傾眠傾向とは|症状や意識障害の原因から介護時の注意点・薬の副作用の影響まで解説

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「傾眠傾向とは、どのような症状が出る病気なの?」

「傾眠傾向を起こす原因や対策について知りたい!」

このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?

傾眠傾向は高齢者がなりやすい意識障害の一種で、1日中眠くなってしまう症状が現れます。

4段階に分かれており、症状を放置すると重病に繋がってしまう恐れがあるので、不安があれば速やかに医師の診察を行けましょう。

こちらの記事では、傾眠傾向の症状や原因、また介護時の注意点などを詳しく解説していきますので、参考にしてください。

傾眠傾向の症状や対策についてざっくり説明すると
  • 高齢者がなりやすく、1日中うとうとしていたり居眠りする症状が出る
  • 原因としては、認知症や脱水症状、薬の副作用が挙げられる
  • 介護者は病院へ付き添ったり、頻繁に話をするなどの対策を行うのがおすすめ

傾眠傾向とは

眠くなる高齢者

傾眠傾向とは、声かけや肩を叩くなどの弱い刺激で意識を取り戻す程度の軽い意識障害です。

上記のイラストのように、高齢者が1日中眠くなる症状に見舞われるケースが多いです。

ただの居眠りとは異なり「意識障害の一種である」ことがポイントで、自発的に動くことが少なく寝たきりの生活になりやすい特徴があります。

傾眠傾向は、高齢者にとって、日中に眠気を感じやすくなるため、活動量が減少し、社交的な活動や趣味、家族とのコミュニケーションなど、生活の質を低下させる可能性があります。

そのため、傾眠傾向を放置せず、医療機関や介護サービスを受けることが大切です。

意識障害の段階

傾眠傾向は意識障害の一種ですが、程度によって四段階(場合によっては5段階)に症状が分けられています。

意識清明(正常)

意識清明とは、意識がはっきりしている正常な状態です。

「起きている」状態とも言えます。

声掛けにも応じ、状況判断や意思疎通が問題なくできる状態なので、この段階で傾眠傾向と判断するのは困難です。

ただ、意識清明の状態であっても、高齢者には注意が必要です。

例えば、認知症の早期症状や、異常な行動・言動の発現などは、意識清明な状態であっても発生することがあります。

また意識清明であっても、薬の副作用や疲労などで、傾眠傾向が引き起こされることがあるので、注意が必要です。

傾眠

傾眠とは、外部からの軽い刺激(肩をたたかれる、声をかけられるなど)で覚醒する(意識を取り戻す)状態を指します。深い眠りの状態ではありません。

名前の呼びかけなどにも反応するので、うとうとしている場合は積極的に声掛けをしましょう。

傾眠は寝不足で起こりがちな症状とよく似ていますが、傾眠は一般的な寝不足とは異なる点があります。

それは起こされた際に、現在自分がどこにいるのか、何時なのか、起きる前に何をしていたのかの記憶がない場合があるのです。

昏迷

昏迷とは、傾眠の症状が進んでしまった状態を指しており、大きい声での呼びかけや強めの痛みなどの強い刺激を与えないと意識を戻さない状態です。刺激に対して、手足が動く・嫌がるなどの反応を起こすことも多々あります。

傾眠が進むと昏迷状態になってしまうので、早めにケアをすることが重要です。

また脳卒中や外傷、糖尿病などの合併症が原因で昏迷に陥ることがあります。

昏睡

昏睡とは、昏迷が進んでしまった状態を指し、物理的な刺激にも反応しません。

昏睡状態になると、叩いたり大声で呼びかけるなど、外部から強い刺激を受けても目覚めず、刺激に対する反応や不快感を避けようとする様子も示さない状態になります。

ただし、脊髄反射と排泄行為は行われます。

先ほど述べたように傾眠傾向は四段階に症状が分けられることが多いですが、昏睡と昏迷の中間の「半昏睡(体を強くたたくなどの強い刺激を与えた際に、避けるなど刺激に身体の一部が反応している状態)」が定義される場合もあります。

居眠りが1日中起こるような症状

傾眠傾向は睡眠不足による居眠りとは異なり、あくまでも意識障害の一種です。

病気の初期症状である可能性もあるため、昼間も含めて1日中頻繁にうとうとする様子が見られる場合は要注意と言えるでしょう。

意識的に昼寝をしているわけではなく、うとうとしている頻度が高い場合は傾眠傾向の可能性が高いです。

1日中眠そうにしていたり、気付いたら寝ている場面を見かけたら傾眠傾向を疑いましょう。

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傾眠傾向を起こす原因

寝れない老人

傾眠傾向を起こしてしまう原因として、いくつか理由が考えられます。

傾眠の原因は様々あり、例えば誰もが通る「加齢による体力の低下」から歩行困難に至る恐ろしい「硬膜下血腫」まで多様に考えられます。

この記事では、傾眠傾向を起こす7つの原因と傾眠傾向によく似た症状1つを紹介します。

生活の中で気を付けることで対処できるケースと対処が難しいケースがあるので、見極めが重要です。

脱水症状

脱水状態になると、意識の低下や傾眠を招くことがあります。

特に高齢者は、体内の水分を維持する機能が若い頃と比べて低下しているため、本人や介護者が意識的に水分補給を行うことが重要です

本人は脱水症状に気付かないこともあるため、この点に留意する必要があります。

また、高齢者は咀嚼力や嚥下力が衰えることが一因となり、脱水症状や栄養不足になりやすくなります。

食事時には、周りからの積極的なサポートや注意喚起が大切です

加齢・体力の減少

高齢になると、神経伝達機能が低下することがあり、その影響で傾眠が起こることが多くなります。

日中にうとうとしてしまう時間や頻度が増えた場合でも、健康状態に問題がなければ大きな心配はないかもしれません。

しかし、急激に傾眠傾向が強まってきた場合は注意が必要です

傾眠の症状が急激に強まってきた場合は、背後に潜む潜在的な健康問題や疾患の兆候がある可能性があります。そのような状況では、早めに医師の診察を受けることが重要です。

薬による副作用

普段服用している薬の副作用が傾眠傾向をもたらしている可能性があります。

特に高齢者は様々な疾患を併せ持ち多くの内服薬を服用しているく、肝臓の代謝が低下し薬の分解が遅くなっていることが多々あります。そのため、副作用も若い方に比べ発生しやすいのです。

また眠くなりやすい有名な事例としては、多くの人が経験している「風邪薬を飲んだら眠くなった」というものです。風邪薬や花粉症には傾眠傾向を引き起こしやすい「抗ヒスタミン薬」が含まれているためにおこるものです。

また、認知症の薬の中にも副作用で軽い傾眠傾向を引き起こしやすいものがあるため、服薬時は医師や薬剤師に副作用について確認してください。

認知症

アルツハイマー型認知症の症状の抑うつや無気力状態で脳の興奮作用が機能しないことで生じる無気力状態が原因で傾眠状態に陥るケースもあります。

認知症の方の中には、日中に長時間睡眠をとってしまうため、夜間の睡眠が浅くなり、昼間に傾眠症状が現れることもあります。

夜間の睡眠を改善するために、昼間はできるだけ明るい場所で過ごす、昼寝を控えるなどの対策を取ることが有効です。

内科系疾患

さらに内科系疾患も傾眠傾向に繋がります。

例えば肝臓や腎臓などの代謝に関わる臓器で異常が起きてしまうことでからだがSOSを出していたり、細菌やウイルスによる高熱によって1日中意識がはっきりしない状態になることもあります。

人間は体内に異常が生じた際、体を休ませようとする働きを持つために、このような傾眠傾向が起こるのです。

このような事例では、疾患・発熱がおさまることで傾眠が無くなることも多いです。

不安な場合は医師に相談すると良いでしょう。

慢性硬膜下血腫

「慢性硬膜下血腫」とは脳の疾患の一種を指しています。頭を強く打った際に脳と硬膜の間に血腫ができてしまい脳を圧迫する恐ろしい病気です。血腫が大きくなることで傾眠傾向になります。

血腫が肥大化と共に傾眠傾向が現れはじめ、頭痛や歩行障害といった症状にまで発展するケースが多いです。

大規模な外科手術となりうるため、早期発見が非常に重要となります。

特に高齢者の血管はもろく、また反射神経が鈍っていることから、軽く頭をぶつけた程度でも硬膜下血腫を起こしやすくなっているため注意が必要です。

事故や転倒などで頭に強い衝撃を感じた場合は、速やかに医師の診察を受けましょう。

食事性低血圧

年齢に関係なく、食後は眠気を感じたり気だるさを感じてしまうのが普通です。

しかし、症状がひどい場合は食事性低血圧という病気である可能性もあるため、油断は禁物です。

食事性低血圧と原因となるのは様々な事由が考えられますが、

  • パーキンソン病
  • アルツハイマー病
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 降圧薬・利尿薬の服薬

代表的なものは上記の通りです。

食事性低血圧の場合、食事がきっかけとなって急激に血圧が低下することから血圧のケアは欠かせません。

症状を緩和するためにも、炭水化物の摂取量を減らしたり食事内容の見直しを行い、ゆっくりと食事することが重要です。

また、血圧ケアの観点では、塩分を控えめにする意識を持つことも大切です。

過眠症

傾眠傾向と似た症状が出る睡眠障害に過眠症があるため、こちらも紹介します。

過眠症は、睡眠関連呼吸障害等の睡眠を妨げる病気や極度の睡眠不足がないのに日中に強い眠気が現れる睡眠障害です。中枢神経系の機能異常が原因と考えられています。

過眠症の方は、夜に睡眠時間を確保しているのにも関わらず、日中に強い睡魔に襲われて眠り込んでしまいます。

発作的に強い眠気に襲われることから、何の前触れもなく入眠してしまう点が特徴です。

過眠症の対策としては、睡眠の機会を十分に確保しつつ、ニコチン、カフェイン、アルコールなどの睡眠を妨げる物質の摂取を抑えることが大切です。薬物治療も行われています。

傾眠傾向により起こる問題

誤嚥しているお婆さん

傾眠傾向が続くと、食欲が低下したり持病が悪化する場合があります。

薬を服用してしても症状が良くならない場合や、傾眠が増えて食欲が低下してしまった場合は医師に相談しましょう。

誤嚥を引き起こす

傾眠傾向の方は、あまり噛まずに飲み込もうとして上手に飲み込めなかったり、汁物などで噎せ返ってしまうことがあります。

このように、食事中に誤嚥が起きてしまうリスクが高まるので、食事介助のときには注意しましょう。

誤嚥は肺炎などを引き起こしてしまうこともあることから、しっかりとケアをする必要があります。

食事の際や食事メニューにも注意を払い、リスクを軽減していきましょう。

介護事故が起こりやすい

介護施設においては、椅子や車いすで傾眠している方も多くいます。

放っておくと、転落やズリ落ちなどの介護事故につながる危険性もあるため、傾眠の症状が見られる方が怪我をしないように配慮しましょう。

介護スタッフは、定期的な巡回や声掛け、姿勢のサポートなどを通じて、安全に過ごせる環境を提供するための工夫をすることが重要です。

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傾眠傾向を対処するには

水分補給の様子

それでは、傾眠傾向の対処法について紹介していきます。

身内の方に傾眠傾向の様子や兆候が見られる場合は、定期的にケアしてあげてください。

病院で医師に相談

やはり、素人判断をするのは危険なので、傾眠傾向の兆候や1日中症状を感じる日がある場合は真っ先に医師や医療機関に相談しましょう。

慢性硬膜下血腫のように早期発見や早期治療が必要な場合もあるため、「大丈夫だろう」という自信があっても医師の診察を受けるべきです。

病気が原因でなかったとしても、脱水症状や栄養不足が別の病気を招く危険性もあるため受診をきっかけに生活習慣が改まることもあります。

また、服用中の薬の量を調整することで症状の改善につながることもあるため、正しい対応をするべく医師の判断を仰ぎましょう。

「転ばぬ先の杖」ではありませんが、歳を重ねると健康管理に関しては心配しすぎるくらいが丁度いいと言えます。

水分補給をこまめにとらせる

小まめに水分を摂取することで、熱中症予防にも繋がります。

また、午前中の早い時間に意識的に水分を摂取することで、日中に傾眠する頻度が減る効果が期待できると言われています。

健康を維持する上で水分補給は欠かせないため、意識的に行うようにしましょう。

水分補給はただ飲むだけでなく、介護施設では利用者が摂取しやすい形態や方法を工夫することも大切です。

頻繁に話をふる・散歩をする

外部からの弱い刺激でも気付くレベルの傾眠であれば、積極的に話しかけて会話の機会を増やしましょう。

このように、眠る隙を与えないよう意識することで症状の緩和が期待できます。

また、天気が良い日には外に連れ出して、一緒にウォーキングや散歩をすることもおすすめです。

活発に動き回ることで心地よい疲労感を得ることができ、夜の良質な睡眠に繋がるので非常におすすめです。

薬の量や食事の時間を見直す

薬の副作用による傾眠が疑われる場合は、医師に相談して薬の見直しについて相談しましょう。

分かりやすく伝えるためにも、「服薬後○時間後に~の症状が出た」など、具体的に記録を残しておくことをおすすめします。

また、食事性低血圧の場合は食事内容や食事の摂り方などの見直しも検討しましょう。

傾眠と食事は密接な関係があるので、食生活に関して不安がある場合も医師に相談してみてください。

昼寝は短時間に止める

日中の眠気がひどい場合は、決めた時間に昼寝をさせるのも有効な手段です。

なお、昼寝の時間が長すぎると逆効果なので、30分程度の昼寝が望ましいです。

例えば、毎日昼食後30分の昼寝時間を設けるなどしてルーティン化すると良いでしょう。

30分程度の昼寝は日中の覚醒度を高める働きがあり、また夜の睡眠にも悪影響を及ぼさないので安心です。

傾眠への対応時の注意点

最後に、傾眠へ対応する際の注意点について解説していきます。

闇雲に声掛けなどをするだけでなく、注意点についても意識してみてください。

傾眠についてしっかりと意識する

高齢になると傾眠の症状が目立つようになりますが、「高齢だから」と放置しないようにしましょう。

まずは「傾眠」という症状の存在を認識して、身内に高齢者がいる場合は常に意識するように心掛けてください。

このように、日常的に意識しておくことで病気が原因だった際にも早めに対処することができるため、日々様子を観察したり普段と違う様子が出ていないか確認しましょう。

「ただの居眠り」と考えるのではなく、常に傾眠についての意識を持ち、注意深く観察することが重要です。

普段と違う様子や傾眠の頻度やパターンに変化がある場合は、早めに医療機関や専門家に相談し、適切な診断や治療を受けることが重要です。

できる限りの対策を講じる

「家族が傾眠かもしれない」と思ったら、すぐに病院に連れて行くことはもちろん、家族もできることを整理しましょう。

家族の中でも分担を決めるなどして、できる限りの対策を講じてください。

こまめに声をかけたり、毎日決まった時間に水分補給を促すなど、紹介してきた対策を参考にしながら家族ができることをルール化しておくのもおすすめです。

本人をサポートする姿勢を示すことで本人も安心して生活できるため、適宜工夫を重ねていきましょう。

気長に対応することが必要

傾眠と判断された場合、症状を改善するために長い期間が必要となることもあります。

そのため、治療を急ぎたい気持ちは分かりますが、焦ることなく気長に対応することを意識しましょう。

「時間が必要である」ことと頭に入れておくことで、本人も家族もじっくりと向き合うことができます。

家族が焦ったり、無闇に起こしたりすると本人が落ち着いて生活できなくなってしまうので、要注意です。

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傾眠傾向の症状や対策まとめ

傾眠傾向の症状や対策まとめ
  • 1日中眠そうにしていたり、居眠りの頻度が高い場合は要注意
  • 薬の量や食事の見直しなどを含めて、不安があれば医師に相談するのがおすすめ
  • 「傾眠」という意識障害について把握し、気長に対応することが重要

家族や介護者のサポートは、高齢者の傾眠傾向や認知症にとって非常に重要です。

症状を放置してしまうと進行が早まる場合もあるため、適切なケアを提供することが必要です。

定期的な医療機関の受診や、日常生活の見守りなど、家族や介護者が的確な対応をすることで、高齢者の健康維持につながるでしょう。

家族がサポートすることで症状の進行を抑えられるので、こちらの記事を参考にして対策について把握しておくことをおすすめします。

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

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