認知症患者を施設に入れるタイミングは?介護施設の特徴や入所条件も解説
更新日時 2024/01/12
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「親が認知症になったんだけど、施設に入れるタイミングがわからない・・・」
「どんな介護施設を選べばいいのか知りたい」
親が認知症になり、施設への入所を検討し始めたとき、どうすればよいのかわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、認知症の方が施設に入所するタイミングの他、施設の種類や入所条件などをご紹介します。
ぜひこの記事を参考に、施設選びをしてみてください。
- 認知症患者への対応は家族だけではできないので、施設に頼るのがよい
- 施設に入れるタイミングは、介護者が介護を辛いと感じるとき
- 常に介護について悩んでしまうときは、すぐに入所を決断しよう
認知症の人を施設に入れるタイミング
家族が認知症を発症したら 「なるべく施設には入れたくない」 と思う方が多いのではないでしょうか。
しかし、認知症は現代医療では完治できず、治療で進行を遅らせることしかできません。
そのため、いずれは認知症が進行し、徘徊など家族では対応できない症状が出てくるでしょう。その場合は施設に頼る必要があります。
施設への入居を検討するタイミングとしては、介護者が介護を辛いと感じるかどうかがポイントになります。
また、認知症で施設に入居している方の平均年齢は80歳~90歳ですが、家族が入居を検討し始めるのは、認知症の方ご本人が60歳~70歳のときです。
この2点を入居を検討する目安とすることをおすすめします。
ただし、施設に入居することが決まった場合でも、家族とのコミュニケーションや慣れるまでの時間が必要です。家族は、認知症の方が安心して生活できるよう、施設スタッフと協力しましょう。
施設入所を検討し始める時期
認知症の進行と介護者の高齢化によって、認知症の介護は年々難しくなっていきます。
そのため、施設入所を具体的に検討し始める時期としては、
- 介護者が付きっきりでないと、ご本人が安全に生活できなくなっている
- 介護の負担が増え、介護者の疲れが取れなくなってきた
- 症状が進んできており、家族が不安を感じるようになった
以上のようなときに、介護施設への入所を検討するのが良いでしょう。時間に余裕を持つと後悔しない施設選びがしやすいため、早めの準備がおすすめです。
また、介護者の身体的・精神的健康も重要です。介護が長期化することで、介護者の健康状態が悪化してしまうこともあります。介護者の健康状態も考慮し、施設入所を検討することが必要です。
実際に動き出す時期
認知症の方を受け入れる施設は、提供しているサービスや入居受け入れの条件などが施設によって違うため、実際に施設へ見学に行くことが必要です。
介護者が心身に疲れを感じ余裕がなくなってきたときには、施設への入居に向けて実際に動き出しましょう。具体的には、
- 介護で足腰が痛むようになった
- 日常生活でイライラや不安を感じるようになった
- 疲れが取れない
などの症状が出てきたときには、施設への入居を考えるべき時期です。
また、施設の待機リストがある場合がありますので、入居を検討する場合は、事前に施設に問い合わせて、入居までの手続きや待機期間などを確認しておくことが重要です。早めの準備が、安心して施設選びを行うためにも必要です。
入所を決断する時期
介護者の方が以下のような状態のときには、すぐに施設への入居を決断すべきだと言えます。
- 介護の悩みが常につきまとうとき
- 生きているのが辛く感じるようになったとき
- 介護者の年齢が50歳~60歳のとき
これらの場合には、入居を躊躇せずすぐに入居を決断した方がよいでしょう。 介護者が我慢してしまうと、介護者はもちろん、認知症の方にとってもよくありません。
ただし、入居を決断する際には、介護者自身が納得し、安心して入居できる施設を選ぶことが大切です。介護者が強制的に施設に入居することは、ストレスや抵抗感を引き起こす場合があります。介護者自身が入居を決める前に、施設の見学や相談、情報収集を行うことが重要です。
認知症の人が入所する施設
ここでは認知症の方が入所できる介護施設について、特徴を解説します。
特養
特養とは、特別養護老人ホームの略で、要介護認定を受けた方が入所対象の施設です。生活支援から介護サービスと、幅広いサービスが受けられます。
特養は、寝たきりの認知症の方など、介護度が高い方でも入所できることが最大の特徴だと言えます。また、特養は終身利用ができることもメリットです。
ただ、費用が安いため入所希望者が多く、入所待ちが多いことが難点ではあります。
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サ高住
サ高住とは、サービス付き高齢者向け住宅の略で、自立しているけれど生活が不安な方から、要介護認定が低めの方までが入所対象です。
サ高住では施設全体がバリアフリー構造になっており、住みやすい工夫がされています。
また、サ高住には有資格者の相談員がいるため、生活相談や安否確認などのサービスが受けられます。 施設によっては、介護付き老人ホームと同じような介護サービスが受けられるところもあります。
このようにサービスが充実しているところもあるため、サービス内容や物件によって費用は大きく変わる点が特徴です。
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グループホーム
グループホームは、要支援2以上の認知症の方で、年齢は原則として65歳以上の方が対象です。グループホームは、入居者の方が住民票をグループホームに移すことができるのが特徴です。
グループホームでは、5~9人程度の少人数で共同生活を送りながら、介護サービスや機能訓練を受けます。
医療ケアが必要になった場合や、介護度が重度になった場合には退去しなければならない場合もある点には注意が必要です。
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有料老人ホーム
有料老人ホームは要介護認定を受けた65歳以上の人が対象の施設です。要介護度は1から5までで、介護度が重度の方でも入所することができます。
しかし、要介護認定を受けておらず、自立している人でも入所できる混合型と呼ばれる有料老人ホームもあります。
有料老人ホームは、入所への待期期間が短く、費用が低額で、あらかじめ入所にかかる費用の目安が付けやすいことがメリットです。
また、手厚い介護サービス、生活支援サービス、介護サービス、リハビリ、機能訓練、レクリエーション、イベントなど、さまざまなサービスが受けられることも特徴です。
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認知症対応が可能な施設一覧はこちら!入所のきっかけとは
認知症の方のご家族が、老人ホームへの入所を検討することになったきっかけをランキング形式でご紹介します。
1位:家族の介護負担が増えたこと
第1位は、家族の介護負担が増えたことです。はじめのうちは介護ができていても、要介護者の介護度が上がれば、その分家族の負担は増えていきます。
特に、認知症の場合は徘徊や昼夜逆転などの症状があるため、介護者の心身が疲れやすいという特徴があります。
そのため、介護し続けることが難しくなったり、介護に限界を感じたりするようになり、施設への入所を検討するようになるのです。
2位:退院後の在宅介護が難しい
怪我や病気で長期入院していた方が退院したあと、介護が必要になるケースがあります。
そのため、退院直後は、自宅に戻って生活できることを目指すためリハビリを行う施設である介護老人保健施設(老健)を利用する方が多いです。
しかし、老健は三カ月に一回、引き続き入居する必要があるか審査があり、入居の必要がないと判断されれば退去しなければなりません。長くても半年ほどしか入居できない点には注意が必要です。
3位:認知症が進んだこと
認知症の初期症状は「もの忘れ」「イライラ」などで、高齢者によくある症状です。そのため、認知症の初期症状は見過ごされやすくなってしまいます。
症状が進行していてもなかなか気づかず、症状が悪化してから認知症であることが判明し、その頃には家族による介護は難しくなっていることがあります。
このようなきっかけで、認知症の方を老人ホームに入居させるケースも多いのです。
老人ホームに入れる年齢とは
有料老人ホームに入所できる年齢は、60歳以上であることが一般的です。
また、要介護認定をされていることが入所の条件である特別養護老人ホーム(特養)の場合は65歳以上となっています。
このように、入所できる年齢は施設によって違います。
60歳未満でも入所できる
介護サービスを行わない施設である健康型有料老人ホームは60歳未満でも入居できます。
また、厚生労働省が指定している特定疾病を持っている方は、40歳以上であれば要介護認定を受けられますので、特養に入ることが可能です。
また、老人ホームではありませんが、高齢者向け分譲マンションも60歳未満で購入可能なことが多いです。
入居時期を逃すと介護負担が増える
老人ホームなどの介護施設への入所は、できるだけ健康なうちにするべきであるだと言えます。
入所の準備が遅れたり入所の待期期間が長くなり、いつまでも入所が決まらないと、介護者の負担が増えていきます。
特に、特養などの人気がある施設では、入所待ちの方々が非常に多いため、今からすぐに入所することは難しいでしょう。
入所前の確認事項
施設への入所を決める前に、確認しておくべきポイントをご紹介します。
都合の良い立地か
施設が病院や自宅からアクセスしやすい場所にあるかは重要なポイントです。
アクセスしやすい場所にあると、面会に行きやすくなります。また、緊急時にも素早く施設に行くことができます。
自宅から遠いとなかなか面会に行く時間が取れなくなるでしょう。面会は家族と入居者の信頼関係に関わります。 施設の場所については慎重に考えましょう。
入所条件を満たしているか
老人ホームへの入所条件は施設によって異なりますが、主に以下のような条件があります。
- 原則として65歳以上である
- 特養は要介護度3以上、老健・介護医療院は要介護度1
- 医療依存度が高いと施設で対応できない
- 保証人や身元引受人が必要
- 入居費用を払える収入があるかの審査に合格することが必要
施設が設けている条件を全てクリアしなければ入所はできません。
見学は重要
施設を探すときには、まずインターネットで条件に合う施設を検索する方が多いでしょう。
しかし、インターネットで調べるだけではなく、施設へ見学に行くことをおすすめします。
見学では、どのような雰囲気の施設なのか、職員が利用者の方々に質の高いサービスをしているかなどをしっかり見極め、入所しても安心な施設かどうかチェックしましょう。
良い施設の見分け方
よい施設の見分け方としては、職員の表情が穏やかであることや、入居者同士の交流が活発に行われているかなどがポイントです。また、徘徊などへの対処法、トラブル事例などを職員に質問してみることもおすすめします。
見学するときは、知っておきたいことがわかる時間帯にしましょう。例えば食事介助の様子が気になる方は、昼食時に見学することをおすすめします。
本人が入所を嫌がる場合
老人ホームへの入所が最適である状態となっても、ご本人が入所を断るケースもあります。 そのときには、不安など、ご本人の気持ちをくみ取ることが大切です。
いきなり入所してほしいと伝えたり施設見学に行こうと誘ったりせず、まずは施設の資料を請求して、一緒に資料を見ることをおすすめします。
そのことにより、ご本人は拒否感を抱くことなく入所後のイメージを膨らませることができるでしょう。
ケアマネージャーに頼ろう
施設への入所を検討している場合は、まずケアマネージャーに相談することをおすすめします。
ケアマネージャーとは、介護が必要な人が適切な介護を受けられるよう、ケアプランの作成や、サービス事業所と利用者との間を取り持ったりする職業です。
介護が辛くなる前に、介護のプロであるケアマネージャーに包み隠さず相談してみましょう。
担当のケアマネージャーがまだいない場合は、お住まいの地域にある地域包括支援センターに相談すると、ケアマネジャーを紹介してくれます。
施設入居を検討する際の注意点
施設への入居に向けて、注意を払っておくべきポイントについて解説をします。
認知症の方と必ず事前に相談する
施設の入居を検討する際には、必ず認知症の方ご本人と相談しましょう。
本人の希望に沿って施設を選ぶことで、後悔の無い生活を送れる可能性が高まるからです。
ただし、重度の認知症になってしまってからはこういった相談ができないため、認知症の症状が軽度なうちに準備をすることが必要です。
また、軽度の内に施設への入居をしておくことで、環境に慣れておくことができます。
介護する側の負担が大きすぎないうちに
入居への検討は、介護する側にある程度の余裕があるうちにしておくことが望ましいです。
介護に疲れてしまい、限界を迎えてしまうと最適な判断ができなくなる可能性があります。
認知症の方だけでなく、介護をしている方、そのご家族など、全ての人が納得できる決断をすることが必要です。
そのため、気持ち的にも体力的にも余裕がある内に考えておくと良いでしょう。
入所すると認知症が進行するのは本当か
「老人ホームへ入所すると、認知症が進行する」という話を聞いたことはないでしょうか。本当の話なのかどうか、以下で解説します。
半分本当で半分嘘
「老人ホームへ入所すると認知症が進行する」という話は、半分本当で半分嘘だと言えます。
施設に入所することで症状が進行する可能性がある理由としては
- 環境の変化
- 職員に身の回りの世話をしてもらうことで、自分で考えたり行動したりできなくなる
- 行動が制限されるため活気がなくなる
これらの要素が考えられます。
また、「入所したことで認知症が進行した」と誤解してしまうこともあります。
- 薬の量の増減、薬自体の変更により出た副作用など
- 新しい環境で新たな生活習慣を身に付けるのに時間がかかっている
- 対人関係を築けず孤立している
これらを認知症の症状と勘違いしてしまうことがあるのです。
施設でできる認知症ケア
施設で出来る認知症ケアをご紹介します。
- 職員や他の入居者たちと積極的に関わる
- レクリエーションに積極的に参加し、やる気をかき立てる
- 24時間体制で介護が受けられること
- 介護に関する正しい知識を身に付け、知識を蓄積させていくこと
これらを意識すると、認知症ケアになり、進行を遅らせることが可能になると考えられます。
認知症対応が可能な施設一覧はこちら!実際の入所事例もみておこう
実際に入所した方の事例をご紹介します。
①両親二人を介護していたAさん
Aさんは義理の両親を長年介護してきましたが、主治医から「義父は在宅介護した方がよいタイプの病気なので引き続き在宅介護し、義母の方は施設入所すること」を主治医から提案されました。
Aさんは二人を限界まで介護すると考えていましたが、主治医の提案により、義母に施設入所してもらうことを決意しました。
その結果、義母の入所はスムーズに決まったため、すぐに介護負担が減って、Aさんは心身ともに楽になれたのです。
②常に目が離せなかった被介護者Bさん
認知症が進行したことから常に家族が見守る必要が出てきたBさんは、家族の目が離れた際に怪我をするようになりました。
そのため家族は施設入所が必要だと決意ししました。Bさんは施設入所を嫌がっていましたが、家族やケアマネジャーがBさんを説得し、Bさんも納得の上入所しました。
Bさんが施設入所したことで、家族はプライベートを楽しめるようになりました。
③薬の調整に成功したCさん
薬を一人では上手く管理できないCさんは、薬の配分を自分で変えたところ、妄言を繰り返すようになりました。
そのことにより、認知症が疑われ入所することになりました。しかし、入所後に職員が 「妄言などの症状は薬の副作用ではないか」と気付き、薬の量を医師が調整するようにしました。
その結果、認知症のような症状は見られなくなりました。
④誰にも迷惑をかけたくないDさん
プライドが高いことから入居を断ってきたDさんは、ある日泥酔した際に転び、骨折したことで入居を決意しました。
入居直後は落ち込んでいたものの、次第に施設の仕事や入居者の手伝いをするようになりました。
そして、今では職員と一緒に施設の仕事の一部を行うようになり、活力がわいて生き生きとしています。
介護される必要はあっても、他の人の世話をしたいというDさんの願いが叶ったのです。
⑤昔に戻りたいEさん
教員だったEさんは「息子を息子だと認識できない」「自宅を自宅ではないと思い、自宅を飛び出してしまう」などのトラブルがあり、徘徊してしまいました。
その結果入居となりましたが、入居後は施設を学校、自分を教員として認識することで、職員や入居者たちに接することができるようになりました。そのことにより、不安感などを抱くこともなく楽しく暮らしています。
認知症患者を施設に入れるタイミングについてまとめ
- 認知症の人が入所できる施設は特養、サ高住、グループホーム、有料老人ホーム
- 入所のきっかけで最も多いのは、家族の介護負担が増えたこと
- 介護施設を選ぶときは、立地や入所条件などをよく検討しよう
認知症の介護は家族だけで出来るものではなく、施設に預けて介護のプロに任せた方が、本人のためになる場合もあります。
何より、家族だけで介護をすると、介護負担が増え、プライベートの時間もないので心身ともに疲れ切ってしまいます。
その結果、介護ができなくなってしまうことも考えられますので、そうなる前に、なるべく早い段階から施設への入所を検討し始めましょう。
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。
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