高齢者の食欲不振とは?詳しい症状やその原因、改善・予防方法まで徹底解説!

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「最近、おじいちゃん、おばあちゃんの食欲がなさそう」

「ちゃんと食事を取らせたいけど、どうしたらいいか分からない」

このように思っている方も多いかと思います。

高齢者の食欲がなくなると栄養不足によって身体機能が低下し、それによってさらに食欲が低下していくという負のサイクルに陥ってしまうこともあります。

そのような悪循環を断ち切り、高齢者が健康な食生活を送るためにはどうしたら良いのでしょうか。

ここでは、高齢者の食欲不振が気になるという方のために、食欲不振の症状や原因、対策法などを丁寧に解説していきます。

高齢者の食欲不振についてざっくり説明すると
  • 加齢に伴って、食欲が減退していくことを指す
  • お腹がすかない、食事をする気にならない、などの症状が現れる
  • 食欲不振が見られたら、医療機関に係るべき
  • 料理や食事の出し方、環境など様々な対策をすべき

高齢者の食欲不振の意味

食欲不振に陥る高齢者

高齢者の食欲不振とは、加齢に伴う体調や環境などの様々な変化によって、食欲が減退していくことを指します。

食欲不振は、さまざまな体の不調を起こす原因となってしまいます。

食欲不振の症状

食欲不振の症状は、お腹がすかない、食事をする気にならない、食べ物が偏る、などです。

これらの症状が原因となって、以下のような問題を引き起こします。

低栄養状態、脱水状態、低血糖のリスク

食欲不振になると、食事をあまりしなくなることによって健康を維持するのに必要な栄養素やエネルギーが摂れなくなり、低栄養状態になる危険があります。

低栄養状態になると、免疫力が落ちる、骨がもろくなる、皮膚の炎症がおこるなどの症状がでることがあります。

また、食事をあまりとらないことで普段食事を通して摂取していた水分が摂取できなくなるので、水分不足になり脱水症状につながる危険性もあります。

さらに、食欲不振によって炭水化物が不足すると低血糖となり、めまい、吐き気、集中力の低下などを引き起こします。

高齢者の中には糖尿病の治療のため、インスリンの投与によって血糖値を下げている方もいるので、低血糖には注意が必要です。

そのため、食欲不振が続く場合には、医師の診察を受け、適切な対策を講じることが重要です。

特に、糖尿病やその他の慢性疾患を抱えている場合には、栄養バランスを考慮した食事の摂取が必要であり、医師と相談しながら適切な食事を選ぶことが重要です。

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高齢者の食欲不振の原因は?

病気にかかる高齢者

病気が原因である場合

食欲不振の原因として、病気で食べられないという場合があります。 病気には、体の病気と精神の病気の2種類があります。

体の病気

食欲不振につながる体の病気には、風邪・インフルエンザ・慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの胃腸や肝臓など消化器官の病気・癌・心不全・甲状腺機能低下症などがあります。

食事中にむせたり、食後の喀痰が増えたりしたら、誤嚥性肺炎の可能性もあります。誤嚥性肺炎では普通の肺炎と比べて発熱や呼吸困難などの症状が見られないことがあり、高齢者の自覚症状がないことも多いので注意が必要です。

精神の病気

うつ病のときや精神的に病んでいるときは食欲不振になりやすいです。

特に高齢者は、身の回りの人の死別や孤独感、生きがいがなくなる、住み慣れた家から介護施設や病院へ移住、移動することなどによる環境の変化があるために精神的に辛いことが多く、食欲不振を招きやすいです。

精神的な病気による食欲不振には、心理療法や抗うつ薬の投与などが有効な治療法となります。また、高齢者には心理的なサポートを提供するための機関や支援団体がありますので、利用することも検討してみてください。

医師や心理カウンセラーは、個々の状況に合わせた適切なアドバイスや治療プランを提供してくれます。早めの対応や適切なサポートを受けることで、食欲の回復や心理的な安定が期待できます。

病気以外が原因である場合

食欲不振には病気以外にも様々な原因があります。

原因の多くは高齢者によくある身体機能、脳機能の低下となっています。

老化

老化によって若い頃より運動量が低下したり筋肉量、基礎代謝が低下したりすることでお腹が空いたと感じにくくなり、食欲が湧きにくくなることがあります。

また、足腰の老化やケガの治癒の遅れ、認知症などによる寝たきりの状態は高齢者を無気力にさせ、結果的に食欲不振を招きます。

高齢者の場合、複数の要因が組み合わさって食欲不振に陥ることがあります。そのため、健康的な生活習慣を維持し、適度な運動や社交活動などを行うことで、食欲を促進することが重要です。

また、身体的な問題がある場合には、専門家のアドバイスを受けて適切な治療を行うことも大切です。

ストレス

ストレスがかかると、自律神経の乱れにより食欲不振になることがあります。

高齢者は身体的な不自由さや経済面への不安などによってストレスを感じることが多いとされています。

身体的な不自由さや痛み、認知機能の低下などは、日常生活の制約や自己肯定感の低下をもたらし、それによってストレスが増大する要因となることがあります。高齢者の方々には心理的なサポートや適切なストレス管理の方法を提供することが重要です。

認知症

認知症になると、食べ物が認識できなくなったり、箸などの食器をどう使うか分からなくなったりして、食事に関わる脳の機能が低下します。この結果、1人で食事をすることが困難になり、食欲不振につながることがあります。

認知症は高齢者の無気力、無関心を引き起こすので、食事に興味を示さなくなってしまいます。

また、認知症になると言葉で意思を伝えられないことも増えます。「体調が悪くて食べられない」、「口の中が痛くて食べられない」などの意思を伝えにくくなることで、食事への意欲が低下します。

認知症の高齢者には、1人で食事をすることが難しくなる場合があるため、家族や介護者がサポートすることが必要です。

また、食事の内容や食べ方に工夫を加えることで、食欲を促進することができます。認知症の方が食べやすいように、食事を小分けにしたり、食べ物の形状や色合いに工夫を加えたりすることが有効です。

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嚥下障害

食べ物が上手く飲み込めなくなる嚥下障害になると、食事中に飲み込んだものが食道に詰まったり、固形物を噛み砕いて飲み込むことが難しくなったりするため、食事がしにくくなります。これが原因で食事をしたいと思えなくなり、食欲不振になることがあります。

また、嚥下障害は栄養の低下や誤嚥性肺炎の原因にもなるため、注意が必要です。

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内臓機能が低下している

内臓機能が低下すると、胃や腸の消化吸収機能が上手く働かず、消化不良や下痢、便秘になりやすくなることで食欲不振になることがあります。

食道の動きが悪くなると食べたものが逆流してしまうことがあり、潰瘍ができることでさらに機能が低下します。

さらに、胃の機能が低下するとあまり食べていない状態であっても胃が苦しくなることがあります。

味覚、嗅覚、視覚が低下している

高齢者は舌や口腔内で味を感じる味覚細胞が減少することで味覚が低下しています。

それによって味が濃いものを好むようになりますが、高血圧の対策として減塩すると味が感じにくくなるため、食事が楽しくないと感じてしまいます。

また、嗅覚が低下すると匂いによって食欲がそそられず、食欲が湧きにくくなります。

視覚が低下すると食べ物の本来の色がわかりにくいために食欲がそそられず、食欲不振になることがあります。

さらに、これらを原因として高齢者の食べ物の好き嫌いが増えてしまうこともあります。

生活習慣が不規則

生活習慣が不規則だと自律神経が乱れ、食欲が湧きにくくなります

不規則な生活習慣とは、睡眠不足や運動不足、偏った食事などです。

特に健康な高齢者でも早寝早起きになったり、睡眠が浅くなったりすることによって睡眠不足が起こることがあります。

定期的な睡眠と十分な休息をとることで、自律神経の乱れを改善し、食欲の回復につなげることができます。

薬の副作用

高齢者には複数の持病がある方も多く、抗がん剤や抗生物質、痛み止めなどの薬の副作用の影響で食欲不振になることがあります。中でも、強心薬は食欲の減退を起こしやすいので注意が必要です。

また、服用する薬によって味覚が変わっていたり、食事中に眠くなってしまったりする場合なども食欲不振につながるので注意しましょう。

高齢者は、同時に複数の薬を処方されている場合に、副作用によって食欲不振やうつなどの症状が出やすいとされています。

口腔状態が悪い

口腔状態が悪いと、咀嚼や嚥下が上手くできず、食欲不振になることがあります。

「口腔状態が悪い」とは、唾液の分泌量が低下して口に入れたものがパサついて食べにくくなることや、入れ歯や差し歯の調子が悪く咀嚼がしづらいこと、口内炎や歯周病などによる不快感があることなどを指します。

これらは食べることに対してストレスを感じさせる原因となって、食欲不振を招くことがあります。

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食欲不振の診断・治療の方法

食欲不振が見られた場合は、まずは食欲不振が始まった時期や服用している薬、体の状態を詳しく聞いた上で、医療機関にかかりましょう。

食欲不振がある場合の診断

食欲不振の症状がある場合、その原因となる病気になっていないか、病気以外の原因による場合はその原因は何かについて検査することが大切です。

検査では、血液検査やレントゲン検査、内視鏡検査(胃カメラや大腸カメラ)など必要な検査を行うようにしましょう。

原因となる病気がある場合は治療を行う

もし食欲不振の原因となる癌や潰瘍などの病気があると診断されれば、その病気を治療することで食欲不振の改善を目指します

インフルエンザや風邪は内科、胃潰瘍など消化器系の病気では消化器内科が担当しています。

高齢者の食欲不振を予防するには?

正しい姿勢で食事をする

正しい姿勢で食事をしないと、食べ物を飲み込みづらくなったりのどに詰まらせたりする危険性があります。

もしそうなると、食事への恐怖感や不安感が芽生えて食欲不振になってしまいます。 姿勢を正して食べることでその危険性をなくすことができるので、食欲不振の予防に役立ちます。

認知症の場合は食事を認識させる

認知症の人は食事を食事だと認識できない可能性があるため、食事が始まった時に食べ物を認識させる必要があります。

そのため、食事が始まることを伝えたり、これが何の料理、食べ物なのか説明したりすることが大切です。

食事の時間を穏やかな雰囲気で過ごし、リラックスできる環境を整える配慮も忘れないようにしましょう。このような配慮を通じて、認知症の人が食事を認識した上で楽しめることが望ましいといえるでしょう。

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高齢者の食欲を高めるための対策

楽しく食事をとる高齢者

高齢者にしっかりと食事をとってもらうには、さまざまな側面からの対策が必要です。

料理の段階から食事の出し方まで、どのようなことに気をつけるべきかを紹介します。

食べやすいものを選ぶ

咀嚼や嚥下の能力が低下していると、かたい食べ物や大きいものが食べにくくなります。そのため、なるべく柔らかい食べ物を出すようにしたり、小さく切って出したりすることで高齢者が食べやすくする必要があります。

食べやすくするためには調理方法を工夫したり、食べやすく作られている介護食を取り入れましょう。消化機能が低下していることも考えられるので、繊維質の食材を使うのはなるべく避けたほうが良いです。

食べやすくするために無理に細切れにしたりミキサーにかけたりすると、食事としての見た目が損なわれてかえって食欲不振につながる可能性があるため注意する必要があります。

うつ病などで精神的に問題があるときは食器を使うことも面倒になることがあるので、小さいおにぎりやサンドイッチなどの手でつまめる料理を出すのも良いです。

食事を楽しめる工夫をする

食事が楽しいものであると思わせることで食欲を湧かせることができます。

食事を楽しいと思わせるには、1人で食事をさせずに家族や友人などとともに会話を楽しみながら食事をさせるのが良いです。

また、食事自体がおいしそうな見た目をしていたり季節に合った料理があると食事も楽しくなるので、料理方法やメニューにも食事が楽しくなる工夫を取り入れると良いです。

食事に義務感を感じさせず、楽しいものにするために、普段より少なめに料理を盛ったり、品数を減らしたりするのも効果的です。

好きな料理や具材を取り入れる

好きな料理や具材があると食事が楽しくなります。

ただ、好きな料理が糖分の高いものや味の濃い塩分の高いものだと高血糖や高血圧につながるので、頻度や量に気を付けて出す必要があります。栄養バランスも考慮するようにしましょう。

食べたいときに食べる

食欲が低下しているときは無理に朝昼夜の三食を食べさせるのではなく、本人が食べたいときに食事を出しても良いです。

いつ食べたくなってもすぐに対応できるように、作り置きをしておく、出来合いの物を用意する、レトルトの物を用意するといった準備をしておきましょう。

いずれにせよ、大切なのは本人の個別のニーズや好みに合わせた対応を行い、食欲を取り戻せるように支援することです。

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無理に食べさせると逆効果になることも

低栄養や脱水症状を危惧して食欲不振の高齢者に対し無理に食べさせると逆効果になってしまうことがあります。

無理に食べさせると、食事が楽しむものから強要されるものになり、食事に対するストレスや不安感につながってしまいます。

食事は楽しむものであるため、無理には食べさせずに本人のストレスや負担にならないように見守ることも大切です。

ただ、全く食事をとらないのは低栄養状態などにつながるため、注意しましょう。

まとめ

食欲不振の症状、原因、対策のまとめ
  • 食欲不振とは、加齢による体調や環境の変化によって食欲がなくなっていくことを指す。
  • 食欲不振は身体的、精神的な病気から生じることがある。
  • 病気以外から生じる食欲不振は高齢者に見られる身体や精神の不調である場合が多い。
  • 食欲不振が疑われたら、高齢者の状態をよく聞いて医師に相談する。
  • 高齢者に無理なく食事をしてもらい、食べることを楽しんでもらうために、料理を工夫する。

高齢者の食欲不振について、体に及ぼす影響や原因について解説してきました。家族に高齢者がいる場合は、食欲不振と思われる症状が見られたらすぐに対策をしましょう。

また、食べたくても食べられないという高齢者の気持ちに寄り添いながら、工夫を施すことで食事を楽しんでいけると良いでしょう。

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

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