バルーンカテーテルとは|自己導尿との違いや注意点・デメリットについても徹底解説
更新日時 2023/11/28
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
矢野 大仁 先生
「バルーンカテーテルと自己導尿の違いを知りたい」 「バルーンカテーテルや自己導尿のデメリットを理解したい」 排尿障害における、バルーンカテーテルや自己導尿について、このようにお考えの方も多いかと思います。 バルーンカテーテルと自己導尿は、医師や看護師が処置をするか、もしくは自分で行うか違いがあり、生活スタイルも異なります。 こちらの記事では、バルーンカテーテルや自己導尿の注意点や、起こりやすいトラブル、それぞれのデメリットについて、イラストを用いて分かりやすく解説していきます!
- バルーンカテーテルは排尿障害があるときに利用する
- バルーンカテーテルと自己導尿のそれぞれにメリットとデメリットがある
- トラブルを理解した上で処置を検討する
排尿障害とは
排尿に関するトラブルは、40代頃から感じることが多く、「年のせいだ」と思われがちですがいくつかの原因がある場合があります。 排尿とは、まず膀胱に尿をためる蓄尿ののちに尿を排出する2つの段階から成り立っています。 そのため排尿障害を分類すると、尿を溜めることが出来ない畜尿障害と、うまく尿を出せない尿排出障害に分けられます。 この2つの違いについて、詳しく解説します。
溜められないこと(畜尿障害)
畜尿障害とは、尿をためておくことが出来なくなる障害です。 通常は体内で作られた尿は、膀胱に溜められ、ある程度溜まった段階で尿意を感じ、漏れてしまう前にトイレに行くことが出来ます。 加齢や、直腸癌や膀胱癌の術後の膀胱周囲の神経機能の低下が原因となり、
- 排尿筋の過活動が起こる
- 尿道閉鎖圧が低下する
- 膀胱が小さくなる
こうしたことから、トイレの回数が増えたり、失禁してしまったり、突然トイレに行きたくなったりします。
出せないこと(尿排出障害)
尿排出障害は、尿を出すことが出来なくなる障害です。
- 排尿筋の収縮力低下
- 膀胱の出口の抵抗が高くなる このような現象から、尿を上手く排出することが出来なくなることがあります。 前立腺肥大症や、子宮脱などによる通過障害や、糖尿病や脳血管疾患などの影響で排尿に関する神経が働かなくなったり、使っている薬の影響による場合もあります。 排出障害では、尿の勢いが弱まったり、排尿途中に途切れたりする症状や、排尿に力がいる、切れが悪くなる他、排尿後に残尿感を感じることがあります。
排尿障害の解決策は2通り
排尿障害を認めた場合には、その原因に応じた治療がなされます。 特に排出障害では、尿が腎臓へ逆流して細菌感染を起こしたり、腎機能障害の原因になることもあり、放置は望ましくありません。 薬物等での治療にもかかわらず、充分な排出が望めない難治性の排尿障害の解決策としては、バルーンカテーテル(尿カテーテル)と自己導尿の二通りが挙げられます。以下でそれぞれについて詳しく解説していきます。
バルーンカテーテル(尿カテーテル)
バルーンカテーテルは、正式には膀胱留置カテーテルといいます。 カテーテルと呼ばれる医療用の管を尿道から膀胱まで通して、入れたままの状態にすることで、尿は自然とそのカテーテルを通り、膀胱に溜まらず畜尿袋と呼ばれる袋の中に溜まる仕組みです。 素材にもよりますが、カテーテルは2~4週間で入れ替えをします。 さらにバルーンカテーテルは、そのままの状態で入浴することが出来ます。 また、畜尿袋は持ち運びできるので外出も可能。ズボンの下など見えない部分に隠すことが出来るタイプもあります。
バルーンカテーテルは痛い?
バルーンカテーテルの痛みや、不快感はかなり人それぞれです。 中には不快感や排尿時の痛みを感じる方もいますが、基本的にほとんどの人がカテーテルを入れた状態でも普通に過ごすことが出来ます。 細いカテーテルに替えたり、痛み止めを使用したりといった対応も可能なので、痛みや不快感を感じたら、早めに主治医に相談しましょう。 バルーンカテーテルの処置では、女性より男性のほうが痛みや違和感を感じることが多いです。 それほど強い痛みではなく、1~2日で治まることが多いです。
自己導尿
自己導尿とは、バルーンカテーテルのように管を留置せず、自分で毎回カテーテルを挿入し、排尿する方法です。 1日5~6回排尿の回数に合わせて、トイレで行いますが、排尿時以外は通常と変わりがなく、私生活を変えることなく通常通りの生活を送ることが出来ます。 自己導尿を行う場合には、事前にやり方を指導されるので、しっかり覚える必要があります。
各々のメリット・デメリットやトラブル
以下ではこの二種類のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
バルーンカテーテル
メリット
- 体内に尿を確実に排出出来る
- カテーテルを留置しているため、失禁がなくなる。
- 介護者の負担が少なくなる
- 失禁に関連する皮膚トラブルがなくなる
- 排尿量の確認が出来る
バルーンカテーテルの場合は、カテーテルを留置したままにすることによるメリットが多いです。 失禁回数が減ることや、毎回導尿する負担が減るため、本人も介護者も負担が減ることが特徴です。
デメリット
- トラブルが起こりやすい
- 日常生活に制限が生じることがある
- 自分で入れ替えができない入れ替えができない
バルーンカテーテルを留置することで 「カテーテルが詰まった」「尿道が傷ついてしまった」などといった、トラブルが他のケア方法よりも起こりやすい傾向があります。 また、カテーテルが常に挿入されていることが気になり、通常の生活に支障が出ることもあります。
起こる可能性の高いトラブル
- 尿路感染症
細菌が膀胱内に侵入することで起こります。 カテーテルを伝って起こることが多いため、清潔な環境下で処置をする必要があります。
- 尿道裂傷・尿道皮膚瘻・尿道下裂
バルーンカテーテルでは、常に皮膚とカテーテルが触れ続けているため、このようなトラブルが起こりやすくなります。
- 血尿
膀胱がカテーテルで傷つくことで出欠し、血尿となって流れる場合があります。 尿が出ていれば自然と落ち着いていきますが、出血が多い場合では入院治療が必要になる場合もあります。
- 耐性菌の問題
バルーンカテーテルを留置している方は、尿路感染などの細菌感染の頻度が多くあります。 細菌感染の処置として抗菌剤を使用した治療が行われますが、抗菌剤は頻回使用することで、抗菌剤が効かなくなる耐性菌が増えてしまう可能性もあります。
- 尿道の外傷
カテーテルの挿入時に、尿道を傷つけてしまうことがあります。 特に男性の場合が多く、傷ついた尿道は治る過程で狭くなることがあり、交換が大変になることもあります。
- 委縮膀胱
バルーンカテーテルを留置した場合は、膀胱に尿を溜めることがなくなり、常に膀胱が空になっている状態が続きます。 そのため、膀胱が委縮してしまうことがあります。
- 尿漏れ
尿路感染による膿や、結石、出血が原因で、バルーンカテーテルが詰まることで尿漏れは起こります。 尿漏れはこのような他のトラブルのサインともなります。注意して観察しましょう。
- 膀胱結石
留置しているカテーテルを異物とみなし、カテーテルの周囲にが結石が出来やすくなります。 長期間留置している場合は特に注意が必要です。
- 転倒
尿を溜めるための、採尿バッグとカテーテルが繋がれた状態で行動をすることになりますが、このカテーテルに何かが引っ掛かり転倒してしまう可能性があります。
- カテーテルの自己抜去
留置したカテーテルを自分で抜いてしまうことで、様々なトラブルが生じます。 特に膀胱に留置するカテーテルは、損傷しやすい部位も多く、大量出血の可能性もあり、注意が必要です。
- カテーテルの詰まり
留置したカテーテルは、何らかの原因で詰まってしまう場合があります。 慢性的に閉塞する場合には、結石等の疑いを排除し、飲水量の調整など対応が必要になる場合があります。
自己導尿
メリット
- 本来の排泄方法とほぼ同じなので通常の生活を送りやすい
- 膀胱機能の維持や改善に繋がることがある
- 感染リスクが少ない
自己導尿のメリットは、膀胱に尿を溜めてから出すという、本来の機能を活かした処置になります。 そのため、膀胱の機能回復に繋がる可能性があるというのが最大のメリットです。
デメリット
- 自分で処置を覚える必要がある
- 排尿のたびに処置が必要なので、1日複数回になることもある
- コストがかかる
- 外出の際に荷物が増える 自己導尿の場合、自分で処置を覚える必要があります。 女性の場合は、自分では処置の様子が見えにくいため、やりずらさを感じる人も多いです。 また、毎回カテーテルを交換しなくてはならないため、その分費用がかかることもデメリットです。
起こる可能性の高いトラブル
- 尿路感染症
カテーテルを挿入するときに、清潔な環境下で行わないと、細菌なども一緒に膀胱に侵入してしまう可能性があります。
- 尿道裂傷
カテーテルを挿入する際に、尿道を傷つけることで起こります。特に男性に起こりやすく、注意が必要です。
バルーンカテーテルの介護施設での受け入れ体制
バルーンカテーテルは、自己導尿とは異なり、医師や看護師でないと挿入することが出来ません。 介護施設に入居する場合、もし抜けてしまったり、再挿入する場合に、医師や看護師がすぐに対応できる環境であることが望ましいです。 医療体制が整っていない介護施設等では、バルーン留置している利用者の受け入れが出来なかったり、断られたりする場合もあります。 医師や看護師が24時間常駐している施設は、バルーン留置している患者にとっても安心感は高くなり、受け入れ体制が整っているという点からも、入居の判断基準になります。
排尿障害の問題
健康寿命への影響
頻尿や尿漏れなど、排尿に関するトラブルは、日中であれば問題なく対処出来る場合がほとんどです。 ただ、夜間にも起こる可能性が高く、睡眠不足やストレスからQOLの低下につながることもあります。 また、夜間の排尿トラブルでは、認知機能の低下が認められるという指摘もあります。 60歳以上のほとんどの人が感じる排尿トラブルでは、健康寿命が短くなる影響も指摘されています。
不要なカテーテル留置の問題
日本では、不必要かつ長期にわたる尿道カテーテルの留置が問題視されています。 手術後や、カテーテル留置が必要な病気の場合もありますが、長期間カテーテルを留置することよりも、まずは身体の状態回復や、膀胱機能改善を図ることが重要だとされています。
バルーンカテーテルのまとめ
- バルーンカテーテルは介護者への負担が少ない
- 自己導尿は膀胱機能の改善も期待できる
- 感染症などのトラブルも把握しておく
バルーンカテーテルと自己導尿の違いや、注意点・デメリットについて、イラストを交えながら解説してきました。 高齢者の半数以上が、排尿に関するトラブルを抱えており、適切な排尿管理をすることや、周囲のケアが求められます。 今回の記事を通して、デメリットや注意点を理解した上で、治療方針の検討や、患者に対するケアに活用してみてください。
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)
矢野 大仁(やの ひろひと) 先生
1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。
監修医師の所属病院ホームページはこちら 監修医師の研究内容や論文はこちら