IADL(手段的日常生活動作)とは?ADLとの違いや評価項目・低下予防法まで解説
更新日時 2023/12/11
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「IADLって何なの?」
「IADLになるとどのような問題が発生するの?」
このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
IADLは手段的日常生活動作と呼ばれており、自分自身で自立した生活を送る上で欠かせない能力です。
IADLが低下してしまうと、認知症などの様々な病気を併発してしまう恐れがあるので、できる限り自分のことは自分で行うことが重要です。
こちらの記事では、IADLとADLの違い、また低下を予防する方法などを詳しく解説していきます!
- 簡単な判断を伴う日常生活上の動作を指しており、衰えると要介護状態と言える
- IADLはADLよりも複雑な動作を含んでいる
- 簡単にチェックする方法や評価表もあるので、有効活用しよう
- 過度な介護はIADLの低下要因となるので、バランスが大切
IADLとは
IADLとはイラストのように「判断力を伴う日常生活を送る上での動作」のことを指します。
まずはIADLの基本的な事項を確認していきましょう。
手段的日常生活動作を意味
IADLは「Instrumental Activities of Daily Living」の頭文字を取ったもので、日本語に訳すと「手段的日常生活動作」という意味になります。
介護業界では一般的に使われているフレーズですが、一般的な人には馴染みが薄いのではないでしょうか。
IADLは、買い物や家事などの日常生活における単純な動作ができることに加えて、それに伴う判断や意思決定ができるかどうかも含まれています。
これは高齢者や障がい者の方々にとって特に重要であり、自立した生活を送るために必要不可欠な能力のひとつです。
つまり、IADLを維持することが生活の質の維持・向上に繋がるので、豊かな生活を送る上で非常に重要なのです。
IADLとADLとの違い
医療・介護業界で使われる言葉として「ADL」という言葉もあります。
ADLは「Activities of Daily Living」の頭文字を取ったもので、移動・排泄・食事などの最低限の日常生活動作を意味します。IADLと同じくこちらも介護やリハビリの業界では一般的な言葉です。
IADLはADLよりも複雑な動作も含んでおり、電話応対や買い物などの判断力が求められる動作まで包括しています。
また、ADLは身体的な側面にフォーカスした概念であり、IADLと合わせて評価することで、高齢者や障がい者の方々の生活機能の総合的な評価が行われます。
ADLの動作の具体例
先述したように、ADLは日常の基本的な動作を指しています。
具体的には以下のようなものです。
- 食事
- 移動
- 排泄
- 入浴
- 更衣
- 洗面
人間らしい日常生活を送る上で、基本的な動作であることが分かるでしょう。
ADLが失われてしまった状態は要介護度が高いので、自分のことは自分でやる習慣が重要です。
また、ADLの評価は介護の必要性やサポートの必要な程度を判断する上で重要な指標となっています。
IADLの動作の具体例
IADLの動作はADLよりも応用的な動作を指しています。
具体的には以下のものが挙げられます。
- 掃除
- 料理
- 洗濯
- 買い物
- 電話対応
- 服薬管理
- 金銭管理
ADLよりもやや難易度が上がり、判断力が求められることが分かります。
しかし、いずれも健全で健康的な生活を送るためには欠かせない能力です。
特に、IADLにおいては認知症の進行や身体機能の低下が原因で自己管理が難しくなることがあるため、早期の評価と適切なサポートが必要とされています。
IADLの評価法
IADLを評価する方法は複数ありますが、Lawtonの尺度・老研式活動能力指標・DASC-21などが代表的です。
中でも、Lawtonの尺度が最も有名で、多く用いられています。
Lawtonの評価法
Lawtonの評価法とは、アメリカの心理学者であるM・Lawtonによって発案されたIADLの評価方法です。
LawtonのIADLの尺度は8つの項目から成り立っており、何の動作をどのようなレベルでできるかを示しています。
自立度を図る指標である
Lawtonの評価法では、電話・買い物食事の準備などの8項目をスコアリングします。
スコアが高ければ高いほど自立しているという評価になりますが、客観的に回答することが重要です。
介護者はこの数値を理解しておくことで、適切なサポートが可能になります。
IADLの評価項目
Lawtonの評価項目は、以下の8つです。
- 電話使用
- 買い物
- 食事の準備
- 家事
- 洗濯
- 移動
- 服薬管理
- 金銭管理
以上の8項目について、さらに詳しく評価するための評価表が以下のものになります。
項目 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
A電話を使用する能力 1.自分から電話をかける(電話帳を調べたり、ダイアル番号を回すなど) 2.2, 3のよく知っている番号をかける 3. 電話に出るが自分からかけることはない 4. 全く電話を使用しない |
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1 1 1 0 |
B買い物 1.全ての買い物は自分で行う 2.小額の買い物は自分で行える 3.買い物に行くときはいつも付き添いが必要 全く買い物はできない |
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1 0 0 0 |
C食事の準備 1.適切な食事を自分で計画し準備し給仕する 2.材料が供与されれば適切な食事を準備する 3.準備された食事を温めて給仕する、あるいは食事を準備するが適切な食事内容を維持しない 4.食事の準備と給仕をしてもらう必要がある |
1 0 0 0 |
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D家事 1.家事を一人でこなす、あるいは時に手助けを要する(例: 重労働など) 2.皿洗いやベッドの支度などの日常的仕事はできる 3.簡単な日常的仕事はできるが、妥当な清潔さの基準を保てない 4.全ての家事に手助けを必要とする 5.全ての家事にかかわらない |
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E洗濯 1.自分の洗濯は完全に行う 2.ソックス、靴下のゆすぎなど簡単な洗濯をする 3.全て他人にしてもらわなければならない |
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F移送の形式 1.自分で公的機関を利用して旅行したり自家用車を運転する 2.タクシーを利用して旅行するが、その他の公的輸送機関は利用しない 3.付き添いがいたり皆と一緒なら公的輸送機関で旅行する 4.付き添いか皆と一緒で、タクシーか自家用車に限り旅行する 5.まったく旅行しない |
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G自分の服薬管理 1.正しいときに正しい量の薬を飲むことに責任が持てる 2.あらかじめ薬が分けて準備されていれば飲むことができる 3.自分の薬を管理できない |
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H財産取り扱い能力 1.経済的問題を自分で管理して(予算、小切手書き、掛金支払い、銀行へ行く)一連の収入を得て、維持する 2.日々の小銭は管理するが、預金や大金などでは手助けを必要とする 3.金銭の取り扱いができない |
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IADLの低下要因
IADLの低下は、加齢や病気による様々な身体などの機能低下が大きな要因となります。
しかし、IADLの低下には身体面だけでなく精神面や環境も大きく関わってきます。
例えば、人との関わりが減ってしまうとコミュニケーションを取る機会が減り、介護してくれる人に生活の世話を任せていると生活していく上での能力を喪失してしまいます。
年齢だけでなく、生活環境や精神的なストレスなどもIADLの低下に大きく影響する点を理解しておきましょう。
IADLの低下の予防のポイント
IADLの低下を予防するためには、「自分でできることは自分で行い、必要なサポートだけ受ける」ことが基本です。
こちらのトピックでは、家庭などで気をつけるべきポイントなどを詳しく紹介していきます。
介護しすぎに注意
身内の人が老化や病気によって、スムーズに日常生活の動作を行えなくなったとしても、介護しすぎるのは良くありません。
過度に介護をしてしまうと、本人が自分のことを自分でやる機会とモチベーションを奪ってしまいます。
全ての日常生活の世話をしていると、能力が衰えてしまい、以前まで出来ていたことまでできなくなってしまいます。
そのため、サポートする際は手伝ってあげる限度を見極めることが非常に重要です。
例えば、足の筋肉が落ちているケースであれば、ずっと車いすに座るのではなく、歩行補助器具を使ったり適宜介助をして自力で歩かせるようにしましょう。
生活環境の整備
少しでも多く自分で自分のことを行えるようにするために、生活環境を整備することも大切です。
福祉用具の活用
車椅子だけでなく、シルバーカーや杖などの補助器具を用意しましょう。
これらの福祉用具を活用することで、自分の力で行動することができ、外出のモチベーションも高まっていきます。
介護保険を使うとスロープや杖をレンタルできるので、できるだけ自立した生活を送るためにも調べてみてください。
本人の症状に合わせて福祉用具を活用することは、自立した生活を維持するために欠かせないポイントです。
リフォームする
本人が行動しやすいように、自宅をリフォームすることも効果的です。
例えば、開き扉を引き戸に変えたりトイレに手すりをつけたり、リフォームを行い生活の補助をしてあげましょう。
介護保険制度を活用できるリフォームもあるため、リフォームを検討中の方は調べておくと良いでしょう。
また、自治体独自の補助制度も利用できる可能性があるので、こちらも併せてチェックしてみてください。
運動と栄養を欠かさない
筋力を維持するためには、栄養バランスの整った食事を取ることも欠かせません。
たんぱく質を摂取した上で適度に運動することで、筋力を維持できIADL予防となります。
骨のや筋肉の量が減ると行動する意志も弱くなってしまい、また体を動かす能力もどんどん衰えてしまいます。
健康を維持するためには、食事と運動は欠かせない重要な要素なので、日々意識してください。
デュアルタスクを意識
デュアルタスクとは、2つのことを同時におこなう「ながら動作」を指します。
認知機能を維持する上でデュアルタスクを意識することは非常に有意義です。
例えば、買い物の際に歩きながら献立を考えるなど、複数の作業を同時に行うことで認知能力の低下を防ぐことができます。
IADLと認知症を予防できるので、意識的に実践してみましょう。
IADLと要支援・要介護度について
IADLと要支援・要介護認定の関係性は似ていますが、IADLの結果が要介護度に直結するわけではありません。
要支援1・2
要支援1・2は、要介護を防ぐための支援が必要な状態を指します。
日常生活を行う動作の能力がわずかに低下しているものの、自分の力で日常生活はほぼ問題なく行える状態です。
IADLに照らして考えると、身の回りの手助けが一部必要な状態となるので、悪化しないようにサポートしてあげる必要があります。
要介護1
要介護1は、身の回りのことはほとんど行うことができるものの、複雑な動作が難しい状態です。
認知能力や運動能力が低下しているので、要介護度が上がらないようにサポートすることが重要です。
IADLに照らして考えると、買い物や移動のスコアが低く、点が入らない状態となるでしょう。
要介護2
要介護1に比べると、より手厚い介助が必要となる状態です。
屋外だけでなく屋内の移動の際にも介助が必要となることが多いので、様々なサポートが必要となります。
IADLに照らし合わせると、家事や食事の準備に項目でスコアが入らないと想定できます。
要介護3
要介護3は、特別養護老人ホームのへの入所基準を満たせるレベルです。
つまり、自分自身でほとんどの身の回りのことの世話ができなくなってしまい、また多くの高齢者に認知症が見られるようになります。
病状がかなり進んでおり、電話の応対や服薬管理の項目でも点数が取れなくなることが想定されます。
要介護4
要介護4になると、身の回りの世話を自分自身で行うことがほとんど不可能となります。
重度の認知症が見られるようになるので、日常生活のほとんどを介護する必要が出てきます。
そのため、IADLの全項目で点数を獲得することは望めません。
要介護5
要介護5は、最も重い状態を指します。
寝たきりの状態で、ベッドの上でほとんどの時間を過ごす状態が続いており、意思の疎通も困難です。
要介護4と同様に、IADLの全ての項目で点数は獲得できないでしょう。
IADLが低下したときの対処法
IADLを維持するには、バランスのとれた食事や運動習慣を取り入れることが欠かせません。
また、自分のことは自分で行う生活環境を整備することも大切です。
とはいえ、年齢を重ねるにつれて身体機能は徐々に衰えてくるので、いくらケアをしていても限界があるのは事実です。
また、怪我をしてしまうとIADLが一気に低下してしまう恐れがあるので、自分の体がどれだけ動くのかをしっかりと理解しておくことが重要です。
適度な就労
短時間であっても、何かしらの仕事をしていると認知機能や運動能力を維持するのに役立ちます。
また、何より社会的な繋がりを保つことができるので、適度な就労はIADの予防に非常に効果的です。
ハローワークやシルバー人材センターの利用
ハローワークは無料で企業側が求人を出すことができるので、シニア向けの短時間の仕事が多くあります。
清掃や警備など、特に資格がなくても就けるパート求人も多いことから、身体に負担をかけずに社会貢献できます。
ハローワークは求職者も無料で気軽に利用できるので、インターネットなどで気になる求人を見つけたら利用を検討してみましょう。
また、シルバー人材センターは自治体が行っている高齢者の就労サポートですが、こちらも登録しておくことをおすすめします。
自分の都合が良いタイミングで就労できる便利さが魅力なので、こちらも有効活用しましょう。
介護保険サービスを利用する
体が動かなくなってきたら、積極的にリハビリをしたり介護保険サービスを利用してサポートを受けてみることを検討しましょう。
以上のイラストのように、デイサービスでは様々な生活のサポートが受けられるので、必要に応じて利用を検討してください。
老化は防ぐことができない以上、自助努力は継続しながら適切なサポートを受けることが重要です。
リハビリを手伝ってくれるデイサービスや、食事や運動についてのプロが常駐するデイサービスなど、様々な介護保険サービスが存在します。
自分の症状に合わせてこれらの介護保険サービスを活用することも、IADLを維持するのに効果的です。
老人ホーム・介護施設に入居する
IADLの維持のために有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)等に入居するのもおすすめです。
これらの介護施設では栄養バランスの取れた食事が提供されたり、機能訓練も兼ねたレクリエーションを楽しめたりなど、IADLを維持しつつQOLの高い生活を送ることが可能です。
特にサ高住は自宅のような自由度の高い生活を送ることができることから、介護度があまり高くない方が入居することも多い人気の施設となっているので、ぜひこの機会に入居を検討してみてください。
要介護度の高い方まで対応可能な、充実の介護・医療サービスも比較的安価に提供しています。
おすすめの老人ホーム・介護施設はこちら!IADLまとめ
- 自立した生活を送る上で、IADLの維持は欠かせない
- 栄養バランスの良い食事・適度な運動・デュアルタスクの実践が重要
- 必要に応じて介護保険サービスを活用し、IADLを維持しよう
- 定年退職後も短時間で就労するなど、認知能力と運動能力の維持に努めよう
IADLは自立した生活を送る上で欠かせない、手段的日常生活です。
衰えてしまうと様々な問題に直面し、やがて要介護状態となってしまうので注意しましょう。
維持するためには栄養バランスの良い食事・適度な運動は欠かせないので、早い段階から意識してみてください。
こちらの記事を参考にして、ぜひ自分自身や家族のIADLの維持に励みましょう!
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。
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