老人ホーム入居時は住民票を移すの?住所変更のメリットや手続き・移さない場合も紹介
更新日時 2023/06/12
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「老人ホーム入居時は、住民票をどうすれば良いの?」
「住所変更をするメリットやデメリットを知りたい!
このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
老人ホームに入居する場合、住民票を移動させる住所変更の手続きを行うのが一般的です。
しかし、住所変更を行うのは必須ではないため、移さないことのメリット・デメリットを比較した上で決めると良いでしょう。
こちらの記事では、老人ホームに入居した際の住民票の取り扱いについて解説していくので、ぜひ参考にしてください!
- 基本的に、老人ホームひ転居した際には住民票を移すことになる
- 必ずしも住民票を移す必要は無く、場合によっては移さないケースも有り得る
- 住民票を移すメリットは多いので、迷ったら移すのが無難
- 住所地特例制度を利用すると介護保険料が安くなることがあるので、要確認
老人ホーム入居時に住民票は移すの?
老人ホームに入居する場合、基本的には住民票は移すことになります。
しかし、住民票の異動は必ずしも義務付けられているわけではなく、また移動のタイミングも自由です。
特段の事情がない限りは「住民票は移すもの」と捉えておくと良いでしょう。
短期入居の場合
住民票を移す最大の目的は「重要な郵便物の貰い損ねを防ぐため」です。
そのため、施設への入居が短期間の場合や短期入所施設に移住する場合は、無理に住民票を移動する必要はありません。
住民票の移動には少なからず面倒な手続きが発生するので、郵便局に転送願を出しておくことで対応できるケースもあります。
また、住民票を移す場合でも、転出先の自治体の役所や関連機関に必要な手続きを事前に確認しておくことが大切です。
住民票を移すメリットとデメリットを踏まえて、手続きを進めるか検討してみてください。
老人ホームに住民票を移すメリット・デメリット
それでは、自宅から老人ホームに住民票を移すメリットとデメリットについて見ていきましょう。
メリットとデメリットを把握することで、取るべき手続きが見えてきます。
住民票を移すメリット
まずは、メリット面について紹介していきます。
郵便物が利用者に直接届けることができる
住民票が老人ホームに移すと、入居者への郵便物は全て老人ホームに届くようになります。
これにより、自宅に住んでいる家族がわざわざ老人ホームまで郵便物を持っていく手間を省くことができます。
また、市町村からの郵便物も全て老人ホームに届くようになるため、介護保険関係の手続きもすべて老人ホームが代理で行ってくれるでしょう。
さらに、住民票を移すことで老人ホーム側でも入居者の管理がしやすくなり、入居者の医療や介護に必要な情報を迅速かつ正確に取り扱うことができます。
また、入居者の身元確認や緊急連絡先の管理も一元化されるため、安心して入居生活を送ることができます。
そのため、入居者の生活をサポートするための各種サービスも円滑に提供されることが期待できます。
様々な手間を省けるようになる点が、住民票を移す大きなメリットです。
介護保険料が安くなる場合がある
介護保険料は自治体によって異なるので、入居する老人ホームがある市区町村によっては介護保険料が安くなることがあります。
転居することで介護保険料や国民健康保険料が安くなる可能性があるため、こちらも細かくチェックすると良いでしょう。
これらの保険料は「多く納めたからといってサービスの質が高まる」わけではありません。
住民票を移すことで保険料を安くすることができれば、介護サービスや生活支援に充てることができます。
また、一部の老人ホームでは、住民税や固定資産税の軽減措置も受けることができる場合があります。
老後の生活費を抑えるためには、節約できる部分は少しでも見落とさずチェックすることが大切です。
公共施設の割引が使える場合がある
住民票を移すと、現在住んでいる地域で受けていた公共サービスなどが受けられなくなる恐れがあります。
一方で、移転先の公共施設の割引が使える場合があり、住民票を移した先の地域では新たな割引制度が提供されることもあります。
そのため、住民票を移す場合は現在住んでいる地域でのサービスと住民票を移した先で受けられるようになるサービスを比較することが重要です。
自治体によってサービスのレベルに差があるので、細かくチェックすることをおすすめします。
住民票を移すデメリット
続いて、デメリットについても見ていきましょう。
介護保険料が高くなる可能性がある
介護保険料は自治体によって差があるので、住民票を移すことによって介護保険料が高くなるケースもあります。
しかし、次の見出しで詳しく解説する「住所地特例制度」を利用することで、このデメリットを解消できます。
この制度では、元の居住地の介護保険料に基づいて支払いが行われるため、移転後も過度な負担を抑えることができます。
様々な制度について知っておくことで、余計な負担を無くすことが可能です。
入居者のプライバシー管理
住民票を移すと、個人情報を施設側に知られるだけでなく、プライベートな書類や手紙まで老人ホームに届くようになります。
そのため、利用している業者や交友関係が老人ホーム側に知られてしまう点はデメリットと言えるでしょう。
また、入居者本人や家族が望まない情報が漏洩する可能性もあるため、老人ホーム側にプライバシー保護に関する対策があるかどうかも確認することが大切です。
入居前に施設側との相談や見学を通じて、プライバシーに関する配慮や取り組みについて十分に確認すると良いでしょう。
プライバシーの保護は、入居者や家族にとって心配やストレスを減らすことにもつながります。
元の居住地でのサービスが受けられなくなる
住民票を移すと、前の地域に住んでいないと見做されます。
そのため、前の居住地の市区町村では利用できていたサービスが利用できなくなってしまう点には注意しましょう。
「受けられなくサービス」「新たに受けられるようになるサービス」をしっかりと比較し、後悔の無いようにしてください。
住所地特例制度とは
介護保険料が高くなる可能性があるデメリットを解消できる制度が「住所地特例制度」です。
なお、この制度の仕組みは下記の通りです。
介護保険においては、地域保険の考え方から住民票のある市町村が保険者となるのが原則である。
しかし、原則通りの運用だと、介護保険施設等の所在する市町村に給付費の負担が偏ってしまうことから、施設等の整備が円滑に進まない恐れがある。このため、特例として施設に入所する場合には、住民票を移しても移す前の市町村が引き続き保険者となる仕組み(住所地特例)を設けている。
引用元 :厚生労働老健局
つまり、住所地特例制度を利用することで住民票を移す前の自治体の介護保険料が継続されます。
これにより、デメリットである「移動後の介護保険料が高くなる」という項目を解消できる仕組みとなっています。
現在住んでいる自治体の介護保険料と入居したい施設の市町村の介護保険料を比較し、負担が高くなるようであれば住所地特例制度を利用しましょう。
この制度を利用することで、実際には引っ越していても「住民票を移す前の市町村に介護保険料を支払う」ことになります。
住所地特例制度の対象者・対称施設
住所地特例制度の対象となるのは、
- 65歳以上の方
- 40歳以上65歳未満の医療保険加入者の方
- 住所地特例対象施設に入所した方
上記の通りです。
また、要介護認定を受けていない方でも、下記の住所地特例対象施設に入所した場合も利用可能です。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 軽費老人ホーム(ケアハウス)
- 養護老人ホーム
- 有料老人ホーム(介護付・住宅型)
- サービス付高齢者向け住宅(特定施設入居者生活介護の指定を受けている場合・有料老人ホームに該当するサービス(介護、家事、食事、健康管理のいずれか)を提供し契約方式が利用権方式の場合)
住所地特例制度の手続きの方法
それでは、住所地特例制度の具体的な手続きの流れを見ていきましょう。
施設に入居したとき
施設を入居した際には、保険者となる市町村(つまり、元々の住所の役場)に対して「住所地特例適用届」を提出します。
また、施設から保険者となる市町村に対して「施設入所連絡票」を送付してもらう必要があるので、施設側に依頼しましょう。
また、住所地となる市町村から保険者となる市町村に対して「住所地特例者連絡票」を送付することで、手続きは完了します。
施設を退去したとき
施設を退去したときには、本人から保険者となっている市町村に対して「住所地特例終了届」を提出します。
また、施設から保険者となっている市町村に対して」施設退所連絡票」の送付をしてもらい、住所地の市町村から保険者となっている市町村に「住所地特例者連絡票」の送付してもらうことで、手続きは完了です。
希望施設が地域密着型である場合
下記の地域密着型老人ホームは、その地域に住民票がある方しかサービスを受けられない施設です。
- 小規模多機能型居宅介護
- 夜間対応型訪問介護
- 認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)
- 認知症対応型共同生活介護(高齢者グループホーム)
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(地域密着型特別養護老人ホーム)
- 地域密着型通所介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 看護小規模多機能型居宅介護(旧複合型サービス)
これらの地域密着型の老人ホームを利用する場合、住民票の異動は必須となります。
つまり、介護保険料の高低に関係なく、利用する場合は住民票を移さなければなりません。
市町村によっては「住民票を移して何ヶ月後以降、サービスが受けられる」というような規定が設けられているので、入居したい老人ホームの市町村のホームページを確認しておきましょう。
要介護認定を受けている場合
住民票が居住地に無い場合でも、要介護認定を受けている方であれば問題なくサービスを受けられるケースがあります。
サービスを受けたい地域で定められたルールに則って手続きを行い、不安があれば担当窓口に相談することをおすすめします。
なお、要介護認定を受けていた証明として、転入時に「受給資格証明書」を出す必要があるため、こちらも併せて準備しておきましょう。
受給資格説明書の詳しい解説については後ほど解説していきます。
住民票の移す際の手続きの流れ
引っ越したことがある方は記憶にあるかもしれませんが、住民票を移す際の手続きの流れについて知っておきましょう。
住民票を移す手続きを進める際には、現在住んでいる役所に「転出届」を提出し、新たに住むことになる自治体に「転入届」を提出します。
また、住所地特例制度を利用する場合には、自治体のホームページから印刷できる「介護保険住所地特例適用・変更・終了届」を用意してください。
普段書き慣れない書類ではありますが、難しい事項は無いため必要な項目に記入して役所に提出すれば問題ありません。
また、要介護認定・要支援認定を受けている方が住民票を移す場合は認定を受けている情報を移管する「受給資格証明書」が必要となります。
受給資格証明書は「取得より14日以内に提出する」などの制限が設けられているケースもあるため、事前にしっかりと確認しておきましょう。
住民票を移動する際の注意点
最後に、住民票を移動する際の注意点について解説していきます。
メリットやデメリットをトータルで判断することが重要です。
受けられるサービスの条件を確認しておく
住所地特例制度の利用を検討している場合に、予め介護保険料を市町村のホームページを確認するなどしてシミュレーションしておきましょう。
また、条件の詳細などをチェックして、受けられるサービス内容についても知っておくことが大切です。
施設によっては、サービス内容が指定の条件に含まれていないなどの理由から「適用外」になることがあるため、諸条件の確認は欠かせません。
また、利用しようとしている施設が地域密着型の施設の場合は住民票の異動が必須となるため、施設の性格についてもチェックしてください。
特に、地域密着型の施設では、入居者の地域貢献活動や地域行事への参加など、地域とのつながりを重視した取り組みが行われることが多くあります。
そのため、施設の性格や地域とのかかわりについても確認し、自分に合った老人ホームを選ぶことが大切です。
転居14日以内に受給証明書証明書の提出
要支援・要介護認定を受けている方が現在住んでいる地域から他の地域に移動する場合、受給資格証明書が交付されます。
受給資格証明書は「自身が要支援・要介護認定を受けている」証明となる書類なので、非常に重要なものです。
老人ホーム入居後14日以内に受給資格証明書を提出しないと、また新たに介護認定の審査が必要となります。
新たな手続きを進める場合は大きな手間が発生することになるので、期限には十分注意してください。
老人ホーム入居時の住民票まとめ
- 住民票を移すメリットと移さないメリットを比較することが大切
- 前の居住地の介護保険料が安い場合、住所地特例制度を忘れずに活用しよう
- すでに要介護認定を受けている場合、受給資格証明書が必須
- 受けられるサービスや介護保険料を比較し、ベターな選択をしよう
老人ホームに入居する場合、住民票を移すのが基本です。
しかし、住民票を移すことと移さないことによるメリット・デメリットがそれぞれあるので、しっかりと把握した上で手続きを進めましょう。
上手に運べば介護保険料負担を軽くできる可能性もあるので、ケアマネジャーなどを相談しながら綿密にシミュレーションすることが重要です。
手間暇と経済的メリットを天秤にかけて、ベターな選択をしていきましょう。
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。
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