年金の繰り下げ受給|増加率・金額の計算方法からデメリット・注意点まで解説
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「年金の繰り下げってどんな得があるの?」
「年金の繰り下げをしたいけど、デメリットがあるなら不安だな・・・」
年金の繰り下げをして、受給できる金額をなるべく多くしたいとお考えの方は多いのではないでしょうか。
しかし、詳しい仕組みはわからないという方もいらっしゃるでしょう。
そこで、この記事では、老齢年金の繰り下げ受給のメリット・デメリット、注意点、受給金額の計算方法、お得な増加率にするコツ、75歳まで繰り下げした場合の受給金額など、繰り上げ受給についてお得になるための情報を徹底解説します。
年金受給や老後の資金についてお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください
- 年金の繰り下げ受給とは、年金の受給開始時期を1年以上繰り下げることで、月々の受給金額が増えること
- デメリットは、税金や社会保険料が増えることなど
- 注意点は、繰り下げることで得ではなく損をするケースもあること
年金の繰り下げによって受給額が増える
年金繰り下げ受給とは、65歳からもらう年金を1年以上繰り下げて受給することです。
そのことにより、月々の受給額を増やすことができます。
繰り下げできるのは、老齢基礎年金、老齢厚生年金です。
年金受給は、通常65歳から始まります。繰り下げ受給は66歳~70歳まで受給を遅らせることができる制度です。
なお、2022年4月以降は、75歳まで伸ばせるようになります。
繰り下げ手続きをすると、次の月から年金受給額が一ヶ月当たり0.7%の増額率になります。
つまり、70歳まで繰り下げると仮定すると、12ヶ月×5年×0.7%=42%なので、年金が42%総額するという計算です。
なお、老齢年金の被保険者の種類は上のようになっています。
繰上げ受給では0.5%減額になる
繰り上げ受給とは、60歳~64歳までの間に年金の受給を始めることです。
繰り上げ受給をすると、年金受給が早くなる一方で受給額の減額率は0.5%になります。
つまり、60歳0ヶ月から老齢基礎年金を受給するケースでは、12ヶ月×5年×0.5%=30%ですので、年金は30%減額になる計算です。
なお、2022年4月以降からは、繰り上げによる減額は0.4%になります。
どんな人が75歳まで繰り下げできる対象?
年金の繰り下げは、2022年4月以降は75歳までできるようになります。
しかし、誰でも対象になるわけではなく、昭和27年4月2日以降に生まれた人が対象となりますので、注意が必要です。
昭和27年4月2日以降に生まれた人で、年金の繰り下げを希望する場合は、60歳~75歳の間で年金受給開始時期を選べるようになります。
年金繰り下げの時期による増額率
年金繰り下げの時期による年金の増額率について見てみましょう。
年金を繰り下げる場合、0.7%の増率となります。
12ヶ月×0.7%=8.4%ですので、1年ごとに8.4%が増額でき、70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%増額することができます。
詳しい時期ごとの受給額は、下の表に示します。
手続き時の年齢 | 0ヶ月 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 | 7ヶ月 | 8ヶ月 | 9ヶ月 | 10ヶ月 | 11ヶ月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
66歳 | 8.4 | 9.1 | 9.8 | 10.5 | 11.2 | 11.9 | 12.6 | 13.3 | 14.0 | 14.7 | 15.4 | 16.1 |
67歳 | 16.8 | 17.5 | 18.2 | 18.9 | 19.6 | 20.3 | 21.0 | 21.7 | 22.4 | 23.1 | 23.8 | 24.5 |
68歳 | 25.2 | 25.9 | 26.6 | 27.3 | 28.0 | 28.7 | 29.4 | 30.1 | 30.8 | 31.5 | 32.2 | 32.9 |
69歳 | 33.6 | 34.3 | 35.0 | 35.7 | 36.4 | 37.1 | 37.8 | 38.5 | 39.2 | 39.9 | 40.6 | 41.3 |
70歳 | 42.0 | 42.7 | 43.4 | 44.1 | 44.8 | 45.5 | 46.2 | 46.9 | 47.6 | 48.3 | 49.0 | 49.7 |
71歳 | 50.4 | 51.1 | 51.8 | 52.5 | 53.2 | 53.9 | 54.6 | 55.3 | 56 | 56.7 | 57.4 | 58.1 |
72歳 | 58.8 | 59.5 | 60.2 | 60.9 | 61.6 | 62.3 | 63.0 | 63.7 | 64.4 | 65.1 | 65.8 | 66.5 |
73歳 | 67.2 | 67.9 | 68.6 | 69.3 | 70.0 | 70.7 | 71.4 | 72.1 | 72.8 | 73.5 | 74.2 | 74.9 |
74歳 | 75.6 | 76.3 | 77 | 77.7 | 78.4 | 79.1 | 79.8 | 80.5 | 81.2 | 81.9 | 82.6 | 83.3 |
75歳 | 84.0 |
実際に貰える金額と計算方法
65歳から年間72万円(月6万円)の老齢基礎年金を受け取れる人が、70歳0ヶ月、75歳0ヶ月まで年金受給を繰り下げた場合、以下の計算式になります。
70歳0ヶ月:増額率42%→年間の年金額102.24万円(月8.52万円)
75歳0ヶ月;増額率84%→年間の年金額132.84万円(月11.04万円)
上記の表を見て、自分が65歳時点の年金額を基準に計算するとよいでしょう。
繰り下げ受給した場合何年で得をする?
長生きする限りは、繰り下げ受給は得になります。
いつ年金の受給を開始したとしても、受給開始後12年目が損益分岐点です。
つまり、70歳まで繰り下げた場合、81歳になる間までに受給していれば、65歳時点で受給を開始するよりも得になるということです。
ご自身の健康状態や経済状況などを考えて、受給開始時期を決めるとよいでしょう。
3種類の年金と繰り下げ受給
年金には、老齢年金、遺族年金、障害年金の3種類があります。
それぞれ繰り下げ受給ができるかできないか、繰り下げで受給額が増えるのかは異なります。
繰り下げで受給額UP|老齢年金
老齢年金は、年金保険料を納付していれば65歳を迎えると誰もが受け取れます。
老齢年金は国民年金から納付される「老齢基礎年金」と、厚生年金から給付される「老齢厚生年金」とに分けられます。
どちらも繰り下げ可能で、両方または片方が繰り下げられます。
なお、厚生年金基金や企業年金連合会からも年金を受け取っている場合は、こちらも併せて繰り下げになりますので注意点として忘れないようにしましょう。
繰り下げができない|遺族年金・障害年金
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」とがあります。
国民年金または厚生年金に加入していた人が亡くなった場合、亡くなった人が生活を維持していた場合、条件を満たすと遺族に給付されます。
また、障害年金は、障害や病気があり、障害認定日に「国民年金法施行令」が定める1級・2級、「厚生年金保険法施行令」が定める1級・2級、3級に該当する方が受給できます。
どちらも条件を満たした際に受給する年金であり、繰り下げ受給はできません。
繰り下げしても受給額の変化なし|加給年金
加給年金とは、年金での「家族的当て」のようなものです。
- 厚生年金に20年以上加入している人で、65歳以上になったときに、自身が生計を維持している
- 65歳未満の配偶者、18歳未満の子または1級・2級の障害認定を受けている20歳未満の子がいる
この二つの条件を満たし、さらに所得などの条件を満たせば受け取れます。
加給年金を受け取るには、厚生年金の受給が必須です。
受給権者が昭和18年4月2日以降に生まれた場合は、加給年金額は390,500円です。
なお、重要な注意点として、加給年金の受け取りには厚生年金の受給が必須ですので、厚生年金を繰り下げている場合などの条件があると加給年金はもらえない点があります。
年金繰り下げ受給のメリット
年金を繰り下げ受給すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
主なメリットを2点ご紹介します。
メリット①:年金額が増える
毎月の受給できる年金額が増えることは最大のメリットだと言えます。特に、老齢基礎年金は受給額が少なめであるため、少しでも増額しておいた方がお得です。
また、1年ごとに約8%ずつという大きな割合で年金額が増加していく点も重要なポイントです。
1年でも繰り下げる余裕がある方は、繰り下げておくに越したことはないでしょう。
メリット②:増額は生涯に渡る
老齢年金は終身年金制度です。つまり、生涯にわたって年金が受給できます。
そのため、繰り下げによって総額した年金は一生涯増額のまま受給できます。長生きすればするごど、年金の受給総額も多くなるということになるのです。
将来のことを見越して少しでも繰り下げておけば、のちの生活がより豊かになります。
年金繰り下げ受給のデメリット
年金を繰り下げるとメリットもありますが、一方でデメリットもあります。
デメリット①:繰り下げ損の可能性
年金の繰り下げ受給によって損をする可能性もあります。
それは早期に死亡してしまった場合、年金の受給総額でみると損してしまっていることがあるということです。
損益分岐点は12年となっていますので、受給開始後12年以内に死亡してしまった場合は、受給総額が少なくなり、損したことになってしまいます。
デメリット②:税金・保険料が増える
老齢年金は雑所得扱いであり、年間の年金の受給総額から公的年金等控除額を引いた額を申告しなければならず、所得税がかかります。
また、繰り下げによって社会保険料も増えてしまいます。
そのため、手取りにすると、たとえ年金を繰り下げ受給してもそこまで受給額が増えたようには感じないでしょう。
デメリット③:加給年金がもらえない
夫婦の年齢差によっては、年下の配偶者が加給年金を受け取れないケースもあります。
加給年金は、厚生年金の被保険者の厚生年金被保険者期間が20年以上で、かつ65歳になったときに生計を担っている場合、条件を満たした配偶者や子に加算されるものです。
しかし、被保険者本人が、年金の繰り下げをしている間は加給年金はもらえません。
加給年金は、配偶者が65歳になったときに支給が終了しますので、被保険者が繰り下げをしている間に配偶者が65歳になるかどうかは重要なポイントです。
〈ケース別〉年金繰り下げは実際するべき?
メリットもデメリットもある年金の繰り下げですが、結局繰り下げはするべきなのでしょうか。ケース別にみていきましょう。
単身者の場合
未婚の方、離婚や死別を経て単身者になった方、非正規雇用期間の長い方は受給できる年金額が少ない傾向があります。
このような方の場合、少しでも年金の受給額と収入を増やして老後資金を得るため、65歳以上も働くことを検討してもよいでしょう。
年金は繰り下げて、受給開始時期はなるべく遅くすることをおすすめします。
夫婦で、年下の配偶者(妻など)がいる場合
先ほども述べたように、夫婦の年齢差によっては、被保険者が年金の繰り下げをしたことにより、加給年金が受け取れず損をする可能性があります。
加給年金の受給には、厚生年金の受け取りが必須であるため、繰り下げによって厚生年金を受け取らないと、加給年金の対象であっても加給年金が受けとれないからです。
これを防ぐため、厚生年金に加入している夫が65歳から厚生年金の受け取りを開始し、繰り下げは老齢基礎年金だけにすることも可能です。
そうすることにより、加給年金の受給と、老齢基礎年金の増額が両方できるようになります。
夫婦で年上の配偶者(妻など)がいる場合
老齢基礎年金の基本的な受給開始年齢は65歳です。
年上の配偶者(妻など)がいる場合、本来被保険者に加給年金が加算される年齢のときに、配偶者がすでに老齢基礎年金を受け取っている場合もあります。
このようなケースのときは、日本年金機構から送られてくるハガキと必要な書類を年金事務所に提出してください。
そうすると振替加算が支給されるようになります。振替加算の金額は配偶者の生年月日によって変わり、昭和40年以前に生まれた方の場合に受け取れます。
加給加算に比べると振替加算は少ないですが、受給しておいて損はありません。なお、振替加算は配偶者の老齢基礎年金に上乗せされます。
また、遺族年金を受給する場合、離婚した場合でも振替加算がなくなることはありません。
65歳以上も働く場合
65歳から70歳までの間で労働し厚生年金に加入していると、所得に応じて老齢厚生年金の年金の一部または全額が支給停止になります。
これが在職老齢年金です。在職老齢年金による支給停止額は、繰り下げ支給がされません。
また、老齢厚生年金は所得に応じて支給停止されますが、老齢基礎年金は所得は関係なく全額支給されます。
これらの点を考え、年金を繰り下げるかどうか考える必要があります。
繰り下げ手続きの方法
年金は、手続きをしなければ自動で繰り下げられます。
つまり、受給する年齢になったからといって、自動的に支給が始まるものではないのです。
年金事務所か年金相談センターに行き、支給開始の手続きを自分で行うことにより、はじめて年金を受け取ることができます。
つまり、事前に受給開始時期を決めておく必要はありません。
例えば、75歳まで繰り下げようと考えていたら、何も手続きをしなければそのまま繰り下げられます。
しかし、70歳の段階で健康上の不安を感じ年金を受給したいと思ったら、手続きをすれば受給開始できます。
準備するもの
年金を受給するための手続きに必要なものは、手続きする人本人の基礎年金番号のわかる年金手帳と本人確認書類です。
また、年金受給者の代理人(家族)が手続きに行く場合は、委任状が必要です。
これらを持ち年金事務所か年金相談センターへ行き「老齢基礎・厚生年金支給繰下げ請求書」を記入して提出します。
「老齢基礎・厚生年金支給繰下げ請求書」は、年金事務所や年金相談センターにあります。
年金繰り下げについて知っておきたい注意点
年金の繰り下げをしようとするとき、いくつか注意点を知っておく必要があります。
繰り下げ損を抑える
先ほども述べたように、繰り下げ受給をしても、損益分岐点である12年以上年金を受給できなければ損してしまいます。
現在、平均寿命が男女ともに82歳ほどであるため、70歳まで繰り下げた場合、平均寿命以上生きると得になる計算です。
しかし、自分がいつまで生きられるのかはわかりません。
健康状態や老後資金などを考慮し、繰り下げることでの損を抑えるため、最適な選択肢を考えることが重要です。
繰り下げ方は3パターンある
年金の繰り下げ方は、3つのパターンがあります。
- 老齢基礎年金(国民年金)のみ
- 老齢厚生年金のみ
- 老齢基礎年金および老齢厚生年金の両方
例えば、加給年金を受け取れる1を選ぶことで、加給年金を受け取りながらも年金受給額を増やすことが可能です。
状況に応じて、また人それぞれによって、繰り下げ方のパターンが選べます。
繰り下げ受給が向いている人・向いていない人
ここまで、年金の繰り下げ受給の方法について解説していきました。
ここからは、繰り下げ受給をすべき人と、すべきではない人の特徴をまとめます。
繰り下げ受給をすべき人
まず、繰り下げ受給をすべき人の特徴を3点ご紹介します。
65歳以降も働こうと考えている人
年金は基本的に65歳以上から受け取るものです。しかし、65歳以降も働こうと考えており、安定した収入が得られる見込みがある方は、特に生活に困りません。
そのため、そのような方は繰り下げをして今後の受給額を増やす方を選択する方がよいでしょう。
年金受給額が多くない人
厚生年金への加入歴がなく老齢基礎年金だけの受給になる方は、受給できる年金額が多くはありません。年間で約78万円になります。
配偶者の収入があるなど、年金を受給しなくても生活できる場合には、なるべく繰り下げ期間を長くすると、より多い年金受給額になります。
できる限り長生きしようと考えている人
先ほどから述べているように、年金を繰り下げしたときの損益分岐点は12年後です。
年金を繰り下げ、70歳、75歳から年金受給を開始しても12年以上生きると得ができるということになります。それほど長生きしようと考えている方は、繰り下げをしてもよいでしょう。
繰り下げ受給をすべきでない人
ここからは、繰り下げ受給をせず、早めに年金受給を開始すべきである人の特徴を3点ご紹介します。
老後資金が十分でない人
年金受給開始は基本的に65歳からです。老後の資金が十分ではなく、生活に不安がある方は、繰り下げではなく、通常の年金額を受給した方がよいでしょう。
例えば、65歳以降、仕事を続けられる目処がない方、収入がわずかであることが確定している方などです。
年金の受給額が多い人
年金の繰り下げをして受給額が増えると、それに併せて税金や社会保険料も上がります。
高額の年金を受給できる方、老後の資金には不安な点が全くない方など、資産に十分な余裕がある方は繰り下げる必要はないでしょう。
年金の繰り下げをしても税金や社会保険料が上がる分、あまり得がないと言えます。このような場合は繰り下げをする必要はないでしょう。
加給年金を受給したい人
被保険者本人が65歳で生計を担っている場合、65歳未満の配偶者や、条件を満たす子を対象に加給年金の受給があります。
しかし、厚生年金の繰り下げをすると、その間は加給年金の受給もできません。
加給年金を受給したい場合、厚生年金の繰り下げはやめましょう。
年金の繰り下げ受給についてまとめ
- 繰り下げ率は一ヶ月あたり0.7%増加で計算する
- 繰り下げることで、税金や社会保険料が上がることも注意点の一つ
- 2022年以降、老齢年金受給開始は75歳までになった
年金の繰り下げをすることにより、受給金額を上げることができます。
しかし、65歳以上も働く予定があり、安定した収入がある方や老後の資産がある方は繰り下げがおすすめできますが、そうでない方には繰り下げはおすすめできません。
また、繰り下げをしたとしても、税金・社会保険料が上がってしまうことや、損益分岐点である12年間の受給しなければ結果的には損になってしまうことなどの注意点もあります。
生活スタイルや資産などあらゆる点から、年金の繰り下げをするかどうかよく考えましょう。
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)