【医師監修】BPSD(行動・心理症状)とは?中核症状と周辺症状の違いや対応方法を解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「BPSDって、どのような症状が出るの?」

「周辺症状や行動心理症状って、どのような意味?」

このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?

認知症には中核症状と行動心理症状があり、多弁や異常行動など様々な問題に直面します。

同じ認知症の症状であることには変わりありませんが、症状に違いがあるので中核症状と行動心理症状について知っておくことは重要です。

こちらの記事では、中核症状と周辺症状の違いなど、認知症の諸症状や言葉の意味について解説していきますので、参考にしてください。

BPSDについてざっくり説明すると
  • 認知症は中核症状と周辺症状(BPSD)に大別される
  • 中核症状と周辺症状では、現れる症状に違いがある
  • 睡眠や排泄に関するトラブルなど、様々な問題に直面する
  • 多弁や奇声など、精神的なトラブルも多い

BPSD(行動心理症状)の意味は?

BPSD(行動心理症状)とは、記憶障害や見当識障害といった認知症の中核症状に随伴して見られる行動や心理症状を指しており、強い不安・混乱・自尊心の低下をもたらします。

なお、本人に悪気はなく「その場の環境に適応しよう」と模索した結果、様々な問題が起こってしまっています。

本人の症状を理解し、適切なケアを行うことで行動心理症状が軽減したり消失する可能性があるので、ケア方法について知っておくことは非常に重要です。

「行動心理症状が出ているから適切なケアがされていない」というわけではないので、もし症状が出ていても介護者は自身を責める必要はありません。

認知症の症状は中核症状と周辺症状の二種類

中核症状と周辺症状全て

認知症の症状には、中核症状と行動心理症状(周辺症状)の2種類に大別されますが、この周辺症状がBPSDと呼ばれることがあります。

中核症状とは、脳の神経細胞が障害を起こすことによって発症する認知機能障害で、具体的には「新しいことが覚えられない」「日付や場所が理解できない」などの症状が出てきます。

認知症の初期段階から、ほぼ全ての人に認められる点が特徴です。

周辺症状は、環境要因・身体要因・心理要因などの様々や要因が絡み合った結果として生じる精神症状や行動障害を指しているので、中核症状とは微妙に違うことが分かるでしょう。

中核症状とその進行

それでは、中核症状の内容について詳しく説明していきます。

記憶障害

記憶障害とは、自分の体験した出来事や過去についての記憶が欠落してしまう障害です。

具体的には、

  • 様々なものを置き忘れる
  • 片付けたことを忘れ、常に探し物をしている
  • ついさっき話した人の名前を忘れる
  • 新しいことが覚えられない(記銘力障害)
  • 物の名前を思い出せない(健忘性失語)

以上のような症状が見られます。

単なるボケなのか記憶障害なのかは簡単に判断するのは難しいので、不安がある場合は医療機関を受診しましょう。

実行機能障害

実行機能障害とは、計画を立てて順序よく物事を遂行する能力が失われてしまうことを指します。

具体的には、

  • 料理の手順が分からなくなり味付けが変わる
  • リモコンなどの電化製品の使い方が分からない
  • 生活のルーティンが変わる

以上のような言動が目立つようになります。

見当識障害

見当識とは時間や年月日などの時間の認識や場所などの、自分が置かれている状況を把握する力を指します。

また、自分と他人との関係性の把握も見当識に含まれますが見当識障害とはこれらの力が失われてしまうことを指します。

  • 今が何時なのか分からない
  • 約束の時間を守れない
  • 予定通りに行動できない
  • 今日が何月何日なのか分からない
  • 自分は何歳なのか分からない
  • 季節外れの服装をする

以上のような行動が目立ってきたら、見当識障害を起こしている可能性が高いです。

失語(言語障害)

失語とは言葉の理解や表出が難しくなることで、言葉が「音」として聞こえていても、言葉のニュアンスや話を理解できない状況を指します。

自分の考えを言葉として表現したり、相手に伝わるように話すことが難しくなってしまうので、コミュニケーションに苦労してしまうでしょう。

【医師監修】失語症ってどんな病気?症状や原因リハビリ方法までイラスト付きで紹介!

失行

失行とは「お茶を入れる」「服を着る」「食器を使ってご飯を食べる」などの、日常的に行っていた動作や物の操作ができなくなることを指します。

運動機能の障害を起こしているわけでは無いにも関わらず、以上のような言動を目にしたら中核症状が出ていると考えられます。

失認

失認とは、自分の身体の状態や自分と物との位置関係などを認識することが難しくなる症状です。

失認が起きると、自分の体調に異常気付くことができず、場合によっては非常に危険です。

半側空間失認では、自分の身体の半分の空間が認識できないため「御飯を半側だけ残す」「片方の腕の袖を通し忘れる」などの言動が見られるようになります。

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主なBPSDの症状と対処法

BPSDは、本人の性格や生活環境だけでなく日常的に関係のある人との関係などによって症状の現れ方が異なるので個人差が大きい点が特徴です。

BPSDが起きてしまうと、一般的に介護者の心的疲労や身体的疲労に繋がりやすくなるので、近年は大きな問題として取り上げられる事も増えています。

妄想・幻覚と関連するトラブル

被害妄想・物取られ妄想

被害妄想2つ

認知症の代表的な症状に「妄想」がありますが、東京都の調べによると認知症発症者の約15%は妄想症状が出ています。

なお、妄想の多くは自分が被害を受けたと思い込んでしまう「被害妄想」で、置き忘れた財布やお金を周囲の人に盗られたと主張する「もの盗られ妄想」は頻繁に見られます。

なお、被害妄想は家族から「役に立たない」と思われることを恐れるが故に起こるもので、自身の正当性を主張するために物盗られ妄想へ繋がっています。

被害妄想の他にも「理不尽な対応をされた」などの被害妄想、「配偶者が浮気をしている」などの嫉妬妄想も見られます。

幻覚

幻視や幻覚はレビー小体型認知症でよく見られる症状で、本来は無いものが見えている状態です。

レビー小体認知症の場合、認知機能の低下よりも空間認識や視覚機能の低下が顕著なので、本人が「見えている」と信じているものを否定するのはよくありません。

否定されると本人は落ち込んだり傷付いてしまうので、介護者は否定することなく適当に話を合わせて対応することを意識しましょう。

お金に執着する

記憶障害が起きて「大切なことを忘れてしまう」という意識が強くなると、お金に対して特に警戒するようになります。

その結果、財布や通帳などをしまった場所を忘れてしまい騒ぎ出す「物盗られ妄想」に繋がるケースもよく見られます。

お金に執着している場合には、本人の気持ちを否定することなく、まずは話をじっくりと聞くことが重要です。

また、物盗られ妄想が始まった場合は一緒に探してあげて、孤独感を感じないようにしてあげましょう。

見当識障害と関連したトラブル

帰宅願望

徘徊の原因の一つに「帰宅願望」がありますが、この帰宅願望は自分が置かれている状況や場所が分からない不安が根本にあります。

じっくりと話すことで本人が納得する場合もあるので、症状の進行具合を見ながらアプローチを変えていきましょう。

ただ、認知症が進行してしまうと理解力が無くなり説得が意味を成さないので、別のアプローチを考えなければなりません。

例えば、「送っていきますね」と言って一旦一緒に外出して帰宅したり「今日は遅いので泊まっていきませんか?」と提案するなど、本人が納得できるまで付き合う方法があります。

徘徊(外出時の道迷いや行方不明)

徘徊対策

場所の見当識障害が進むにつれて、場所の認識能力が失われていきます。

症状が進むと、外出時に道に迷うだけではなく自宅や施設などの普段見慣れているはずの場所でも徘徊するようになります。

これは、見当識障害により「ここは初めての場所である」と認識しているため、「ここがどこか確かめたい」「家に帰らなければ」という心理が引き起こしてしまっています。

つまり、本人にとっては真っ当な理由があるため、無理に引き留めるのは逆効果となってしまうことが多いです。

不安・抑うつ

認知機能障害によって以前までできていた日常生活の動作ができなくなってくると、気分が落ち込み抑うつ状態になることも少なくありません。

抑うつ状態になると悲観的な気持ちになるケースが多いですが、認知症による抑うつは物事に対して「無関心」に陥りやすい特徴があります。

対策としては、まずストレス要因を把握した上で軽減することが大切です。

また、介護者も落ち着いてゆっくりと話をするようにし、要介護者にとって居心地の良い空間を作ることを意識しましょう。

収集癖がある

ゴミ屋敷にいるおばさん

様々な物を収集してしまう癖もよく見られますが、これは周囲の人から注目されたい場合や不安感を満たしたい感情に起因しています。

また、他人から見ると価値のないものやゴミに見えるものでも、本人は「貴重なもの」だと思い込んで保管しています。

自身が集めていたものが無くなると「家の中に泥棒がいる!」と不安を感じてしまうこともあるので、不衛生な物や危険な物でない限りは勝手に捨てたり片付けたりするのはやめましょう。

「物が無くなることに対して不安感を感じている」ケースで、保管場所を物で一杯にしてみたところ収集癖が治ったという事例もあります。

このように、本人の行動を観察して集めている理由を把握した上で、適切な対応を考えていきましょう。

対人関係におけるトラブル

興奮や暴力・暴言

暴力・暴言の対応

BPSDでは、感情をコントロールする脳の前頭葉が委縮したり、脳の疲れやすさが起因して初期から「感情が抑えにくい」という症状が目立ちます。

そのため、興奮状態に陥りやすく、暴力や暴言に悩まされている介護者は多くいるのが実情です。

本人にとって、理解が困難な状況に置かれたり「尊厳が傷つけられた」と感じる対応をされると、このような症状が強く表れがちなので要注意です。

暴言や暴力を防ぐためには「なぜ本人が怒っているのか」を把握する必要があり、本人が暴言を発したタイミングや状況や暴力を起こした引き金になるものを振り返って対策を考えていきましょう。

【専門家監修】認知症による暴言・暴力の対応方法|原因や改善する方法についても解説

怒りやすくなる、大声・奇声をあげる

認知障害が起きると精神的に不安定になりがちで、奇声や大声を上げる機会も増えがちです。

自分の気持ちや身体の不調を上手く伝えられずにイライラしたり不安が募ることも少なくなく、介護者や家族に対して攻撃的になってしまうケースは多くあります。

大声や奇声を発したり、攻撃的な言動が目立つようになったら「症状が出ている」と考えてください。

なお、大声や奇声を挙げている場合は、

  • 介護者を変えてみる
  • 落ち着ける環境に移動する
  • 体調に異常がないか確認する
  • 本人が置かれている環境などを見直してみる

以上のことを試してみることをおすすめします。

無反応・無為(アパシー)

認知症が進むと、周囲のことだけでなく自分自身の身の回りのことに関しても無関心になります。

このように、活力を失い無気力で何もする気が起きない状態を「無為・無反応(アパシー)」と呼びますが、自立した生活の大きな妨げになってしまうので要注意です。

高齢者にアパシーの症状が見られる場合、生活習慣が乱れたり怠惰になるなどの症状が見られるので、介護者は適宜サポートする必要があります。

介護者はできるだけ規則正しい生活を送るようにエスコートすることが重要で、定期的に外出して気分転換を図るなど、本人が心身ともに健康的な日々を送れるようにしましょう。

アパシーには認知症治療薬の投薬による効果が認められていますが、人によっては副作用を起こすこともあるので、かかりつけ医に相談した上で服薬治療を行うかは判断しましょう。

作り話や嘘をつく

認知症の方はよく作り話をしてしまうことがありますが、これは記憶が不明確であったり過去の不要な情報が頭に残っていたりすることが原因です。

つまり、断片的に記憶が残っているのは確かなので、本人にとって悪気はありません。

頭の中に残っている断片的な情報を繋ぎ合わせて話したことが、周囲からは嘘をついているように見られるので、真実とは異なる話をしていても介護者は話を最後まで聞くなど優しく接してあげましょう。

認知症であることを知らない人や事情を知らない人が聞くと、誤解されたり悪い噂を流されてしまう可能性もあるので、日頃から近所の人を含めて事情を伝えておくと安心です。

性的異常行為

認知症の問題行動の一つに性的異常行為が見られますが、具体的には「卑猥なことを話す」「異性の身体を触る」などの行動が認知症中期で現れるようになります。

性的異常行為に及んでしまう原因には「自尊心を保つため」「家族から疎まれているような気がするので、もっと愛されたい」という感情が根本にあります。

介護者が性的異常行為を受けると戸惑ってしまいますが、対策としては普段から手を握るなどの軽いスキンシップを取るなどして、本人が落ち着けるように心掛けましょう。

また、いざ性的異常行為に及んだ際にはきちんと注意をして、他のことに注意を向けるように工夫しましょう。

介護拒否

本人にとって理解が困難な状況に置かれたり、尊厳が傷つけられたと感じると介護拒否をする患者がいるので、対策を考えておく必要があります。

介護拒否をされると介護が進まなくなってしまいますが、対策としては視点を変えて様々なアプローチをしてみる必要があります。

介護を受ける側もする側も無理をしないことが大切であり、まずは「本人の意思を尊重する」ことから試してみましょう。

何らかの拒否を受けてしまったとしても、重大な生命や生活への危険がない限りは焦って対策する必要はありません。

服薬拒否

介護拒否と同じく、服薬拒否も大きな問題です。

服薬は治療を進める上で非常に重要なので、服薬を拒否されてしまうと介護者の大きなストレスとなるでしょう。

このように、服薬拒否は根深いことが多いですが、無理に服薬させようすると本人が「毒を盛られている」という妄想に繋がってしまうケースもあります。

何とか服薬させるために薬を飲食物に混ぜる手段もありますが、本人に知られた場合に信頼関係を大きく損なうことにもなり、食事拒否に発展するリスクがあります。

信頼関係が壊れると介護が成立しなくなるので、介護者側の都合で安易に薬を食事に混ぜ込むことで問題解決を目指すのは危険です。

医師・介護職・薬剤師をはじめとした様々な専門職の力を借りながら注意深く対応していきましょう。

トイレ拒否

認知症が進むと尿意や便意を感じづらくなる上に、トイレの介助を受けることに恥ずかしさを感じる方は多くいます。

また、見当識障害が進むとトイレの場所が分からなくなってしまうこともあるので排泄に関するトラブルに見舞われがちです。

トイレの介助が必要になり排泄の際にサポートを受けることは羞恥心があり、尊厳が傷付くのは当たり前のことです。

本人の気持ちや感情に配慮した上で、介護職の方などのサポートを受けつつ適切な支援や言葉かけをしていきましょう。

また、排泄を失敗してしまったとしても、本人の感情に配慮して明るく振る舞うことも重要です。

外出拒否

認知症が進むと、出かける意味や理由が理解できなくなり外出拒否に繋がるケースが多くあります。

デイサービスやショートステイなどを利用している方にとって、この外出拒否は大きな障害となるので、外出できるようにサポートする必要があるでしょう。

しかし、外出したデイサービスなどのレクリエーションに参加したり、身体を動かすことは少しでも自立した生活を営む上で非常に重要です。

外出先に馴染めないことが原因で外出拒否をしている場合であれば、環境を変えたり本人の希望を聞くなどして、できる範囲で対応していきましょう。

入浴拒否

入浴を見られることに対して羞恥心を感じて、入浴拒否をしてしまうケースも多く見られます。

また、そもそも入浴を不要だと思っていたり衣服の着脱ができないことが起因して入浴を拒否してしまうこともあるので、要介護者の様子を見ながら対応を考えましょう。

衛生的にも健康的にも入浴することは非常に重要なので、本人の心情を理解した上で入浴に前向きになれるように工夫することが重要です。

「シャワーだけ浴びたい」「ゆっくり入浴したい」など、本人から希望を聞いた上で心理的な抵抗感を和らげていきましょう。

着替え拒否

着替えも入浴と同じくプライベートなものなので、着替えを手伝ってもらうことに心理的な抵抗感を覚える方は多くいます。

また、人によっては「自分が子ども扱いされている」と感じてしまい、悲しくなったり虚しくなってしまうことも少なくありません。

他にも、着替え方が分からなかったり、身体的な問題から着替え拒否をしてしまっていることもあるので、本人がなぜ着替え拒否をしてしているのか考えてみましょう。

言葉遣いなどに注意しつつ、本人の自尊心にも配慮した上で必要な介助をすることが大切です。

同じ話を繰り返す(多弁)

多弁とは、同じ話を何度も繰り返してしまう症状を指します。

認知症には同じ話を繰り返す多弁な方が多くいますが、ついつい適当にあしらってしまいがちです。

しかし、「何度も聞きましたよ」などと邪険な扱いをしたりしてしまうと、本人は傷付いてしまい「大切にされていない」と考えてしまう恐れがあります。

同じ話を聞くのはストレスになりますが、このような場合でも初めて聞いた話のように、相槌を打ちながら聞いてあげると良いでしょう。

多動

認知症の中でも、40~64歳で発症する初老期認知症として知られているのが「前頭側頭型認知症」です。

その前頭側頭型認知症の行動心理症状として挙げられるのが多動で、常に同じ行動を繰り返すことが特徴的な症状です。

例えば、全体的に落ち着きがなく同じコースを歩き回る周徊(しゅうかい)や、同じ時刻に同じ行動を繰り返す「時刻表的生活」などが挙げられます。

無理にやめさせようとしても逆効果になることが多いので、逆に受け入れてこれらの行動をあえて日々の介護に取り込むことがおすすめです。

睡眠に関するトラブル

認知症と睡眠に関するトラブルは密接に繋がっています。

睡眠障害

睡眠障害には、寝つきが悪くなる「入眠障害」、睡眠中に目が覚めてしまう「中途覚醒」、早朝に目が覚める「早朝覚醒」などがあります。

いずれの障害も生活リズムを整える「体内時計」の機能が低下することで起こるもので、認知症罹患者に多く見られる症状です。

体内時計を整えるためには、日常生活の活動サイクルを規則正しくして、日中の活動量を増やして夜に入眠しやすくすることが重要です。

さらに、寝る前に足湯に浸かり心身をリラックスさせてから寝床に入ってもらうのもおすすめです。

また、眠くなる副作用がある薬もあるので、普段服薬している方であれば薬の飲み方にも注意し、処方通りの服用時間を守るように心掛けてください。

夜間せん妄

せん妄とは、意識障害が起きて脳や精神が混乱した状態を指します。

時間や場所が分からなくなるケースや、心が興奮して落ち着かなくなるケースが代表的です。

以上のせん妄状態が夕方~夜間にかけて起こるのが「夜間せん妄」で、夜間せん妄が起きると介護者の負担が重くなってしまうので要注意です。

興奮や幻覚などのせん妄症状が見られる場合、無理に言動や行動を押し留めようとすると症状が悪化してしまうこともあるので、強引にアプローチするのは良くありません。

夜中などの周囲が暗い時間帯では、自分が置かれている環境の把握が難しいので、不安感や恐怖感を強く感じて混乱が強まりがちです。

そこで、部屋を明るくしたり介護者が隣でじっくり話を聞いてあげると、徐々に平穏を取り戻して安心できると言われています。

排泄に関するトラブル

排泄に関するトラブルと認知症患者ではよく見られるので、対処法について知っておきましょう。

不潔行為(弄便など)

弄便(ろうべん)などの不潔行為は認知症患者によく見られる言動で、この事態に直面すると介護者もついつい怒ったり叱責してしまいがちです。

不潔行為は失禁やおむつの違和感などが原因と言われていますが、明確な原因は分かっていません。

また、トイレで失敗してしまった恥ずかしさから、その失敗を隠そうとした結果として不潔行為に及んでしまうことがあるので、適切な介助をすることが重要と言えるでしょう。

これらの対応としては、介護者が先回りしてトイレに誘うなど排便をコントロールしたり、場合によってはポータブルトイレを設置して家庭環境の面から改善も検討するのも良いでしょう。

失禁・トイレの失敗

トイレを失敗してしまった際の後処理は大変ですが、本人としても精神的なダメージが大きいので、責めるのはいけません。

介護者から叱責しまうと、さらに本人の自尊心を傷つけてしまい、その結果として排泄の失敗を隠そうとして弄便に及んでしまうこととあります。

そのため、トイレを失敗してしまっても怒ったり叱ったりせず、本人が前向きに取り組めるようにしてあげましょう。

なお、トイレの失敗には「トイレの場所が分からない」ことも原因として考えられるので、トイレまでの動線が分かりやすくしたりポータブルトイレを活用するなどして工夫を重ねてみてください。

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認知症の種類とそれぞれに多いBPSD

認知症には、3大認知症と呼ばれている3種類の認知症があります。

こちらのトピックで、3つの認知症の種類とその他の種類に特有の症状について解説していきます。

アルツハイマー型認知症に特有の症状

認知症患者の中でも最も多いとされているのがアルツハイマー型認知症で、患者全体の半数以上を占めています。

発症原因は様々ですが、脳にアミロイドβやタウタンパクというたんぱく質が異常に溜まってしまい、脳細胞が損傷したり神経伝達物質が減少することが原因と言われています。

アルツハイマー型認知症が進行する経過を初期・中期・末期に分類したとき、それぞれの段階で現れる特徴的なBPSDがあります。

初期では不安・抑うつ・焦燥などが目立ち、中期では妄想・幻覚・徘徊・失行・失認の症状が出るケースが多いです。

また、末期においては人格の変化をはじめとして、一切話さなくなる「無言」、全く動きがなくなる「無動」、食べ物以外のものを口にしてしまう「異食」などの症状が顕著になります。

アルツハイマー型認知症とは?症状や原因・患者さんへの対応法をわかりやすく解説!

レビー小体型認知症に特有の症状

レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症です。

レビー小体という特殊なたんぱく質が脳内に生じることで脳神経細胞が破壊されてしまい、それに伴って発症すると言われています。

また、パーキンソン症状や幻視、自律神経症状なども見られるケースが多く、中でも幻視や幻覚に悩まされている患者は多いです。

レビー小体認知症の場合、認知機能そのものの低下よりも「空間認識や視覚における機能低下」が顕著に見られることから、アルツハイマー型とは違った症状が目立ちます。

脳血管性認知症に特有の症状

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳卒中が起因しています。

脳血管の詰まりや破れから生じる病気を脳血管障害と呼びますが、この障害により脳細胞が死滅することで発症する認知症が脳血管性認知症です。

また、本人も症状について強く自覚している点が特徴で、抑うつや感情のコントロールができないため投げやりな態度になりやすい側面もあります。

障害を受けた脳の部位によって現れる症状は異なり、また症状もまだらで出現することから「まだら認知症」とも呼ばれます。

【医師監修】まだら認知症とは?症状や脳血管性認知症との関係性・予防法まで解説

前頭側頭型認知症(ピック病を含む)に特有の症状

前頭側頭型認知症とは、主に前頭葉・側頭葉前方に委縮が見られる認知症です。

その中でも、脳の神経細胞に「Pick球」と呼ばれる物質が見られるものをピック病と言います。

ピック病は前頭側頭型認知症の一つで、前頭側頭型認知症の約8割はピック病と言われており、この認知症の代表的なBPSDが「多動」です。

常に同じ行動を繰り返したり、異常行動や情緒障害を伴うこともあるので、介護者は手を焼くでしょう。

例えば、

  • 周徊
  • 時刻表的生活
  • 会話中に突然立ち去る
  • 万引きをする
  • 同じ行為を繰り返す

以上の行動が目立ち、性格の変化と社交性の欠如が現れやすい点が特徴です。

【医師監修】前頭側頭型認知症(ピック病)とは|症状や原因・治療法まで全て紹介

認知症ケアで意識すべきこと

認知症の方の介護は心身共に疲れるので、介護者自身も自身の身体を労る必要があります。

こちらのトピックで、認知症ケアで意識すべき点について解説していきます。

認知症の方の理解に努める

認知症になると身体能力や認知能力が衰えてしまうので、以前は問題なく出来ていたことができなくなってしまいます。

介護者としても「やることが増えてしまう」と感じてしまいますが、最ももどかしさを感じているのは当の本人であることを理解しましょう。

本人も悪気があって認知症になっているわけではない点を踏まえて、本人が少しでも自立した生活を送れるようにサポートしてあげましょう。

環境を変化させない

認知症患者は環境の変化にとても敏感なので、自分の身の回りに何らかの変化があるとストレスを感じてしまいます。

そのため、できるだけ本人の過ごしやすい環境を作り、変化させないことが重要です。

本人がストレスを感じてしまうと症状の進行が進んでしまったり、投げやりになってしまうことがあるので、本人の希望を踏まえた上で環境を整えてあげましょう。

親切に優しく接する

認知症患者のケアをする上で最も重要なのは「できる限り親切に優しく接すること」です。

起こったり叱ったりして厳しい態度であたってしまうと、本人が萎縮してしまったり大きなストレスを感じてしまいます。

優しく親切に接することで本人はリラックスして生活でき、「できることは自分でやろう」という前向きな気持ちにもなれます。

認知症の方の相手は大きなストレスが伴いますが、優しく接してあげることを常に意識してください。

自己肯定感を持ってもらえるよう努める

BPSDは自己肯定感と大きく関連性があると言われており、自己肯定感を持ってもらえるようにすることも重要です。

自己肯定感を得られると安心感や自信が得られるので、その結果として暴言や物取られ妄想などのBPSDの症状を抑制できる可能性があります。

認知症であるかに関係なく、自己肯定感を持っていれば充実した生活を送れることは言うまでもなくありません。

認知症の症状を緩和し、少しでも自信を持って生活してもらうためにも、本人とたくさん話をして自己肯定感を持てるようにエスコートしてあげましょう。

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BPSDが起こる原因

BPSDの発症には背景因子と誘因が関係しています。

背景因子としては、遺伝的要因、神経生物学的要因、社会的要因など多くの要因が挙げられます。これらの因子は介入が難しいものと容易なものとに分けられます。

これらの背景因子により、BPSDが発症しやすい状態が形成されると、不安やストレスが増加します。特に、ストレスが蓄積している状況で、ケアする人からの厳しい言葉といった誘因が加わるとBPSDの症状が現れやすくなります。

しかし、どのような要因や誘因がBPSDのスイッチとなるかは、認知症の患者ごとに異なります。時には、ケアする家族にとっては些細なことであっても、特定の言葉や行動がBPSDを引き起こすトリガーとなることがあります。

一方で、行動障害型前頭側頭型認知症のように明確なスイッチが存在せずにBPSDが発症するケースも存在します

BPSDへの対応に重要なこと

背景因子に基づくBPSDの原因は、介入が困難なものと介入可能なものの2つにカテゴライズできます。これらをしっかり理解することにより、効果的な対応策を考慮することが可能となります。

介入困難背景因子

  • 価値観・性格
  • 認知症状(中核症状)
  • 高齢期疾患(身体合併症)
  • 脳病変

これらの因子は第三者が介入することはできない背景要因であるものの、それを理解することは必須です。介入が難しい因子である場合でも、どの要因がその人のBPSDのトリガーとなるかを把握し、サポートする姿勢を持つことが大切です。

介入可能背景因子

介入可能背景因子は介護者が対応できる要因であり、BPSDの進行を遅らせたり、食い止めたりすることができる可能性があります。

居住環境

室内の環境や温度を適切に保つこと。また周囲からの騒音の回避などにより、症状を軽減する。

せん妄(意識障害)

いし、薬剤師と相談の上、必要によっては抗精神病薬を用いたせん妄治療。もしくは、安心して過ごせる環境づくりで症状を軽減する。

体調管理

適切な栄養バランスの食事や、水分量の調節により、体調や排便を調整することで本人が不快となる要素を取り除く。

ケア技術・関係性

本人の話を否定したり、無視、責めたりすることなく、話を理解しようとコミュニケーションを取る。

不安・喪失感

日々の生活の中で役割を担ってもらうことで、本人のできることを奪わない介護を行うこと。

  • 薬剤

BPSD(行動・心理症状)の治療

BPSDの治療には、薬物療法や非薬物療法があります。

こちらのトピックで、BPSDの治療について確認していきましょう。

薬物療法

認知症の薬物療法では、興奮状態になる「過活動症状」を抑える薬や抑うつや意欲低下などに陥る「低活動症状」を抑える薬が使われます。

過活動症状に対しては、抗精神病薬や感情を安定させる効果がある「抗てんかん薬」などが処方されることが多いです。

また、抗精神病薬は定型と非定型に分けられ、定形抗精神病薬はは鎮静作用が強いので、用量が多いと副作用が出やすい点が特徴です。

一方で、非定型抗精神病薬は定形よりも副作用が少ないとされているので、その人の症状の強さによって使い分けられます。

また、低活動症状に対しては「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」や「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」などが処方されるケースが多いです。

非薬物療法

薬を用いない非薬物療法もあるので、こちらについても知っておきましょう。

回想法

回想法は、会話しながら人生を振り返ったり、写真や映像を見て過去を思い出すように誘導します。

これらの回想をすることで、気持ちが安定したりコミュニケーションが活性化する効果が期待できるので、積極的に試しましょう。

回想法で最も大切なことは、本人の話を否定することなく聞き手として共感する姿勢です。

周囲が自分のエピソードや人生観などを受け入れることで自信と誇りを取り戻すことができ、不安の緩和や生活の活力を生み出すことができるでしょう。

作業療法

掃除・洗濯などの日常的な家事や趣味など、日常生活を送る上では様々な作業に着手する必要があります。

このような日常生活の作業を継続することで、心身の維持強化に繋がったり幸福感や自尊心が充実するメリットが期待できます。

心と身体のリハビリテーション効果が得られるので、積極的に試す価値はあるでしょう。

単なるリハビリは退屈ですが、農家の人であれば土に触れたり、調理人であれば食材や料理道具に触れることで作業感覚や記憶を取り戻せるでしょう。

このように、これまでの人生と関連の深い物事に触れて作業することで、作業の喜びや懐かしい思い出に触れることができます。

運動療法

身体機能が低下してしまうと、抑うつ傾向や認知機能の低下を引き起こし、身体のみならず精神の健康も損ないます。

運動療法は心身機能を同時に高めることができるアプローチ方法で、早い段階で行えば認知症の予防や進行の緩和にも役立ちます。

本人の体力を鑑みながら、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動や、ボール等を使ったゲーム感覚のエクササイズなどを取り入れてみましょう。

なお、過剰な運動は怪我に繋がる恐れがあるので、やりすぎは禁物です。

音楽療法

音楽療法とは、音楽を聴いたり歌うことで脳の活性化や心身に安定をもたらすリハビリです。

認知症の高齢者にも高い効果が期待されている療養法で、近年は介護施設や医療現場のレクリエーションでも用いられています。

一人で音楽を聴いたり、家族や友人などと一緒に楽しむ方法でも効果が期待できるので、活用方法も幅広いです。

歌や音楽が好きな方であれば、楽しみながら前向きに取り組める療養法なので、周囲がサポートしながら本人が楽しめるように工夫する姿勢が大切です。

家族のサポートは非常に重要

認知症になると記憶障害や判断力が低下してしまいますが、人としての喜怒哀楽の感情は以前と変わりません。

初期~中等度のアルツハイマー病の場合、記憶や判断に関する脳の部位がダメージを受けていますが、それは全体の5%程度に過ぎません。

つまり、残りの95%以上は正常であり、喜怒哀楽などの感情に関する脳の部位は通常なので、認知症になったからといって急激に生活習慣や接し方を改めるのは逆効果になりえます。

この点を家族が理解し、適切なアプローチを取ることでBPSDの予防も可能になので、薬物療法以上に家族の対応は重要と言えるでしょう。

本人ができることや自ら率先的にやっていることに関しては余計な口出しをせず、ケガをしない程度に見守ってあげるなど、本人の「生活しやすさ」「快適な暮らし」を最優先しましょう。

認知症は「進行するだけで治らない」と思われがちですが、家族や医師から適切なサポートを受けることで幸福な人生を送ることができます。

BPSDまとめ

BPSDまとめ
  • いずれの症状でも本人に悪気は無いので、本人の感情に配慮することが重要
  • 介護者は温かく見守り、適切にサポートすることが重要
  • 本人が自己肯定感を高められるように接すると効果的
  • 介護者はストレスを溜めないように注意しよう

BPSDは認知症の中核症状に随伴して見られる行動や心理症状を意味しており、様々な症状が現れます。

また、中核症状と周辺症状に対応するのは非常に骨が折れるので、適切な対応方法について知っておくことは重要です。

家族は身近で最も頼れる存在なので、症状や対応方法を知っておき、優しくサポートしてあげましょう。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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