高齢者の食事で注意すべきポイントは?重要な栄養素や食べやすい調理レシピまで解説!
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「高齢者の食事で注意すべきポイントは?」
「高齢者の食事で必要な栄養素は?」
このような疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?
高齢になると、栄養を摂取する役割や1日の楽しみでもある食事がとても大切になります。しかし、老化により、食べられなかったり、食欲がわかないことも少なくないです。
このため、十分な栄養を摂れずに健康を損ねることがあります。また、いろいろなリスクを伴う高齢者の「孤食」も社会問題となっています。
この記事では、高齢者の食事について、注意すべきポイントについてご説明します。
また、重要な栄養素や食べやすい調理レシピをご紹介します。
- 高齢者は噛む力が衰えるため食生活が偏る
- 孤食が増えることで簡素化や欠食しがち
- 食生活が偏ることで栄養バランスや心のバランスを崩し健康に影響がでてしまう
高齢者の食事の際のポイント・注意点
高齢になると、ひざや腰といった身体だけでなく、嚙むことや飲み込む力など食事に関する機能も低下します。
また、食べる物が偏ることで栄養バランスを崩し、健康を損ねてしまうことがあります。
この章では、高齢者の食事に関して注意しなければいけないポイントをご説明します。
高齢者の身体機能の低下
高齢になると、ひざや腰など身体の機能が低下していきますが、同時に、食べるために必要な機能も低下していきます。
ここでは、食べるための機能の注意点についてご説明します。
味覚が鈍くなる
食べ物や飲み物の味は、舌の表面と口の中の粘膜にある味蕾(みらい)という部位で感知します。
高齢になると、この味蕾の数が減ったり、薬の副作用などで味覚が鈍くなることがあります。
味覚が鈍くなると、通常の味付けでは「味がしない」、「味が薄い」と誤解してしまい、濃い味がおいしいと感じるようになってしまいます。
さらには、味がわからなくなることで「美味しくない」と食欲が無くなり、食事の量が減ってしまうこともあります。
食べ物を咀嚼(そしゃく)する力が弱くなる
高齢になることで、歯の本数が減ったり、顎の筋力が低下することで、食べ物を噛む力が弱くなります。
また、ひとり暮らしや地域での交流が少なくなり会話をする機会が減り、くちや顎を使うことがなくなってきます。
このことで、噛む力がどんどん弱くなり、硬い食べ物が嚙み切れなくなります。
このため、硬い食べ物を食べなくなり、軟らかいものを好んで食べるようになります。
軟らかいものばかりを食べることで、ますます咀嚼(噛む力)が老化していくという悪循環に陥ってしまうのです。
食べ物を飲み込む力が弱くなる
加齢に伴い、くちの中の唾液の分泌量が減ってきます。
唾液の分泌量が減ることで、くちの中の食べた物を上手にまとめられなくなってしまいます。
さらに、飲み込む力も弱くなっているので、食べた物や飲んだ物が、食道ではなく気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を起こしやすくなります。
老人の誤嚥というと「お餅」などの飲み込みにくい食べ物をイメージしがちですが、なんとお茶やお水でも誤嚥を起こすことがあるのです。
このため、高齢者の食べ物には、水分やとろみをつけて、飲み込みやすくする必要があります。
食事の栄養バランスが偏る
年を取るにつれて、食べ物の好みが変わっていくことがあります。
例えば、揚げ物や炒め物よりも、さっぱりした物を好むようになったりします。
また、ひとり暮らしや、日中ひとりでいる高齢者は、食事の支度が面倒になり、手軽に食べられるパンやお茶漬けなど簡単に済ませることが多くなります。
このため、毎日、簡素な物や同じような物を食べ続けてしまうことで、摂取する栄養素が偏ってしまいます。
不足しがちな栄養素 がある
高齢者の特徴として、食事はパンやお茶漬け、麺類など手軽に食べられる物が増えてしまいます。
また、噛む力が衰えてくることで、野菜や肉など硬い物や繊維質の物が食べられなくなってしまいます。
このため、タンパク質やビタミン、ミネラル、食物繊維といった栄養素が摂取できないため、高齢者が必要な栄養素が不足がちになります。
「老人食だから簡素でいい」というわけではありせん。むしろ老人だからこそ、健康を維持するために、主食・主菜・副菜を毎日しっかり摂ることが大切です。
口から食べることが重要である
栄養を摂りこむ方法は、くちから食べる以外に、点滴によって摂取する方法があります。
また、最近は多くの種類のサプリメントがあるので、飲んで栄養素を摂りこむこともできます。
しかし、高齢者の場合は、くちを使って食べることが重要なのです。その理由は、
- 人間の五感のうち、視覚・味覚・臭覚が刺激を受けるので、老化の緩和につながる。
- 噛んで食べることで、くちの中の唾液が分泌されるので、、口内環境がよくなる。
- 食べ物が体内に入ることで、胃や腸が消化活動のために活発に働く。
- 噛んだり飲み込むことで、脳に刺激を与えて認知症の予防になる。
適切な老人食とは何か?
高齢になると、食事は手軽に食べられる物や軟らかい物、質素な量で済ませてしまうことが増えてしまいます。
しかし、偏った食事や質素な食事は、栄養のバランスを崩してしまい、健康を損なう原因になります。
この章では、適切な老人食として高齢者に必要な食事の量と栄養素の注意点についてご説明します。
必要な食事量
人が必要とする食事の量は、摂取カロリーを基準とします。
摂取カロリーは、年齢や性別によって変わってきます。
年とともに運動量が落ち、代謝が落ちてくるため、必要とする摂取カロリーは少なくなってきます。
年齢別、性別ごとの必要なカロリーは次のとおりです。
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18~29歳 | 2,300~2,650kcal | 1,650~1,950kcal |
65~74歳 | 2,050~2,400kcal | 1,550~1,850kcal |
75歳以上 | 1,800~2,100kcal | 1,400~1,650kcal |
なお、タンパク質の推奨値は、男性が60g、女性が50gで年代によって大きく変わることはありません。
必要な栄養素
高齢者は、生活するうえで骨を形成するカルシウムが不足しがちです。カルシウムが不足すると、骨が弱くなったり高血圧などの原因になります。
また、エネルギーの源であるタンパク質も不足しがちです。タンパク質が不足すると、太りやすくなったり、疲れやすくなってしまいます。
他にも、ビタミンDはカルシウムの吸収を促進するため、骨密度を維持するために欠かせない栄養素です。
しかし、高齢者は肌の老化や屋内生活などにより、日光を浴びる機会が減少することが多く、ビタミンD不足になりがちです。そのため、適度な日光浴や食事からのビタミンD摂取が必要です。
栄養素の摂りすぎに注意!
高齢者の場合、塩分の摂りすぎに注意が必要です。
これは、味覚が鈍ることで濃い味の物を好むようになったり、インスタント系の食べ物が増えるからです。
また、農林水産省の「食育に関する意識調査」によれば、男性の4人に1人、女性の5人に1人が頻繁にスーパーやコンビニエンスストアの弁当やお惣菜を利用しています。
お弁当やお惣菜は、手軽にたべられますが、塩分やカロリーが高い物があります。
若い世代に比べて運動量が少なくなることで、消費するカロリーが減ってしまうためです。
塩分の摂りすぎは、高血圧や腎臓疾患などの病気を引き起こす原因になるので、十分に注意してください。
栄養素は、過不足ないようバランスを考えて、毎日の献立や調理方法を工夫して、食べる物、食べる量をコントロールしましょう。
食べやすい食品・食べにくい食品
これまで高齢者の食事の特徴をお伝えしてきましたが、この章では、具体的に食べやすい食品と食べにくい食品をご紹介します。
高齢者は、食べやすい食品の頻度が高く、栄養素が偏ってしまうので、次の表を参考にして献立を考えてください。
食べやすい食品
食品の性質 | 料理・食品 |
---|---|
おかゆ状の物 | おかゆ、パンがゆ |
乳化してるもの | ヨーグルト、アイス |
ポタージュ状の物 | カレー、シチュー |
ミンチ状の物 | 肉団子、つくね |
ゼリー状の物 | ゼリー、たまご豆腐 |
食べにくい食品
食品の性質 | 料理・食品 |
---|---|
硬い野菜 | きゅうり、キャベツ、レタス |
繊維が残る物 | ふき、ごぼう、タケノコ |
スポンジ状の物 | かんも、はんぺん |
弾力がある物 | こんにゃく |
噛みにくい物 | かまぼこ、ハム |
のどにつく物 | 海苔 |
食べやすくするための調理法
食べにくい料理や食材でも、高齢者には必要な栄養素が含まれているので、普段の食事に欠かすことができません。
しかし、無理をして食べると喉を詰まらせる原因になったり、なにより普段の食事が苦痛になってしまいます。
そこで、この章では食べにくい物を食べやすくするための調理方法を2つご紹介します。
噛みやすくする
食べやすくするには、噛みやすく、くちでまとめやすくする必要があります。
その調理方法をご紹介します。
- 肉や魚などは1くちサイズにカットすることで食べやすくなります。
1くちサイズにすることで食べたときに口から肉汁がこぼれることも防げます。
- トンカツなど厚めの肉は、ミートハンマーなどを使って、叩いて薄く延ばします。
また、脂身を切り取ったり、包丁で切目を入れることで噛みやすくなります。
- 硬い野菜は、皮をむいたり、切り目を入れることで食べやすくなります。また、長めにゆでることで軟らかくなります。ゆで時間の目安は、野菜が歯茎で潰せるくらいの軟らかさです。
- 大根やニンジンなどの根菜類は、繊維に対して垂直に切ると噛みやすくなります。また、火で加熱するよりも電子レンジで加熱した方が早く軟らかくなります。
- キャベツなどの葉野菜も、食材の切り方や電子レンジの活用などで軟らかくなります。
- キャベツを購入する時は、白っぽい冬キャベツよりも黄緑色の春キャベツの方がもともと軟らかいので、そちらを選びましょう。
- 調理の際に圧力鍋や蒸し器を使うことで、キャベツなどは芯まで軟らかくなります。
- 野菜炒めなどの炒め物は、食材をゆでてから炒めることで、軟らかくて食べやすくなります。
- 豆類やイモ類などの繊維質の食材は、すり身にしてから、つみれにすることで食べやすくなります。
飲み込みやすくする
飲み込みやすくするには、調理のとき茹でる時間を長くすることで、食材が軟らかくなり飲み込みやすくなります。
目安としては、高齢者が歯茎で潰せるくらいの軟らかさなので、煮崩れするくらいまで煮込みます。
「調理時間を短くしたい!」という場合は、食材をミキサーにかけて細かくする方法もあります。
また、食材にとろみ剤や片栗粉、コーンスターチを使って、料理にとろみをつけることで、飲み込みやすくなります。
その他にも、ゲル剤を使ってゼリー状にすると、くちのなかで解けるようになるので、飲み込みやすくなります。
ただし、ゲル剤を使用した場合は、飲み込みにくい場合があるため、適切な量を使用することが重要です。また、食材の風味や栄養素が失われる場合があるため、適切な方法を選択することが大切です。
具体的なメニュー
それでは、食べやすい料理のメニューをご紹介します。
ソフトトースト
引用元:ダスキンヘルスレント「いきいきレシピ vol.20」
喉にくっつきやすいパンを、食べやすくする調理方法です。
- 食パンをハンドミキサーを使って細かくします。
- アガーを使ってひとつにまとめます。
- 形を整えて、表面に味をつけて完成です。
グリーンピースとジャガイモのポタージュ
引用元:クラシル「グリンピースとじゃが芋のポタージュ レシピ・作り方」
タンパク質やビタミンが豊富なグリーンピースの料理です。
- 鍋でジャガイモとグリーンピースを煮ます。
- それをミキサーにかけます。
- 再び、鍋で加熱し、味付けをして完成です。
柔らか鶏南蛮
引用元:cookpad「柔らか鶏南蛮」
低カロリーで高タンパクの鶏料理です。
- 鶏のむね肉をひとくちサイズにカットします。
- さらに、カットした肉に切り目を入れます。
- カットした肉を、酒、砂糖、塩、マヨネーズに漬けて、揉みこみます。
- 片栗粉をまぶして、油で揚げます。
- 最後にお好みのタレをかけて完成です。
高齢者の食事の悩み・解決策
いくつになっても、食事は楽しいものです。しかし、高齢にともない、食事に関する悩みがでてきます。
悩みをそのままにしておくと「食事が楽しくない」という状態になり、ついには食欲を失ってしまいます。
悩んでいる原因や状況を理解して、解決策をとる必要があります。
この章では、高齢者に多い食事の悩みについてと、その解決策についてご紹介します。
食べ物を吐いてしまう
飲み込む力が弱くなることで、食べ物が気管に入ってしまう誤嚥を起こしてしまうことがあります。
また、食べた物が逆流してしまい、吐いてしまうことがあります。
原因として、食べてすぐ横になることで、胃酸が逆流しやすくなってしまうためです。
食後1~2時間くらいは、座ったままでいる状態を保ちましょう。
また、食事中にゆっくりとよく噛んで食べることや、食事の前に胃腸を刺激する運動を行うことも、誤嚥や逆流を予防するために効果的です。
特に高齢者は、食べ物を飲み込む際に傾きながら食べると誤嚥のリスクが高まるため、正しい姿勢で食べることが大切です。
ご飯を飲み込めない
高齢になり、飲み込む力が弱くなることで、食べた物が喉につかえてしまい、むせてしまうことがあります。
むせることで、咳をして、その勢いで食べた物が口から出てしまうことがあります。
食材や調理方法を工夫して、料理を飲み込みやすくしましょう。
また、食事中には口の中に十分な唾液があることも重要です。唾液には、食べ物を柔らかくする酵素が含まれており、噛むことや唾液の分泌が不十分な場合は、むせたり誤嚥したりするリスクが高くなります。
適度な量の唾液を分泌するために、よく噛んで食べることや、食事前に唾液分泌を促すために口腔運動を行うことが大切です。
高齢者の低栄養状態に問題がある
高齢者は、食事の量が低下したり、消化機能が低下してしまうので、体に必要なタンパク質が不足してしまいます。
タンパク質が不足することで「低栄養状態」となり、必要なエネルギーを作ることができず、健康な体を維持できなくなります。
野菜を育てるとき、水や土、肥料が必要なように、筋肉や骨、内臓など体を作るにはエネルギーが必要です。
野菜は、水や土、肥料がないと枯れてしまうように、体もエネルギーが不足することで健康を損ねるなど危険な状態になります。
食事の量が落ちたり、体重が減った場合は、
低栄養状態の可能性があるので、早めに病院で診てもらいましょう。
食事を食べない
高齢になると食欲が落ちてしまい、食事の量が減るだけでなく、食事をとらない欠食するケースもあります。
無理に食べさせることは逆効果
ご飯を食べないと、家族や介護者は心配になり、「食べないと元気が出ない」、「〇〇だけでも食べたら?」と無理に食べさせようとします。
しかし、本人からすれば食事がプレッシャーになって、よけいに苦痛になってしまいます。
食事は楽しむものなので、無理に食べさせようとせずに家族や介護者は見守ってあげることも大切です。
ただし、食べない状態が長引くと健康を損ねるので、食欲不振の原因を把握し、早めに改善することが必要です。
なぜ食欲がなくなるのか
「食べたい」という食欲は、脳の「摂食中枢」と「満腹中枢」の刺激によって感じるものです。
高齢になると硬い物を食べなかったり、会話が極端に減ることで、歯で食べ物を噛んで粉砕する咀嚼力が落ちます。
咀嚼力が落ちることで、満腹中枢が刺激を受けにくくなるのです。
また、加齢により唾液量の分泌が減ってしまうことで、消化酵素の分泌量も減ってしまいます。
消化酵素が減ることで、食べた物の消化に時間がかかるため、「お腹減った」と感じなくなります。
また、高齢者は若い時に比べて運動量が落ちるので、消費するエネルギーも減少し、食欲が低下してしまうのです。
ここで、主な食欲低下の原因となる要因、理由、対策は以下のとおりです。
要因 | 理由 | 対策 |
---|---|---|
生活習慣病 | 減塩など制限食の影響 | すべての料理を薄味にするのではなく、煮ものを炒め物にするなど全体の塩分バランスを考えて料理方法を工夫する。 また、うまみや酸味などでアクセントをつける。 |
便秘 | 腸内の活動が低下 腹筋の低下 | ヨーグルトなどで腸内の善玉菌を増やし腸内環境を改善する。 定期的に運動をすることで筋力維持 |
水分不足 | 脱水症状 | 水分補給(目安として1日に1~1.5リットル) 食事にみそ汁やスープなどの水分を摂る。 |
運動不足 | 筋力の低下 体の痛みなど | 自分の体力に合った運動を定期的に行う。 身体に課題がある場合は、病院などのリハビリスタッフに相談する。 |
不規則な食生活 | 生活リズムが乱れている 偏った食事 | 生活リズムを整え、毎日、同じ時間に食事を摂る。食事は栄養のバランスがとれるようにする。 |
食事の悪い姿勢 | 座位に必要な筋力の低下 | 姿勢が悪いと食欲不振だけでなく誤嚥の危険性もあります。座るときはイスに深く腰を掛け、足は床につくようにしましょう。 また、座位が保てない場合は、ベッドのリクライニング機能を使って、適正な斜度で体を安定させましょう。 |
精神的負担 | うつ、悩み事、認知症 | 会話をしながら楽しい雰囲気づくりをしましょう。また、料理の説明や一緒に食べることも不安解消になります。 |
過去に食事を失敗して恥ずかしい思いをしたり、怒られたことで食事に不安があったり、うつ症状や悩み事があると姿勢が悪くなります。
また、重度の認知症の場合、目の前に出された料理が何か分からず不安になることがあります。
食欲を高める方法とは?
高齢者の食欲を高めるには、環境面の工夫と調理面の工夫の2つの方法があります。
この章では、環境と調理の工夫の方法についてご説明します。
環境を工夫する
食べる場所を変える
「食堂よりも部屋の方が落ち着く」など本人の居心地がいいと感じる場所に変えてみましょう。
また、逆にダイニングでみんなと食事したり、外食など気分転換を図るのもいいでしょう。
他にも、新しい場所に行くことで、新たな刺激を受けたり、人との交流が生まれたりすることもあります。
これらの要素が、食事をより豊かな体験にすることにつながります。
食べる時間を変える
食事の時間が家族の都合で提供されても、高齢者には高齢者の生活リズムあります。
生活リズムが合わないと、食べられないこともあるので、高齢者の体内時間に合わせて食事時間を変更してみましょう。
また、過去に胃の病気をした場合、一度に多くの食事ができないので、1日、何回かに分けて食事を提供しましょう。胃に負担が少なく、本人も気軽に食べることができます。
誰かと一緒に食べる
家族みんなで会話をしながら食事をとることで、食事の時間が楽しくなります。特に高齢者は疎外感を感じやすいので、できるだけ誰かと一緒に食べるようにしましょう。
調理を工夫する
同じ料理でも、調理方法や市販されている物で味付けが変わってきます。
食欲のない高齢者には、調理を工夫する必要があります。
好みの味にする
高齢者の食事は塩分の摂りすぎに注意したり、濃い味を控えめにする必要がありますが、食欲不振の場合は、まず食べることが優先なので、本人の好みの味で料理を提供しましょう。
その場合、ネギやショウガなどの薬味を使ったり、出汁などを使えば、塩分を抑えたままでアクセントのある味付けができます。
また、最近ではレトルトタイプの介護食が売られているので、こういったものを活用してみてもよいでしょう。
レトルトタイプの介護食は、介護状態や制限食などに合わせて、いろいろなタイプの物が売られています。
また、最近ではホームセンターやスーパー、コンビニエンスストアなどでも取り扱っているので、手軽に買うことができます。
盛り付けに彩りを加える
料理に限らず人は「見た目」で判断することがあるので、料理の「見た目」にも気を配りましょう。
料理を盛り付ける際に、カラフルな色の具材を使ったり、おしゃれなお皿に盛ることで、彩りが良くなり「美味しそう」と感じ食欲を刺激します。
また、大皿に盛られた料理は「こんなに食べられない」と食欲を減退させてしまうことがあるので、はじめから小分けで提供したり、ワンプレートで提供しましょう。
料理を軟らかく・飲み込みやすいようにする
料理は、下ごしらえのひと手間や、加熱時間、とろみなど調理方法の工夫次第で、とても軟らかくなります。
さらに、柔らかい食材には、煮込み料理などで出汁を取ることができるため、風味や旨味が増して、食欲を刺激する効果が期待できます。
高齢者には、なるべく食べやすく、飲み込みやすくすることで、食事が楽しくなりストレスの解消や食欲の増進につながります。
食事の美味しい介護施設を利用する
家庭で美味しく、食欲を高められるような食事を提供することが難しいと感じる場合は、介護施設のデイサービスなどを利用することも一つの手でしょう。
ココファンの介護施設は、多くの利用者の方から「食事が非常に美味しい」と高い評判を得ています。
和食を中心に管理栄養士監修の栄養バランスの取れた食事を、朝・昼・夕それぞれでご用意しています。
また、1食から注文することができますので、たまに出前を頼むなど、自由に食事サービスを利用することが可能です。
近くのココファンの介護施設を探してみる!食事介助のポイント
高齢者にとって、食事は1日の生活の中で、楽しみの一つです。
その食事を、安全に楽しむためのポイントをご紹介します。
正しい姿勢で食べる
安全で楽しく食事をするためには、正しい姿勢で食べることが必要です。
姿勢が正しくないと、誤飲の原因になったり、食事に集中できないために食べこぼしの原因にもなります。
ここで正しい姿勢についてご説明します。
座位が保てる場合
食事の時間中、いすに座っていることができる(座位が保てる)場合は、深く座り、背中を伸ばして、顎をやや引いた状態で食べましょう。
椅子の高さは、座ったときに足が床にしっかり着く高さにしましょう。
また、テーブルの高さは、腕を載せたときに肘が90度に曲がる程度が良いでしょう。
座位が保てない場合
加齢で背中が曲がったり、筋力が落ちて座っていられない(座位が保てない)場合は、ベッドで寝て食事をとる方が安全です。
ベッドで食事を摂る場合は、リクライニング機能を使って適切な斜度で安定させましょう。
また、ベッドで食事をするときのポイントとして、首を少し前に曲げて、クッションなどを挟むことで、背中と後頭部がまっすぐにならず、体が安定します。
健康状態を観察する
家族や介護者にとって、食事は食べさせるだけでなく、その日の健康状態を観察する場面でもあります。
食事中、元気がなかったり、食べ残したり、ぼーっとして食事が進んでいなかったり、いつもと様子が違うのは、病気のサインかもしれません。
また、食事に集中していないときは、食べこぼしたり、誤嚥を起こしていまうことがります。
病気などをしたときに、普段の経過をしっかり把握できていれば、迅速な治療に結びつけることができます。
食事の様子で変わったことがあれば、できるだけ具体的に記録を残しておきましょう。
食事が進んでいないときは、観察しながら時には声をかけて、食事が進むようにしましょう。
食事に集中させる
食事中にテレビに夢中になったり、ラジオを聞き入ってしまっては、食べるスピードが落ちるだけでなく、食べこぼしや誤嚥、逆流の原因になります。
食事中は、気が散らないようにテレビやラジオは消しましょう。
また、食事中に家族や介護者が食事の準備や片付けなどで、ドタバタ動き回っているのも集中できなくなる原因になります。
家族や介護者は「忙しい」、「やることがいっぱいある」と思いますが、食事の時間は一緒に座るるなど、集中しやすい環境を作るようにしましょう。
食事の介助をする場合は、安全のために口に入れる量は少なめにしましょう。また、食べる間隔は、飲み込んで口の中に食べ物が残っていないことを確認してからにしましょう。
口内メンテナンスをする
食後はしっかり歯を磨くなど口内メンテナンスを行いましょう。
ひとり暮らしなどで「なかなか自分一人ではうまく歯が磨けない」、「歯の裏側などしっかり磨けているか心配」という場合は、歯医者に相談してみましょう。
最近では、訪問診療をしている歯医者が増えているので、足腰に不安がある場合は訪問歯科を利用するといいでしょう。
口内メンテナスが疎かになり、口内炎などを発症してしまうと、食事が進まなくなってしまいます。また、虫歯や嚙み合わせが悪くなると、食欲がなくなってしまいます。
歯や歯茎、入れ歯(義歯)は、清潔を保つようにしましょう。
高齢者の孤食の問題
高齢者の食事に関する問題のひとつに「孤食」があります。
孤食は、ひとり暮らしの高齢者に限らず、日中ひとりになる高齢者や、家族がいても家族との時間が合わずに一人で食べる高齢者もいます。
高齢者の孤食はいろいろなリスクが潜んでおり、決して無視できないものです。
4人に1人が孤食
農林水産省の「食育に関する意識調査報告書」によると、70代女性の4人に1人が毎日ひとりで食事をしています。
また、同報告書では、ひとりで食べることについて、「一人で食べたくないが、一緒に食べる相手がいない」が約31%となっています。
孤食は、少子高齢化、独居世帯の増加などにより生まれた社会問題のひとつです。
孤食のリスク
孤食は「寂しい」、「食事がつまらない」だけでなく、じつは、健康を害してしまうリスクにつながってしまいます。
孤食が引き起こすリスクについてご説明します。
- 食事の手間が面倒になり、簡素な食事で済ませたり欠食する。
- 同じようなメニューで、栄養バランスの偏り、低栄養状態、肥満になりやすい。
- 会話がなく、脳やからだへの刺激が減るので、食欲不振やうつを発症しやすくなる。
共食でリスク回避
孤食は様々なリスクがあるので、誰かと一緒にご飯を食べる「共食」が推奨されています。
農林水産省の発表によると、共食をしている人は、孤食の人に比べて、
- 会話の機会がある
- 野菜摂取量や果物の摂取機会が多い
- 健康に気を使った食事を意識している
といった違いがでています。
しかし、独居世帯や日中一人で暮らしている高齢者が増え、一緒に食べる相手がいないという社会的要因は変えることができません。
そこで、共食に向けた取り組み事例をご紹介します。
家族での取り組み
若い世代と同居していても、学校や仕事などで食事の時間が合わず、家族同士で食事をする機会が減っています。
毎日は無理としても、週に数回、夕食を家族でとれるようにしてみましょう。
地域での取り組み
厚生労働省が掲げている「地域包括システム」の構築の一環として、行政機関や社会福祉協議会などが、地域での交流の場づくりを行っています。
最近では、体操教室やサロン活動、定期的な食事会などを開催をしている地域が増えています。
ぜひ、こういった地域の交流の場を積極的に活用してみましょう。
地域活動について知りたい場合は、市区町村の高齢者支援の窓口か、地域包括支援センターに問い合わせてください。
これを機に、家族や地域の仲間と共食をはじめてみましょう。
高齢者の食事で注意すべきポイントについてまとめ
- 高齢者は身体的機能が落ちたり孤食の影響で栄養が偏りやすい
- 高齢者の食事は具材の下ごしらえや調理方法や提供方法を工夫して食べやすくする
- 孤食には様々なリスクがあるので出来るだけ共食するようにする
高齢者は、噛む力など身体的機能が衰えることで、食べにくい物や飲み込みにくい物があります。また、ひとりで食事をする孤食が増えたため、同じ物を食べたり、簡素に済ませがちになります。
さらに、循環器機能の衰えや運動量の減少、悩み事などにより、食欲不振になりがちです。これらの要因により、食事が偏ってしまい、栄養バランスを崩してしまうことがあります。
栄養バランスを崩すと、低栄養状態となり、様々な病気を発症する原因になります。
高齢者へ食事を提供する場合は、具材の下ごしらえの際に切り目などを入れたり、ゆで時間を長くするなど調理方法を工夫し、食べやすくする必要があります。
また、食事の提供方法も、盛り付け方や、場所、時間、座り方など、食事が安全で楽しくなるための環境設定にも注意や工夫が必要です。
70歳代女性の4人に1が孤食です。孤食はいろいろなリスクを伴うので、家族や仲間などと共食するようにしましょう。
食事は、健康のためだけでなく、高齢者のQOL(生活の質)の向上のためにも、美味しく、楽しくするようにしましょう。
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)