【専門家監修】褥瘡(床ずれ)のケア方法は?在宅での処置や治療・予防法を徹底解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「自宅で介護している母のお尻が赤くなってきている。もしかしたら床ずれなのかも」 「褥瘡の処置をするように医師に言われたけれど、自分で行って大丈夫なの?」 自宅で介護を行う中で、床ずれ(褥瘡)についてこのように悩んでいる方は多いのではないでしょうか。 この記事では、褥瘡の予防法や対策についてわかりやすく説明しています。

褥瘡のケア方法についてざっくり説明すると
  • 圧迫とズレを予防する
  • 皮膚を清潔に保つ
  • 適切な処置を継続的に行う必要がある

褥瘡(床ずれ)とは?

褥瘡(じょくそう)とは、一般的に「床ずれ」と呼ばれ、皮膚の圧迫による血流の低下が原因でおこります。 同じ体勢で過ごすことが多い方が、体重で圧迫されている部分の皮膚に赤みが出たりただれや傷を生じている場合、床ずれが疑われます。 また、汗や失禁で皮膚が汚染されているような湿潤環境や、摩擦やズレといった圧力の刺激も褥瘡を発生させる原因となります。 そのため床ずれは、寝たきりで失禁がみられ、おむつを常に着用している介護が必要な高齢者に発生するリスクが高いとされています。 しかしながら、普段は元気な高齢者が、風邪で寝込んだり、下痢などで数日間失禁が続いただけでも褥瘡が発生することもあります。

褥瘡は仙骨部にできやすい

褥瘡ができやすい部位

褥瘡は、体重で圧迫されて血流が低下している部分に生じやすい皮膚トラブルです。そのため、皮膚の外側から骨のゴツゴツとした感触に触れることができる骨突出部は褥瘡の好発部位とされます。 仰向けに寝ていることが多い方は、おしりの中央にある骨の飛び出した仙骨部にもっとも圧力がかかりやすく、仙骨部に褥瘡が発生しやすいとされています。 また、同じように圧迫による血流低下の影響を受けやすい後頭部や肩甲骨部、かかとにも褥瘡はできやすいです。 寝たきりの方には、これらの骨突出部の皮膚に変化がないか、日々観察する必要があります。

褥瘡の原因は?

褥瘡の原因

褥瘡は、皮膚の同じ部分への圧迫が長時間持続することでおこることは説明しました。 その他にも栄養状態や体格、介護力の不足といったさまざまな原因で褥瘡が生じるリスクは高まります。 ベッドのマットや車いすの座面の硬さが適切でないことによっても、必要以上に圧力がかかる恐れがあります。 褥瘡が生じる原因について詳しく解説します。

皮膚における原因

褥瘡ができる仕組み

皮膚が汗や失禁などで汚染されていると、褥瘡は発生しやすくなります。 高齢者の方の皮膚は加齢によって、水分を保持しにくく乾燥しやすくなっており、弾力性が失われて弱くなっています。 乾燥や薄くなった皮膚は、摩擦やずれといった刺激によって皮膚の中の血管が引き伸ばされやすく、そこに圧力が加わり続けることによって血液の流れが悪くなるため、褥瘡が発生してしまいます。

全身における原因

療養者の全身状態は褥瘡の発生に大きく影響します。 例えば、食欲が低下していてやせていたり栄養状態が悪いと骨突出がおこりやすく、圧迫部分に褥瘡ができやすくなります。 糖尿病や心不全などで全身の血流が悪い方や、むくみがある場合も、皮膚がもろくなっているため褥瘡の原因となります。

社会的な原因

自分で体を動かすことができる人は、無意識のうちに体を動かしたり、寝返りをうつことで、同じ部分に長時間の圧迫がかからないようにしています。 一方で、寝たきりなどで自分で体を動かすことができない人は、自分で体位を変えることができずに皮膚の同じ部分に長時間の圧迫がかかりやすくなります。 介護力の不足により、適切なタイミングでの体位変換が行われないことも、褥瘡発生の原因の一つです。また、介護者の知識や技術不足によって、過度なズレや圧迫が加わることも皮膚に負担をかけてしまい、褥瘡ができやすくなります。 参考文献:日本褥瘡学会学会 褥瘡予防管理ガイドライン(第4判)

褥瘡のケア・処置

症状によって異なる褥瘡のケアと対策について詳しく解説します。

軽症の場合 stage 1

軽症の褥瘡とは、圧迫を取り除いても消えない皮膚の赤みを言います。皮膚の赤くなった部分を指で押してみて、そこが白くならずに赤いままであれば軽度の褥瘡と考えていいでしょう。 このような軽症の褥瘡には、清潔で潤った皮膚状態を保つことと、圧を逃がすケアが有効です。毎日洗浄して清潔を保ち、保湿剤を塗布してこまめな体位変換で圧迫を避けることを心がけましょう。フィルム貼付を行うことも多いです。

中等症以上の場合 stage 2-4

壊死組織や感染を伴ったり、治りにくく毎日の処置が必要な場合、その褥瘡は進行しているといえるでしょう。 褥瘡が悪化して、皮膚の組織が壊死してしまった場合には、医師がメスなどを使用して壊死組織を取り除くデブリードマンという処置が行われます。 デブリードマンは医療機関で行うこともありますが、壊死組織の状態によっては出血や疼痛を最小限に処置を行うことが可能なため、在宅で実施されることも珍しくありません。また、局所を超えた感染兆候がみられる褥瘡に対しては、抗生剤の処方が行われます。 中等症以上の褥瘡も軽症と同様に、清潔な皮膚状態の保持の他、適切な薬剤の使用が行われます。

褥瘡の治療方法・流れ

褥瘡処置の手順について紹介します。ただし、処置の方法は症状によって変わりますので、医師や看護師への確認も大切です。

準備するもの

準備するものの例をご紹介します。必要な物品は1ヵ所にまとめておきましょう。

  • 薬剤
  • 褥瘡を保護する被覆材
  • 使い捨てプラスチック手袋
  • 処置用のシーツ
  • テープ
  • 人肌の温度のお湯を入れた洗浄ボトル(ペットボトルの空容器など)、霧吹き
  • ガーゼ、ティッシュペーパー
  • おむつ、尿取りパッド
  • ゴミ袋
  • 不織布またはタオル
  • 石けん、洗浄剤
  • 水をはじくクリーム、オイルなど
  • プラスチックスプーン
  • はさみ

手順1 患者さんの体勢を整える

褥瘡の創部が見えるように枕などを膝や腹部に入れて姿勢を安定させて、両手で処置ができるように体勢を整えます。 体と密着させるようにおむつや尿取りパッドなどを敷き、下着や寝具の汚れを予防しましょう。また、毎日同じ向きで処置をしていると、創部やその周辺の皮膚をきちんと観察できないことがあります。数日に1回は違う体位で観察と処置を行うようにしましょう。

手順2 患部を洗浄する

汚れた手で処置を行うと傷から細菌が入ることがあります。必ず手洗いで手を清潔にしてから使い捨て手袋をつけ、処置を始めましょう。 まず褥瘡を覆っているテープ類をはがします。テープは、皮膚に負担をかけないようにゆっくりと丁寧にはがしましょう。 ガーゼが傷にくっついている場合は、お湯や泡立てた石鹸をつけながらゆっくりと取り除きます。無理に引きはがさないように気をつけてください。 次に褥瘡の周囲の皮膚に洗浄剤を泡立ててやさしく洗います。その後、褥瘡を人肌程度の温度のぬるま湯で洗い、そのまわりの皮膚もなでるようにしっかりと洗い流します。

手順3 薬(軟膏など)を塗る

乾いた不織布やタオルなどでやさしくおさえるようにして水分をしっかりと拭きとります。こすらないように注意が必要です。 患部に指定された薬剤をぬり、被覆材で保護します。軟膏の塗る量や処置の回数は、医師や看護師に確認してください。 テープを貼るときには圧力がかからないよう、中央部を先に押さえた後、外側を押さえるようにして貼りましょう

手順4 体位変換など

褥瘡処置が終了したら、衣服を調整して体位を整えます。その際、褥瘡部分に圧力がかからないように枕やクッションなどを使用して患部が圧迫されないような工夫が必要です。 片付けをして布団をかける前に、ベッドの上にハサミや軟膏のチューブなどを置いたままにしていないかも必ず確認してください。ご本人に処置が終了したことを伝え、ねぎらいの言葉をかけましょう。

褥瘡の予防法

褥瘡は、一度発生してしまうと治りにくく、さらに悪化してしまうリスクもあります。そのためなるべく褥瘡が発生しないよう、予防対策が必要です。

定期的に体位変換する・正しい姿勢を保持する

褥瘡を予防するためには、骨突出部への圧力がかかり過ぎないようにする必要があります。 同じ体勢で長時間過ごしていると、身体の一部に集中的に圧力が加わってしまいます。皮膚に負荷がかかる時間を短くして圧力を分散させた姿勢を保つことが重要です。 こまめな体位変換体圧防止寝具を利用して、体にかかる力を分散させましょう。

ベッドで過ごす場合

仰向けや横向きが交互になるよう、基本的には2時間を超えないようにからだの向きを変えることが理想的です。 仙骨部や骨盤の大転子部に発生する褥瘡を予防する体位として、30度側臥位というものがあります。この体位は、お尻の筋肉で体を支え、ベッドとの接触面積を広くし、かかる圧力を分散することが可能です。 ベッドを起こす際は、角度は30度までにするとズレの防止になるとされています。また、足を少しあげてから頭をあげることによって、仙骨部へのズレの刺激を和らげることができます。 寝ている間も、時折圧力を抜くように抱き起きしたり、背中や腰の下に手を入れて接触している皮膚をベッドから離す背抜きをすることもおすすめです。

座って過ごす場合

車いすなどに長時間座るときは、体圧分散機能のあるクッションを使用しましょう。 また、15分を目安にお尻を浮かせる座りなおしを行うと、圧力を逃がすことができます。車いすに乗っている時間は、長くても2時間くらいまでとし、15分以上横になる休憩をとるといいでしょう。 円座は痔がある方が、患部への接触を避けるためのクッションで、褥瘡の方には適切ではありません。円座を使用すると、円座と接触する皮膚の部分に圧力がかかりすぎでしまうため、使用は避けるようにしましょう。

褥瘡防止の寝具を使う

現在、褥瘡予防のためのさまざまな寝具が開発されています。 エアーマットレスや、ウレタンフォームマットレスなどのベッドマットをはじめ、車いす使用時の体圧分散クッションなど、利用者の状態にあわせて選択できます。エアーマットレスは、自動で体位変換を行う機能があるものも多くあり、介護力の不足が問題となっている在宅療養において、強い味方です。 自宅でこのような体圧分散寝具が必要な場合には、介護保険制度を利用することができる場合もあります。詳しくは医師や看護師、担当のケアマネジャーに相談してみるといいでしょう。

栄養が摂れるように工夫する

痩せている人には褥瘡発生のリスクが高いことはご紹介しましたが、食事の摂取量が少なく低栄養の方は、褥瘡ができやすく、治りにくいとされています。 褥瘡を予防するためには、その方が食べやすい食事の形態や姿勢などを検討して、食事がしやすい環境を整えることも大切です。 一般的に高齢者は摂取カロリーが少なくなる傾向にありますが、褥瘡治癒には治癒には30~35kcal/kgのカロリー摂取が望ましいとされています。 最近、多彩になった市販の介護食は、カロリーやたんぱく質の量が明記されていたり、やわらかく調理されているものが多く、少ない量でも、カロリーやたんぱく質を多く含むメニューを選択することができるため、このようなレトルト食品の活用もおすすめです。 また、工夫しても食事が摂れない場合には、主治医と相談して栄養補助食品の使用を検討してみましょう。

皮膚を清潔にしておく

皮膚が汚染されていると褥瘡ができやすくなります。 おむつで覆われている臀部や下腹部の皮膚は、排泄物や汗でムレやすい状態になっています。 ふやけた皮膚はバリア機能が低下していて、摩擦や圧力などの刺激によって傷つきやすくなってしまうのです。 清潔な皮膚を維持するためには少なくとも1日1回は洗浄しましょう。洗浄後は、しっかりと水分をふき取り、皮膚の乾燥を防ぐための保湿ケアを行うことも大切です。 保湿しつつ尿や便を弾いてくれる軟膏も数多く販売されています。

毎日観察する

褥瘡が発生しそうな皮膚の状況を早く発見して、予防ケアを行うことで、褥瘡に発展することを防ぐことができます。そのためにも、毎日皮膚の状況を観察することが大切です。 圧力がかかりやすい仙骨部や大転子部、かかとなどの骨突出部に赤みや熱っぽい様子がみられた場合は、褥瘡の初期症状の可能性があります。 また、皮膚が赤くなって押しても赤みが引かないときや、水ぶくれやただれ、浸出液がみられた場合には、すでに褥瘡になっている可能性も。皮膚の異常を見つけたら、すみやかに主治医や訪問看護師に相談するようにしましょう。

介護サービスを利用

褥瘡予防は大切ですが、介護をする家族にとっては大きな負担となりがちです。 家族が頑張りすぎないことも、介護を続けるためには大切です。訪問介護や短期入所施設などを上手に利用しましょう。 また、患者さんに合った耐圧分散寝具を使うことで不必要な圧力が体に加わることを防止することができます。 介護用ベッドやマットは介護保険の要介護度によって、レンタルの可否が決まります。 褥瘡予防の福祉用具の利用を検討する場合は早めにケアマネジャーや訪問看護師に相談してください。

異常がある時には主治医や訪問看護師に相談

明らかに皮膚が赤い、ただれている、浸出液がみられるといった異常がみられた場合は、速やかに主治医や訪問看護師に報告してください。 毎日の介護を通して、家族がおむつ交換や着替えのときに皮膚トラブルをみつける事は少なくありません。 家族が感じる「言葉では表現しにくいけれど、なんとなくいつもよりもおしりが赤い気がする」「かかとが熱っぽい気がする」という感覚が、褥瘡の早期発見につながることも。 報告するか迷うようなささいな皮膚の変化でも、いつもと違うと感じたときには、主治医や訪問看護師などに相談するといいでしょう。

褥瘡は介護施設で受け入れてもらえる?

褥瘡があるからといって、介護施設の利用が制限されることはありません。 むしろ入浴介助を行っている通所のデイサービスなどでは、褥瘡の洗浄や、処置などの医療ケアを受けることも可能です。 デイサービスで入浴介助と褥瘡処置を行ってもらうことで、家族の介護負担を減らすことができます。 その他、体位変換や褥瘡部位に圧迫がかかりすぎないようなポジショニングなどといったケアも介護職員が実施してくれます。 褥瘡の管理に尽力している特別養護老人ホームや介護老人保険施設では、介護保険の「褥瘡マネジメント加算」を算定しています。 そのような施設では褥瘡ケアへの対応が期待できますので、施設の利用を検討するときに参考にしてみるといいでしょう。 褥瘡の方の対応が可能な施設一覧

褥瘡のケア方法についてまとめ

褥瘡のケア方法ついてまとめ
  • 皮膚を清潔に保ち、圧迫やズレを予防する
  • 観察や適切な処置を継続的に行う必要がある
  • 家族の負担が多くなり過ぎないようなサービスの利用を

褥瘡ケアについて紹介しました。 褥瘡は、一度発生してしまうと長期間にわたるケアが必要になるため、予防や早期発見が重要です。 そしてもし褥瘡が発生してしまった場合には、ご家族だけでケアを行うのではなく、主治医や訪問看護師に相談し、介護保険サービスによるサポートを受けながらケアに取り組んでください

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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