【医師監修】失語症ってどんな病気?症状や原因リハビリ方法までイラスト付きで紹介!
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター副センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 准教授(客員)
矢野 大仁 先生
「失語症の原因や症状について詳しく知りたい!」
「ウェルニッケ失語やブローカ失語など、どのような違いがあるの?」
このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
失語症は言語を発することが難しくなってしまう障害ですが、発症してしまうと本人や家族に大きなストレスを伴います。
また、失語症にもウェルニッケ失語やブローカ失語など様々な種類があるので、備えておくためにも症状について知っておくことは大切です。
脳梗塞やくも膜下出血などと併発することも多いので、発症しないように細心の注意を払う必要があります。
こちらの記事では、失語症の原因や症状、またウェルニッケ失語やブローカ失語などを詳しく解説していきます!
- 言語障害の一つで、コミュニケーション能力が低下してしまう
- 認知症と混合されがちだが、失語症と認知症は全くの別物
- 脳梗塞・脳出血や脳外傷、脳腫瘍など、脳へのダメージが原因となるケースが多い
- 早い段階からケアすれば、回復率は高まる
失語症とは
まずは、失語症の概要について確認しましょう。
失語症や言語障害の定義などを押さえて、症状について把握していきましょう。
失語症になるとどうなってしまうの?
失語症は言語障害の一種です。
脳が損傷してしまったことが原因で「聴く」「話す」「読む」といった機能が失われた状態を指します。
なお、具体的には以下のような症状が代表的です。
- 相手の話を理解できない
- 自分が言おうとしても言葉が出てこない
- 言いたい言葉を間違える
- 話したい言葉を上手く発音できない
- 相手の言うことを真似できない
- 文字や文が読めない
- 書いてある文字や文の意味が分からない
大まかなイメージとしては、言葉の通じない海外にいる感覚です。
相手の言葉が理解できなかったり、こちらの意図を言葉で伝えることができない状態なので、日常生活の意思疎通も難しくなってしまうのです。
構音障害との違い
失語症と構音障害は、似ていますが正確には異なります。
構音障害は、主に脳血管疾患や脳の損傷により脳の運動中枢に障害が起こることで生じる障害で、言葉の音を作る器官に問題が生じてしまい、発音や発声がうまくできない状態となります。
つまり、言語中枢が働かなくなることで生じる症状が失語症で、運動中枢が働かなくなることで生じる症状が構音障害です。
その他の類似の言語障害
失声症
失声症とは、声が出なくなってしまう言語障害です。
ポリープや声帯炎などの明確な原因がなく、強いストレスなど精神的な原因で起こる場合を心因性失声症と呼んでいます。
運動障害性構音障害
運動障害性構音障害は、口唇・舌・顎・声帯など発声・発語器官の運動麻痺や運動調節が障害を起こす言語障害です。
運動障害性構音障害は、発声や発音がうまくできない話し言葉だけの障害なので、その点が失語症とは異なります。
失語症は認知症などと誤解されやすい
失語症は、記憶障害や精神障害・認知症などと誤解されがちですが、失語症はただ「うまく話すことができない」「相手の話す内容を理解することができない」症状です。
つまり、言語障害は精神障害や認知症を患っている状態とは違います。
そのため、介護する側も「失語症・言語障害は認知症や精神障害とは違う」ことを理解した上で、適切なコミュニケーションを取る必要があります。
あくまでも「聴く」「話す」などの能力が無くなっているだけなので、誤解しないようにしましょう。


失語症の原因は?
それでは、失語症を発症してしまう原因について見てみましょう。
脳梗塞や脳出血をはじめとして、失語症を発症してしまう原因にはいくつかありますが、原因を把握することで予防法も見えてきます。
脳梗塞など脳へのダメージが主な原因
失語症は大脳の言語中枢の損傷により起こる症状で、言語中枢が損傷される原因の多くが脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳卒中です。
脳梗塞をはじめとする脳卒中を起こす人の多くは中高年以上なので、失語症を抱えている人の大半がやはり中高年以上です。
つまり、脳梗塞やくも膜下出血などを予防すれば失語症の予防にもつながるので、食事や運動習慣などで健康維持に努めることが重要です。
他には、交通事故などによる頭部外傷や脳腫瘍などで発症してしまうケースも考えられます。
ストレスは原因になる?
基本的に、ストレスは失語症の直接的な原因にはなりません。
ストレスが原因で発症するのは失声症なので、失語症とは違います。
とはいえ、ストレスを溜めないことは様々な病気を予防する上で重要なので、軽視するべきではありません。
ストレスを溜めてしまうと血流が悪くなり、脳梗塞やくも膜下出血などの病気を引き起こしてしまうので、注意しましょう。
失語症には色々なタイプがある
続いて、失語症のタイプについて紹介していきます。
各タイプで症状が微妙に違うので、ふさわしい対応をしてサポートしていきましょう。
ブローカ失語(運動性失語)の例
ブローカ失語(運動性失語)は、言葉を聴いて理解する能力は通常ですが、話す際にたどたどしくなったり、音が歪んでしまうケースが多いです。
例えば、音韻性錯語として「メガネ」を「メガイ」などと間違えて発音してしまうケースが挙げられます。
また、話をする量は少なく、単語や決まり文句だけ話せるなど短い話し方をする点もブローカ失語の特徴です。
文字を書く能力も喪失してしまっていることが多く、特に仮名文字に影響が出ます。
文字の形そのものが崩壊していたり、文法的な誤りが見られる場合、ブローカ失語に該当する可能性が高いです。
ウェルニッケ失語(感覚性失語)の例
ウェルニッケ失語(感覚性失語)は、言語や話を聴いて理解する能力に障害が強く見られます。
一方で、話し方は滑らかでリズムやイントネーションなども問題ないケースがほとんどです。
話をする量は多いですが、喚語困難は顕著で他の音に置換する「音韻性錯語や」言いたい単語が別の単語に置き変わってしまう」意味性錯語が多く見られます。 例えば、「うちとかいがてんととんだで、かえてくれる?」(うちの時計の電池がきれたので換えてくれる?)のようにとけい→とかい(字性錯誤)や、きれた→とんだ(意味性錯誤)がみられます。
その結果、話の内容が意味不明になってしまい、自分の意思を十分に伝えられなくなってしまうので、本人にとって強いストレスとなってしまうでしょう。
さらに、ウェルニッケ失語は文字を書く能力も衰えてしまうことが多く痴呆と誤解されやすいですが、痴呆とは全く別物です。
健忘失語の例
健忘失語は、話を聞いて理解することが可能で会話も通常通りできますが、物の名前が出てこない症状です。
物の名前が出てこないため、回りくどい話し方になることが多く、自分の伝えたいことを伝えるのに時間がかかってしまう点が特徴です。
例えば、「メロン」という単語が思い出せないケースでは「よく夏に食べる、丸くて甘いやつ」などのように、抽象的に表現するようになります。
全失語の例
全失語は、言葉を話すこと・話を理解すること・話を復唱すること・言葉を読むこと・言葉を書くことのいずれの能力も重度に喪失してしまっている状態です。
その場に合った発語はなく、あったとしても意味不明な言葉や発声をすることが多い点が特徴です。
本人も聞き手も話を理解するのに苦労するのでコミュニケーションが難しくなってしまいます。
症状による失語症の分類
続いて、症状による分類された失語症について紹介していきます。
喚語困難
喚語困難とは、何か言おうとした際にさっと言葉が出てこない状態を指します。誰でも経験のあることでしょう。
喚語困難はどのタイプの失語症にも見られる症状で、重度の場合には専門家の評価が必要でしょう。
言葉を出せるように周囲が優しくアプローチしてあげることが重要です。
理解力障害
理解力障害とは、言葉は聞こえているものの言葉の意味が分からない状態を指します。
こちらも、どのタイプの失語症で見られる症状ですがウェルニッケ失語の場合は特に症状が強く出ます。
本人が理解できていない場合は、別の単語に置き換えたり、身振り手振りを交えてわかりやすく説明してあげましょう。
錯語
錯語とは言葉を言い間違えることで、ちょっとした言い間違いや、全く違う単語が出てきてしまう症状です。
例えば、「鉛筆」を「時計」のように、他の単語に言い間違えてしまう「語性錯語」と「鉛筆」を「えんぴと」のように、発音を間違える「字性錯語」 の二種類があります。
残語
残語とは「全失語」など、重症の失語症を抱えている人に多く見られます。
「そうだ」「だめ」など、限られた複数の言葉が繰り返し出てくる状態で、意思の疎通が難しい点が特徴です。
また、出てくる言葉は必ずしも会話の流れに合っているとは限らないので、相手の意図を汲み取れるように注意する必要があります。


失語症のリハビリ
それでは、失語症を悪化させたいために有効なリハビリ方法について紹介していきます。
できるだけ会話をしよう
やはり、実際に会話をして「話し、聞くトレーニング」をすることで失語症の進行を遅らせることができます。
また、失語症の人が話す際には聞き手が先回りをすることなく、相手が言おうとしていることを待つ姿勢が大切です。
失語症の人が言葉に詰まった際には、ヒントを出すタイミングを伺いながら適宜サポートしてあげましょう。
ヒントの出し方としては、失語症の人が出す表情やジェスチャーなどのサインを見て、簡単な質問をしてあげると良いでしょう。
相手の人の言いたいことがどうしても分からない場合は、正直に「一生懸命考えたけど分からないです。ごめんなさい」と伝えるべきです。
なお、失語症に対して子ども向けの言葉を使う必要はありません。
挨拶をしてみよう
挨拶をすることは、急性期の失語症の進行を遅らせるのに特に重要です。
急性期は「コミュニケーションを取ること」を最重要視するべきで、文章の構成や細かい文意などは気にする必要ありません。
「おはよう」「いただきます」「ただいま」などの毎日の生活で使う挨拶は、失語症の人が家族の言葉を真似しやすく、記憶にも残りやすいです。
積極的な挨拶を意識することで、コミュニケーションのきっかけにもなるでしょう。
字を書いてみよう
自分の名前や住所など、簡単なことでもいいので書く練習するのも効果的です。
また、文字をなぞったり書写をすることで自分で書ける文字が増えていくので、楽しむ感覚で字を書かせてみてください。
申込書のように、自分の基本的な情報を書くことからスタートするのがおすすめで、徐々に書く内容のレベルを上げていきましょう。
自分の書いたものを音読することで言葉を発するトレーニングにもなるので、一石二鳥です。
なお、家族から最初の音の口の形を見せてもらったり、最初の音を言ってもらったりするなど、適宜ヒントを与えてあげましょう。
日記を書こう
一言でも構わないので、その日の行動やニュースの感想などを日記として書くのもおすすめです。
また、失語症の人でも書き込みやすいように「散歩、買物、病院」などの使う頻度の高い言葉は、事前に家族が書いておくと本人も助かるでしょう。
また、日記だけでなく、新聞から気になった記事を選んで書き写したり、好きなスポーツチームの順位などを記録しておくと、話題が広がります。
回復の流れや回復率はどれくらい?
リハビリは、急性期(発症後2週まで)・回復期(発症後3か月まで)・維持期(それ以降)の3段階に分けることができ、早い段階からケアすることで回復率が高まります。
各段階に合ったリハビリ方法を行うことで効果を最大化できるので、専門家から適切な指導を受けるとよいでしょう。
なお、脳血管疾患が原因で生じる失語症の場合、約12ヶ月で40%は改善すると言われており、軽症であれば発病後2週間、重症であれば10週間が最も回復率が高いとされているので、この期間にリハビリ効果を最大限に引き出すことが重要です。
回復率が高いうちに治療することで本人と家族の負担を減らすことができるので、早期診断のもとに治療を開始することは非常に大切なのです。


リハビリでは患者さんとの接し方に注意
リハビリは、本人も家族も大きな負担が強いられます。
しかし、最も重要なのは、言葉の障害を持つ患者のリハビリ意欲を高めることです。
過剰な先回りをしないよう気を付ける
患者が早く回復するように、言おうとしている言葉や次の言葉を先回りして言ってあげる家族がいますが、これはおすすめできません。
しばしば、患者の意志を無視してしまい、患者が「置いてけぼり」にされてしまうケースがあるからです。
少し考える時間を設けた上で、本人が困っているようであれば、簡単に答えられる質問や選択肢のある質問に置き換えてあげると答えやすくなります。
難しいですが、「自分が失語症だったらどのような質問が答えやすいか」をイメージしてみてください。
思考能力は低下していないことに注目
認知症とは違い、失語症は物事の判断力自体は低下していません。
簡単な言葉を使おうとするあまり、子どもを相手にしているような会話をしてしまうことがありますが、これは自尊心を傷つけるため望ましくありません。
あくまで大人として、尊厳を保ちながら接することが大切なので、「思考力は一般成人と同じである」ことに留意しましょう。
ゆっくり時間をかけて会話をする
回復期後半になると、時間をかければある程度の会話は成立するまでになります。
リハビリの序盤はなかなか効果が出ずに挫折してしまうかもしれませんが、辛抱強くゆっくり時間をかけて会話することが重要です。
本人を焦らせないためにも、心に余裕を持って会話をするように心掛けると良いでしょう。
図やジェスチャーを使う
コミュニケーションを取る方法は、言葉だけではありません。
必要に応じて、図やジェスチャーなどを交えて意思疎通を図ることも重要です。
患者が言葉に詰まっているときや出てこないときは、ジェスチャーを混ぜることで言葉を思い出すケースがあります。
意思の疎通ができたら喜んであげて、本人のモチベーションを高められる工夫も必要です。
実物/写真/イラストを組み合わせる
言葉だけでなく、実際の行動や写真などを伴うことで、意思の疎通がスムーズになります。
例えば、「テレビ」などの単語は覚えているものの、「テレビ見る?」と話しかけても反応が悪いケースを考えてみましょう。
このような時は、「『テレビ見る?』と話しかけながら、実際にテレビを点ける」といったように、実際に見せてあげると本人の理解を促しやすくなります。
また、写真やイラストでも同様の効果が期待できるので、ぜひ取り入れてみてください。
「はい」か「いいえ」で答えられる質問をする
なかなか言葉が出ない時は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問に変えてあげましょう。
短い文章で答えられるよう質問することで、本人も分かりやすく感じて意思疎通がスムーズになりやすいです。
また、患者の言いたいことを推測しながら、考えられる答えを書いて示すことも有効です。
本人が分かりやすく感じられるように、様々な工夫を重ねていくことが大切です。
とにかく寄り添ってあげる姿勢が重要
図やジェスチャーで意思疎通を図るのは効果的、と先に述べましたが筆談も有効な手段となります。
また、タブレットとスマートフォンを用いてコミュニケーションを取る方法もあるので、これらのツールも上手に活用しましょう。
様々な工夫やアイデアを凝らすことも重要ですが、最も重要なのは「寄り添ってあげる姿勢を示すこと」です。
自分が失語症という状況に置かれてしまったケースを想像した際に、家族や相手が「自分の伝えたいことを理解しようと頑張ってくれている」と感じることができれば、とてもうれしく思うはずです。
一生懸命に意図を汲み取り、コミュニケーションを取るために頑張ってくれる姿勢は、失語症の人にとってうれしいこととなるでしょう。
例え相手の伝えたいことが理解しきれなくても、ベストを尽くして相手に寄り添ってあげましょう。


失語症の症状や予防法まとめ
- 寄り添う姿勢を示して、優しく接することで患者は安心できる
- 失語症には様々な種類と症状があるので、症状にふさわしい対策を取ることが重要
- 会話をしたり、一般的な挨拶をすることが効果的なリハビリとなるので、積極的に実践しよう
- 思考能力が低下しているわけではないので、尊厳を保ちながら相手のペースに合わせてゆっくりとコミュニケーションを取ろう
失語症を患うとコミュニケーションが難しくなってしまうので、症状に応じてふさわしい対応を取ることが重要です。
もし罹患してしまった場合は、ジェスチャーなどを用いることで意思疎通は可能なので、相手のペースに合わせてリハビリに励むと良いでしょう。
相手に寄り添うことで安心感を与えることできるので、身近に失語症の人がいる方はこちらの記事を参考にして、工夫を重ねながら支えてあげてください。
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター副センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 准教授(客員)
矢野 大仁 先生
1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。