【医師監修】まだら認知症とは?症状や脳血管性認知症との関係性・予防法まで解説
更新日時 2023/08/26
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
矢野 大仁 先生
「朝にできていたことが、夕方にはできない」
「ものわすれが激しいのに、専門的な会話をしたり、難しい本を読むことはできる」
このような症状でお悩みの方はいませんか?
このような場合は、まだら認知症が疑われます。脳血管性認知症の症状の一つで、日時やタイミングによって症状の波がみられたり、できることとできないことの差が大きいといった特徴があります。
さまざまな認知機能が全体的に少しずつ低下していくのではなく、血管障害を起こした部位の機能が選択的に低下し、症状にムラのある状態をまだら認知症と呼びます。この記事では、周囲の人には誤解されやすいまだら認知症について説明します。これを読めば、まだら認知症とその予防法についてわかるはずです。
- 障害部位によっての症状が異なる認知症
- 脳血管性認知症の症状のうちの一つ
- 症状に波があるので、周囲の人に気付かれないうちに進行する
まだら認知症とは
まだら認知症とは、その名の通り認知症の症状が「まだら」にあらわれることを言います。脳血管性認知症に含まれますが、あくまでも症状の呼び名であって、認知症の種類ではありません。
脳血管性の認知症によくみられる「物忘れはあるけど理解力は問題ない」「同じことができる時とできない時がある」など、症状に波があることが特徴的です。
まだら認知症状は軽視され見過ごされやすい
症状が出たり出なかったりするまだら認知症は、周囲の人に見過ごされやすいです。
そのまま進行して対応が遅れると、重い病気に繋がることも多いので注意が必要です。
誰でも、年をとると若いころに比べて忘れっぽくなります。いわゆる「物忘れ」は、加齢とともに多くなりますが、同じ年齢の知り合いと比べて極端に物忘れが多い場合や、今まで忘れなかったことでも急に忘れるようになったときには、まだら認知症が疑われます。
まだら認知症の症状にばらつきがある理由
どうして症状が現れたり現れなかったりするのでしょうか。症状にばらつきがある理由について、解説します。
脳のダメージにかたよりがあるから
脳はいくつもの部分に分かれていて、それぞれの部分で担う機能が異なります。脳血管性認知症では、脳のダメージを受けた部分の機能が低下します。
しかし、その一方でダメージを受けなかった部分の脳機能は比較的健在なままとなっています。例えば、記憶能力はダメージを受けても、言葉の理解や計算能力は保たれている、というような「まだら」の状態が発生するのです。
脳の血流が変化しているから
人間の脳の血流はある程度一定に保たれるよう調整されていますが、寒暖の差や一日の生活状況などに影響されて変動することが一般的です。まだら認知症状は、脳の血流量が低下するタイミングで症状が出現します。
ひとは朝起きてすぐや、食事後、入浴や暑さなどで体温が上昇した後、水分不足のときなどに脳の血流が低下しやすいとされています。そのため、まだら認知症はこれらのタイミングで症状が強くみられやすいのです。
しかし、これは脳血管性認知症に限らず、その他のアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症でも広く生じます。
自律神経が乱れているから
まだら症状の原因の一つに、自律神経の失調があります。自律神経は、意識を覚醒させたり血圧をコントロールするのに欠かせない役割を担っています。脳血管性認知症の他、レビー小体型認知症やパーキンソン症状を併発している方は、自律神経のバランスを調整することが難しくなっているため、まだら症状に変動が起こりやすくなります。
自律神経症状は、夕方や食後に現れやすいとされています。食後にぼんやりして反応が鈍い様子や、ときには幻覚やせん妄と呼ばれる混乱が見られた場合は、自律神経の影響が疑われます。
身体の不調などその他の原因によるもの
ささいな体の不調もまだらボケのきっかけになります。もともと認知症の方は、自分で体調が悪いことに気付きにくく、また体調不良を周りの人にうまく伝えることができないことが多いです。
数日おきに認知症の症状の悪化と改善を繰り返し、一見「まだら認知症」のように見えた人が、実は便秘の不快感のためにその症状が現れていたというケースは珍しくありません。まだらボケが見られたら、便秘になっていないか、食事はいつも通りに摂取できているかなどにも注意してみてください。
脳血管性認知症とまだら認知症の関係
脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症に次いで患者が多く、認知症の20~30%を占めています。
また、アルツハイマー型認知症に比べて男性の割合が高く、女性の2倍近くの有病率となっています。
まだら認知症とは、脳血管性認知症に含まれる症状の呼び名であり、認知症の種類ではないことは説明しましたね。
でも実際には、まだら認知症が出るタイプの認知症は脳血管性認知症である場合がほとんどです。そのためこの呼び名はしばしば同義で使われています。
脳血管性認知症については、以下の記事で原因や症状などを詳しく解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
【医師監修】脳血管性認知症とは?原因・症状の特徴から薬物治療の方法まで全て紹介
まだら認知症にみられる主な症状
認知症の中で患者数が一番多いアルツハイマー型は、脳に特有な変化がみられて脳が萎縮していく病気です。
認知機能が全般的に少しずつ低下していくことで物忘れが目立つようになり、会話のつじつまが合わないといった症状に進行していきます。
一方で脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血によって脳に障害がおこることによって発症する後遺症です。
脳梗塞や脳出血の原因となるのは高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が大半です。脳血管性認知症は脳の障害が起きた部位や程度によって状態が変わるため、症状も患者さんによって異なります。
まだら認知症の具体的な症状
まだら認知症では、数分前の食事を忘れているのに難しい専門書を読むことができる、朝は着替られなかったのに夕方にはできるようになっている、など家族を混乱させるような行動がしばしば見られます。
物忘れがひどいのに、判断力や理解力には低下がみられないなど、症状にばらつきがみられるのがまだら認知症の特徴です。
このちぐはぐな様子は、「もしかして認知症?」と気づいた家族を「ただの老化なのかも」と思わせてしまうため、対応が遅れて症状が進行してしまう方も少なくありません。感情のコントロールが難しくなり、急に泣き出したりする感情失禁も他の認知症と比べて多く見られます。
まだら認知症の進行
アルツハイマー型認知症は、少しずつ連続的に症状が進んでいくのに対して、脳血管性認知症は階段状に進行するのが特徴的です。
初めて脳梗塞や脳出血が起こると、そのタイミングで昨日まで持っていた認知機能が失われます。そして新たにまた脳血管が詰まったり破れたりすると、また一段階段を下りるように症状が悪くなる、いわゆる「階段状」の進行がみられるのです。
しかし、細い血管がつまるラクナ梗塞が原因の脳血管性認知症の場合は、この限りではありません。小さい脳梗塞の後遺症は表にあらわれにくいため、階段状には進まずにゆるやかな進行をたどることがあります。
まだら認知症への対応の工夫
脳梗塞や脳出血の後遺症であるまだら認知症。進行をゆるやかにしたり、穏やかに日常生活を過ごせるような対応の工夫について紹介します。
リハビリテーションは効果大
脳血管性認知症によって能力が偏っている場合、ある程度はリハビリテーションによる改善が期待されています。
脳の機能は部分により決まっていますが、失われた機能を脳の他の部分がカバーする可能性もあるとされているからです。
とくに、年齢が若いうちはリハビリテーションの効果も高いとされています。
そのため、自分の年齢が若いとしても、少しでもまだら認知症の予兆や症状が見られたら医師に相談することをおすすめします。
精神状態が良い時にリハビリしよう
リハビリテーションが効果的だからといって、無理に勧めることはやめましょう。まだら認知症の方は、自分が今までできていたことができなくなっている喪失体験に苦しんでいるからです。
リハビリテーションでは、後遺症に目を向けるのではなく、できることに着目することが大切です。残された能力を伸ばすようなかかわりや声掛けを続けていくことで、自信を深めることができます。
また、まだら認知症では自分が認知症になった自覚があることから、うつ傾向になる方もが多くいます。感情的に不安定となりやすいので、思い詰めないためにもプレッシャーをかけないような対応が必要です。そのためには、なるべく状態がよい時にリハビリテーションに取り組むようにするといいでしょう。
症状の変動を観察して記録すると良い
まだら認知症が、どのような時に悪化しているのか記録をとることをおすすめします。脳血管性認知症に限らず、症状の変動に注目することは原因をつかむ上で大切です。
記録をとることによって、一日のなかでどんな時に症状が強く出ているかが明確になります。夕方に症状があらわれやすい方が、脱水によってまだらボケがみられていることがわかり、水分をこまめにしっかりとってもらうことで夕方のボケがなくなったというケースがあります。
もし食後に症状があらわれていたら、食後の血圧を測定してみましょう。自律神経の失調によって血圧が急降下している可能性があります。食後に血圧が下がることで脳の血流が悪くなっていることがわかった場合は、食後に少し横になってゆっくり過ごすといいでしょう。
症状が悪いときは安全で静かな環境を
症状が表れるタイミングでは安全で静かな環境を保ち、無理をさせないことが大切です。
ぼんやりとした状態で無理をさせたり、騒々しい環境にいることによって、ますます症状が強くでることがあります。環境が整わないことで症状の波が強くなり、急に時間や場所がわからなくなる見当識障害や、注意力や思考力が低下して混乱する「せん妄」という症状がみられることもあります。
まだら認知症の予防
残念ながらまだら認知症に特効薬はありません。そのため、予防することが大切です。予防するためには、まだら認知症の原因となっている脳梗塞や脳出血がおこらないようにする必要があります。これらの脳血管疾患は、高血圧、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い)や糖尿病、喫煙によって起こりやすいとされています。
新しい脳血管の異常が起きないように血糖値やコレステロール、中性脂肪、血圧などをコントロールすることがまだら認知症の予防につながるのです。また飲食を見直したり禁煙することも予防につながります。
脳梗塞や不慮の事故の後遺症として起こる
小さな脳梗塞は、意識障害や麻痺などの大きな症状をもたらすことは少なくても、徐々に能力を低下させてまだら認知症につながります。小さな症状が、大きな脳梗塞の兆候である可能性も。気になる症状の変化や波があれば、医師に相談しましょう。
また、不慮の事故もまだら認知症の原因になります。例えば、転倒して頭を強く打ったことによって起こる脳出血などです。
とくに脳梗塞や不整脈を基礎疾患として持っている人は血液がサラサラになる抗凝固薬を内服していることが多いです。
薬の作用で些細なことでも出血しやすくなっているため注意が必要になります。このように頭部外傷が原因となる認知症もあるので、頭の外傷にも気をつけましょう。
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高血圧の予防が重要
まだら認知症を防ぐためには、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患を予防することが重要です。脳梗塞の最大の危険因子は高血圧といわれています。
血圧を抑えるためには、塩分を控えたバランスの良い食生活やストレスをためないことなどが有効です。
また、肥満の人は血圧が高くなりやすい傾向にあります。適度な運動を心がけ、適正な体重を維持するようにしましょう。
早めの受診が特に重要
まだら認知症は大きな梗塞や出血があってから起こるだけではなく、無症状の小さな梗塞が繰り返し発生して発症することも多いです。小さな脳梗塞は症状があらわれにくいので、まだら認知症の患者さんの中には自分が脳梗塞を抱えていることを認識できていない人も少なくありません。
実際に、大きな脳梗塞を初めて発症した患者さんの3分の2以上に小さな脳梗塞の既往があることがわかっています。小さな脳梗塞も甘くみることは危険なのです。
自分や家族にまだら認知症の症状が少しでもみられたら、速やかに医療機関にかかることをおすすめします。認知症は、特に軽度のうちに適切な対応をすることで、進行を緩やかにできる可能性がある病気です。少しでも不安を感じたら、早めに専門医を受診するようにしましょう。
まだら認知症についてまとめ
- 脳梗塞や脳出血の後遺症である脳血管性認知症の症状の一つ
- 症状に波があるため見過ごされやすい
- 対応が遅れると病気が進行するため早めの受診を
まだら認知症は、脳血管性認知症の症状の一つで、症状がまだらにあらわれることを言います。そのため、家族や周りの人に気付かれないうちに進行し、新しい脳障害が引き起こされることでますます病状が深刻になってしまう危険があります。
対応の遅れが命取りになる病気ですので、心配な症状が見られたら、一つずつメモをして早めに医療機関で相談するとよいでしょう。
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)
矢野 大仁(やの ひろひと) 先生
1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。
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