余った薬(残薬)はどうすべき?飲み残しの処理方法・余らせない工夫について詳しく解説

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「余った薬(残薬)はどのように処理すればいいの?」

「そもそも飲み残しを発生させないようにしたい!」

このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?

残薬とは薬の飲み残しを意味しますが、これにより 経済的にも健康の面でも問題が発生してしまっています。

残薬を発生させないようにするためには、医師や薬剤師の指示を的確に聞き、しっかりと自己管理することが重要です。

こちらの記事では、残薬を発生させないための方法や飲み残しの処理方法などを解説していくので、参考にしてください。

残薬予防についてざっくり説明すると
  • 副作用などのリスクが高まるので、残薬予防の重要性は高い
  • 飲み忘れや服用頻度の間違いなどを防ぐことが重要
  • 自己判断で勝手に服薬を中断するのも危険

余った薬(残薬)とは

薬の処理に困る男性

残薬とは、飲み残しや飲み忘れなどが原因で患者の手元に残ってしまった薬のことを指します。

医療費の膨張を招くなど大きな社会問題になっており、また薬剤の適正使用の観点からも悪いことと言えるでしょう。

適切に服薬しないと治療期間の延長や体調不良などにも繋がるため、病院にとっても患者にとっても好ましくない事象なのです。

残薬は処分する際にも注意が必要であり、適切な方法で廃棄しなければ、環境汚染や薬物乱用のリスクがあります。

余った薬(残薬)の現状

現在の日本において、75歳以上の在宅高齢者の分だけでも年間約500億円分もの残薬が出ているとされています。

なお、この金額は日本の薬剤費の2割ほどを占めており、さらに日本全体で見ると残薬の総額は年間で1000億円以上あるとも言われています。

厚生労働省の調査によると、「残薬を持っている患者がいる」薬局は90%に上り、「薬が余った経験がある」と答えた患者は56%にも上りました。

つまり、多くの薬剤と医療費が無駄になっていることが分かるでしょう。

このような状況から、残薬削減の取り組みが進められており、医療機関や薬局、患者自身が積極的に対策を取るように呼びかけられています。

例えば、薬剤師や医師による適切な説明や、定期的な薬の確認、必要に応じた薬の調整などが挙げられます。

さらに、在宅高齢者への配薬サービスや薬剤師の訪問サービスなどを通じた所持している医薬品の確認なども対策として考えられます。

患者自身も、薬の正しい服用方法や、不要な薬の返却や廃棄に積極的に取り組むことが重要です。

残薬が引き起こす問題

残薬を服用することで人体への悪影響が起きてしまいますが、他にも様々な問題を引き起こします。

人体への悪影響

使用期限を過ぎた残薬を誤って服用してしまうと、薬効が得られないばかりか悪影響が出てしまいます。

つまり、治療が遅れるだけでなく患者の体調が悪化することもあるため、残薬がもたらす問題は深刻と言えるでしょう。

そのため、患者は自身が保有する薬の管理に細心の注意を払い、残薬の服用を避けるよう心がける必要があります。

素人が、もらった薬剤の新旧を判別するのはほとんど不可能なので、治療が遅れてしまう懸念が生まれてしまうのです。

また、残薬が薬剤師や医師によって処方されたものであっても、別の医師から処方された薬と併用することで、薬物相互作用が生じることがあります。残薬が持つリスクを認識し、適切な対処方法を取ることが必要です。

治療が遅れることでさらに残薬が増える

残薬を誤って患者が服薬した結果、体調を崩してしまい飲むべき薬が増えてしまう悪循環に陥ってしまうこともあります。

つまり、残薬が増えれば増えるほど負のサイクルに嵌ってしまうリスクが高まってしまうのです。

薬の適正な使用が難しくなってしまうと、治るものも治らなくなってしまうので、特に高齢者がいる家庭は見守りが重要です。

このような負のサイクルを防ぐためにも、患者自身が薬の適正使用について正しい知識を持ち、適切に服用することが必要です。

また、薬局や医療機関などの専門家に相談することで、残薬削減や薬の調整などの対策を取ることができます。そのため、患者さんやその家族は定期的な受診や薬の確認を怠らず、治療計画に従って適切に薬を服用するようにしましょう。

残薬が出てしまう原因

残薬が出てしまう原因

それでは、なぜ残薬が発生してしまうのでしょうか?

こちらのトピックで、残薬が出てしまう原因について解説していきます。

飲み忘れ、間違い

最も多いのは、飲み忘れや服薬するタイミングの間違い、薬そのものの紛失です。

飲む忘れる回数が重なってしまい、気付いたら残薬が積み重なっていた、という事例は多くあるので要注意です。

また、例えば「1日3回服薬するべきものを、2回しか服薬していなかった」など、飲む量を間違えてしまうケースもよくあるパターンです。

中には、患者の自己判断によって飲む量を減らしたり勝手に服用を辞めたことで、薬が余ってしまう事例もあります。

高齢になると薬の管理が難しくなり、また処方してもらった薬を紛失してしまうこともあるため、様々な理由から残薬が発生してしまうことが分かるでしょう。

特に同時に複数の病気や怪我など抱えるリスクの高い高齢者の場合、複数の医師からの処方薬が重なることも考慮しなければなりません。

服用時間や服用方法と生活習慣のずれ

服用時間が生活習慣に合っていないと、ついつい飲み忘れてしまうことも増えます。

例えば、毎食後に飲む薬であっても、「昼は外出することが多いので昼は薬を飲めないことも多い」などの事情がある方もいるでしょう。

普段の生活リズムに合わない薬は処方されても患者にとって飲みづらいケースがあるため、このような事情も残薬の一因となっています。

特に、高齢者は身体の変化に合わせて医師から処方される薬が変わることも多いため、変更前の薬が余ってしまうケースが少なくありません。

そのため、薬剤師や医師とのコミュニケーションを通じて、できるだけ生活リズムに合った服薬スケジュールを見つけることが重要です。

医師に相談できない

「せっかく処方してもらった薬が余ってしまった」と医師に伝えるのは失礼だと考える方も多いです。

このような心理から医師に相談できなかったり、他の医療機関で同じ薬を処方されたものの医師に言いづらいなど、相談できない事情も残薬が発生してしまう一因となっています。

医師としては正直に申告してくれれば対策が練ることができるものの、医師が残薬のことを把握できないまま状況が悪化してしまうケースも多々あります。

自己判断で服用をやめること

薬の形が飲みづらかったり、副作用が怖いなどの理由から自己判断で服薬をやめてしまう方もいます。

中には、薬の素人であるにも関わらず「体調が回復した」と勝手に判断して服薬をやめてしまう方もいます。

このように、自己判断で服薬をやめてしまう方も少なくないことから、結果的に残薬が増えてしまっているのです。

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残薬の処理方法

厚生労働省の調査によると、「薬を残してしまったことがある」と回答した方は調査した患者の過半数にも上ります。

こちらのトピックでは、残薬の処分方法や処分する上での注意点について解説していきます。

薬局に持っていく

残薬を発見した場合は、薬局に残薬を持っていき薬剤師に相談しましょう。

薬剤師に相談することで次回以降から薬の量を調節してくれるため、残薬対策を進めることが可能です。

医師に残薬があることを言いづらい方でも、薬剤師が仲介することで調節を行うことができるので心理的にも安心です。

また、使っている薬の使用期限などから安全性も調べてもらえるため、服薬に関して疑問や不安がある場合は積極的に薬剤師に相談すると良いでしょう。

また、残薬は薬局で処分してもらえるため、自宅で処分方法に困っている場合は薬局に持ち込んで相談してください。

飲み薬や塗り薬など、処分する方法は薬の種類によって変わってくるので、薬局に持参して処分してもらうのが確実です。

残薬を処分するときに注意すべきこと

手元にある薬を処分する際には、注意するべきポイントがあります。

こちらのトピックでは、残薬の処分の際にやってはいけないことを解説していきます。

返金・返品はできない

処方箋に基づいて処方された薬は、余ったからといって返金を求めることはできません。

そもそも、処方薬には返品という概念が無いため、余ったからといって薬局に対して返金・返品を求めないようにしてください。

薬について不明点や疑問点がある場合は、処方されたタイミングで薬剤師に質問すると良いでしょう。

薬に関して専門的な知識を持っている方はほとんどいないので、素人判断することなくプロである薬剤師に聞いてください。

残薬を他人に寄付してはいけない

自分と同じ症状に困っている方が周囲にいても、手元にある残薬を他人に寄付する・売ることは絶対にやめましょう。

症状が似ていても全く違う病気であることは多々あるので、繰り返しになりますが素人判断は非常に危険です。

薬によっては、量や服用時間が合わなかったり副作用によって健康を害してしまうケースがあることから、勝手に他人に残薬を寄付するのはNGです。

売るのももちろんNG

知人に残薬を寄付することがNGであることと同じく、余った薬を売ったりすることも絶対にやめましょう。

もし売却してしまうと薬事法違反となるので、トラブルの火種となってしまいます。

残薬を発見した場合は、責任持って薬局に持参して処理について相談しましょう。

使用期限を過ぎた薬は捨てる

使用期限を過ぎてしまった薬は、薬局に持参するか自分自身で責任を持って捨てるようにしましょう。

なお、自分で薬を捨てる際には処分方法に十分注意しましょう。

例えば、インスリンなどの注射薬のポンプや針は危険物なので特に気をつけて処分する必要があります。

また、使用期限について知ることも大切で、薬の使用期間の目安は下記の表の通りです。

使用期間
錠剤・カプセル剤 6ヵ月~1年
散剤・顆粒剤(薬局での分包品) 3ヶ月
散剤・顆粒剤(メーカー個装品) 6ヵ月~1年
シロップ剤 処方日数分のみ
塗り薬(チューブ) 6ヵ月~1年
塗り薬(薬局での混合) 3~6ヵ月
開封済の点眼薬 1ヶ月
開封済の点鼻薬 1~2ヶ月
坐薬 3ヶ月~1年
返還が必要な薬(一部鎮痛剤など)、
医療材料(注射針など)
薬局や医療機関へ廃棄を依頼

あくまでの目安ではありますが、使用期間を過ぎてしまった薬は使用しないようにしましょう。

自己判断で使用しない

「まだ薬効がありそう」と考え、自分だけの判断で勝手に残薬の使用を再開しないようにしましょう。

長期間放置されている残薬があった場合は捨てるのが基本ですが、気になる場合は薬局に持参して薬剤師の判断を仰いてください。

安全に服薬して、治療効果を得るためにも素人判断はしないようにしましょう。

残薬を減らすには?

薬を処方する薬剤師

残薬を減らすためには、自分自身で管理を徹底したり薬剤師を頼ることが効果的です。

自分が本当に必要な分だけ処方してもらうことで、残薬を減らせる上にお金を節約することができます。

薬剤師との連携

薬剤師と薬の情報を共有したり、連携ができていると薬が余ったときや薬が自分に合わなかった際にすぐ対処できるようになります。

信頼できる薬局や薬剤師を決めておきましょう。

節薬バッグを使う

「節薬バッグ」とは、患者が余った薬を入れて薬局に持参し薬剤師と相談するために使うバッグを指します。

節薬バッグを使うことで、薬の余り具合などを薬剤師が把握しやすくなります。

また、併せて処方調整や安全性についてのアドバイスを受けることもできるため、様々なメリットを享受できるでしょう。

お薬手帳

「お薬手帳」とは、薬を処方された場所や時間などを記録する手帳です。

複数の医療機関から薬を処方された場合や、引っ越しをした時などに薬局でお薬手帳を見せることでスムーズに服薬状況を伝えることができます。

なお、持っている薬を全て一冊にまとめておくことをおすすめします。

「かかりつけ薬剤師」が大切

かかりつけ薬剤師がいると、自分の薬の事情を的確に把握してもらえます。

かかりつけ薬剤師がいると、薬の量の調節や自分にあった薬を探すことが楽になるため、非常に頼れる存在となってくれます。

かかりつけ薬局の中で信頼できそうな薬剤師がいる場合は、かかりつけ薬剤師の活用を検討しましょう。

薬は正しく服用するのが大事

残薬を出さないためには、当然のことながら処方された薬を正しく服用することが基本的な対策となります。

とはいえ、ついつい飲み忘れてしまうことは仕方がないため、日頃から医師や薬剤師の指示通りに服用するように心掛けましょう。

決められた回数に従い、用法用量を守ることで残薬の発生を防ぐことができます。

正しく保管する

薬には使用期限があるため、期限内に使用することも重要です。

使用期限は薬によって様々ですが、薬効を長持ちさせるためにも正しく保管してください。

保管方法については薬剤師の指示に従い、適切に管理しましょう。

薬の保管方法をよく知る

薬の使用期限は作られてから3年が目安となっていますが、温度や湿度などの影響を受けます。

また、「未開封の状態である」という前提条件を元にした使用期限である点には注意しましょう。

多くの薬は室温保管で問題ありませんが、薬によっては10℃以下の場所や密閉された容器での保管が求められるため、しっかりと薬剤師の話を聞きましょう。

湿気、日光、高温は避ける

湿気・日光・高温は薬にとって大敵なので、これらの環境を避けて保管しましょう。

このような場所で保管すると、薬が長持ちしなくなったり薬効が弱まってしまう恐れがあります。

治療効果を得るためにも、ジッパー付きの袋で保管するなど細心の注意を払いましょう。

多くもらわないようにする

残薬を生じさせないためには、そもそも必要な分の薬だけ処方してもらうことが重要です。

多く処方してくれる医師もいますが、残薬を出してしまったことがある方は薬を貰いすぎないように意識しましょう。

一度人の手に渡った薬は返金・返品が不可能である上に処理も面倒なので、手間を省きお金を節約するためにも必要な分だけ処方してもらうようにしてください。

同居家族のサポートも重要

一般的に高齢になればなるほど服薬する種類が増えますが、管理する認知能力は衰えていきます。

つまり、加齢に伴って残薬を発生させてしまうリスクが高くなることから、同居家族の方は飲み忘れや飲み残しが無いように適宜サポートしてあげましょう。

特に、認知症患者は飲み忘れをしてしまうのが当然なので、必ず食事とセットにして出すなどの工夫が欠かせません。

家族としても、本人が正しく服薬してくれれば治療効果が期待でき、介護や介助の手間や時間を省けるメリットが期待できます。

本人が薬の管理に四苦八苦していたり、飲み忘れが確認できる場合は助けてあげてください。

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残薬予防まとめ

残薬予防まとめ
  • もし残薬を発見したら、薬局に持っていき相談しよう
  • 残薬を寄付したり売る行為はできないので、医師や薬剤師の指示にきちんと従うことが大切
  • かかりつけ薬局とかかりつけ薬剤師を見つけておくと残薬予防になる

残薬で医療費の無駄遣いや貴重な薬剤の廃棄は発生してしまっているのが現状です。

残薬があると人体に悪影響を及ぼしたり、治療が遅れてしまうデメリットがるので、医師や薬剤師と相談しながら適切な量だけもらうようにしましょう。

また、自己判断で中断することもせず、同居家族の適宜サポートしてあげることで残薬の発生を防げるでしょう。

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

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