任意後見人とは?法定後見契約との違いや権限・監督人などについても解説

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「任意後見人ってどのような職務があるの?」

「任意後見人と法定後見人の違いについて詳しく知りたい!」

このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?

認知症など、判断能力を喪失してしまった人の財産を守るための制度として機能している後見人制度ですが、契約や手続きの流れなどはあまり知られていません。

また、具体的に付与される権限や監督人の有無なども制度の信頼性を維持するために重要なので、知っておいて損することは無いでしょう。

こちらの記事では、任意後見人の権限や登記までの手続きの流れ、また監督人の役割などを詳しく解説していきます!

任意後見制度の特徴や仕組みをざっくり説明すると
  • 判断能力を喪失する目に後見人を選べる点が特徴
  • 後見人になるために特別な資格は不要
  • 監督人が付くので、精度の安全性は確保されている

任意後見制度とは

任意後見制度

任意後見制度とは、将来認知症などになってしまうことに備えて、判断能力を有している間に将来のために後見人と任せる責務を予め定めておく制度です。

締結時に公正証書の作成と登記がされ、家庭裁判所が選任した任意後見監督人を後見人を監督することになります。

契約内容については、後見人と任せる事務内容を自由に決定することができますが、遺言状の作成や結婚などの一身専属的な権利(権利の性質上、その者のみが行使できる権利)については扱うことができません。

任意後見制度の目的

任意後見制度は、将来的に意思能力を喪失してしまったときに備えて自分の信頼する人に財産管理などを任せる制度です。

認知症などにより判断能力が低下した際、裁判所に成年後見人を選定してもらうことも可能(法定後見)ですが、その際には親族からの申請が必要になるなどの条件が設けられています。

また、法定後見では本人の意思が通らずに全く面識が無い人が後見人になる可能性もあるので、本人の意思が尊重されるとは限りません。

任意後見人を立てても、本人が判断能力を有したまま亡くなるなど、結果的に任意後見制度を使わない場合もあります。

しかし、万が一の際には自分の財産管理を信頼できる人に任せられるので、安心材料になるのは間違いありません。

法定後見制度との違い

任意後見制度と法定後見制度の違い

任意後見は、将来的に判断能力を喪失する前に本人が後見人を選ぶことができる制度です。

一方で、法定後見人は判断能力を喪失した後に後見人が決まるので、自分の希望が入る余地はありません。

また、法定後見の場合、効力が発動するタイミングが「家庭裁判所の申立後、審判が確定した時」であるのに対し、任意後見の場合は「本人の判断力が不十分になった時」です。

以上のように、「自分の希望が反映されるか」「効力が発生するタイミング」が違います。

なお、似た制度に家族信託がありますが、こちらは「財産を処分する権利」が受託者に与えられる点が後見制度とは違います。

任意後見契約の登記とは

登記とは、一定の事項を広く公に示すために帳簿に記載することを指します。

不動産登記などをイメージすると分かる通り、権利関係を明確にするために行われます。

任意後見契約を締結すると、法務省の後見登記簿に記録が残るので「この人が後見人」であることが公に示されることになるわけです。

なお、最初の登記は公証人が行うので本人は自覚していないケースが多いですが、契約の効力発生後は登記事項証明書で代理権を証明することになります。

後見制度は高齢化が進む社会にあって重要度が高まっていくであろう制度なので、任意後見人は記載事項や取得方法を知っておくと良いでしょう。

選任前の記載内容

後見人に専任される前は、以下の内容が法務局に登記されます。

  • 公証人の氏名・所属・証書番号・作成年月日
  • 本人の氏名・生年月日・住所・本籍
  • 任意後見受任者の氏名・住所・代理権の範囲
  • 代理権目録

ちなみに、この段階ではまだ契約の効力が発生する前なので、任意後見人ではなく「任意後見受任者」と呼ばれます。

選任後の記載内容

後見人に専任された後は、以下の内容が法務局に登記されます。

  • 公証人の氏名・所属・証書番号・作成年月日
  • 本人の氏名・生年月日・住所・本籍
  • 任意後見人の氏名・住所・代理権の範囲
  • 任意後見監督人の氏名・住所
  • 代理権目録

実際に選任されると、任意後見受任者から任意後見人に名称が変わり任意後見監督人も記載されることになります。

任意後見監督人は後見人をサポート・監督する役割を担う存在であることからも、任意後見の効力が発生していることが分かるでしょう。

登記事項証明書の取得方法

重要な契約の締結など、何かの拍子に登記事項証明書が必要になることがあります。

登記事項証明書を取得できるのは、本人・任意後見人・任意後見監督人・本人の4親等内の親族に限られ、委任状があれば代理人による申請も可能です。

取得方法は、指定法務局の窓口に行くか郵送で申請することになります。

なお、指定法務局は東京法務局の後見登録課と全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課を指しており、郵送での申請に対応しているのは東京法務後見登録課だけです。

登記事項証明が必要となる場面

登記事項証明書が必要になる場面は、主に以下の2つの場面に分かれます。

  1. 任意後見監督人の選任申立ての時
  2. 任意後見人として本人の代理で様々な契約を締結する時

具体的には、不動産売買を行う場合や介護施設などを利用するための契約の場面で必要になります。

なお、取引の相手は登記事項証明書を取得できないので、被後見人を守るためにも後見人が準備しなければなりません。

任意後見人の業務や権限

任意後見人の仕事は、大きく分けて財産管理と身上監護に分けられます。

具体的には、本人の代わりに財産を管理すること・本人がきちんと医療や介護などのサービスを受けられるようにすることが任意後見人が果たすべき役割です。

財産管理

財産管理は、読んで字の如く被後見人の財産を管理することです。

具体的には、預貯金や有価証券を管理したり、自宅などの不動産を管理することが挙げられます。

財産を維持することが目的なので、積極的な運用はできません。

つまり、有価証券や不動産を売却したり賃貸に出すことはできないので注意しましょう。

身上監護

身上保護は、被後見人の生活を安定を図り、医療や介護などに関する法律行為を行うことを指します。

具体的には、被後見人の住居の確保や介護施設を利用するための手続きや契約などが挙げられます。

また、被後見人が怪我や病気になった際に必要な治療が受けられるようにサポートしたり、入院の手続きや医療費の支払いをすることも身上保護に含まれます。

注意点

任意後見人の役割は、実際のところ事務作業がほとんどです。

介護や本人しかできない行為、また日常生活における法律行為などは任意後見人の仕事に含まれません

なお、家族が任意後見人になる場合は上記の行為を「後見人」として行うのではなく、家族の面倒を見る行為として行うことが可能です。

任意後見人の種類

即効型契約

即効型契約は、任意後見契約と裁判所への任意後見監督人選任の申し立てを同時に行い、即効で任意後見が開始する契約です。

即効で後見契約が発効する点がメリットですが、契約開始後に本人とトラブルになる場合があります。

そのため、制度の内容について被後見人と後見人がしっかりと理解し、確認しておくことが重要です。

将来型契約

将来型契約は、本人が判断能力を有する時点で契約を締結しておき、判断能力が低下した際に任意後見監督人の選任を申し立てて後見が開始する契約です。

将来型契約だと、任意後見制度を使わずに本人が死亡してしまうケースや、任意後見人が本人の判断能力低下に気付けなかったりすることもあります。

他にも、本人が契約締結そのものを忘れてしまっているケースもあるので、注意しましょう。

しっかりも制度の根幹を守るために、継続的に支援を行い任意後見契約が発行するまで見守りを行う「見守り契約」という仕組みも存在しますので、ぜひ確認してみてください。

移行型契約

移行型契約では、任意後見契約と同時に移行前段階として他の契約を締結することが可能です。

例えば、任意代理契約や死後事務委任契約、見守り契約などが代表的です。

徐々に移行する流れで進んでいくので、継続的支援を受けられる点が大きなメリットと言えるでしょう。

一方で、任意後見人受任者が任意後見監督人選任の申し立てをせずに権限を濫用してしまう恐れがある点はデメリットと言えます。

受任者を監督する立場の者を決めておいたり、受任者を複数人にすることでトラブルを未然に防ぐことができるので、検討してみてください。

任意後見人になる人

任意後見人になるために必要な資格は特にありません。

つまり、家族や親戚だけでなく友人でも後見人になることが可能です。

厳格に契約を履行してほしい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に頼んだり、法人と契約を締結したりすることも可能となっています。

任意後見人の報酬

弁護士や司法書士などの専門的な知識を持つ人が任意後見人になる場合、ほとんどのケースで報酬が発生します。

契約で報酬の金額や支払い時期などを決め、仕事の量や内容に応じて毎月1万円~3万円程度の金額を支払うことが多いです。

任意後見人の報酬は任意後見契約を結ぶ際に、本人と任意後見受任者が話し合って決定することになります。

なお、報酬は本人の財産から支払われるため、被後見人の家族の財産から支出することはありません。

任意後見契約の流れ

任意後見契約の流れ

続いて、任意後見契約の流れについて見てみましょう。

任意後見人受任者の決定

任意後見人になるために必要な資格は特になく、家族や親戚の他、友人や弁護士・司法書士などの専門家に頼むことも可能です。

また、法人と契約を締結することも可能なので、選択肢は多いです。

ただし、任意後見人になれないケースも存在します。具体的には、以下に該当する場合は任意後見人にはなれません。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免じられた法定代理人や補助人など
  • 破産者
  • 行方不明者
  • 本人に訴訟をしたものとその配偶者・直系血族
  • その他不正行為を行い任意後見人の任務に適さない事由があるもの

以上に該当する場合は任意後見人にはなれません。

契約内容の決定

任意後見人にどのような事務を依頼するかは、契約当事者同士で自由に決定できます。

「決めていないことに関してはできない」ため、将来の入居施設やかかりつけ医など、日常生活に関する具体的な希望や金額まで細かく記載しておくと安心です。

また、財産管理や療養看護などの法律行為が主たる業務内容となり、家事手伝いや介護などは契約の対象外となるので、準委任契約を締結することも検討すると良いでしょう。

葬儀費用処理など死後の事務に関しても契約の対象外となるので、これらの事務も任せたい場合は死後事務委任契約を締結しましょう。

公正証書の締結

任意後見人受任者と契約内容を決定し、内容が固まったら双方が最寄りの公証役場に行き公正証書を作成する必要があります。

本人の代理で公証人が手続きをする場合もあるので、必ずしも本人が出向かなくても大丈夫です。

なお、公正証書とは公証役場の公証人が作成する証書で、公正証書が無い場合は任意後見契約は無効となってしまいます。

なお、公正証書の発行に関して必要な費用は、以下の表の通りです。

内容 費用
証書作成の基本手数料 11,000円
登記嘱託手数料 1,400円
登記所に納付する印紙代 2,600円
その他 本人らに交付する正本などの証書代や切手代

任意後見監督人の選定申したて

本人の判断能力低下を確認したら任意後見契約を開始することになりますが、まずは任意後見監督人選任を申し立てる流れになります。

本人の住居地の家庭裁判所に対して、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のいずれかが申し立てます。

なお、本人以外が申し立てをする場合は本人の同意が必要となります。

監督人の希望は公正証書に記載できますが、必ずしも希望が通るとは限らない点には注意しましょう。

契約が切れるタイミング

何らかの理由で後見契約を解除する際には、本人や支援者の一方からでも両方からでも申し立てることが可能です。

また、公証人の認証を受けた書面があれば好きなタイミングで解除することができます。

なお、以下のどれかに該当した場合も、家庭裁判所の許可を受けた上で後見契約は切れます。

  • 本人または任意後見人が死亡・破産した時
  • 任意後見人が認知症などにより被後見人となった時
  • 任意後見人について任務に適しない事由がある時

任意後見契約のメリットデメリット

それでは、任意後見契約のメリットとデメリットについて見てみましょう。

メリット

任意後見契約は契約時点で判断能力があっても利用できるため、自分の希望を反映しやすい点が大きなメリットです。

また、契約内容が登記されるので公的に証明されることから、安心して利用できます。

任意後見監督人が付くため、任意後見人が被後見人の財産を着服するなどの不正を防止できます。

つまり、チェック機能が整えられており安心できるので、認知症に備えたい方には非常におすすめです。

デメリット

一方で、任意後見のデメリットとしては死後の処理を任せることができない点や、法定後見制度にはある取消権が行使できない点が挙げられます。

つまり、もし任意後見が知らない間に被後見人が不利な契約を結んでしまったとしても、取り消すことができないので注意しましょう。

また、公正証書を作成するなど、財産管理委任契約と比べて手続きに手間がかかる点もデメリットと言えます。

さらに、成年後見制度は被後見人の財産を守るための制度ですが、残念ながら後見人による不正は存在します。

後見人の不正行為や横領などで毎年数十億円の被害額が出ており、制度の信頼性を保つうえでこれは大きな問題点といえるでしょう。

成年後見と相続は別物

また、「後見人は相続財産を多くもらえる」と考えている人も多いですが、これは間違っています。

相続をめぐって相続人や後見人や争ってしまう事例は多くあるので、しっかりと対策しておきましょう。

遺言が最も効果的

相続トラブルを未然に防ぐ上で、最も重要なのは「遺言書を作成しておくこと」です。

遺言が無い場合は遺産分割協議を経て、相続人全員が合意しなければ相続財産を分けることができません。

逆に、遺言書さえあれば、一人でも「遺言書の内容通りに分けたい」と意見すれば遺言書の内容通りに分けることができるのです。

なお、前述したように「後見人は相続財産を多くもらえる」というルールは無いので、もし「自分の世話をしてくれた後見人に多くの財産を渡したい」と考えている場合は遺言書が必須です。

自筆証書遺言は、もし破棄されれば無かったことにされる問題点がありますが、公正証書遺言は最も信頼性が高く不正を防ぐことができます。

遺言状の作成や変更は後見人が関与することができないため、本人の判断能力がある内に遺言書を作成しておくことをおすすめします。

任意後見制度の特徴や仕組みまとめ

任意後見制度の特徴や仕組みまとめ
  • 法定後見とは効力が発生するタイミングが違うので、メリットやデメリットは正確に把握しよう
  • 後見人の不正行為などの問題点はあるが、信頼できる人を選べる点は魅力
  • 相続対策をしたい場合は、判断能力がある内に行おう

任意後見制度は、自分が信頼できる人を後見人に指名できるので、認知症対策としては非常に有効です。

しかし、申し立てがされないと効力が発生しなかったり、後見人による不正が必ずしも起きないとは言い切れない点には注意が必要です。

上手に使えば安全に財産管理をしてもらえる優れた制度なので、興味がある方は信頼できる人と後見人制度について話し合ってみてはいかがでしょうか?

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

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