高齢者に多い不眠の悩み|眠れない・眠りが浅いの原因や改善方法まで全て紹介
更新日時 2021/12/10
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「高齢者不眠の原因は?」
「不眠治療ってどんなもの?」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
夜眠れないことは、本人にも家族にも辛いことですよね。
不眠は高齢者に多く、放っておくと心と体に悪い影響を及ぼし体長を崩したり病気になったりする可能性もあり、早めに対処することが大切です。
今回は、高齢者に多い不眠の悩みに対して、原因・治療方法・改善策などを解説します。
- 高齢者不眠の原因は加齢による睡眠の変化
- 認知症・精神疾患などが隠れている可能性も
- 身体に悪影響・さまざまな病気リスクがあがる
高齢者に多い「不眠」とは?
夜寝付けない・深夜に目が覚めてしまうといった睡眠の問題が1か月以上続き、日常生活に支障が出る状態を不眠と言います。
高齢者の不眠は、加齢による身体能力低下に伴って睡眠時間が減り、睡眠の質が落ちることが原因です。
この睡眠問題は病気などとは関係がなく、健康な高齢者でも睡眠が浅くなるケースは多くあります。
しかし、不眠は高齢者の体・心・脳機能に大きな影響を与えると言われており、注意が必要です。
高齢者の多くが不眠の症状を抱えている
高齢者の多くが不眠の症状を抱えています。
不眠の訴えが増えるのは60歳前後とされ、その後、80歳以上の高齢者になると3人に1人の割合で何らかの睡眠障害を抱えていることが多く、その中のひとつが不眠です。
また、不眠を訴える高齢者には女性が多いという傾向があります。
高齢者の不眠の特徴
以下では、高齢者不眠の特徴について解説します。
加齢に伴って睡眠は変化する
加齢が進むのに伴って体力が落ち、白髪や老眼になるのと同様に、睡眠にも変化が起きます。
まず加齢による体内時計の変化や血圧・体温・ホルモン分泌などの影響で早寝早起きになり、その後起きるのがノンレム睡眠の増加です。
ノンレム睡眠が増えると睡眠が浅くなるため、ちょっとした尿意・物音によって目が覚めてしまうことが度々起きます。
不眠の症状
不眠症では、睡眠障害により寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりすることで、日々の生活に支障が出ます。
不眠と一言でいっても、その症状は人それぞれです。
不眠症状は、入眠障害、熟睡障害、中途覚醒、早朝覚醒の4つに分類されていますが、1つの症状だけでなく複数の症状があらわれる方もいます。
以下で4つのタイプを詳しく説明していきます。
不眠の4つのタイプ
不眠の4つのタイプは、症状の出るタイミングによって分別されます。
入眠障害
寝床についてから寝付くまでに長い時間がかかってしまう状態を入眠障害といいます。
「寝付くまでに30分〜1時間以上かかる」と訴える人の多くが入眠障害に当てはまり、不安・悩み事など精神的な問題が原因です。
熟眠障害
十分な時間寝ているのも関わらず「ぐっすり寝た」と感じられないという場合には、熟眠障害が疑われます。
熟眠障害の原因は、睡眠中に症状が出る病気であることが多く、睡眠中に足がピクピク動く・呼吸が止まるといった症状を伴っているケースが多いです。
熟眠障害を訴える人の中には、自覚症状がない場合や、そのほかの不眠症を抱えていることもあります。
中途覚醒
中途覚醒は成人の不眠では1番多いとされているタイプです。
中途覚醒とは、睡眠中に目が覚めてしまい、その後も寝付けなくなってしまう状態のことで、高齢者には特に多く見られます。
トイレが近くなること・身体機能の低下による体の痛みなどが、睡眠を途中で妨げる一因です。
早朝覚醒
高齢者の不眠で多いタイプに早朝覚醒があります。
早朝覚醒とは、自分が起きたい時間よりも2時間以上早く起きてしまう状態のことです。
特に高齢者は、加齢によって体内時計が早まっており、睡眠意外にも血圧・体温などの睡眠に重要な要素が前倒しで進んでしまうため早朝覚醒に繋がります。
不眠が体に及ぼす影響・問題
高齢者の不眠は、ただ眠れないだけではなく、心身共にさまざまな悪影響を及ぼします。
不眠が与える影響は、例えば
- 血圧上昇
- 血糖濃度のコントロール不能
- 免疫力低下
- ホルモンバランスの乱れ
- 精神面での不調
などです。
不眠が続くことで、高血圧・糖尿病・生活習慣病のリスクが上がり、また、免疫力も低下して風邪などの病気にかかりやすくなるほか、食欲に関わるホルモンのバランスが乱れて太りやすくなります。
さらに、これらの身体の不調や睡眠不足によって気分が落ち込むと、うつ病を発症するリスクが高まるでしょう。
不眠によって、うつ病・高血圧になる可能性は2倍、糖尿病になる可能性は2〜3倍ほどになると言われています。
高齢者が糖尿病などの持病を抱えていると、それが悪化することによって心筋梗塞・脳卒中につながる可能性もあり注意が必要です。
不眠の原因
高齢者の不眠がどうして起きるのか、その原因について以下で解説します。
不眠は生活習慣と大きく関係しているとされていますが、実は何らかの病気が関係しているケースもあり、注意が必要です。
生活習慣が関わる原因
不眠の原因として一番に考えられるのは、生活習慣の変化・乱れによるものです。
加齢による生活の変化
不眠の原因の多くは加齢による生活習慣の変化・乱れです。
加齢によって身体機能の衰えが出始めると多くの人は昼間に活動的でなくなりますが、昼間の活動が減ると日常生活にメリハリがなくなってしまい不眠になる可能性が出てきます。
このように日中の活動が減ると、日光に当たること・社会との接触機会も減少するので生活習慣を調整するのも難しくなりがちです。
また、パートナーとの死別や退職による孤独・経済的な不安・睡眠が短いこと自体への不安などからストレスが生じ、寝つきが悪くなってしまうケースもあります。
その他に考えられる原因は、服用中の薬による副作用・アルコール摂取・運動不足などです。
寝転がっている時間が長すぎる
若い時と比べてやるべきことが少なくなりがちな高齢者は、暇を持て余すことが多くやることがないから寝てしまうという人も多いです。
しかし、日中寝っ転がっている時間が長すぎると、生活にメリハリがなくなります。
メリハリのない生活が続くことによって「睡眠時間は若い頃よりも短いが、寝床にいる時間は若い頃よりも長い」ということが起き、睡眠の満足度低下や寝つきの悪さなどに繋がるのです。
病気による睡眠問題
不眠には、生活習慣が要因のもの以外にも、精神的な病気によるものがあります。
認知症による睡眠問題
まず、不眠の原因として考えられるのが認知症です。
認知症による不眠の場合、同じ高齢者の中で比較しても眠りが浅いとされ、不眠が認知症の進行を促進することもあるとされています。
認知症による不眠がひどくなると、たった1時間でも連続で眠ることが困難になり、当事者とその家族にとって辛いところです。
また認知症では、夜に眠れないだけでなく昼寝の時間が増え、昼夜逆転した生活リズムに陥ってしまいます。
一方で、目がなかなか覚めないせん妄と呼ばれる状態にもなりやすく、せん妄状態は不安感も覚えやすいので攻撃的になることも多いです。
せん妄は、夕方から就寝の時間帯にかけて異常行動が見られ、薬などで対処するのが難しいため生活習慣を整えることで長期的に対処していく必要があります。
不眠を早くから見つけるには
不眠の状態が続くと、身体的・精神的に悪影響を及ぼすので、早めに認知・対処しなければいけません。
睡眠障害を察知する
まず、不眠を察知する方法について以下で解説しましょう。
睡眠障害は以下のような病気によって引き起こされる場合があります。
- 周期性四肢運動
- むずむず症候群
- 睡眠時無呼吸症候群
- レム睡眠行動障害
寝ている間に足がピクピク動くという人は、周期性四肢運動・むずむず症候群の可能性があります。
一般的に深い睡眠状態にいるとき筋肉の動きは抑制されるのですが、これらはその機能が低下しているため筋肉が動いてしまう病気で、寝ている間も足を動かさずにいられなくなって深い眠りが妨げられるものです。
また、ひどいいびき・睡眠中に呼吸が止まるなどの症状があれば、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠が始まると呼吸が止まってしまうため息苦しさや血中の酸素濃度低下があり、睡眠を続けられません。
その他にも、睡眠中に大きな声で寝言を叫ぶ・寝ぼけて行動するなどの様子が多く見られたら、レム睡眠行動障害の可能性があるでしょう。
不眠への対処法・予防法
不眠に気づいたら早めに対処することが大切です。
身近な不眠への対策・医療機関を利用した対策など、不眠の予防・対処方法を紹介します。
日常生活での対策
日常生活での不眠対策として、生活習慣そのものを変えていく必要があり、生活にメリハリをつけることが大切です。
生活習慣の改善によって不眠がすぐに改善するとは限りませんが、すぐにでも始められる身近な方法なのでぜひ試してみましょう。
眠い時に寝床に着く
生活習慣を整えて不眠を改善するためには、メリハリのある睡眠習慣を身に付けることが大切ですが、そのためには眠い時に寝床に付くのを心がけましょう。
高齢者の中には「やることがないから寝る」という方も多く、昼間に午睡する・夜も早めに寝るというケースも多いのですが、不要な睡眠をとると日中の活動時間が減り夜の睡眠の質が落ちてしまいます。
質のよい睡眠をとるために体のコンディションが整うのは平均して午後10時半ごろなので、なるべく遅くまで起きていて、本当に眠くなるまで床に入らないようにしましょう。
また、日中の午睡前にカフェインの入ったコーヒー・紅茶などを飲むと、寝起きにスッキリするのでおすすめです。
日中の活動量を増やす
日中は外で体調の光をあび、日中の活動量を増やすことで生活にメリハリをつけることが可能です。
日中の活動は、程よい疲労感を得ることで夜に寝つきやすくなるだけでなく、生活習慣の改善に繋がり規則正しい睡眠を取れるようになる効果があります。
予定が無くても近所を散歩する・趣味の活動をするなどし、意識して日中の活動時間を作りましょう。
アルコールの摂取に注意
寝つきが良くなる効果があるアルコールですが、睡眠が浅くなってしまう作用もあるので取り過ぎには注意が必要です。
また、アルコールには利尿作用もあり、トイレのために起きやすくなってしまい早朝覚醒も増える傾向にあります。
アルコールの利尿作用・覚醒効果などから、日常的にアルコールを摂取している人は慢性的な不眠になる場合があるので注意しましょう。
寝る前のスマホやテレビを控える
就寝前にスマホやテレビを利用する方は多いですが、実は寝る前のテレビ・スマホは不眠を引き起こす要因のひとつです。
スマホやテレビの光には脳を覚醒させる作用があるため、寝つきが悪くなる・睡眠が浅くなるなどして睡眠の質を低下させます。
そのため良質な睡眠をとろうとするならば、寝る前にはスマホやテレビに触れない・寝室に持ち込まないなどして使用を控えましょう。
症状が改善しない場合は医療機関に相談すべき
上記の対策をとっても不眠改善に至らない場合は、病院に行って、専門的な知識を持つ医師に相談する必要があります。
睡眠薬を使った治療
不眠治療として最も一般的なのが、睡眠薬を使った治療です。
不眠治療に用いる睡眠薬は作用時間の長さによってさまざまな種類があり、安心して使える日本製の睡眠薬であっても、医療機関にかかった上で医師の説明をよく聞いて使用しましょう。
また、市販の睡眠薬は、アレルギー薬の副作用を利用したものなので、長期的に使うことは避けた方がいいとされています。
カウンセリングによる治療
生活習慣の改善・睡眠薬治療でも効果が得られない場合は、カウンセリング治療を行います。
カウンセリング治療では、服薬を伴わない不眠治療ができるため「睡眠薬をやめたい」「睡眠薬を使いたくない」という人におすすめです。
不眠症になったら利用するべきサポート
高齢者の不眠は多くの場合、加齢による身体の衰えが原因となるため、自分ひとりではなかなか改善が難しいものです。
以下では、不眠症を改善するために利用するべきサポートについて解説します。
病院
不眠の症状が続いても、なかなか医療機関にかからずに状況を悪化させてしまう方がいます。
不眠症だと感じた場合は、迷わずに医療機関にかかりましょう。
不眠症の治療をするのは、精神科・神経内科・心療内科・内科・耳鼻咽喉科・呼吸器内科などいくつかありますが、自覚症状が不眠のみならまずは内科で診てもらうのがおすすめです。
病院では、お薬を使った治療・服薬を伴わない治療ができます。
不眠には、睡眠時無呼吸症候群などの病気が隠れている可能性もあるため「たかが不眠」と思わず、医師の診察を受けましょう。
障がい者手帳
精神疾患による不眠症には、障がい者手帳のひとつである精神障がい者保健福祉手帳が発行されます。
精神障害者保健福祉手帳を持つ人には以下のような支援を受けることが可能です。
- 税金の減免
- 公共交通機関の運賃割引
日常生活にも困難が生じる高齢者の不眠症には、障がい者手帳の取得および上記のようなサポート制度を利用して少しでも暮らしやすくしていきましょう。
高齢者に多い不眠の悩みについてまとめ
- 不眠だと感じたら早めに対処しよう
- 生活習慣にメリハリをつけよう
- 改善しない場合は迷わず医療機関へ
「夜眠れない」「寝たはずなのに疲れが取れない」と感じている人は、不眠症の可能性があります。
不眠は、夜まとめて寝られないことにより体が休まらないため、さまざまな病気のリスクも上昇するので、不眠だと感じたら早めに対処しましょう。
不眠の対処法・改善方法としては、睡眠薬やカウンセリングなど医療機関で治療できるほか、生活習慣・睡眠時間などを見直すことで症状緩和・改善することも可能です。
然るべき対処をして、不眠症を改善しましょう。
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。
監修した専門家の所属はこちら