看取り介護とは?「看取る」の定義や終末期医療との違い・介護施設でのケアまで解説
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「看取り介護とは、どのようなことを指すの?」
「看取ることの定義や意味、終末期医療との違いについて知りたい!」
このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
高齢化が進む日本において、看取りへの注目度は高まっています。
住み慣れた自宅で看取ることを望む方は多いですが、自宅で看取ることができるケースはかなり少ないです。
また、看取りに似ている概念や考え方に終末期ケアやエンゼルケアがありますが、高齢化社会が進む日本においてこれらの考えを知っておくことは重要です。
こちらの記事では、看取り介護の実態や「看取る」ことの定義、また介護施設でのケアなどを詳しく解説していきます!
- 看取りとは、病人を看病する意味がある
- 看取りが可能な介護施設とできない施設があるので、事前に確認しよう
- 病院や自宅など、看取る場所は様々
看取りの意味
看取りは、元々は「病人の側にいて世話をする」「病人の看病する」という意味の言葉でした。
しかし、最近では人生の最期における看病を指すようになっています。
「全国老人福祉施設協議会 看取り介護実践フォーラム」によると、看取りは「近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」を意味するようになりました。
本人の希望を踏まえつつ、無理な延命治療を行うことなく人間の尊厳を保ったまま亡くなる支援をすることが看取りと言えます。
また、看取りは家族や周囲の人々にも大きな負担を強いる場合があるため、専門的な知識やサポートが必要とされています。最期の瞬間まで、患者とその家族が安心して過ごせるような看取りの実践が求められています。
看取り介護の重要性が高まる背景
2000年代では、病院で最後を迎える方の割合が約8割程度となっており、病院で最期を迎えるケースが一般的でした。
しかし、超高齢化社会の進展に伴って、今後は死亡者数が急増する多死社会になることが予測されています。
つまり、深刻な病床不足が懸念されていることから、病院で最後を迎えることができないことも想定しておく必要があります。
今後は、病院だけではなく自宅や介護施設での看取りが増えていく流れになるため、早い段階で看取りについて考えておくことは重要です。
また、無理な延命治療は行わずに自然な形で死を迎える尊厳死への関心が高まったり、住み慣れた環境での看取りを希望する方も増えているなど、死への意識や考えについてもまとめておくと良いでしょう。
他のケアとの違い
看取りと密接に関わるケアとして、ターミナルケア・緩和ケア・エンゼルケアがあります。
それぞれのケアと看取りは理念が似ていますが、意味が異なるのでそれぞれ確認していきましょう。
終末期医療(ターミナルケア)
終末期医療(ターミナルケア)と看取り介護は、可能な限り利用者の苦痛を取り除きつつ、無理な延命治療は行わないケアを指します。
つまり、人間の尊厳を守るという理念が共通していると言えるでしょう。
そんな終末期医療と看取りの違いは、医療行為の有無にあります。
終末期医療は死の間際の治療や看護を行いますが、看取りは医療行為は行わずに日常生活のケアを通して精神的・身体的苦痛を和らげることが目的です。
緩和ケア
緩和ケアと看取り介護は、利用者と家族の身体的・精神的苦痛を和らげながら適切な支援を行うという点では共通しています。
両者の違いは、ケアを行うタイミングにあります。
看取りは臨死期にのみ行われるものである一方で、緩和ケアは臨死期のみならず、必要に応じて様々な場面で行われる点が特徴です。
また、看取り介護は医療行為を行わず、家族や介護者が日常生活のケアを通して利用者の身体的・精神的な負担を和らげることが主な役割となります。
一方、緩和ケアは医療的なアプローチも含んでおり、医師や看護師、薬剤師などの専門家がチームとなって利用者に対する痛みの緩和や症状管理を行います。
エンゼルケア
エンゼルケアも看取り看護も共に死に関するケアですが、それぞれが行われるタイミングが異なります。エンゼルケアもまた、看取りや緩和ケアと同様に、死に関する大切なケアの一つです。
看取りが死の直前期に行われるケアである一方で、エンゼルケアは死の直後に行われるケアです。
エンゼルケアは死後に行う処置をはじめとして、死後に必要となる幅広いケアを行い逝去時ケアとも呼ばれています。
本人を送り出すための準備だけでなく、家族への対応など臨終後の全てのケアを含んでいる点が特徴です。
家族や周囲の人々が心の整理をするための時間を与え、亡くなった人の尊厳を守ることも重要な役割となります。
エンゼルケアは、故人を偲ぶための時間や場所を提供することで、家族や周囲の人々の心の癒しにつながることが期待されています。
介護施設での看取りについて
それでは、介護施設で行われている看取り介護について、流れや支援の内容などを見ていきましょう。
具体的な流れについて知っておくことで、看取りのイメージを具体的に持てるでしょう。
看取り期間までの流れ
介護期間は、適応期・安定期・不安定低下期・看取り期に分けられます。
看取り期に入ってから看取りの準備をしても間に合わないため、早い段階からケアプランの変更などをしながらケアの内容を詰めていきます。
家族や本人の意思を踏まえるのはもちろんのこと、心身の状態なども鑑みながら看取り介護が進められるわけです。
認知症などを患って意思表示ができなくなると本人の希望が分からなくなってしまうので、早い段階から家族でも相談しましょう。
看取りができない施設はある?
基本的に、デイサービスなどの通所介護施設を除くほとんどの入所施設では看取り介護は行われているため、安心して入居できます。
具体的には、特別養護老人ホーム・有料老人ホームを中心に看取りが行われており、本来であれば利用する期間が定められている老人保健施設などでも看取りが行われています。
また、入所施設でも施設によっては看取りを行っていないあるため、事前の確認が欠かせません。
医療機関との連携が難しかったり、規模が小さい施設は看取りサービスまで提供するのが難しいという理由があるためです。


看取り介護で行われる3種類のケア
介護施設で行われる看取りケアの種類は、利用者に行われる身体的ケア・精神的ケア・家族のケアの3つに分けられます。
それぞれのケアの内容について、詳しく見ていきましょう。
身体的ケア
<身体的ケア>
介護施設で行われる身体的ケアは下記の通りです。
- 照明や室温等の環境整備
- 入浴支援
- 褥瘡ケア
- 口腔ケア
- 排泄ケア
- 栄養・水分補給の支援
- 体位変換・身体的苦痛の緩和
- バイタルサインのチェック
- 定期的な居室巡回
上記のように、利用者ができる限り安穏に暮らせるように、生活環境を整備するケアが行われます。
入浴や口腔ケアなどを行い身体の清潔を保持するのはもちろん、体位変換などを通して身体的な苦痛を取り除くケアも重要な役割を果たしています。
さらに、定期的な巡回とバイタルサインのチェックを行うことで、利用者の些細な身体的変化にも気付けるように工夫すると良いでしょう。
精神的ケア
続いて、介護施設で行われる精神的ケアについて見ていきましょう。
<精神的ケア>
- QOL維持のサポート
- 適切な頻度のコミュニケーション
- 適度なスキンシップ
- 利用者のプライバシーの尊重
- 安心できる環境の整備
プライバシーを尊重したり快適な居住空間を作ってQOLを向上させることは利用者の精神を安定させる上で欠かせません。
また、介護を受ける本人が孤独感を感じないように、できるだけ側にいてコミュニケーションやスキンシップを行うことはかなり重要です。
なお、人体の中でも聴覚は最期まで機能していると言われており、声掛けを続けることで本人が最期を迎える際にも精神的苦痛を和らげることができるでしょう。
家族へのケア
次に、介護施設で行われる家族へのケアを見ていきましょう。
<家族へのケア>
- 家族の身体的・精神的苦痛への配慮
- 家族の希望への対応
- 専門職種・専門機関に相談できる環境の整備
- 本人の死後の支援(グリーフケア)
看取り介護では、利用者本人だけでなく家族への配慮や支援も重要となります。
残された家族にとって「大切な家族が近い内に亡くなってしまう」と分かっている状態は、非常に大きなストレスを抱えることになります。
精神的にも身体的にも不安定になる家族も多く、家族の不安に寄り添ったり希望を持てるようにケアをする必要が出てきます。
そのため、残された家族の感情を慮りながら利用者の死の前後に適切なケアを行う重要性は高いです。
また、死後の遺体の扱いなどについても家族と介護施設で相談しておくことで、葬儀までスムーズに進めることができます。
延命治療と平穏死
看取りは、延命治療や平穏死と関連付けて話題にされることが多いです。
懸命に治療を行う延命治療とは正反対の概念として、余計な治療は行わない平穏死・尊厳死・自然死などが挙げられます。
平穏死や尊厳死などの考え方が一般化し、多くの方が関心を持ったことにより、胃ろうや点滴などの延命治療が「人間の尊厳を損ねているのでは?」という疑問を感じる方が増えました。
看取りは、このような考え方が普及していく中で「人間の尊厳を保つケアを行うもの」として注目されています。
多くの方にとって受け入れやすいケアを行うので、看取りを希望する方は増えつつあります。
とはいえ、本人の希望を踏まえてできる限り叶えることを最優先するべきなので、本人が元気な内から死生観や看取りについて話し合っておくと良いでしょう。
看取る場所ごとの違い
現在、約8割の方が病院で亡くなっており、残りの2割の方が家や介護施設で最期を迎えています。
こちらのトピックでは、看取る場所ごとの特徴や違いきついて見ていきましょう。
病院
病院での看取りは、終末期医療を中心に本人の苦痛を緩和するための措置が行われます。
基本的に医師の指示を基にしながら医療行為が行われ、患者の家族にも医師から治療に関する説明が行われるのが一般的です。
自宅や介護施設では提供できない、レベルの高い医療を受けられる点が大きな特徴と言えるでしょう。
また、病院での看取りでは、家族が過ごしやすいような環境づくりや、精神的なサポートも行われます。
病院の看護師やソーシャルワーカーなどが、家族の意見や状況を把握しながら、利用者や家族が安心して過ごせるようサポートすることが重要です。
在宅
在宅で看取りを行う場合は、家族だけでなくケアマネージャーやヘルパー・医師看護師などとの協力が必須となります。
住み慣れた自宅で最期を迎えたいと考え、自宅での看取りを希望する方は多いですが、実際にはかなりハードルが高いです。
その理由としては、
- 在宅医療の体制が十分に整備されていない
- 本人が家族に負担をかけたくないと感じる場合も多い
- 頼れる家族がそもそもいない
上記のようなものが挙げられます。
実際に、現在在宅で看取りを行えた方は10%程度しかいないため、かなり難しいことを念頭に置いておきましょう。
介護施設
介護施設での看取りは医療での回復が難しく在宅介護も困難な場合に行われることが多く、近年は増加傾向にあります。
高齢者施設の中でも、特別養護老人ホームなどで多く行われている点が特徴です。
団塊の世代が平均寿命を迎えることが予想される2040年頃は療養病床が不足するという懸念がされているため、高齢者施設での看取りは増えていくでしょう。
なお、介護施設での看取りに関しては下記のトピックで詳しく解説しているので、参考にしてください。
看取り介護加算とは
看取り介護加算とは、利用者や家族の意思を尊重しながら、医師・看護師・看護職員が最期の時まで利用者が自分らしく生活できるように看取りをした場合に算定される加算です。
終末期であるとみなされた利用者に対して、身体的・精神的苦痛を緩和しながら生活支援を行う介護事業者に対して算定されます。
加算の対象となる事業者は、特別養護老人ホーム・グループホーム・特定施設入居者生活介護となっており、看取り介護加算Ⅰの算定要件は下記の通りです。
<看取り介護加算Ⅰの算定要件>
- 当該施設の看護職員、病院または診療所、指定訪問看護ステーションのいずれかの看護職員との連携で24時間連絡できる体制をとること
- 看取りに関する指針を定め、施設入所の際に入所者とご家族に看取りに関する定めた指針について内容の説明を行い、同意を得ること
- 医師、看護職員、ケアマネジャー、介護職員、生活相談員などが当該施設においての看取りについての協議を行い、指針について適宜見直すこと
- 看取りに関しての職員研修を行うこと
- 看取りケアは個室または静養室などを利用し、本人、ご家族、周囲の入所者に配慮すること
なお、条件を満たした場合に看取り看護加算Ⅰとして下記の単位数が加算されます。
算定期間 | 単位数 |
---|---|
死亡日31日前~45日前 | 1日につき72単位 |
死亡日4日前~30日前 | 1日につき144単位 |
死亡日の前日および前々日 | 1日につき680単位 |
死亡日 | 1日につき1,280単位 |
特別養護老人ホームのみ、下記の要件を満たすことで看取り介護加算Ⅱを受けることができます。
<看取り介護加算ⅡⅡの算定要件>
- 加算Ⅰの要件を満たしていること
- 入所者に関し、配置医師と施設間で緊急事態が起きた場合の注意点や情報連携の方法と、曜日・時間帯別の連絡手段や診察依頼時間の具体的な取り決めがある
- 複数名の配置医師がいる、または協力関係にある医療機関の医師が必要な際に24時間対応できること
- 要件を書面にして届け出ていること
- 看護体制加算Ⅱを算定している
また、他にもターミナルケア加算というものも存在し、こちらは訪問介護や老人保健施設などが対象になっています。
<ターミナルケア加算Ⅰの算定要件>
- ターミナルケアを受ける利用者について24時間連絡が取れる体制を確保しており、かつ、必要に応じて訪問看護を行うことができる体制を整備していること
- 主治医との連携の下に、訪問看護におけるターミナルケアに係る計画および支援体制について利用者および家族等に対して説明を行い、同意を得てターミナルケアを行っていること
- ターミナルケアの提供について、利用者の身体状況の変化など必要な事項が適切に記録されること


自宅での看取りを希望する方は増加傾向
コロナウィルスの影響は看取りにも及んでおり、病院での面会が制限された結果、自宅で看取ることを望む方が増えています。
実際に、自宅で看取りたいという人はコロナ以前と比べると倍ぐらいに増えていることから、コロナが完全に収束するまではこの傾向が続くでしょう。
慣れ親しんだ自宅で最期を迎えられることは本人にとって大きな心の安寧につながりますが、在宅医・訪問看護・介護のチームを頼む必要があることから、なかなか難しいのが現実です。
また、在宅で介護をした経験がない方にとっては、大きな不安やストレスを抱えたまま過ごすことになってしまいます。
厚生労働省の意識調査によると、最期を迎えたい場所として約7割の方が自宅を望んでいるものの、現実には先述した通り約8割が病院や施設で最期を迎えています。
自宅での看取りを実現するためにも、民間企業が提供している独居高齢者の安否を見守るサービスや最期を見守るプランの利用を検討すると良いでしょう。
最も重要なのは本人意思であることは言うまでもなく、近年は個々人の価値観による多様性が認められる風潮も高まっていることから、かかりつけ医や入院した病院の医師へ自分の考えや希望を伝えることが大切になっていくでしょう。
看取り介護まとめ
- 現在は病院で亡くなる方は多いが、病床不測の影響で自宅や介護施設での看取りが増えることが予想される
- 介護期間の中でも、早い段階から看取りについて考えることが重要
- 身体的ケア・精神的ケア・家族へのケアが中心となる
高齢化が進む日本において、看取りへの理解を深めることは非常に有意義です。
そもそも、人間誰しもが死と向き合う以上、死生観や看取りへの考え方をまとめておくことは重要です。
こちらの記事を参考にして、ぜひ看取りに関する考えについてまとめてみてください。
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)