【専門家監修】認知症による暴言・暴力の対応方法|原因や改善する方法についても解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「認知症の人が攻撃的になるのはどうして?」

「暴言や暴力に対する対応の仕方や改善方法について詳しく知りたい!」

このようなお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?

認知症患者の中には、病気の進行が進むことで攻撃的な言動をとってしまう人もいます。

今回は、認知症患者の人が暴言や暴力に至る原因について詳しく解説していきます。他にも、暴力・暴言に対する対応の仕方や改善方法についても併せて紹介していきます。

この記事を読めば、認知用患者の人が攻撃的な言動をした場合の原因の探り方や対処方法などについて理解することができます。

認知症による暴言・暴力についてざっくり説明すると
  • 認知症のタイプによっては、症状の影響で暴力や暴言に至るケースがある
  • すべての人に起こる症状ではないが、体の不調や薬の影響などにより現れることがある
  • 原因を探り、冷静に対応することが大切
  • 周りや専門家に相談し、時には施設などを利用することでお互いの距離を取ることも大切

認知症で暴言・暴力が出る理由や原因は?

認知症を発症している人の中には、病気の進行により暴言・暴力がみられる場合があります。もちろん全ての認知症患者に共通して起こるわけではありません。

このような状態に陥る要因には様々なものがあります。ひとつのきっかけによるものではなく、様々な要因が積み重なることより暴言・暴力、ひいては悲劇的な状況に発展してしまうケースがほとんどです。

以下の見出しでは、暴言・暴力につながる原因として多く取り上げられる内容について解説していきましょう。

脳の機能低下で感情が抑えられないため

認知症を発症すると脳の障害により、感情の抑制や気持ちの表現が難しくなることがあります

そのため、「通常であれば抑えられるような怒りの感情を押さえられない」、「不安やいら立ちが大きくなっていく」、もしくは「不安や怒りの気持ちを伝えられない」ことが暴言や暴力につながってしまいます。

認知症にはいくつかのタイプがあり、それぞれ障害が起きている部分が異なります。

そして、その障害が原因となって暴言や暴力に至るケースもあるのです。

その場合、人格の変化や攻撃的な行動などは病気のせいで引き起こされるものだと理解することが大切です。

前頭側頭型認知症(ピック病含む)

前頭側頭型認知症とは、前頭葉や側頭葉が萎縮することにより発症する認知症で、指定難病に認定されている病気です。

前頭側頭型認知症の特徴には言語障害や行動の異常の他に、人格の変化があります。

これは、刺激に対する抑制が効かなくなり本能に従った行動をとるようになってしまうことが原因です。

初期症状として現れる症状であり、道徳観も共に低下するため罪悪感を感じません。

そのため、穏やかだった人が病気の発症に伴い人が変わったように攻撃的になるというケースもあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症に次いで患者数の多い認知症です。

脳出血や脳梗塞などの脳血管の病気により酸素や栄養が送られなくなることで脳細胞が死滅し、本来の機能を失うことで発症する病気です。

脳血管性認知症の特徴的な症状の一つに感情失禁があります。

これは感情のコントロールができなくなることで怒りや悲しみの感情が現れやすくなるなる状態のことです。

このように感情が上手く制御できないことが不安や怒り、そしていら立ちの感情へとつながり、暴言や暴力の原因となるケースもあります。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体と言われる特殊なたんぱく質が脳の大脳皮質や脳幹部に集まることにより神経細胞が破壊されて発症する認知症です。

レビー小体型認知症の症状には幻視や妄想などがあります。幻視は初期から現れる症状で、存在しないものが見えることで恐怖心や不安感が募り、攻撃的な行動を起こしたり暴言を吐いたりしてしまうことがあります。

身体の調子が悪いため

認知症になると、自分の感情を表現することが難しくなります。同様に、体の不調や痛みがあっても周囲への伝え方が難しくなります

通常であれば、「痛い」「苦しい」という症状に対して薬や病院などを利用するという考え方ができますが、認知症の人はその思考・行動がうまくできません。

自分の体の痛みを理解できないことや周囲に伝えられないことにいら立ち、その結果、暴言や暴力の症状が現れてしまうのです。

薬の影響

服用している薬の影響で暴言や暴力などの症状が現れるケースもあります。

認知症は現代の医学で完治する病気ではありません。そのため、認知症を発症した人に対しては、薬を用いて症状の進行を抑える対症療法が行われます。

抗認知症薬は、認知症の度合いや症状に応じて医師の診断のもと処方されますが、副作用によって症状が強く現れる可能性もあります。

また、複数の薬を服用する場合、飲み合わせの悪さから暴力・暴言などにつながることもあります。

服用によって体調不良や副反応が強く現れた場合、もしくは薬に関する不安がある場合は自己判断せずに必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

暴言・暴力が出るのはどんな時?

上で説明したように、認知症の人が暴言や暴力に至るには様々な要因があります。認知症になったからと言って常に暴力的になるわけでもありません。

では、どのようなときに暴言や暴力が現れるのでしょうか。3つの例について解説していきましょう。

不安により混乱しているため

認知症の人は次に起こる事態の予測や行動をうまく理解することが難しく、不安に感じることが多いです。そして、不安を感じることで頭の中が混乱し、暴力や暴言が現れることがあります

例えば入浴時、服を脱がされるときに暴れてしまうことがあります。

これは、裸へなることへの羞恥心や不安、恐怖などのから生じます。

不安を解消させるためには、必ず声掛けを行い、同性の介護者が入浴介助にあたるなどの配慮が必要です。

他にも、外出している途中、行き先や目的を忘れて混乱してしまうことがあります。

道中、自分が理解できない状況に置かれていることに不安を感じ、それが暴力や暴言へとつながってしまいます。

周りの人の感情に影響される

認知症の人は、周囲の感情に非常に敏感で、身近な人の反応を通じて状況を理解します。論理的な判断が困難でも、その場の雰囲気や表情から感じることは得意です。しかし、それが何のための感情で、誰を対象としているのかの深い理解は難しいです。

例えば、周囲の人が認知症の方の振る舞いに対して心配する感情や、落胆した様子を見せるとその否定的な感情が認知症の方に伝播し、認知症の方が暴れ出してしまうことがあります。

自尊心が傷つくため

自分を否定されたり、自尊心が傷ついたりすると誰でも怒りや悲しみの感情が沸き上がります。

認知用の人も同じで、他人からの何気ない言動によって自尊心が傷つけられてしまうことがあります。

特に、認知症の人は能力の低下を自覚していることで、過剰な反応を示してしまいます

例えば、「大丈夫?」「危ないからやめておこう」などの言葉は、認知症の人にとって自尊心を傷つける言葉として作用してしまう可能性があります。

どちらも周囲の人には悪気がなく、本人を心配して投げかけた言葉です。

しかし、周りから過剰に心配されることが本人の自尊心を傷つけてしまい、暴力や暴言へとつながってしまうことがあるのです。

また、抑制されることで自分の行動を否定されたと感じ、攻撃的になることもあります。

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実際に暴れた(暴言・暴力が起きた)ときの対応方法

認知症対応法

暴れる認知症患者に対し、力や言葉で抑え込もうとするのは原則禁止です。

場合によっては自分を守るために必要な行動ではありますが、根本的な解決にはなりません。それどころか双方に深い傷を残してしまう危険性が高いです。

では、実際に暴言や暴力が起きたとき、どのように対応すれば良いのでしょうか?ここでは適切な対応方法について詳しく解説していきましょう。

認知症の症状であると理解し原因を探る

まず、周囲の人は暴言や暴力が認知症という病気によって起こる症状の一つであるということをしっかりと理解しましょう

本人は暴れたくて暴れるわけでも、介護者を困らせたいわけでもありません。

病気を理解しようとする気持ちを持っているだけでも冷静に対応することができるようになるでしょう。

前述したように、暴言や暴力に至るのには何らかの理由があります。

状況を確認し、可能であれば本人から話をきくことで暴力的になってしまった原因を探ることで、不安や怒りの感情を落ち着かせることが大切です。

物理的に距離をとる

暴言を吐く・暴れるなどの症状が現れたら物理的に距離を取り、危険行動がないかを見守ります。そうすることで暴力や暴言に巻き込まれないようにしましょう。

また、本人に対して冷静に対応をするのが難しい場合は無理をせずに他の人と交代しましょう

強く言い返したり力で対抗したりしてはいけません。興奮状態の中でそのような対応を取ると、余計に興奮させてしまい、状況が悪化してしまうことがあります。

本人は周りの人を傷つけたいわけではありません。介護者と本人、双方の安全を守るためにも適切な距離を取ってください。

感情的に距離をとる

物理的な距離がとれたら、感情的な距離もとりましょう。近くにいるとお互いに冷静になれないので、物理的な距離をとってからクールダウンします。

病気のせいであるというのが理解できていても、幾度となくその症状が現れると介護者にとっては心身ともに大きな負担となってしまいます。

好きな曲を聴く、趣味を楽しむ、落ち着ける言葉を思い浮かべる、などの時間を設けることでリフレッシュすることも大切です。

介護者が無理をして共倒れにならないように、場合によってはショートステイなどの介護サービスや施設を利用し、自らを労わる時間を作りましょう

誰かに相談する

暴力や暴言に悩んでいる場合、そのことを誰かに相談しましょう。話しやすければ家族や親族でも構いません。

医師やケアマネージャーなどの専門職に相談すると効果的な対応方法やアドバイスをもらうこともできます。

1人で悩まず、人と悩みを共有することは悲しみを癒すために有効な手段なのです。周囲のサポートを得ることで気持ちが楽になったり、自分では気が付かなかった原因や対策法を発見できることもあります。

人に話すことに抵抗がある場合は、ノートや日記などに記録するだけでも効果的です。さらに、記録をしておくことで今後誰かに相談するときに参考になることもあるでしょう。

暴言・暴力を予防・改善する方法

暴言や暴力の症状を防止するためには、原因を探ることで同じ状況に陥らないよう学習することが大切です。

ここでは暴言・暴力を予防する方法や改善する方法について紹介していきましょう。

攻撃的な認知症患者との関わり方を考える

本人と自分が傷つかないようにするために、暴言や暴力などの症状が出る認知症患者との関わり方を見直してみましょう

前述したように、暴れる認知症患者に対して力で抑え込もうとするのは厳禁です。暴言に対して強く意見することも同様です。その他にも、関わり方のポイントとして次のようなことが挙げられます。

否定しないようにする

本人の言動を否定しないように気をつけましょう。認知症患者の方は不安や恐怖と隣り合わせです。そんな中でも自分なりに現実を理解し、答えを見つけようとしています。

そのため、本人が出した結論が少し現実と違っていたとしても否定しないでください。

場合によっては「でも」「だけど」という言葉に対して「否定された」と感じて暴れるケースもあります

不安や混乱にはまり込まないようにする

認知症を発症すると、状況の理解・把握が追い付かない場面が多くあります。そのことに戸惑い、不安を感じることで暴力・暴言へと至ってしまうケースも多いです。

そのため、本人が「今どのような状況に置かれているのか」「今後どうすれば良いのか」をしっかりと説明することが大切です。

一度説明しても時間が経つとその内容を忘れてパニックになってしまうことも考えられますので、その都度丁寧に説明することを心がけてください。

何度も説明するのが難しい場合などはメモを作っておくのもおすすめです。

自尊心を大切にする

本人の意思を尊重し、自尊心を大切にしましょう

本人がやろうとしていることを制止したり、過剰に心配したりすることで自尊心が傷つき、暴れるきっかけとなってしまうことがあります。

嫌がっていることを無理やりさせるというのも本人にかかるストレスは大きくなります。

本人がどうしたいかという気持ちを大切にし、「代わりにやってあげる」という意識ではなく、できることは任せて「サポートする」という意識で関わると良いでしょう。

認知症者と介護者の感情を大切にする

本人が抱えている感情に寄り添い、本人の意思を大切にしましょう

また、介護者の感情を自覚し大切にすることも必要です。介護者が負の感情を抱くことで、認知症の人がその感情を敏感に察知してそのままそっくり返してくることも多いです。

「疲れている」「イライラしている」「不安を感じる」などの感情を放っておくと、多大なストレスとなってしまいます。

自分の感情と向き合い、定期的にリフレッシュする時間を設けることがお互いの笑顔へとつながるでしょう。

他のことに関心を向ける

興奮状態のときに乱暴な言葉などで押さえつけることは厳禁です。そういった状況になった場合、他のことに関心を向けることも暴力・暴言を治める一つの手段です。

無理に抑え込まずとも好きな曲を聞かせたり、孫や家族の写真を見せたりすることで、自然と興奮状態が治まることもあります。

認知症患者の方が好きなことは何か、興味のあることは何かなどを日ごろから探しておくと良いでしょう。

コミュニケーションの取り方や接し方を工夫する

認知症の方とのコミュニケーションは、方法や関わり方を工夫することが大切です。どのように接すれば良いかを考慮して、適切なコミュニケーション手段を選びましょう。

介護を行う際は、まず本人を尊重することが最も重要です。何かを求めるときや介護する状況で、無理やりや力を使って抑えつける方法は避けるよう心掛けましょう。そのような方法は、本人に恐怖心や不安を感じさせ、反発の原因となります。

介護者としては、すべてを代わりに行うのではなく、できることは本人に任せることが必要です。適度なスキンシップも効果的で、優しく体を触ったり手を合わせたりすることで、本人に安心感を与えることができます。

また、現在の状況やこれからの予定を、本人が理解しやすい方法で説明することが大切です。認知症の方は情報を忘れやすいため、頻繁に声掛けを行い、情報を伝えることを繰り返しましょう。突然の体の接触や、介護者の感情的な態度は本人に不安や恐怖を感じさせる原因となるので、冷静に、且つわかりやすく対応することが重要です。

専門家や施設に相談する

自分だけで改善方法を見つけることが難しい場合、専門家や施設に相談するのも一つの手です。

介護者を変えてみる

原因を見つけるのが難しい場合や、幾度も暴力・暴言を受けて疲れている場合などは介護者を変えてみるのも有効的な手段です。

暴力的な言動は身近な人(家族)ほど現れやすいとされています。そのため、介護者を変えることで暴れる・暴言を吐くなどの症状が落ち着くというケースもあります。

また、ヘルパーはプロの介護者です。対応の仕方について教育を受けている上、経験が豊富です。そのため、安心して任せることができるでしょう。

ただし、担当してくれるヘルパーの入れ替わりが激しい場合、認知症の人が落ち着かない可能性が高いです。ヘルパーへ介護を任せる場合は顔なじみのヘルパーを作ることも視野に入れておきましょう

体調が悪くないかチェックする

体調不良から暴力や暴言の症状が現れる場合もあります。そのため、原因を探る際には体調が悪くないかどうかをチェックしてみましょう

熱を測る場合、興奮状態のときに無理やり測定すると危険ですので、興奮が治まってからでも構いません。

熱がない場合でも、便秘や空腹、排尿がスムーズではないことから暴力に至るケースもあります。

ケアマネや医師に相談する

上で述べたように、体調不良から暴力的な言動へと至るケースもあります。

また、認知症の症状を抑えるために服用している薬が原因になっていることもあります。

医師や医療機関に相談することでそれらの原因が解消され、暴言や暴力が治まるケースも少なくはありません

医師だけではなく、ケアマネージャーや介護の専門職も介護者の強い味方となってくれます

専門家は似たような事例に対する経験や知識が非常に豊富です。状況に応じたアドバイスや対応方法などを教えてくれるでしょう。

さらには介護者の休息時間をもうけるために、ショートステイなどの介護サービスを提案してくれることもあるでしょう。

このように、自分だけで原因が探れない場合などはケアマネージャー、医師など専門的な立場の人へ相談を行うことをおすすめします。

1人で抱え込み、悲劇を招く必要は決してありません。頼れる人に相談することで、本人と介護者が笑顔で過ごせる環境を整えていきましょう。

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認知症による暴言・暴力についてまとめ

認知症による暴言・暴力についてまとめ
  • 病気による症状だということを理解する
  • 症状が現れた場合は力で抑え込もうとせず、物理的・精神的に距離をとり、クールダウンしてから原因を探る
  • 周りや専門家に相談する・ショートステイなどの施設を利用するなど、本人との関わり方を変えてみるのも有効な手段

今回は認知症による暴力・暴言について解説しました。

認知症患者の攻撃的な言動は病気による症状だということを理解しましょう。また、時には施設を利用したり、専門家に相談したりすることで、一人で抱え込まないようにすることが大切です。

本人だけではなく介護者の気持ちも尊重することで、笑顔で日々を送れるようにしてください。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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