【医師監修】高血圧性脳症とは?頭痛・嘔吐などの症状から治療の方法まで全て紹介

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「高血圧性脳症ってどんな病気なの?」

「頭痛や吐き気があるけど、もしかしたら重大な病気かも・・・」

高血圧性脳症について聞いたことはありますか?これは血圧が急に上昇することで激しい頭痛や嘔吐などの症状がみられ、適切な治療をせずにいると命にかかわることもある危険な病気です。

今回は、高血圧性脳症がおこる原因や特徴的な症状、そして対処法まで解説します。これを読めば、高血圧性脳症についてよくわかるはずです。

高血圧性脳症についてざっくり説明すると
  • 高血圧性脳症は、血圧が上昇することによっておこる
  • 症状は、激しい頭痛や嘔吐など
  • 治療をしないと命にかかわる病気

高血圧性脳症とは?

高血圧性脳症

高血圧性脳症は、急激な異常高血圧によって脳に障害が引き起こされることを言います。症状はさまざまですが、頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害、けいれんなどの中枢神経症状が代表的です。

そして影響は脳にとどまらないことも。症状が出ているのにそのままにしていると、腎臓や心臓などにも症状が広がり、腎不全胸痛呼吸困難などがあらわれます。

そのほかに、好発部位とされている後頭葉に障害が現れると、まわりのものがぼやけて見える視覚障害を訴える患者さんもいます。

適切な対処法がとられないと、死に至ることもある非常に危険な病気です。もし発症してしまったら、脳への障害を少しでも減らすために、速やかに集中的な治療を受ける必要があります。

高血圧性脳症が発症する原因

適切な治療を受けることができなければ、命にかかわる危険のある高血圧性脳症。どのようにしたら発症してしまうのかについて、解説します。

慢性的な高血圧や腎不全など

もともとの持病に高血圧があると、高血圧性脳症を発症するリスクが高まります。そして単に高血圧だけでなく、腎不全妊娠高血圧症などを基礎疾患としている方も注意が必要です。

それでは、どのくらい血圧が高くなると危険なのでしょうか。一般には、180/110mmHg以上が異常高血圧とされています。しかし、「血圧が180以上だからすぐ危険」というわけではありません。急激に血圧が上昇することが危険なので、普段からの血圧管理が大切になります。

脳の浮腫(むくみ)も原因の一つ

脳は私たちの体にあらゆる指令を出す大切な器官です。その機能を維持するために、脳には24時間血液が適切な量で供給され続ける必要があります。脳の血圧はいつも一定になるよう調整されているのです。

しかし、血圧が急激に異常なレベルまで上昇すると、脳の血圧を調整する機能が破たんしてしまいます。脳に送られる血液が増えすぎてしまうことで、脳の浮腫が生じます。

これにより頭蓋内圧が亢進(頭蓋骨内部の圧力が高くなること)し、高血圧性脳症が生じるのです。

主な症状は頭痛・嘔吐・けいれんなど

高血圧性脳症の主な症状は激しい頭痛吐き気、嘔吐、全身のけいれん、意識障害などです。そのほか、目(網膜)の血の巡りが悪化し、まわりのものがぼやけて見えたりするような視覚障害が現れる場合もあります。

高血圧性脳症をそのまま放置すると、もともと腎不全を患っていた人はその症状が悪化し、死に至るケースもあります。

さらに、脳の中での梗塞や出血、浮腫もそのまま放置されたことになります。そのため、治療が遅れることは極めて危険なことなのです。

高血圧性脳症の検査法と診断法

続いて、高血圧性脳症の診断法について解説します。高血圧性脳症は、まず血圧検査と問診による症状の確認が重要です。

220/110mmHg以上の著しい高血圧、もしくは急激に血圧が上昇した患者が、急な激しい頭痛や吐き気、嘔吐を訴えると、医師は高血圧性脳症を疑います。

MRIやCTによる画像診断が重要

高血圧性脳症の診断には、頭部のMRIやCT検査が必須になります。

頭部MRIは、強力な磁石でできた筒の中に入り、頭の骨や血管などに異常がないかを調べる検査です。MRIでは、どの部位で有意に障害が生じているのかを正確に判定することができるので、高血圧性脳症の診断に際しては極めて有用です。

MRIはCTよりも検査時間がかかることと、心臓ペースメーカーなどのデバイス植え込み後や骨折などに対する金属留置を受けている方には行えない場合にはCTで代用します。CTは汎用性が高く有用性の高い検査です。

MRIやCTなどの画像検査で確認すると、高血圧性脳症は「後頭葉」という、脳の後ろ側の部分に病変が確認されることが多いです。後頭葉は、脳の中で主に視覚をつかさどっている部分であることから、視力障害を生じやすいのです。

全身の検査も行われる

高血圧性脳症の影響は脳以外の臓器にも及ぶ場合があるので、頭部の画像診断以外の検査も行うことがあります。

たとえば、腎臓に影響がないかを確認するための血液検査尿検査、そして心臓の機能評価には心電図検査心臓超音波胸部レントゲン検査などが行われます。

高血圧性脳症の治療法・対処法

重症化すると命にかかわる高血圧性脳症ですが、どのような治療法があるのでしょうか。

慎重な血圧管理が必要

異常高血圧を治療せずに放置すると、治すことのできない中枢神経障害が生じる危険があります。そのため、速やかな血圧管理が必要不可欠です。

しかし、ただ単に血圧を下げればいいというものではありません。急激に正常値まで血圧を低下させてしまうのは危険です。それは脳に送られる血液の量が一気に減ってしまうと、かえって脳に障害を起こす危険があるからです。

そのため、集中治療室などで頻回な血圧測定を行いながら、カルシウム拮抗薬(ニカルジピン等)などの薬剤を用いた慎重な血圧管理を行う治療が必要です。

また、一般的に高血圧性脳症では脳浮腫を伴うため、脳浮腫を軽減させるための点滴が行われます。その他にも、患者さんの症状に合わせた治療がそれぞれ行われます。

たとえば、けいれん発作を起こした場合には抗けいれん薬を使用します。その他腎不全や心不全がみられた場合は、それらの治療も必要になります。

高血圧性脳症の予防法

高血圧性脳症は、すでに高血圧である人や、腎不全や妊娠高血圧症候群と診断されている人に起こる傾向が見られています。予防するために、リスクのある方は血圧を安定させることが必須となります。

血圧の正常値を知っておこう

ここでいったん、正常な血圧の値について確認しておきましょう。

血圧の正常値は、家庭での収縮期血圧(最高血圧)が115mmHg未満で、さらに拡張期血圧(最低血圧)が75mmHg未満とされています。診察時の血圧は一般的に高くなることが多いため、正常値は収縮期が120mmHg、拡張期が80mmHgとされています。ただし高血圧症の診断は、診察時に収縮期が140mmHgまたは拡張期が90mmHgが基準になります。

人は年齢が高くなると、血圧も高くなる傾向にあります。それは加齢によって血管が硬くなってくるためです。収縮期血圧120~129mmHg、または拡張期血圧85~89mmHgは、正常高値血圧といわれます。正常高値血圧の方は、これまで通りの生活を続けていると高血圧になりやすい、いわば高血圧予備軍です。

高血圧は、自覚症状がないまま進行していきます。そのため、日常的に血圧を測定する習慣をつけて異常にすぐ気付くことが大切です。家庭用の自動血圧計は、数千円で購入することができます。高齢のかたや妊娠中で自宅に血圧計の無い人は、購入することをオススメします。

塩分制限を心がけよう

血圧を習慣的に測定することに加えて、塩分制限を心がけましょう。高血圧と診断されている方の一日の塩分量は6g未満が推奨されています。

高血圧ではない方の一日の食塩摂取量は男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。食事や生活習慣に気をつけることは他の脳血管疾患や心疾患の予防にもなります。

もちろん、肥満などの生活習慣病の予防にもつながり、健康的な生活送ることができるでしょう。

内服治療をしっかりしよう

降圧薬を処方されている人は、欠かさず飲むようにしましょう。

高血圧の内服治療を受けている人の中には、血圧が正常値に下がってくると内服を自己判断でやめてしまう人もいます。しかし薬を中断してしまうと、急激な血圧上昇が起こり高血圧性脳症となるリスクに結びつくため大変危険です。家庭での血圧測定の結果を手帳に記入して主治医に見せることが適切な投薬につながります。是非実践しましょう。

病気かも?と思ったら

もともと高血圧のある人が、血圧の上昇とともに激しい頭痛や嘔吐が起こったら、脳卒中や高血圧性脳症の疑いがあります。また、高血圧性脳症は普段血圧が高くない方でも、急激な血圧上昇が見られればおこり得る疾患です。そのため、いくら心配してもしすぎるということはありません。

高血圧性脳症の症状が現れたら、ただちに病院を受診するようにしましょう。

高血圧性脳症の原因と対処法について

高血圧性脳症についてまとめ
  • 急激な血圧上昇によって引き起こされる脳の障害
  • 適切な治療が受けられないと死に至ることもあり注意が必要
  • 日常的な血圧測定や塩分制限が予防につながる

高血圧性脳症の症状や対処法について解説しました。

高血圧性脳症は治療をしないと命の危険がある病気です。日常的に血圧測定や塩分制限を行うことで、発症を予防することができます。

そして突然ひどい頭痛が起こったり吐き気や嘔吐がおこったら、まず血圧を測定してみましょう。もし異常に急激に高くなっているようであれば、脳卒中や高血圧性脳症の疑いがあります。その場合には、ためらわずに専門医を受診してくださいね。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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