【医師監修】睡眠時無呼吸症候群の対策|原因や症状・治療方法まで詳しく解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「いびきがうるさいし、時々呼吸も止まっているみたい、と家族から指摘されたのだけど病気なのかな?」 「睡眠時間は足りているはずなのに、仕事中に急に眠気に襲われることがあるのはなぜ?」 このような症状には、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがあります。睡眠時無呼吸症候群は、昼夜問わず日常生活に大きな影響を及ぼす危険のある病気です。 この記事では睡眠時無呼吸症候群の対策や治し方について詳しく説明しています

睡眠時無呼吸症候群についてざっくり説明すると
  • 睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなる病気
  • いびきをともなう事が多い
  • 日中に眠気が生じたり集中力の低下がみられる

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中の呼吸が止まったり浅くなる症状を何度も繰り返す病気です。大きないびきを伴うことが多いと言われています。 10秒以上呼吸が止まることを無呼吸と言い、無呼吸は脳の酸素不足を引き起こします。 睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間だけでなく日中の生活においてもさまざまな症状が出現する危険がある病気です。 また、高血圧症や、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などとの関連も指摘されています

症状は日中・夜間の両方に起きることも

睡眠時無呼吸症候群の症状は、睡眠中の無呼吸やいびきだけでなく、日中にも出現します。日中・夜間の代表的な症状を見てみましょう。

日中に現れる症状

起床時の頭痛や日中の眠気、体がだるく集中力が下がるといった症状が現れます。 とくに重症の方では、自覚症状がないまま突然の意識消失を起こす危険もあります。自覚症状がない場合は、治療の開始が遅れがちです。 しかし、意識消失が原因の交通事故が発生することも。このような問題から睡眠時無呼吸症候群の対策への重要性について、社会的な関心が高まっています。 このほか、体に取り込まれる酸素の量が減少するため、心臓や血管にも負荷がかかることから生活習慣病との関連も指摘されています。とくに高血圧症を併発しやすく、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などのリスクも高くなります

夜間に現れる症状

睡眠中である夜間に現れる症状としては、無呼吸のほかに、ほとんどの方に激しいいびきが現れます。 いびきが突然止まり、しばらくしてから大きないびきを再開するということが繰り返し起こります。このほか深い睡眠がとれないために、夜中に目が覚めたり頻回にトイレに行きたくなるなどの症状もみられます。 いびきや無呼吸には本人が気づかないこともめずらしくありません。家族にいびきや無呼吸を指摘された場合には、睡眠時無呼吸症候群かもしれないと考えてみるといいでしょう。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予防・対策方法

生活習慣の改善と適度な運動が大事

睡眠時無呼吸症候群の大きな原因の一つは肥満です。 とくに男性は加齢とともに内臓脂肪がつきやすくなり、喉や首回りの筋力も衰えてくると言われています。 喉や首回りは呼吸に重要な役割を担っている筋肉であるため、筋力が低下することにより気道が狭窄して無呼吸がおこりやすくなります。 適正体重や全身の筋力を維持するために、日ごろからウォーキングなどの適度な運動をおこなうことは、睡眠時無呼吸症候群の重要な対策方法です。 また、運動にかかわらず栄養バランスのとれた食事など、規則正しい生活習慣を心がけましょう。

禁煙しよう

タバコの煙は、鼻腔粘膜などの気道系に慢性的な炎症を引き起こします。この慢性的な炎症は空気の通り道である上気道の狭窄リスクを高め、無呼吸の原因となります。 喫煙者は非喫煙者に比べて睡眠時無呼吸症候群になるリスクが高いようです。また、禁煙によって若干症状が改善したという報告もあります。 睡眠時無呼吸症候群を予防するためにも、禁煙を心がけましょう。

過度な飲酒や寝酒を控えよう

過度な飲酒や寝酒を控えることも、睡眠時無呼吸症候群の対策として有効です。 アルコールには上気道の筋肉の緊張を緩める働きがあります。上気道の筋肉が弛緩することにより上気道が狭くなってしまったり、場合によっては閉塞してしまうため、空気の流入出がスムーズに行えなくなり、無呼吸となります。 アルコールの無呼吸症に陥るリスクを高めないためにも、とくに就寝前の飲酒は控えたほうがいいでしょう。

睡眠薬をなるべく控えよう

睡眠薬にもアルコールと同様に上気道の筋肉を弛緩させる作用があります。 とくにベンゾジアゼピン系の睡眠薬は呼吸に影響をおよぼしやすく、睡眠時無呼吸症候群の症状を悪化させることが指摘されています。 睡眠薬の日常的な使用はなるべく避け、もし内服が必要な場合には市販薬は使用せず、医師に相談して処方薬を内服するようにしましょう。 また睡眠薬を使用するときには、アルコールとの併用は避けましょう

口呼吸から鼻呼吸へ変える

口呼吸から鼻呼吸に変えることで、無呼吸は改善されるのでしょうか。 口からの呼吸と鼻からの呼吸の両方を行ってみると、口から吸うときの方が、喉が狭くなっていることに気付く方も多いことでしょう。実際に口呼吸は鼻呼吸よりものどや上気道が閉塞しやすくなります。 また、鼻を通した呼吸には雑菌除去や免疫力の向上といった効果も。口呼吸の方が鼻呼吸に変えるだけで無呼吸が改善することもあります。呼吸は鼻から行うようにしましょう。

寝る姿勢を変えてみよう

睡眠時無呼吸症候群の方は、仰向けで寝ていることが多いようです。 仰向けで寝ていると、重力によって舌の根本である舌根(ぜっこん)が気道に沈みやすくなります。舌根が沈み込むことによって気道が狭くなり、無呼吸が引き起こされやすくなるのです。 症状の軽い方やいびきのある方は、横向きに寝ることで症状が改善する場合があります。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因

睡眠時無呼吸症候群は、原因によって閉塞性(OSA)と中枢性(CSA)の2種類に分類されます。 閉塞性のSASは空気の通り道が狭まることによって起こり、中枢性のSASは脳の伝達障害によって起こります。それぞれの特徴についてみてみましょう。

閉塞性(OSA)の場合

閉塞性(OSA)の睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に上気道が塞がれることによって起こります。 閉塞性の原因としては、肥満によって気道の周りに脂肪がつき過ぎていることや、扁桃やアデノイドの肥大舌根の気道への落ち込み顎の小ささなどといった体質的なものが挙げられます。 とくにアジア人は欧米人と比較して顔立ちが細く奥行きも短いため肥満でなくても無呼吸を起こしやすいことが分かっています。 睡眠中は筋肉の緊張がほぐれて気道が狭くなりやすく、もともとの体質の影響も受け呼吸が止まったり浅くなることや、必要以上に高さのある枕を使うことも気道を狭くする原因の一つです。 大きな激しいいびきは狭くなった気道を空気が通り抜けるときに起こる現象で、閉塞性の特徴です

中枢性(CSA)の場合

中枢性(CSA)の睡眠時無呼吸症候群は、さまざまな原因により、本来は正常になされるはずの脳の呼吸コントロールがうまくいかないことで起こります。 気道の閉塞がなくても起こる無呼吸症候群なので、いびきを伴わないこともあり、自覚症状のない方も多いと言われています。中枢性のSASは脳梗塞や脳出血などの脳血管障害のある方や、心臓疾患を持つ方にみられることが特徴です。とくに心不全との関連が強いといわれています。

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断・検査方法

いびきが大きい人は検査に行ってみよう

睡眠時間は十分なはずなのに日中の眠気があったり、家族から大きないびきを指摘されたことがある方は、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群が疑われます。 また、いびきの他に夜間の睡眠中によく目が覚めてしまったり、起床時に頭痛や倦怠感といった深い睡眠がとれていないといった症状も見逃せません。 睡眠時無呼吸症候群は、さまざまな診療科で検査や診療が可能です。専門外来を設けているところもありますので、医療機関のホームページなどで確認し、速やかに検査を受けるようにしましょう。

パルスオキシメーターによるスクリーニング

パルスオキシメーターは、指先に装着して血液中の酸素の状態と脈拍数を測定する検査ですパルスオキシメーターによる検査は指先に装置を装着するだけで行うことが可能です。睡眠時無呼吸症候群の方は、無呼吸になると酸素の数値が低下します。 睡眠中の酸素の状態を測定することによって、酸素の低下状態が診断され、簡易なスクリーニング検査を行うことができます。

簡易検査

簡易検査はアプノモニターと呼ばれ、パルスオキシメーターと同様に小型の検査装置で自宅にいながら行うことが可能な検査です。 パルスオキシメーターと違う点は、指先に加えて鼻にも呼吸のセンサーを装着するところです。それによって血液中の酸素の低下状態だけでなく10秒以上の無呼吸や浅い低呼吸の回数も測定します。 簡易検査では、睡眠時無呼吸症候群の程度(AHI)の測定が可能で、SASの診断を行うことができます。

ポリソムノグラフィ(PSG)による検査

PSG

ポリソムノグラフィ(PSG)検査はSASの検査ではもっとも精密な検査方法です。簡易検査で確定診断が行えないときに必要となります。 ポリソムノグラフィでは、脳波・筋電図・心電図・呼吸・血液中の酸素等、さまざまな生体信号を同時に測定することで、睡眠時無呼吸症候群の程度であるAHIや、睡眠の質、睡眠中の不整脈の有無や睡眠障害などを診断することができます。 さまざまなセンサーを装着する必要があるため、PSG検査では専門の検査施設のある医療機関に1泊の入院が必要になります。

睡眠時無呼吸症候群の診断基準

睡眠時無呼吸症候群の診断基準は以下の通りです。

  • 睡眠中の1時間あたりに出現する無呼吸・低呼吸の回数が5回以上で、かつ日中に傾眠などの症状を伴う場合
  • 日中に傾眠などの症状がなくても、睡眠中の1時間あたりに出現する無呼吸・低呼吸の回数が15回以上の場合

重症度はAHIによって評価されます。AHIが5~15を軽症、15~30を中等症、30以上を重症としています。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法(治し方)

睡眠時無呼吸症候群の治療法には、原因によってさまざまな方法があります。SASの対策や治し方についてみてみましょう。

閉塞性の場合

閉塞性のSASの原因が肥満によるものとされる場合には、医師から減量を勧められます。生活習慣の改善や適度な運動などに加えて、横向きで寝る就寝前の禁酒禁煙も効果的です。 甲状腺機能低下症などによって気道が狭くなっている場合には、その病気の治療が行われます。 無呼吸の重症度によって次に説明するCPAP療法やマウスピース装着を選択し、さらにこれらでは治療が困難な場合には、手術などを実施することもあります。

CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)

CPAP

持続陽圧呼吸療法は、CPAP(シーパップ)療法と呼ばれます。睡眠中にCPAP装置を装着することで、空気を気道に送り、常に圧力をかけて気道が塞がらないようにする治療です。 CPAP療法を適切に行うことで睡眠中の無呼吸やいびきが減少し、SASによる症状の改善が期待されます。 CPAPは治療効果が高く、現在最もよく行われている療法です。SASによる難治性の高血圧にも有効であることがわかっています。CPAP療法は、検査で一定の基準を満たすことで健康保険の適応になります。

マウスピース

マウスピース

マウスピースは、下あごを前方に固定して空気の通り道を開くようにするものです。寝る前に口の中に装着してのどを広げることで、気道を確保します。 歯やあごの状態に合わせたマウスピースを作る必要があるため、医師の依頼を受けて経験豊富な歯科医が制作します。マウスピースの作成は、健康保険の適用です。 CPAPと比べて毎晩の装着が簡単に行え、小型で軽量のため手軽に治療継続するというメリットがあります。その一方で、重症のSASの場合には十分な治療効果が得られないことも。

外科手術

気道閉塞の原因がアデノイド肥大や扁桃肥大の場合には、手術によって肥大部分を切除するという治療が有効です。 また鼻閉を起こすほどの鼻疾患を持つ方も、CPAPや口腔内装置の治療効果が得られにくいため、手術が必要になることがあります。 しかしながら手術はCPAPやマウスピースによる治療よりも侵襲が大きい治療です。耳鼻科や口腔外科の医師とも連携しながら手術適応についての検討がなされます。

中枢性の場合

中枢性のSASは、原因となる脳梗塞や脳出血、心不全などに対する治療が重要です。とくに心不全が原因の場合には、食事療法や運動療法などの心臓リハビリテーションも効果的です。 また、CPAPや夜間の在宅酸素療法も、心臓や脳への負荷を軽減する効果があります。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予後

成人の睡眠時無呼吸症候群では高血圧の発症リスクは、健常人の1.42~2.89倍であり、SASの重症度が高いほど高まります。(※1) 脳卒中も健常人と比べて発症リスクは2倍高く、SASの重症度が高いと死亡率が上昇(1.75~3.30倍)することが報告されています。(※2) 心血管疾患もAHI30以上の重症例では発症リスクが約5倍高くなります。(※3) SASには治療がとても重要です。中等~重症の睡眠時無呼吸症候群は治療をせずにいると8年後には37%の死亡率につながることが指摘されています。しかしながらCPAP治療を行うことで、健常な人と同等まで死亡率を低下させることが明らかになっています。(※4) ※1 Paul E, et al. N Engl J Med 2000; 342:1378-1384 ※2 Yaggi HK, et al. N Engl J Med 2005; 353:2034-2041 ※3 日本呼吸器学会 ※4 He J, et al. Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea. Experience in 385 male patients. Chest. 1988;94:9-14.

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睡眠時無呼吸症候群についてまとめ

睡眠時無呼吸症候群の対策についてまとめ
  • 睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなる病気
  • 原因となる病気や生活習慣の改善が必要
  • 治療をしないとさまざまな病気に進行するリスクも

睡眠時無呼吸症候群の対策や治し方について説明しました。 SASは自覚症状がないことも多い病気ですが、放置してしまうと生活習慣病のリスクを高めてしまいます。 健康的な生活を続けていくために、睡眠時無呼吸症候群はしっかりと治療をすることが大切です。いびきや日中のねむけといった症状がある方は、早めに専門の医療機関を受診するようにしましょう

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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