【専門家監修】認知症の方への対応方法|家族の接し方・収集癖やせん妄等の対処法を紹介
更新日時 2021/11/24
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
矢野 大仁 先生
「認知症の方にはどう対応するべき?」
「収集癖などの対処法が知りたい!」
このような疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?
認知症は65歳以上の高齢者のうち、6人に1人が発症する可能性があると言われる病です。
家族の中でも発症する可能性が高く、介護が始まるきっかけの1つとして挙げられるのが認知症です。
こちらの記事では、認知症の介護をする上で、家族はどう対応するべきか、認知症で起こる症状への対応はどう行うべきかを詳しく解説していきます。
- 認知症患者への基本対応は信頼関係を築くところから始まる
- 難しい対応を求められるケースでは個々の状況をしっかり理解する
- 介護者の尊厳も保持することが重要
認知症患者への基本の対応
以下では、認知症患者への基本的な対応を紹介していきます。
まずは信頼関係を築こう
認知症の進行とともに、物事を行う動作や認知能力に障害が出てきます。
しかし、認知症の初期の段階では、本人にも物事を上手く行えないことが理解出来ています。
- 出来ないことを言い出すのが恥ずかしい
- 年齢のせいもあるだろう
- 周りに迷惑をかけてしまう
- いわゆる認知症患者のような姿になってしまうことが怖い
こうした感情を抱きながら生活していることが多いです。
人に弱みを見せることは、家族であれ恥ずかしいこともありますし、抵抗感も感じます。
本当は手助けして欲しいけど言い出せないという状況の中で、周りに迷惑をかけたり、失敗を怒られたりすることから、精神的に不安定な状態にも陥りやすくなります。
まずは、十分な信頼関係を築いた上で、出来ることから初めていくこと、本心を隠さずにお互い伝えあえること、という関係性が重要です。
患者のペースに合わせよう
認知症の症状から、次第に考える力が衰えていきます。
そのため一度に出来ることが減ったり、動作が遅くなったりして、以前のようにスムーズな行動をとることが難しくなります。
処理能力が減るため、やりにくい動作や出来ないことも徐々に増えていくこともありますが、すぐに何もかもが出来なくなってしまうわけではありません。
- 急かさない
- 本人のペースで
- イライラせずに待つ
こうした心がけで接するようにしましょう。
本人のペースで出来るような環境づくり、声かけを行うことが大切です。
明るい気持ちになってもらう
認知症患者は、症状の進行とともに体験したことのストーリーを忘れてしまいます。
ただ、その時々で感じたことは心に残る傾向があります。
たとえば、何か上手くいかなかった出来事に対して、何が出来なかったのか、ということや、どうして出来なかったのか、というのは忘れてしまい、そのときに「出来なくて怒られた」ということや、「怖かった・嫌だった」という感情が残ってしまいます。
介護者もつい口調がきつくなってしまうことも時にはあると思いますが、相手との信頼関係を保つ意味でも、笑顔で接することが重要です。
また、認知症患者は他者とのコミュニケーションが減ってしまったり、塞ぎ込みがちです。
なるべく明るい気持ちで過ごして貰えるようにしましょう。
声をかけるときは前から1人で話しかけよう
認知症の人は、新しく顔を覚えたり、名前と顔を一致させたりすることが苦手です。
複数人で声をかけると、認知症患者は混乱してしまったり、びっくりさせてしまう可能性があります。
認知症患者に声をかけるときは、1人で声をかけるようにしましょう。
また、後方や遠いところなど、相手の視野に入らないような場所から声かけるのではなく、正面から徐々に近寄って声かけをするように心がけます。
話しかけるときは、目線の高さを合わせるようにするすることが重要です。
優しく見守ろう
認知症患者は、今まで出来ていたことが出来なくなる不安や、病気の進行に不安を感じることが多くあります。
周りのことを気にして、人との関わりが減ったり、仕事や日常生活に支障が出ることもあります。
こうした生活の中で、心に傷を負う認知症患者も少なくありません。
認知症患者と関わる人は、今まで出来ていたことが急に出来なくなったり、手助けすることが増える生活に、同じように焦りや不安を感じることもあると思います。
ここで重要になるのは、認知症患者を穏やかな気持ちで見守ることです。
処理能力がゆっくりになり、1つ1つの簡単な動作もゆっくりになっていきますが、優しく見守ることが重要です。
認知症対応可能な施設はこちら!対応が難しい認知症の症状への接し方
認知症の周辺症状には、対応が難しい症状もあります。
その一例と、症状への接し方を解説します。
被害妄想(もの取られ妄想など)
認知症患者の被害妄想は、比較的多い症状の1つです。
- お金を盗まれた
- 家族に虐待されている
- 泥棒が家に入る
こうした被害妄想を訴えることがあります。
認知症患者にとっては、助けを求める意味合いで訴えている可能性があり、認知症の症状による周囲への不満や、苦しみが表れている可能性があります。
被害妄想への対応は、
- 否定せずに聞くこと
- 患者の感情に接すること
こうした対応を行います。
妄想であるとしても、まずは否定せずに患者の訴えを聞き、一緒に探し、できれば本人が見つけられるようにします。
共感することで、被害妄想が消えることもあります。
また、被害妄想で訴える内容には、事実とは異なることで、重要な意味合いはなくても、「気持ちを理解して欲しい」「話を聞いて欲しい」といった気持ちが隠れていることが多いです。
徘徊
認知症患者の徘徊による行方不明者は増加傾向にあり、社会問題にもなっています。
認知症患者に歩く能力があるうちは、徘徊の症状は起こる可能性があります。
認知症患者が徘徊する理由は、
- 家に帰ろうと思って(探している家が過去に住んでた家だった)
- 道が分からなくなった
- 思っていた家と場所が違った
こうした理由があり、周りからは理解出来ないことや、現実では考えられない状況にあたると、「徘徊」とみなされてしまいます。
ただ、健常者が歩いて外出をすることと、認知症本人の「徘徊」では同じような感覚なのです。
徘徊を止める対応は非常に難しいことです。
家の鍵をかけたり、閉じ込めたり、靴を隠したり、といった対応はありますが、こうした対応をしても、裸足で出ていこうとしたり、2階から出て行こうとしたりして、事故に繋がる可能性もあります。
閉じ込めることだけに目を向けず、リスクのあるひとり歩きをさせないようにして、見守りのある外出が出来るような支援が重要です。
暴力
認知症患者の誰しもが、暴力をふるう訳ではありません。
暴力が起こる原因として考えられるのは、
- 自分の思いを上手く伝えられずにイライラしている
- 感情のコントロールが出来ない
- 周囲の行動を理解できない
- 体調がよくない
このような様々な要因が重なっていることが考えられます。
暴力をふるうことに対しての対応では、同じように力で対応することは絶対に避けます。
怒ったきっかけを探るように共感しつつ穏やかに話を聞いてみましょう。強く興奮しているときは、その場を離れてみます。異界の原因を忘れ、冷静になっていることもあります。このように認知症患者が安心して過ごせるように、不安を取り除き、日々のコミュニケーションを大切にしましょう。
また、自尊心を傷つけない対応をすることも非常に重要です。
介護拒否
介護拒否は、認知症の有無にかかわらず起こる可能性があります。
また、高齢者施設や自宅など、場所を問わず介護拒否が生じることも考えられます。
ここで重要なのは、介護される側の気持ちを十分に理解することです。
施設等でもよくみられる介護拒否のシーンを紹介します。
食事拒否
認知症患者が食事拒否をする場合は、認知症の症状によって食べ物を認識していないことが考えられます。
「甘くて冷たいアイス」「温かいスープです」といった声かけを行い、まずは食べ物であることを認識してもらいます。
目の前で一緒に食べるのも有効です。
食べ方を忘れていることも考えられます。
「食べる」という行為は、箸を持つ→箸で食べ物をとる→口へ運ぶ→食べ物を噛む→飲み込む
といったように、単純な動作を連動させて行います。
このような一連の動作が出来なくなってしまうことも、認知症の1つとして考えられます。
対処法は、本人と一緒に食事をとったり、食事の盛りつけを工夫したりすると改善がみられることがあります。 また食事の形態が合わず、飲み込みにくいことや体調がすぐれないことが原因となることもあります。
服薬拒否
処方されている薬を飲んでくれない、というのは認知症患者にとって、よく起こることです。
薬を飲んでくれないと、介護者にとっては不安なことが多いと思います。
注意しなくてはならないのは、服薬を拒否している場合、無理に飲ませようとしないことです。
無理やり服薬をさせようとすると、
- 危険なものを飲ませようとしている
- 毒を盛られているんじゃないか
といった妄想に繋がってしまう場合も考えられます。
また、何かに混ぜて飲ませようとすると、本人との信頼関係を崩しかねません。
食事拒否に繋がってしまうことも考えられます。
服薬拒否をしている場合には、その薬が本人にとって何なのか理解していない可能性があります。
お薬手帳を見せたり、医師が処方した写真や、医師が書いたメモなどを本人に渡すことが効果的です。
また、薬が飲みづらいことも考えられます。
無理に飲ませるわけにはいきませんが、薬で認知症の症状を抑えている場合、服薬は重要なことです。
薬の種類を変えてもらったり、薬の数を減らしてもらったりすることが出来る場合もあります。
服薬拒否は、専門家に相談し対処法を一緒に考えてもらうことをおすすめします。
トイレ拒否
トイレを促しても拒否するのに、結局はトイレを失敗してしまったり、トイレの介助をしようとしても、介護拒否をすることがあります。
排泄に関することは、本人の尊厳にも深い関わりがあります。
本人にとっては、トイレを介助されることに対して、羞恥心や拒否感があるのが当たり前のことでもあるのです。
このような本人の気持ちを理解した上で、介護を行うことが重要です。
トイレ拒否がみられる場合には、
- トイレが怖い
- トイレの存在を忘れている
- トイレが怖い
このような原因がある可能性もあります。
プライバシーや患者本人の尊厳を理解した上で、トイレへ誘導することを心掛けます。
また、トイレへ誘うタイミングが違っている可能性もあります。
尿意を感じるタイミングで声かけが出来ていると、上手く誘い出せる可能性があります。
排泄の記録をつけておくことで、解決に繋がることもあります。
外出拒否
デイサービスへの外出を拒否したり、気分転換の散歩や通院のための外出を拒否したりすることはよくあることです。
認知症患者は、新しい環境や普段とは違う環境に不安感を感じることが多く、外出もこうした感情から拒否している可能性が高いです。
中には、外出することに対して意欲がわかない人もいます。
ただ、ずっと続くわけではないので、長い目で見て安心して外出出来る環境作りや、信頼関係を築くことに着目して接していきましょう。
外出が楽しいことである、と感じてもらう対策も必要です。
入浴拒否
身体を清潔に保ったり、身体を温めることでリフレッシュ効果が得られた、メリットが多い入浴ですが、認知症の人には入浴を嫌がるということも多いです。
- 入浴の必要性がわかっていない
- 手順が多くて入浴がめんどくさい
- 入浴介助されるのが嫌だ
こんな理由から、入浴拒否をしている可能性があります。
入浴はプライベートな領域であり、介護も慎重に行うべきところです。
本来は自分自身で行いたいという希望と、手助けが必要な状態へのジレンマから、入浴拒否に繋がる可能性もあります。
プライベートな領域を支援する意識をしっかり持ち、認知症患者本人の入浴の仕方を尊重することが重要です。
患者本人が、なるべく最小限の支援で入浴できるような環境づくりも大切です。
入浴を拒否する理由は様々ですが、「入浴」を強調せず、自然に促したり、言葉で誘導せずに本人自ら入りたいと思えるよう、入浴剤などで工夫したりすることが効果的です。
着替え拒否
日常生活で、着替えをする場面は多くあります。
その中で、実は認知症に気づくきっかけが「着替える行為」に現れることもあるくらい、認知症の人にとって、着替えるということが苦手なものなのです。
着替え拒否の原因として考えられるのは、
- 着替え方がわからない
- 着替えに対する集中力、注意力が低下している
- 身体的要因
- 着替え介助をされるのが嫌
このようなものが考えられます。
着替えは単純作業に見えて、適宜服装を選ぶことや、着替える順序、一連の動作が簡単なものが組み合わさり完成されるため、認知力の低下とともに苦手な行為となります。
そして、着替えもプライベートな領域に関わることで、本人の自尊心を傷つけない対応が求められます。
着心地が良く着脱しやすい服を選び、なるべく最低限の介助で、自立した着替えが出来るような対応が必要です。
また、身体的な要因では、バランスを崩すことの恐怖心、腕を通そうとしたときに痛みがあった(痛い記憶だけ残っている)といった可能性も考えられます。
着替えを拒否する要因を、広範囲から探ってみましょう。
せん妄(夜間せん妄も含む)
せん妄は、急に興奮したり、つじつまが合わないことを言ったり、異常行動が見られたりする状態のことです。
こうした症状が夜間に見られる場合、夜間せん妄と言います。
高齢者は手術後などで見られることがありますが、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、症状の1つとしてせん妄が現れることが多いです。
せん妄が見られたときは、
- 周囲の人がまずは落ち着くこと
- 無理に制止しようとしない
- 優しく声かけする
こうした対応を取ります。
また、ちょっとした刺激が原因となってせん妄が出る場合があります。
音が刺激となったり、夜間過度に眩しい環境だったりすることが原因となっている可能性も考えられるため、静かで落ち着ける環境づくりをしましょう。 また便秘y亜発熱などの体調変化も確認しましょう。
異食行動
認知症の進行とともに、食べ物を区別することが出来なくなったり、満腹感を感じなくなってしまったり、味覚障害が出たりすることがあります。
こうした異食行動は、命にかかわることでもあるため、周囲の環境には十分配慮する必要があります。
食べてしまうと危険なもの、(たばこ・電池類・ビニール・薬品など)は手の届かないところで保管するか、鍵がかかる場所に片付けるようにします。
お菓子やデザートなどで気を引いたり、予め食事量を減らしておいたりするなど、本人の異食行動に合わせた対応を行いましょう。
幻覚・幻視
幻覚や幻視は、認知症患者に見られる症状の1つです。
認知症の中でも特にレビー小体型認知症の症状として多いものです。
レビー小体型認知症の場合、幻覚の中でも、人に見えないものが見える幻視という症状が60~70%で見られます。
幻覚が見えることに対しては、周囲もびっくりしてしまう内容もありますが、
- 否定をしない
- 安心できるよう声かけする
- 環境を整える
こうした対応を行います。
また、レビー小体型認知症の症状で見られる幻覚は、薬で改善する場合があります。
まずは医師に相談をしてみましょう。
収集癖
認知症患者に見られる収集癖は、
- 周りの注目を引こうとしている
- 物不足の不安感から集める
- 非常時のために集めている
このようが原因が考えられます。
また、片づける場所を忘れた、という認知機能に関する可能性もあります。
集める行為で本人は安心感を得ている可能性もあるため、本人に黙って捨てたり、片づけたりすることはやめましょう。
なぜ集めているのか理由を聞いてみるのがおすすめです。
本人の行動をよく観察し、集めているのか、それとも片づける場所が分からなくなっているのか、見極めることも大切です。
弄便
認知症患者にまれに見られる行為ですが、介護者にとっては非常に厄介な問題です。
認知症患者は、症状の進行とともに脳機能も低下し、においが感じにくくなります。
そのため、便臭が酷くても本人は気にならないことが多いのです。
弄便の原因として考えられるのは、いくつかの理由があります。
一昔前の記憶で、昔は和式トイレで用を足していたため、床を汚すことがあり、床を汚したら掃除をしなくてはいけないという記憶が残っている場合、本人は「掃除をしなきゃ」と感じている可能性があります。
ただ、自分で掃除をすることがうまくできず、ますます汚してしまったり、汚れた手を綺麗にするために壁などで拭いてしまった可能性もあります。
また、オムツにした便に不快感を感じ、手を入れたら手についてしまい、同じように手を綺麗にしようとして周りで拭いたということもあります。
弄便を止めるためには、まず排便のコントロールをするようにしましょう。
トイレ習慣を確認し、習慣づけることや、ポータブルトイレの設置、オムツ交換のタイミングを増やすといった対応を行います。
認知症の患者の家族や介護者が心掛けたいこと
認知症患者に接する、家族や介護者が心掛けたいことを紹介します。
抱え込みすぎない
認知症の平均介護期間は約7年と言われていますが、医療の進歩とともに、介護期間が長期に渡ることも多くなりました。
介護問題を抱え込みすぎることで生じる様々な問題もあります。
認知症介護と上手く付き合うコツは、家族内だけで抱え込みすぎず、外部の介護サービスを上手に利用し、介護者もサポートが受けられる体勢にすることが大切です。
また、初期の段階では「これくらいなら出来る」ということが多く、介護の多くを人に頼らず抱え込みがちです。
いざというときのために、早期から介護サービスの利用を検討し、介護者の生活を守る対策をすることが望ましいです。
できることは自分でしてもらう
認知症は急に全てが出来なくなってしまうわけではありません。
認知症の進行とともに徐々に出来ないことが増えていったり、苦手なことは人それぞれです。
介護者は親切心や、危険性などから、つい色々と手伝ってしまいがちですが、出来る限り自分で出来ることはやってもらうことが大切です。
どんな小さなことでも、積極的にやってもらうことで、患者本人のリハビリにも繋がります。
また、全ての動作が出来なくても、出来る範囲で出来ることだけを行うことで、自尊心を守るきっかけにもなります。
本人が出来ることを日々考えながら、最低限の手助けをするようにしましょう。
弱音を吐く
介護者の心の健康を保つために、「疲れた!」や「しんどい!」と弱音を吐くことは非常に重要です。
弱音を吐くことで、ストレスの解消に繋がったり、感情を整理するきっかけにもなります。
弱音を吐くという行為は、自分自身の感情に気づく行為です。
それを言葉として表すことで、気付きを活かした自分自身の行動が保たれます。
メンタルヘルス上、弱音を吐く行為が非常に有益であると言われているのです。
長く続く介護生活の中では、たくさんのストレスがあることでしょう。
こうしたストレスを溜め込まずに処理する方法の1つとして、弱音を吐くことは決して悪いことではないことを、心に留めておきましょう。
否定せず行動の背景にある理由を考える
認知症の進行とともに、様々な出来事が起こり、様々な症状が出てきます。
時にイライラしてしまったり、強くあたってしまったりすることもあると思いますが、辛いのは患者本人も同じです。
まず最初に、否定することは避けます。
どうしてそのような行動が起こるのか、背景にあることを探ってみると、意外な発見に結び付く可能性があります。
たとえば、紙の収集癖がある患者に対して、背景を知ると過去にオイルショックを経験している可能性もあります。
こうした背景を知ることで、本当はどうしたいのかを知るきっかけに繋がり、介護の負担が減る可能性もあります。
周りと比べない
認知症の進行は人それぞれ異なります。
「同じ時期に発症した人より進行が早い」
「まだ若いのにどうしてうちだけ…」
こうした周囲の人と比べることは、あまり意味がありません。
認知症の症状も千差万別で、介護にも正解がありません。
認知症の進行自体に、周りの接し方や環境が関わっているわけでもないため、介護の良し悪しを反映したり、評価したりすることにも繋がらないのです。
周りと比べずに、ケースバイケースで、個々にあった対応をすることが大切であり、幸せな生活を保持するきっかけになります。
終わりを考える
認知症で起こり得る症状には、必ず終わりがあります。
徘徊の症状があった人も、症状の進行とともに、歩くことが困難になれば、徘徊がなくなります。
このように、その行為に対しての身体機能や脳機能の低下で、終わりが来る日があるのです。
しかし、その終わりはいつ来るのかわかりません。
終わりがいつなのか分からない辛さはありますが、今の一瞬を穏やかな気持ちで過ごしましょう。
尊厳を守る
尊厳とは、憲法で定められている「すべての国民は、個人として尊重される」という、守られるべき権利でもあります。
介護保険法でも、平成17年の改正時に、尊厳の保持を明確にする趣旨が盛り込まれました。
このように制度としては非常に重要視されている権利ですが、実際の現場では度々問題となる介護に関する事件からも、問題視されている事柄でもあります。
また、尊厳を守ることの大切さは、認知症患者の尊厳だけではありません。
介護する側にとっても、個々としての尊厳の保持は非常に重要なのです。
認知症対応可能な施設はこちら!認知症患者の家族向け支援
認知症患者を介護する家族に向けた支援があります。
抱え込まず、介護サービスを利用して介護の分散を図るためにも、知っておくといいことです。
地域包括支援センターへ相談
地域包括支援センターは、全ての市町村に設置されている施設です。
地域包括支援センターでは、保健医療や介護に関する相談等を行っています。
認知症の介護を行っている方からの相談には、認知症疾患を専門に見る医療機関への橋渡しを行ったり、認知症の初期支援チームとの連携などを図りながら、認知症患者だけでなく介護者の支援も行われるよう、保健福祉サービスへの橋渡しを行う支援をしています。
地域によっては「地域包括支援センター」という名称が使われていない場合もあります。
所在地や連絡先などは厚生労働省のホームページからも確認が可能です。
介護サービスの利用を検討
家族が認知症になった場合、介護保険の申請が出来ます。
すぐに介護保険のサービスを利用しない場合でも、いつでも介護サービスを利用できるように、まずは申請を行っておくことが重要です。
認知症患者が利用できる代表的な介護サービスには、デイサービスがあります。
日帰り型デイ、半日型デイ、リハビリ特化型デイなど、デイサービスも多岐に渡ります。
他の人と関わる機会が生まれ、本人にとってもいい刺激となります。
介護する家族にとっては、つかの間の介護から離れられるひと時です。
デイサービスの利用は、毎週決められた日に利用するので、介護者にとってもスケジュールが組みやすくなります。
他にも、入居型のサービスとして、認知症を患う人が共同生活を送るグループホームや、一時的に利用が出来るショートステイなどがあります。
認知症の方への対応や、対処法についてまとめ
- 認知症患者への対応は、信頼関係を築くことを意識する
- 困った症状への対処法は、その背景に何があるのかを探る
- 介護する家族の尊厳を大切にし、一人で抱え込まないようにする
認知症患者への対応、様々な症状への対処法をイラストを交えながら解説していきました。
認知症患者の症状には様々なものがあり、患者の生活環境や性格などでも支援方法が異なるため、全ての認知症患者に当てはまるとは限りません。
ただ、認知症患者と接する機会がある人にとっては、ぜひ覚えておいていただきたい知識でもあります。
認知症患者の支援や、介護を行う場合の手がかりとして、活用してください。
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)
矢野 大仁(やの ひろひと) 先生
1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。
監修医師の所属病院ホームページはこちら 監修医師の研究内容や論文はこちら