 会話は、1対1で周囲の余計な音が聞こえない静かな環境を作るとコミュニケーションに集中しやすくなります。周りの人が失語症の人に対してどのように説明したりコミュニケーションをとったりすればいいかを知っていることで、失語症が残っていても家庭や職場、地域など元のコミュニティに戻ることができる可能性があるといわれています。

地域社会の交流も有効

失語症の方は、周囲とうまくコミュニケーションがとりにくいことを理由に、人とのかかわりを避けて家に閉じこもってしまうことも少なくありません。しかし可能な限り外出を行うことで、家族以外とのコミュニケーションの機会が増え、その分回復が期待できるようになります。 いきなり知らない人と会話をするのは難しくても、近所を散歩して顔見知りに会釈をしたり、なじみの店で買い物をするだけでもリハビリの効果があるとされています。 また、デイサービスや通所リハビリで失語症の人のためのリハビリをうけたり、地域によっては「失語症友の会」が開かれている場合もあります。

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症状が出てからのリハビリの流れ

構音障害や失語症といった言語障害が発症した方は、経過に応じたリハビリを行う必要があります。 リハビリは、急性期、回復期、維持期(生活期)の3段階に分けることができます。 一般的に、急性期は発症してから3週まで、回復期は3ヶ月まで、それ以降は維持期とされています。各期に行うリハビリ内容について解説します。

急性期

リハビリは言語障害の発症後、出来るだけ早く始めることが良いとされています。 一方で、脳梗塞や脳出血などによる言語障害の方の場合、急性期は全身状態が不安定な時期でもあります。言語障害の方の様子を見ながら慎重にリハビリを行っていく必要があります。 また、急性期は突然の言語障害に本人がとまどっている時期です。家族や周囲の人が医師やリハビリ専門職のアドバイスを通じて障害を理解し、本人の気持ちに寄り添いながらどうしたらコミュニケーションがうまく取れるかをみんなで模索していくことが重要です。

回復期

回復期は全身状態が安定し、訓練効果が上がりやすい時期です。座っている時間が長くなるため、集中してリハビリに取り組むことができる大切な期間です。 回復期のリハビリは、多くの場合リハビリの専門病院や病棟などで行われます。内容は、実用コミュニケーション訓練、言語訓練、元の生活に戻るための環境準備などが中心です。

維持期(生活期)

維持期のリハビリは、実際の生活に沿ったコミュニケーションや周囲の人との交流などといった社会参加を目指す訓練が行われます。 急性期と回復期のリハビリで得られた能力が日常生活で活用できるよう、家族や周囲の人への指導もあります。また、趣味に打ち込むことをサポートすることで家庭などのコミュニティ内での役割を高めて社会に参加しやすくすることも重要です。 この時期は可能であれば自宅に戻り、デイサービスや訪問看護、病院や診療所の外来リハビリを利用することが一般的です。

構音障害・失語症のリハビリで注意すること

構音障害と失語症のリハビリは、時期や症状に合わせて内容を検討して行う必要があります。回復には個人差が多く、熱心にリハビリをやれば必ず回復するというものではありません。思うように回復しない場合にも、本人を責めるような発言は控えるようにしましょう。

構音障害のリハビリの注意点

構音障害のリハビリで行う発音練習は、障害の程度に合わせて適切な難度を選択する必要があります。本人にとって難しい練習の繰り返しは効果がなく意欲が低下する危険があるからです。 周囲からは障害がごく軽度で、普通に話すことができると思われている方でも、話し辛さを感じている場合があります。本人の気持ちを受け止めて、日常的なコミュニケーションが問題なく行えていることを伝える声掛けを意識してみましょう。 また、構音障害の人が話す前に先回りして話してしまうと、本人の意欲を低下させてしまいます構音障害の方にとって本当に話しにくさの助けになるのは、周りの人が代わりに話すのではなく、本人が自分の言葉で話すのをゆっくりと待つことです

失語症のリハビリの注意点

病院で行われている言語聴覚士(ST)によるリハビリでは、絵を見せてその名前を言ってもらったりすることで行います。病院でのリハビリを見学したご家族が、自宅で同じようなリハビリを再現しようとすると、つい子供に言葉を教えるような態度をとってしまう傾向があるようです。 失語症は言葉を忘れてしまったのではなく、うまく話せなくなったり書けなくなる状態です。周囲から何度も反復するよう強制されることは大きなストレスになります。 本人が「自分の能力を活かしてコミュニケーションが取れた」と達成感を得られるような配慮が必要です。

家庭でリハビリをする際の考え方

言語障害を含む脳卒中後遺症の多くは、発症直後は急速に回復する一方で、退院する維持期は回復がゆっくりになります。そのために自宅でリハビリをし始める時に回復がなかなか実感できず、できないことばかりが目について「このまま治らないのではないか」と不安を感じる家庭も少なくありません。 以前と同じように会話のキャッチボールを行うことが難しくても、まずは表情やジェスチャーなど非言語のコミュニケーションがとれていればOKです。言語以外も立派なコミュニケーション手段だという柔軟な考え方をもって接するようにしてみましょう。どんな手段であれ「家族や周囲とコミュニケーションを取ることができた」という達成感がリハビリの意欲を高めるきっかけとなります。 また、日常生活の何気ないやりとりもリハビリに効果的です。食事やお茶をしながら、もしくは家事の一部を手伝ってもらいながら、ゆっくりとコミュニケーションをとっていきましょう。

言語障害の方の家族・周囲の人ができること

家族や周囲の人は「何とかして以前と同じように、話したり書いたりできるようになってもらいたい」という希望があることが多いようです。しかし、親しい人が訓練を熱心に行いすぎることで、本人を傷つけたり意欲を低下させてしまうリスクがあります。 家族や周囲の人は、言語障害の対応方法を学んで本人の意欲を低下させないように声をかけ、基本的にリハビリは専門職に任せる、という考え方で言語障害の方の回復をサポートしましょう。 話を聞くときには、分かったふりはしないこと、表情やジェスチャー、声のトーンなど言葉以外のコミュニケーションの要素を大切にすることこと、言葉が出るまでさえぎらずゆっくりと待つことを心がけましょう。 適切な言葉をスラスラ話せることがゴールではありません。たとえ完全回復ではなくても、本人が取り戻した自分のコミュニケーション能力で周りの人と意思疎通できるようになることを目指しましょう

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構音障害・失語症ついてまとめ

構音障害・失語症についてまとめ
  • 脳の障害や加齢によって起こる言語障害
  • 構音障害は言葉は理解できるが呂律が回らず聞きとりにくい
  • 失語症は言葉が出にくかったり相手の話していることを理解できなかったりする症状
  • 周囲はリハビリテーションを無理強いせずに対応方法を知ることが大切

構音障害と失語症のリハビリ方法や注意点について紹介しました。 適切な治療とリハビリにより、症状は時間をかけて少しずつ改善していきますが、回復には個人差があります対応方法を知り、無理のない範囲でリハビリテーションに取り組んでいきましょう

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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