【医師監修】糖尿病のインスリン注射とは?打ち方や種類・使用時の注意点まで解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「インスリン療法ってどういう仕組み?」

「インスリン注射の打ち方や注意点は?」

自己注射でインスリンを補う糖尿病のインスリン療法では、このような疑問を感じる方も多いと思います。

基本的に糖尿病のインスリン療法では、自分でインスリンの打ち方を覚えて、注射を行う必要があります。

こちらの記事では、インスリン療法の概要、インスリンの自己注射の打ち方、注意点などを、分かりやすく解説していきます!

インスリン療法やインスリンの自己注射についてざっくり説明すると
  • インスリン療法は糖尿病の治療法の1つ
  • インスリンは自己注射を行うのが基本
  • 副作用では低血糖に注意が必要

インスリン療法(注射)とは?

糖尿病の治療法の一つ

インスリン療法(注射)とは、糖尿病患者が不足したインスリンを補う、糖尿病の治療法の1つです。

原則患者本人が自分で注射するか、家族が手伝って接種します。

インスリン療法(注射)の仕組み

膵臓からのインスリンの分泌には基礎分泌と追加分泌の2パターンあり、健康な人であればこの2種類のインスリン分泌によって血糖値は正常に保たれています。

  • 基礎分泌

:24時間常に分泌し、血糖値を常時調整しているインスリン。

  • 追加分泌

:食事などで上昇した血糖値を調整するインスリン。

インスリンは血糖値を下げるために必要なホルモンですが、1型糖尿病患者の場合は体内でインスリンを生成することが困難なため、注射にて補う必要があります。また、2型糖尿病でもインスリンの働きが弱くなったり、分泌が少なくなった時にインスリンを補うことになります。

そして、インスリン療法は、糖尿病によってインスリンの分泌が不足している人が、正常なインスリン分泌パターンの再現を目標とする治療法です。

早期インスリン療法とは?

2型糖尿病の場合は、インスリン療法を始めると一生続ける必要があると誤解されがちですが、そういうわけでもありません。

一昔前には、インスリン注射は糖尿病が悪化したときの最後の手段というイメージがありましたが、現在の糖尿病治療では、「早期インスリン療法」と言い、なるべく早い段階からインスリン注射を始めることがあります。

主治医にインスリン療法を進められると、どうしても「一生続けなきゃいけない」「最後の治療法」というイメージが先行してしまいがちで、不安を感じる人もいると思いますが、積極的に受け入れるのが治療の鍵になります。

早期インスリン療法のメリット

インスリンを注射によって補うことで、インスリンの分泌をしようと無理に頑張っている膵臓を休ませます

膵臓をいったん休ませることで、再び膵臓が回復傾向になれば、インスリン注射を減らしたり、中止出来る可能性もあります。

このように、早期インスリン療法によって、内服薬の治療に戻せる可能性もあるのです。

インスリン注射は簡単

インスリン注射は原則、自分で行う自己注射か、家族に接種してもらう方法で行います。

「注射なんて出来ない!怖い!」というイメージがあると思いますが、以下の図のように手軽に注射が出来る注射器が開発されています。

インスリン注入器の種類

使用されている注射針は、採血などに使われる針よりもはるかに細いため、痛みも少なくて済むように改良されています。

  • カートリッジ交換型インスリン注入器

製剤が入ったカートリッジを注入器にセットして使用します。複数の製薬会社の製品がありますが、カートリッジと注入器は必ず同じ製薬会社のものを使用します。

  • 使い捨てタイプのインスリン注入器

予め製剤が入ったカートリッジがセットしている注入器です。

糖尿病の自己注射で使用する注入器や注射針は、患者の負担を減らすために日々進化しています。

どのタイプが使いやすいか、理想を主治医と相談してみるのもおすすめです。

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インスリン製剤の種類

インスリン製剤の種類と作用時間

インスリン製剤は主に以下の6種類です。それぞれの注射のタイミングや、特徴は以下のようになります。

種類 注射のタイミング 特徴
超速効型インスリン製剤 食事に合わせて打つ 注射後すぐに効き始める(10~20分)
作用時間が最も短い(3~5時間)
速効型インスリン製剤 食事に合わせて打つ 注射後30分程度で効き始める
超速攻型と比べてゆっくりと効く(5~8時間)
中間型インスリン製剤 1日のうち決まった時間に打つ 注射後ゆっくりと効き始め(30分~3時間)、ほぼ1日(18~24時間)効果がある
持効型溶解インスリン製剤 1日のうち決まった時間に打つ 注射後ゆっくりと効き始め(1~2時間)効き目のピークがほとんどなく、ほぼ1日効果が持続し、血糖値を全体的に下げる
基礎分泌を補う
混合型インスリン製剤 食事に合わせて打つ 超速効型や速攻型と、中間型の混合製剤
持続時間は中間型インスリンとほぼ同じ
配合溶解インスリン製剤 食事に合わせて打つ 超速効型と持効型の配合製剤(作用時間は持効型インスリンとほぼ同じ)

インスリン治療の現状

1型糖尿病の場合、「基礎分泌」と「追加分泌」の両方に障害がある状態が続きます。

2型糖尿病の場合は、早期の段階で「追加分泌」に障害が出たのち、進行によって「基礎分泌」にも影響が出る状態になります。

インスリン治療を行うことは、患者の病態やライフスタイルを考慮した上で、医師が選択します。

インスリン療法が適用となる患者でも、絶対的適応(必ず必要になる場合)と、相対的適応(必ずではないが必要な場合)に分けられ、医師の判断で治療方針が決まります。

インスリン注射の手順・打ち方は?

インスリン自己注射の手順

以下では実際にインスリン注射をするときの手順について説明していくのでぜひ参考にしてみてください。

インスリン自己注射の手順

1.物品準備・手洗い

注入器、製剤カートリッジ、消毒綿など必要な物品を準備します。インスリン製剤が混濁している場合は、均一になるようにカートリッジを振ります。

注射前に手洗いを十分に行いましょう。

2.針をセットして空打ち

インスリン製剤を空打ちし、針先まで製剤が満たされるよう針先から少なくとも液が1滴でることを確認します。

3.単位をセットする

投与する単位にダイヤルを回してセットします。

4.消毒後に穿刺

注射する部位を消毒綿で消毒します。皮膚を軽くつまんで、直角に刺します。

5.注入し10秒待つ

注入ボタンを最後まで完全に押し、そのまま10秒待ち、注入ボタンを押した状態のまま針を抜きます。

6.針を廃棄

針はキャップをかぶせた状態で、所定の方法で廃棄とします。針は1回きりの使用です。

接種するタイミング

接種する回数や、接種のタイミングは、使用する製剤や人によって異なります。

医師の指示に従って、決められたタイミング・接種回数を守りましょう。

接種する部位

お腹、太もも、おしり、腕などです。

薬の吸収速度が接種部位によって異なるため、接種箇所は医師の指示に従います。

また、指示された部位でも、同じ部分に刺し続けると、皮膚が硬くなります。

痛みの原因になったり、薬の効きが悪くなったりするので、2~3センチずらして接種するのがポイントです。

針の長さ

針の長さは長さは3~8mmまで種類があります。通常は4㎜の短い針を使って、皮膚に対して垂直にまっすぐ針の根元まで入れるように刺します。また、体格に応じて針の長さを変えて対応することがあります。

インスリン療法(注射)で気をつけるべきポイント

インスリン療法(注射)を行うときには、いくつかの点を注意して行います。

  • インスリン製剤の名前を確認する

インスリン製剤に記載されている自分の名前が正しいか確認しましょう。 また、いつもと変わらない処方がされているか、確認が必要です。

  • 注射の時間・単位に注意

インスリン注射の時間、回数、接種単位は人によって異なります。 必ず医師の指示に従って行いましょう。

  • インスリン製剤が白濁している場合は振ってからセットする

インスリン製剤が均一になるよう、毎回振ってからセットしましょう。

  • 注射針は使いまわさない

注射針は毎回新しいものに交換して使用します。

  • 穿刺前に空打ちを行う

ちゃんとインスリン製剤が出ることを確認するために、空打ちを忘れずに行いましょう。

  • 注射針の取り忘れに注意

注射終了後は、キャップをして注射針を取り外し、決められた場所で保管します。

  • 慣れるまで説明書で確認を行う

インスリン注入器や、インスリン製剤にはいくつか種類があり、それぞれ使い方が異なります。

初めて打つ方や、使ったことのない製剤、注入器を使用するときは、自己注射の一連の流れに慣れるまで、説明書を見て何度も確認をするようにしましょう。

  • 接種箇所を守る

一般的な接種箇所は、お腹・太もも・おしり・腕などです。

接種部分によって、作用時間なども異なるため、いつも同じ箇所に注射することが大切です。たとえば、朝はお腹、昼は太ももというように接種箇所を変えるのは望ましくなく、お腹と決まっていれば常にお腹に、その中で位置をずらすようにします。 また体型によっても好ましい接種場所があるため、医師の指示に従いましょう。

  • 毎回同じ部分への接種を避ける

同じ部分に接種を行うと、効果が減ったり、皮膚が硬くなったりします。接種箇所を毎回2~3㎝ずらして行うようにします。

  • 災害時もインスリン注射は継続しよう

災害時でも自己判断での中止はいけません。予備用として、2週間以上常備しておくようにしましょう。

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インスリン療法(注射)の副作用

インスリン療法(注射)で気をつけなくてはならない副作用として、低血糖があります。

低血糖はインスリンの効きすぎによって血糖値が正常範囲を超えて下がりすぎることで起こります。

低血糖は放置していると死に至ることもある、非常に注意しなくてはならない副作用です。

特に注意が必要になるのは高齢者で、高齢になると低血糖の症状を自覚しにくくなります。

低血糖になった状況(どんなときに、どんな症状がなど)を記録しておきましょう。低血糖の症状は、高齢者に限らずどなたでも起こり得ることです。

また、症状には個人差があるため、本人だけでなく、家族も状況を把握しておくことが重要です。

低血糖とはどんな症状?

低血糖症状の変遷図

低血糖の症状は、強い空腹感に始まり、倦怠感、冷や汗、動悸、手足の振るえが現れ、生あくび、けいれんや意識障害に至ります。

低血糖を起こしやすいときは?

  • 食事がいつもより少なかったり、時間が遅くなってしまったとき
  • 通常よりたくさん体を動かしたり、お腹がすいた状態で運動しすぎたとき
  • インスリン投与量が不適切

実際に低血糖になったらどうする?

低血糖状態の対処法は、ブドウ糖の摂取で対処出来ます。

低血糖を感じる時はすぐにブドウ糖10gを、なければ砂糖20gかブドウ糖を含む清涼飲料水150~~200mlを摂取し、安静にします。

普通はすみやかに症状が治まりますが、15分経っても治まらなければ、もう1回摂取します。それでもだめなら医療機関を受診しましょう。

低血糖はいつ起こるかわからないため、

  • ブドウ糖を常に持ち歩く
  • 身近な人に事前に対処法を共有しておく
  • 糖尿病家族用IDカードを携帯する

などの自己管理が重要です。

本人に意識がない場合

本人に意識がない状態だったら、周囲の人で対処する必要があります。

まずは救急車の手配をしましょう。

救急車の指示を待つあいだ、本人が所持しているブドウ糖を歯茎などに塗り付けます。

血糖値を上昇させるグルカゴンを所持している場合は、家族や周囲の人が注射します。

シックデイには高血糖に注意

シックデイとは、糖尿病治療中に感染症など他の病気にかかり、発熱・嘔吐下痢・食欲不振などの状態になることを言います。

シックデイ(体調が悪い日)は、血糖のコントロールが不安定になり、高血糖になりやすいため注意が必要です。あらかじめシックデイの時の対応を主治医に確認しておきましょう。

シックデイの対処法

  • 暖かくして安静に過ごす
  • 十分な水分補給をする(スープなどでも可)
  • 炭水化物を摂取する(おかゆなど)
  • インスリン注射を自己判断で中止しない
  • 血糖値の測定を小まめに行う

シックデイの対処法は、上記のポイントを意識しながら過ごすことです。

医師へ連絡が必要になる状態

上の項目での対処法を続けていても改善が見られない場合や、以下の項目が当てはまる場合には、病状、食事量、血糖値情報を伝え医師の指示を仰ぎます。

  • 血糖値が350mg/dL以上が続いている
  • 嘔吐下痢が止まらない
  • 38℃以上の高熱が続いている状態
  • 食事がほとんど摂れていない
  • 意識状態に変化がある場合
  • インスリンや経口血糖降下剤の投与量を自分で判断できないとき

インスリン療法(注射)はいつまで続ける?

インスリン注射はいつまで必要なのかという疑問を持っている人は多いと思います。

1型糖尿病の場合はやめられない

1型糖尿病の場合は、1度始めたインスリン注射を原則やめることは出来ません。

治療の過程で、血糖値が安定する「ハネムーン期」と呼ばれる時期が来ることが稀にあります。

このハネムーン期と呼ばれる期間は、インスリンを外部から補う必要なくなる状態のことを指します。

しかし、このハネムーン期は一時的な状態で、長く続いたり、完治するということはありません。

したがって、1型糖尿病の場合にはインスリン注射を原則辞めることは出来ないのです。

自己判断で中止することはしないようにしましょう。

2型糖尿病は自己注射を辞められることがある

1型糖尿病と違い、2型糖尿病の場合は自己注射を辞めることが出来る場合があります。

2型糖尿病の場合は、元々インスリンは出ている状態にあります。

インスリンが十分な量出ていなかったり、インスリンの作用が減っている状態にあるのが2型糖尿病です。

そのため、初期の段階でインスリン療法(注射)をスタートすることで、膵臓の機能回復を図ることで、再びインスリン分泌が安定してくる可能性があるからです。ただしその場合も自己判断で中止することはしないようにしましょう。

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インスリン注射についてまとめ

インスリン注射についてまとめ
  • インスリン注射は簡単
  • インスリン注射の副作用である低血糖には注意が必要
  • シックデイには慎重な対応が必要

今までの糖尿病治療では、インスリン療法(注射)を行うのは、糖尿病が悪化した場合に最終的に行うもの、というイメージが強かったのが現状です。

ですが、実際の糖尿病治療におけるインスリン療法(注射)は、初期の段階から行うことで、膵臓の機能回復を図ることを目的に行うこともあり、糖尿病の積極的治療として行われています

自己注射で行うことが基本になるインスリン注射は、患者の精神的・身体的負担を減らすために、日々進化しています。

自己判断での治療中止は出来ないため、患者本人だけでなく家族や身近な人も、インスリン療法(注射)について認知しておくことが望ましいです。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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