死生観とは|向き合う意味や人生の最期を後悔なく迎えるための方法を実態とともに解説
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「死生観って、そもそもどのような意味があるの?」
「死生観に向き合うことで、どのようなメリットがあるの?」
このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
死生観とは、生きることと死ぬことの価値観や自分の考え方を示す言葉であり、人生の最期が近くなった際に意識するものです。
後悔の無い人生を歩み、幸せな最期を迎えるにあたって、死生観について知っておくことは非常に重要です。
また、余生を謳歌するという観点から見ても自分の人生と向き合い、自分の価値観や行き様を振り返ることは有意義です。
こちらの記事では、死生観の意味や捉え方を紹介しつつ、死生観に向き合うメリットや後悔の無い最期を迎えるための方法まで解説していきます!
- 死生観とは、生きることや死ぬことに対する自分なりの考え方
- 幸せな余生を送る上で、死生観について家族で話すことは重要
- 安楽死や尊厳死についても知っておくと良い
- 早い段階で「やりたいことリスト」を作っておくのがおすすめ
死生観ってどういう意味?
死生観とは、生きること・死ぬことについての考え方や行動の基準となる生死に関する考えを意味しています。
国や住んでいる地域の風習、また海外の場合であれば宗教から死生観に関する影響を受けています。
日本は無宗教の人が多いのでピンときませんが、海外ではキリスト教や仏教など特定の宗教を信仰している人が多く、宗教では死や死後の世界についての教えが説かれています。
つまり、無宗教の人が多い日本においては、ほとんどの人が死生観に関する考えが無いので、特に考えないまま最後を迎えるケースも多いです。
また、昔の日本では死に触れることをタブー視する考え方が存在した影響もあり、自分の死に備えて活動する終活に対しても否定的な人が多くいました。
しかし、近年では「人生の終わりをどのような形で迎えたいか」について考えることが「今をどう生きるか」に繫がる前向きな行動という考えが広まっています。
また、生前に自分の意志や考えを伝えたり、相続争いを防ぐ目的もあって、終活を積極的に行う人も増えつつあります。
このような背景から、近年では終活に関する情報やサービスが充実し、人々が自分自身や家族のために最後の人生を考える機会が増えています。
死生観は人によって様々
人間の誰しもが死は迎えることになりますが、未知の世界である死後に対しては考え方や価値観などは個人で異なります。
また、日頃「死」に関して深く考えたことも無い人が多いので、現状これといった考えを持っていなくても特段問題ありません。
死について考えるきっかけも人それぞれであり、身近な人が亡くなったり、自分自身が事故や病気で生死を彷徨う体験を通して死について考えるケースもあります。
いずれにしても、死生観は人それぞれなので正解はありません。
自分のこれまでの人生や生き様と向き合うことで自然と死生観は浮かんでくるので、これを機に考えてみてはいかがでしょうか。
死生観に向き合うメリット
現状、死生観に関して考えや意見が無くても問題ないと述べましたが、死生観に向き合うメリットは存在します。
死生観と向き合うことで、自分や家族の「死」と向き合う気持ちが生まれ、死に対する漠然とした不安や恐怖心が軽減されます。
死や最期について考えることで、充実した余生を送ることにもに繋がるので、何かの機会に死生観について考えるのは無駄ではありません。
後述しますが、死生観について考えて「やり残したことリスト」「やりたいことリスト」を作ることで、より余生を充実させることができます。
これにより「やりたいことが明確になる」「実際に行動を起こす意欲が湧く」などのメリットも実感できるでしょう。
また、死について考えて最期を迎える準備をしておくと、自分がより良い最期を迎えられるだけでなく遺される家族の不安も軽減できます。
さらに、自分自身がどのような最期を望むのかを考え、それを家族や医療関係者と共有することで、自分の意思が尊重された最期を迎えることができるかもしれません。
そのような準備をすることで、家族や周囲の人々とのコミュニケーションも深まり、人生の意味や価値についても考えることができます。
死生観に向き合うことは、人々にとって心の安定や人生の充実感を高める一歩となるかもしれません。
「死」に対して今からできること
自らの老いを実感し、死を意識し始めると現役だった頃との身体能力や判断能力の衰えに嫌気が差すこともあるでしょう。
しかし、老いや死は誰しも避けれない以上、抗うよりも受け入れる方が有意義です。
医療の発達に伴って長寿化が進み、「老後の生活」の時間が昔よりも長期化している現在では、充実した余生を謳歌することの重要性が高まっています。
いざ死に直面した際に、大切な家族や周囲の人が困らないようにするためにも、自分自身が後悔しないためにも、元気でいる内に少しずつ準備を進めておくことが大切です。
自分自身が望む最期や、残したい思い出やメッセージなどを整理しておくことで、その後の人生にも意義が生まれます。
老いや死を意識することは、人生を深く味わうための一つの方法であり、自分自身と向き合うことでより豊かな人生を送ることができるかもしれません。
自分の価値観や人生の中で大切にしてきたものを振り返り、今後の人生にどのような意味を与えたいかを考えることで、より深い納得感と充実感を見いだせるでしょう。
ここからは、今から準備をおすすめすることを4点紹介します。
死ぬ前に考えるべきこと1:身元引受人
多くの介護施設・医療機関では、入所や入院の際に身元引受人を立てる必要があります。
突然危篤状態になってしまい、息を引き取ってしまった際に、遺体の引き取りや葬儀の手配などを行うために必要な存在です。
身元引受人とは、ほとんどのケースで本人の親族となりますが、近年は少子化に伴い独り身の高齢者が増えていることもあり、身元引受人を見つけられないケースも多くあります。
このような事態を受け、身元引受人を民間団体が引き受けるサービスもあるので、必要に応じて利用を検討してみてください。
サービスの利用によって、高齢者や独り身の方々の最期における不安を軽減し、適切なサポートを受けることができる場合があります。
死ぬ前に考えるべきこと2:人生の最期を過ごす場所
最期を過ごす場所には、自宅や病院などいくつか選択肢があります。
それぞれに良い点・悪い点があるため、自分の死生観や考え方と照らし合わせてみてください。
病院
病院であれば、医師や看護師などの医療の専門家が常駐していることから、状態が急変した場合でも対処してもらえる安心感を得られます。
家族がパニックになることなく、医療の専門家に対応を任せられる点は大きなメリットと言えるでしょう。
一方で、病院の場合は面会時間などが決まっている関係もあり、家族が常に近くにいられるとは限りません。
その結果、家族に看取ってもらえない可能性がある点には留意しておく必要があります。
また、病院での治療や看取りは、医療の観点から必要とされる処置が優先されるため、患者さんや家族の希望が反映されにくい場合もあります。
家族や患者さん自身が、意思や望みを明確にし、それを医療関係者と共有することで、より個別化されたケアや最善の選択肢が選ばれる可能性が高まります。
そのため、家族や患者さん自身が自分の望む最期を考え、それを医療関係者に伝えることが重要です。
自宅
自宅の場合は、長年住み慣れた場所で自由に暮らすことができるので、精神的な安心感が非常に大きい点がメリットです。
また、家族に見守られながら最期を迎えられる可能性が高いので、そのような最期を希望する場合は自宅を選ぶと良いでしょう。
一方で、デメリットとしては病院や介護施設のように24時間体制でスタッフがついていない点が挙げられます。
突発的な事態に対応するのが難しく、また介護する家族に負担がかかりやすい点には留意しておく必要があります。
さらに、自宅での看取りは、医療行為をすることができないため、痛みや苦しみを和らげるための処置ができない場合があります。
そのため、家族や患者さん自身が医療関係者に相談し、必要な場合は病院や介護施設への移動も検討する必要があります。
介護施設
看取り介護を行っている介護施設も多いので、このような介護施設で最期を迎えるという選択肢もあります。
介護施設であれば、介護士などの介護のエキスパートから日常生活のサポートやケアを受けられるため、ストレスを感じることなく最期を迎えられるでしょう。
また、最期をどのように迎えるかについては、本人と家族の意思を尊重してくれる上に他の利用者とコミュニケーションを取れるので、孤独を感じにくいメリットがあります。
介護施設での最期は、安心感と共に自分自身の尊厳を保ちながら迎え入れることができます。理解ある専門職の方から必要なサポートが提供され、穏やかな雰囲気の中で最期の瞬間を迎えることができるでしょう。
一方で、デメリットとしては自宅ほど完全に自由が利くわけではないので、すべてが望み通りに行くとは限らない点が挙げられます。
近くの介護施設をチェックする!ホスピス
ホスピスとは、積極的に治療を行うのが難しい病状の人に対して、身体的・精神的苦痛を可能な限り取り除くケアを行う施設です。
延命治療は不可能ですが、痛みや苦しみを緩和してもらいながら最期を迎えられるので、病状が重い場合はこちらも選択肢として考えておくと良いでしょう。
また、体調が良ければ自宅に外泊することができるため、気分転換を図ることも可能です。
ただし、ホスピスを利用できる人は、末期状態のがん(悪性腫瘍)やエイズ(後天性免疫不全症候群)の患者に限られています。
死ぬ前に考えるべきこと3:後悔を残さない方法
誰しも、生前に悔いは残したくないものです。
最期が近付いた際に後悔を残さないためにも、人生を振り返って死生観について考えてみてください。
ステップ1:人生の振り返りをする
人生の終わりが徐々に見えてきたら、これまでの人生の振り返りをしてみましょう。
自分の人生における一つ一つの体験を振り返ることで、新たな欲求が湧いたりやり残していることが多いことに気付けるでしょう。
このようなことに気付ければ、残りの人生でやるべきことや満足度を高めるための方策が見えてきます。
時間をかけて人生を振り返ることで、自分の本当にやりたいことややり残したことが見えてくるはずです。
余生を謳歌するためにも、ぜひ折を見て人生の振り返りをしてみてください。
ステップ2:悔いのあることを考える
長い人生を振り返ってみると「やりたいこと」「やり残したこと」が浮かんできます。
なお、アメリカでは「バケットリスト」とも呼ばれていますが、やり残したことが浮かんだらとにかくリストに書いてみましょう。
思い付いたものを「すぐに実現できるもの」と「すぐに実現できそうにないもの」に分類して、優先順位を付けてみてください。
例えば、以下のような具合です。
- 日本を一周してみたい
- 新婚旅行の場所へもう一度行きたい
- オーロラを見たい
- スカイダイビングをしてみたい
- 学生時代の友人と過ごしたい
- 親孝行をしたい
- 飛行機のファーストクラスで海外旅行に行きたい
- 子や孫とできるだけ長く一緒に過ごしたい
- 親の墓参りに行きたい
自分の思い付いたことは何でも良いので、とにかく書いて整理してみましょう。
なお、このバケットリストは死期が近付いている人だけでなく、若い内から作成することも非常に有意義です。
また、やり残したことリスト・やりたいことリストを作成することで、具体的に自分自身が取り組むべきことが明確になり、自分自身にとって本当に大切なことに集中することができます。
自分自身がやり残したことを実現することは、人生の充実感や満足度を高めることにつながります。
ステップ3:余生の過ごし方を考える
自分のやりたいことがリスト化できたら、限られている人生の中で死ぬ前にやりたいことの優先順位を決めてみましょう。
優先順位を決めておかないと、満足度の高い余生を送ることができないので、この機にじっくりと考えてみてください。
なお、幸せな余生を送るコツとしては「すぐに実現できるもの」から実行していくことが挙げられますが、これにより後悔のない最期を迎えることができます。
特にお金の使い方は大切
お金に関する死生観についてみてみると、近年は死ぬまでに財産を使い切る「DIE WITH ZERO」(ゼロで死ぬ)という考えがあります。
これは、非常に多くの人が「死ぬまでお金を貯め続け、貯めたお金を使わずに死んでいる」という事実が明らかになったことが起因します。
自分はいつ死ぬかわからない以上、老後資金の枯渇に備えて貯蓄に励み、生活コストを下げるのは致し方ないことと言えます。
しかし、実際には裕福な人は退職時の資産を88%も残して亡くなっているというデータもあることから、残された人生を有意義に使うためにも「お金との向き合い方」について考えることは有意義です。
お金は自由な生活の土台となるものなので、自分の死生観と密接な関係があると言えるでしょう。
余生を謳歌できれば幸せな最期を迎えられるため、一つでも多くの先述した「やりたいこと」を実現しましょう。
死ぬ前に考えるべきこと4:安楽死・尊厳死について
最近、安楽死や尊厳死という言葉が注目を集めています。
これらの言葉の意味や定義について知っておくことは、自身の死生観に影響を及ぼす可能性があります。
自分の最期をイメージするのは難しいですが、知っておいて損はありません。
尊厳死とは
尊厳死は、人生の終末期医療において本人の希望を受け入れた上で、過度な延命治療を行うことなく自然に死を向かうことを指します。
病気が治る見込みがないという点と、本人の意思であるという点において、尊厳死と安楽死は共通しています。
しかし、両者の大きな違いは「自然死なのか故意の死なのか」です。
尊厳死は自然死なので、本人や家族から見ても「天寿を全うした」という考え方ができるでしょう。
尊厳死に関する法律は現状で定められていませんが、過剰な延命治療を行わずに自然死を迎えることは医療で主要化しつつあります。
しっかりと医師や病院側に対して自分の意志を伝えておくことが重要と言えるでしょう。
安楽死とは
安楽死とは、医師や患者本人が医師の処方した薬物などを服用して、死期を能動的に早めることを言います。
治療が困難で本人に耐え難い苦痛があり、死期が迫っている患者に対して活用される手法です。
前述したように、安楽死は意図的に死を早めるものなので、尊厳死と大きく意味合いが異なることが分かります。
日本では禁止
尊厳死も安楽死も、末期症状の患者本人の意思を尊重するという点では共通していますが、日本では安楽死は認められていません。
もし安楽死を行ってしまうと、自殺幇助または殺人として犯罪行為になってしまうのです。
病気が治る見込みがなく、死期が近いときに延命処置を受けずに尊厳死を選び、医師や家族に医師を尊重してもらうことは基本的人権の一部です。
しかし、安楽死を認めるかどうかは文化や宗教的背景が異なるため、各国で考え方に差が出ているのが実情です。
前述したように日本では安楽死が認められていませんが、世界で積極的安楽死を認めている国や地域の一部を列挙すると以下の通りです。
- スイス
- オランダ
- ベルギー
- ルクセンブル区
- アメリカのオレゴン州やワシントン州
なお、世界では安楽死を認める考え方広まりつつあるので、今後は安楽死を認める国や地域も増えていくでしょう。
なお、スイスは世界で最も早い1942年から安楽死を認めており、2008年~2012年の間だけでも30ヵ国以上から611人もの重症患者の人たちが安楽死するために入国したと言われています。
本人と家族間での意見共有が大切
また、本人と家族の間で死生観に関する意見を共有しておくことも重要です。
延命治療をするのか、また尊厳死等を希望するかで残された家族が判断に迷わないように、本人の意思を共有しておくと良いでしょう。
このような意見共有を行っていないと、最期が近付いた際に本人の意思に反して家族が延命治療を希望するケースも起こり得ます。
本人や家族の希望を踏まえた上で、病状が進んだ際にどのように対処するべきか、医療チームを含めて話し合って決めておきましょう。
「家族に余計な負担や心配を掛けない」ことも、死生観と向き合うメリットなのです。
【データで見る】終末期を過ごし方・過ごす場所
続いて、終末期の過ごし方や過ごす場所について、データで見てみましょう。
最期を迎える場所の年次別変化
厚生労働省によると、1950年代は自宅で最期を迎える方が多かったのに対し、現在は病院で亡くなる方がほとんどとなっています。
また、割合は低いものの、老人ホームで最期を迎える人の割合も年々増加傾向にあります。
看取りをしてくれる介護施設も増えつつあることから、老人ホームで最後を迎えることも有力な選択肢となるでしょう。
「自分はどこで最期を迎えたいか」を、一度考えてみてください。
最期を迎えたい場所
病院で最後を迎える人は多いですが、内閣府の調査では「どこで最期を迎えたいか」という問いに対して、半数近くが「自宅」を望んでいます。
5人に1人程度は「病院などの医療施設」を望んでいるのですが、やはり自宅で家族に見守られながら天寿を全うしたいと考えている人が多いです。
自分だけでなく、家族の意見も聞いておくことで幸せな最期を迎えることができます。
介護の不安や出棺なども含めて、自分の考えをまとめてみてください。
近くの介護施設をチェックする!【男女別・年齢別】理想の最期
2012年に日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が全国1,000名の男女を対象に行った「ホスピス・緩和ケアに関する意識調査」という調査で、理想の最期に関する質問がされています。
「理想の最期の迎え方」という質問に対して「心臓病などで突発的に死ぬ」若しくは「病気などでだんだん衰退して死ぬ」のどちらかを選択する問いでしたが、全体で約7割の人が「心臓病などで突発的に死ぬ」ことを望んでいました。
つまり、「ピンピンコロリ」を望んでいる人が多く、その傾向は高齢になるほど強いことも分かっています。
多くの人が「心臓病などで突発的に死ぬ」を選んだ理由としては、「家族の迷惑になりたくないから」と考えている人が大半でした。
つまり、自分のための介護負担をできるだけ軽くしてあげたいと考えている人が多かったのです。
一方、「病気などでだんだん衰退して死ぬ」ことを望む人の理由を見てみると「死に対する心づもりをしたいから」を挙げる人が多いです。
自分の意志を表明することなく突発的に死んでしまうと、家族が困ってしまうことも多いため、この理由も頷けます。
【終末期の状況別】最期を過ごしたい場所
厚生労働省が実施している「人生の最終段階における医療に関する意識調査(2012年度)」では、最期を迎えたい場所に関する質問がされています。
末期がん・心臓病・認知症などの状況別に「人生の最終段階を過ごしたい場所」という質問をした結果、「認知症で介護が必要な場合」は「介護施設」を望む人が59.2%と非常に多かったです。
なお、「末期がんで食事や呼吸が不自由であるが意識や判断力は健康なときと同等の場合」に関しては、「医療機関」で過ごしたいという方が47.3%、次点で「自宅」で過ごしたいという方が37.4%という結果でした。
病気の症状によっても最期を迎える場所の希望は異なるので、この調査を参考にしてみるのも良いでしょう。
緩和ケアって何?
緩和ケアとは、生命を脅かす疾患を抱えている患者と家族に対して、痛みやその他の身体的・心理社会的問題を踏まえた上で適切な治療を行うことを指します。
苦痛の予防・緩和を行うことで、QOLを改善する効果も見込めると言われています。
なお、WHOは緩和ケアを「がん治療と並行して行われる、がんのすべての経過段階に関わるケア」としています。
新たな緩和ケアの理念では、治療を始めたばかりの段階にあっても、痛みなどの苦痛があれば緩和するために鎮痛剤の処方が行われる点が特徴です。
さらに、病名の告知を受けた際には、患者本人のショックを和らげるために心理的なサポートが積極的に行われています。
なお、治療中の放射線治療や抗がん剤による副作用の予防や対応のケアも緩和ケアに含まれており、本人が亡くなった後の残された遺族に対する心理的なケアも同様です。
以上のように、死後を含むがん治療のあらゆる段階における「苦痛」を和らげることが「緩和ケア」の目的と言えるでしょう。
日本では、がん治療の際に緩和ケアが用いられてきましただ、国際的には幅広い疾患の際に用いられている状態を受け、最近では日本でもそのような傾向が見られます。
自分自身ががんになったらケースを想定して、緩和ケアを望むか否かを考えておくと良いでしょう。
緩和ケアの効果
日本緩和医療学会の調査では、上のグラフのように、がん患者が直面する痛みの約9割は治療によって取り除くことができることが分かっています。
がん治療のみを対象としたデータではあるものの、緩和ケアの信頼性は非常に高く、できるだけ痛みを感じたくない場合は緩和ケアは検討する価値があります。
自分の考えや死生観を医師にしっかりと伝えておき、適切な治療を受けられるようにしましょう。
緩和ケアチームの構成
緩和ケアを実施する運びとなった場合、診療に携わる医師・看護師・薬剤師・栄養士・看護師などがチームを組むことになります。
この緩和ケアチームが、患者とその家族の様々な面から手助けを行い、緩和ケアを実施していきます。
医療に関するエキスパートが揃っているので、困り事や不安な事があれば1人で抱え込まず周囲の家族や医療スタッフに相談することが重要です。
緩和ケアに携わるスタッフは、患者が直面する不安や悩みに対して共に解決策を考えながら、納得できる選択ができるようにサポートしてくれる頼もしい存在です。
なお、緩和ケアは治療を受けている病院だけでなく、緩和ケア病棟・在宅医療など、どこでも受けられる点が特徴です。
現在、緩和ケア病棟を持つ施設は全国に382施設、緩和ケアの専門チームが常駐する「がん診療連携拠点病院」は全国に434施設あることから、施設数に関しては申し分ありません。
緩和ケアが必要な場合は、まず最寄りの緩和ケアチームのスタッフに相談して、不安な事や今後の事を決めていきましょう。
また、自治体の相談窓口やがん相談支援センターでも緩和ケアに関する相談は受け付けているので、気軽に足を運んでみてください。
緩和ケアの一種であるターミナルケア
「ターミナル」には様々な意味がありますが「終着点・終着駅」という意味も含んでいます。
つまり、ターミナルケアとは「人生の終着点」が見えてきた、病気や老衰で余命わずかとなった終末期の方に対して行うケアを指します。
残された時間の充実度・幸福感を上げるために様々なケアを行い、本人だけでなく家族に対してもサポートをしてくれます。
ターミナルケアは、延命を目的とせずに病気などが原因で生じている身体的・精神的・社会的苦痛・スピリチュアルペインといった、全人的な苦痛を緩和するケアを行う点が特徴です。
ターミナルケアは緩和ケアと混同されがちですが、終末期の方に行われる緩和ケアの一部にターミナルケアが含まれている、というイメージを持っておくと良いでしょう。
アドバンス・ケア・プランニングも重要
厚生労働省の調査によると、人生の終末期における医療や療養について、半数近くの人が家族や医師と話し合ったことが無いのが実態です。
これだと、突然寝たきりになったり病状が悪化してしまった際に、残された家族が困ってしまうのは言うまでもありません。
万が一のケースに備えて、自分の望みや大切にしていること、どのような医療やケアを希望しているかなどの価値観を自分自身で考え、家族など信頼できる人たちと話し合っておきましょう。
なお、このように自分の価値観や死生観について話すことを「アドバンス・ケア・プランニング(これからの治療・ケアに関する話し合い)」と呼びます。
こうした話し合いは、自分の命に関わる事故や病気が起こってしまった際に、自分の信頼する人が自分の代わりに治療やケアについて決断をする際の大きな助けとなります。
「そのような縁起でもない話し合いは必要ない」と思っていても、万が一のケースを想定して話し合いを事前にしておくことで、家族の心理的ストレスや不安を大きく軽減できます。
アドバンス・ケア・プランニングは、自分の正直な気持ちや心の声を伝えておける貴重な機会である上に、緊急時に取るべき対応で悩む必要がなくなるため、家族や友人の心の負担を軽くできるでしょう。
なお、詳しくは神戸大学が厚生労働省の委託を受けて作成した『これからの治療・ケアに関する話し合い-アドバンス・ケア・プランニング』も併せて参考にしてみてください。
死生観に関連する様々な用語
最後に、死生観に関連する用語について紹介していきます。
看取り介護・終末期医療
終末期医療とは、病気が治る見込みがない場合に、病気を治すための治療を行わずに穏やかな死を迎えられるように努める緩和医療が行われる時期の医療を指します。
なお、その際に最期を看取るための介護を「看取り介護」と呼び、近年は看取りを行ってくれる介護施設も増えつつあります。
死生観について考える上で、終末期医療も看取り介護も避けて通ることはできないので、どのような意味を持つのか知っておきましょう。
看取り介護については以下の記事でも詳しく紹介しています。
エンゼルケア
エンゼルケアとは、人が亡くなった後に病院や介護施設が葬儀社へ引き継ぐまでの処置を指します。
まず、管やペースメーカーなどの医療器具を体から取り外すなどの医療的な処置が行われ、その後にアルコール綿で体を拭いたり穴や口などを詰める処置が行われます。
故人を送り出すための重要なケアなので、しっかりとエンゼルケアをしてもらえると安心でしょう。
また、必要な措置に加えて化粧や整髪、服の着せ替えなどといった身嗜みを整えてくれる施設もあるので、事前に調べておくと良いでしょう。
「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」
厚生労働省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」には、死生観を考える上で役立つ事項が多く載っています。
人生の最終段階における医療は、患者が医師や看護師などから適切な情報提供と説明を受けた上で判断することが重要です。
患者と医療従事者が話し合いを重ね、希望の折り合いをつけて、患者本人の決定を最優先しましょう。
意識が無かったり判断能力を喪失しているなどの理由で、患者本人の意思が確認できない場合でも、できる限り本人の意志を尊重しましょう。
本人にとって幸せな最期を迎えるためには、本人にとって最善の治療方針について家族と医療従事者がしっかりと話し合いを行い、家族・医療・ケアチームで判断することが重要です。
死生観の向き合い方まとめ
- 「今をどう生きるか」という前向きな考えや行動に繋がるので、死生観に向き合うことは非常に有意義
- これまでの人生を振り返り、自分なりの価値観や本当にやりたいことを炙り出そう
- 死生観は人によって違い、正解は無いものなので自由に型作ることができる
- ターミナルケアやアドバンス・ケア・プランニングなど、終末期の医療に関しても考えてみよう
無宗教の人が多い日本では、死生観について考えたことが無い人がほとんどでしょう。
しかし、後悔の無い最期を迎えて残された家族の負担を減らすためにも、自らの死生観について考え、価値観を伝えておくことは非常に重要です。
特に、延命治療は不要であると考えている人であれば、元気な内に自分の意思を医師や家族に表明しておくと良いでしょう。
死生観について考えることで、余生を謳歌するための考えが生まれるきっかけにもなるので、この機会に死生観と向き合ってみてはいかがでしょうか?
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)