口腔ケアとは?高齢者が行う必要性や目的・ケアの方法・手順まで全て解説
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「口腔ケアって最近よく聞くけど、実際はどんなことするの?」
「最近、口機能が下がってきた気がする・・・」
このようにお思いの方もいらっしゃると思います。
これから超高齢化社会に突入していく日本において、口腔ケアの重要性は増していく可能性が高いです。
口腔ケアをしっかりと行うことで、歯周病菌による体全体への悪影響を予防していくことに繋がります。
この記事では口腔ケアの種類や目的、メリットをイラストを用いて分かりやすく紹介していきます。
- 口の中を清潔に保つことで口腔機能の維持・回復につながる
- 体全体の健康や生活質の向上に繋がる
- QOL(生活の質)の改善
口腔ケアとは?
口腔ケアとは、口の中の状態を綺麗に保つことで、歯周病や虫歯をはじめとする様々な口にかかわるトラブルを予防し、それに伴う全身の健康状態の維持と向上を目指すケアのことを指します。
口の健康は全身の健康に影響しており、歯周病菌は脳梗塞や動脈硬化、心筋梗塞、誤嚥性肺炎などの病気にかかるリスクを生じさせます。
口腔ケアを行うことは口のみならず全身の健康に関わってくるため、適切な知識を持つことは非常に大事です。
口腔ケアの必要性
口には食べ物のかすが残りやすく、温度や湿度が口腔内の細菌にとって住みやすい環境であるため、細菌が繁殖しやすくなっています。
その上、唾液は口腔内を清潔に保つ自浄作用を持ちますが、高齢者になると唾液の分布量が減少するため、高齢者になるにつれて口腔内を清潔に保つのが難しくなります。
また、高齢者の方は歯磨きや、うがいなどの口腔ケアを自分でできなくなる場合があり、自力では清潔に保つのが難しくなる場合があります。
そのため、自力で清潔に保つのが難しい高齢者の方には介護者または本人による口腔ケアが必要になります。
定期的な口腔検診や専門家による口腔ケアの提供も、高齢者の口腔健康を維持する上で重要な役割を果たします。
口腔ケアの種類
口腔ケアには機能的ケアと器質的ケアの2種類があります。
機能的口腔ケア
機能的口腔ケアとは、嚥下機能を鍛えるトレーニングや口のマッサージなどによって、食べたり話したりする口の動きの維持や回復を目指すケアのことを指します。
これを行うことで、口腔機能の低下や障害による食事や会話の困難を軽減し、高齢者や口腔機能に制限のある人々の生活の質を向上させることが可能です。
器質的口腔ケア
器質的口腔ケアとは、歯磨きやうがいを通じて、歯や歯茎・舌などに付着した食べかすや歯垢を除去し、口腔内を清潔に保つためのケアを指します。
口腔内を清潔にする器質的口腔ケアは口の中の細菌の全体数を減らすことができるため、細菌が引き起こす歯周病や誤嚥性肺炎への予防に繋がります。
また、定期的な器質的口腔ケアは口臭の軽減や咀嚼や摂食機能の改善にも役立ちます。
口腔ケアを行う目的
口腔ケアの目的は口の中の衛生環境を改善するだけでなく、食べ物を咀嚼することなどの機能を保つことにあります。
また、口腔ケアは体全体の疾患の予防や健康維持のみにとどまらずQOL(クオリティーオブライフ)の向上にも貢献します。
口腔内を清潔に保つ
口腔内を清潔にすることは、歯周病を始めとする細菌による病気を防ぐことや口臭の改善などにもつながります。
口腔の健康状態は全身の健康とも密接に関連しており、心血管疾患や糖尿病、呼吸器疾患など、他の全身の病気のリスクとも関連しています。
上記のように、口の中をきれいに保てていないと、様々な病気の原因となりかねないため、清潔に保つことの重要度は高いです。
口腔機能の維持・向上
口腔ケアをすることで、話す、食べるなどの口の働きや舌の機能を維持・向上させることができます。
口腔機能を維持・向上させることは生活の中の楽しみの一つである食事の楽しみを増幅させます。
また、口腔ケアによって口の中の快適さや清潔感が保たれることで、コミュニケーションも円滑になります。
つまり、口腔機能を維持・向上させることはQOL(クオリティーオブライフ)の向上にも繋がり、人生を謳歌できる期間を伸ばすことに繋がると言えるでしょう。
誤嚥性肺炎などの感染予防
口腔ケアをすることは、口の中の細菌が減るために細菌を含む唾液や食べ物が誤嚥され、肺などに細菌が侵入することで発症する誤嚥性肺炎を防ぐことができます。
この誤嚥性肺炎による死亡者数は増加傾向にあります。
また、口腔内の細菌が原因となる脳梗塞や心筋梗塞などの病気の予防にもつながっていきます。
加齢は避けられませんが、口腔ケアは高齢者の死亡リスクを下げることに繋がっていくでしょう。
口腔ケアのメリット
口腔ケアの大きなメリットとして、QOL(クオリティーオブライフ)の向上をもたらす好循環が生まれるという点が挙げられます。
口腔ケアを行うことで口腔機能が改善し、自浄作用の向上が予想されます。
自浄作用の向上は口腔内の衛生環境の改善、食欲の増加をもたらし、結果として体力の増強とそれに伴う積極性が増すと考えられるでしょう。
積極性が増した結果として口腔機能改善に繋がります。この様にして、口腔ケアは好循環を生み出していくでしょう。
虫歯や歯周病を防ぐ
口腔ケアをすることで口の中の細菌を減らし、虫歯や歯周病などの細菌が原因の病気を防ぐことに繋がります。
また、歯周病が引き起こす入れ歯の固定が難しくなる・歯茎と入れ歯の隙間に食べ物が挟まるといった症状の改善が期待されます。
唾液分泌の促進による口腔内の自浄
唾液の分泌量は加齢や不衛生な口内環境によって減少していきます。
口腔ケアをしっかり行い、口内環境を衛生的にすることで唾液の分泌を促進することが可能です。
唾液の分泌量が増えると、唾液が持つ口腔内の自浄作用により口内の細菌や食事のカスが除去されることが期待されるので、口の中を清潔に保つことに繋がっていきます。
味覚の改善
口腔ケアを行うことで舌の汚れを綺麗に取り除くことや唾液量が増加されます。
味覚は唾液や水に溶けたもののみに反応するため舌に汚れが付いた状態では味を感じにくくなります。
つまり、口腔ケアは味覚を改善することに繋がっていきます。
味覚の改善は食欲不振の改善や低栄養状態、脱水症状の予防になりQOL(クオリティーオブライフ)の向上に繋がっていくでしょう。
口臭の改善
口臭は食べかすや歯垢の蓄積や虫歯などに生息する細菌によって引き起こされてしまいます。
原因となる歯垢や食べかすなどは、口腔ケアによってもたらされる唾液量の改善や歯の衛生環境の改善などによって取り除くことが出来ます。
認知症を予防できる
口腔ケアで口を動かす機能が向上すると、口を開け閉めしたり食べ物を咀嚼することで脳に刺激が伝わります。
脳の記憶部分である海馬の神経細胞は口の噛む刺激によって増加するため、口腔ケアは認知症予防にもつながります。
コミュニケーションの円滑化
口腔ケアを行うと、会話の際に気にしていた口臭の改善であったり、口や舌のなどの口腔機能が向上することで発音が良くなったりします。
また、口腔ケアによって口回りの筋肉がリラックスされると、豊かな表情が生まれやすくなり上記の理由と相まって、コミュニケーションが促進されます。
ケアの前に注意すること
必ず本人の同意を得てから口腔ケアをするように気を付けなければなりません。
無理に口腔ケアを行うと食べ物や唾液が食道ではなく器官に入ることに繋がる危険性口腔が高まってしまいます。
またケアを受けることに対してマイナスのイメージを持つようになり、より一層口腔内を清潔に保つことが難しくなる恐れがあります。
そのため、口腔ケアを行う際は、口腔ケアの必要性などをしっかりと説明した上でご家族が行なったり、介護サービスを利用したりしましょう。
ケアする時のポイント
以降では、口腔ケアを行う際のポイントについて説明を行っていきたいと思います。
口腔内のチェック
口腔ケアは口の中の健康状態を日常的に確認しながら行うことが重要です。
虫歯になっていないか、歯茎に腫れや出血がみられないか、口臭に問題はないかなど、口腔内のトラブルを早期発見することに繋がります。
もし何か問題があれば直ぐに歯科に相談するようにしましょう。
誤嚥をしないように行う
口腔ケアを行うときは、うがいの水やケア時の唾液を誤嚥しないように安全な姿勢にして行うようにしましょう。
あごを上げたまま口腔ケアを行うと、誤嚥を引き起こす恐れがあります。
うつむき気味の姿勢で安全第一で行うようにしましょう。また、ベットで行う際には30~45度ほどベットを傾けると良いです。
必要最低限の補助をする
全てのことを介護者がするのではなく、本人が可能なことは出来る限り本人に任せましょう。
また、補助は必要最低限に抑え、自助具や工夫した清掃具も必要に応じて使用しましょう。
不足分や最後の確認は介護者が行うようにし、本人の残っている能力を活用することがリハビリやモチベーション向上にも繋がっていきます。
長時間しない
口の中を見られることに不快感を感じる人も多く、長時間ケアを行うと高齢者は口の中が乾燥しやすかったりするため、本人が不快に感じたりします。
出来るだけ短時間で済ませ、最初の内は口内環境が清潔になった清涼感などを気持ち良く感じてもらえるようにしましょう。
ケア用品を準備しよう
口腔ケアを行う際には道具が必要となります。
それぞれのケア用品について適切に把握しておくことも、口腔ケアを行う際には重要です。
歯ブラシ
歯垢の除去は歯ブラシを用いて行います。
高齢者は歯茎が弱いので柔らかいブラシを用いるのと同時に、出来る限り本人自身に行ってもらうために本人が行う際は使いやすい歯ブラシを選んでおくようにしましょう。
手首を細かく動かすことが困難な人には電動歯ブラシを使いましょう。
また、歯磨き途中で唾液が大量に出てしまう方は吸引器つきの歯ブラシを用いることもオススメです。
歯間ブラシ
歯と歯の間は歯ブラシだけで取り除くのが難しい場合があります。その様な時は、歯間ブラシを使用しましょう。
また、適さないサイズの歯間ブラシを使用すると歯茎を傷つける恐れがあります。
適切な大きさの歯間ブラシを使用することを心がけましょう。
舌用ブラシ
舌ブラシは舌垢を取り除くために使います。
強く擦ると舌を傷つける恐れがあるため優しく行うようにしましょう。
舌用ブラシには毛が付いているタイプや付いていないタイプのものがあります。自分に適したサイズやタイプの物を見つけて使いましょう。
義歯用ブラシ
義歯用ブラシは入れ歯の洗浄に使うため、毛先が固く、持ち手も掴みやすくなっているため力が入れやすくなっています。
強度やサイズの異なる2つの種類の毛が付いているものが多いため、細かい部分まで磨き上げることが可能です。
スポンジブラシ
スポンジブラシは口を大きく開けることが困難な人に対してのケアが行いやすいです。
また、使い捨てなため衛生的であり、口の奥の届きにくい場所の汚れも取り除きやすい利点があります。
ガーグルベース
ガーグルベースは寝たままの姿勢であっても、うがいが出来るように作られています。
軽く作られているため、握力の弱い高齢者の方でも利用可能です。
口腔用ウェットティッシュ
口腔用ウエットティッシュは使い捨てが可能で、口腔内の汚れを拭き取るために使用します。
また、よだれが垂れてしまった時に拭き取るなど、様々な場面で利用できるため、用意しておくと便利です。
ケアの方法
以降では、口腔ケアを実際に行う際に知っておくべきケアの方法について、項目ごとに説明していきます。
うがい
まずはうがいをして口腔内の食べかすや汚れを落とします。
また、口腔ケアの終了時にもうがいをして、歯磨きなどで落とした汚れが口の中に残らないように心掛けます。
うがいを行う際には、唇をしっかりと閉じて大きく頬を膨らませながら勢い良く行いましょう。また、水の誤飲を避けるために安全な姿勢で行います。
歯磨き
歯ブラシは鉛筆を持つように持ちましょう。
歯垢が貯まりやすい歯と歯茎の間などを注意して磨き、唾液が溜まったら定期的に拭き取ったり吐き出してもらいます。
歯ブラシは力を入れすぎずに柔らかく使用しましょう。
また、介護者が本人の代わりに行う際にはむせたり苦しくないかを確認しながら行うことが重要です。
舌の掃除
舌ブラシを使用して行います。
奥から手前にやさしく動かしていき、乾燥している場合は湿らせてから行うように心掛けます。
口腔清拭(せいしき)
口腔清拭は体を起こせない時や水を口に含めない時、歯ブラシが口腔を傷つける時に行います。
方法としてはスポンジやブラシを湿らせて口腔全体の細かい部分にまで食べかすを除去し、潤った状態にしていきましょう。
義歯の掃除
義歯を扱うときには、
- 流水で洗う
- 専用容器もしくは水について保管する
- 歯磨き剤でこすらない
- 落とさない
の4点に注意してケアを行いましょう。
義歯の清掃方法は総義歯と部分義歯の二つに分かれます。
総義歯の場合は、大きな汚れを専用ブラシで洗い取り除き、その後目に見えない汚れは洗浄剤で除菌するようにしましょう。
また、汚れのつきやすい部分は上顎の後ろの淵・人工歯の付け根、下顎の内側になります。
部分義歯の場合は、総義歯の方法に加えて、かけ金部分とクラスプを入念に磨くことを心がけましょう。
この場合、主に汚れがつきやすい場所はアタッチメントなどの金具の部分になります。
唾液腺マッサージ
口の中にある耳下腺、顎下腺、舌下腺は唾液の出やすいポイントとなっています。
高齢者は唾液の量が減りやすく、口の中の乾燥が進んでしまいます。
そこで、唾液を促すために唾液線を刺激することを唾液線マッサージと言います。
唾液線マッサージを行うことで、口の中の自浄作用が働くので口臭予防やコミュニケーションが取りやすくなるなどの利点があります。
唾液腺マッサージは食事前に行うと唾液の分泌が促進されることで、むせたり、嚙みにくい状況の予防にも繋がります。
ただし、強く行なってしまうと危険な場合もあるため、やさしく行いましょう。
まとめとなる見出し
- 口内環境の改善
- 体全体の疾患の予防
- 精神的な向上
- コミュニケーションの改善
- 心身共に好影響のサイクルの形成
今までの記事では口腔ケアの利点や方法、注意点などについてイラストを交えて説明してきました。
高齢者の方にとって、口腔ケアは口の中の衛生環境を整えるだけにとどまらず、心臓病や糖尿病、認知症の予防など様々な病気の予防にも繋がる大変大切なものです。
また、日常的にケアを行っていくことで移動や体を動かすことに繋がります。結果として、精神的にも良い効果を期待できます。
さらに、口腔ケアの効果として挙げられる、口臭の予防や自分で可能な範囲は自力で行うことが自信につながり、コミュニケーションの改善にもつながっていくでしょう。
QOL(クオリティーオブライフ)を実現するために口腔ケアを是非行ってみてください。
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)