【医師監修】パーキンソン病の予防方法はあるの?

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「パーキンソン病は治るの?」

「パーキンソン病の予防方法はある?」

このようにパーキンソン病のことが分からないので、病気の原因や特徴・予防方法などを詳しく知りたいという方も多いでしょう。

パーキンソン病が原因で介護が必要になる中高年者は、多いです。パーキンソン病と言われたら、治る病気なのか、寝たきり状態にならないかと悩み、寿命が心配になるのももっともなことです。

この記事では、パーキンソン病について、予防方法をはじめとして、なりやすい人、発症を抑えるために知っておくべきこと、治る病気なのかという事について、わかりやすく解説します。

この記事をご覧になれば、パーキンソン病の予防方法・介護の仕方などがよく分かるでしょう。

パーキンソン病についてざっくり説明すると
  • パーキンソン病の特徴は手足のふるえや動きが遅くなること
  • パーキンソン病の原因にはドパミン神経細胞の減少が関係している

パーキンソン病の特徴は?

パーキンソン病は50歳以降で発症することが多い病気です。症状は徐々に進行していきます。ただし、40歳未満で発症する若年性パーキンソン病もあります。

パーキンソン病の症状は、手足の震えや筋肉のこわばりなどにより動きが遅くなることです。運動機能障害だけでなく、自律神経障害・睡眠障害など、いろいろな非運動症状が現れることもあります。

このような症状が出たら、パーキンソン病を疑った方が良いです。

パーキンソン病が発症する原因

パーキンソン病部位

参考:みんなの介護

パーキンソン病の初期症状は、上で説明したように、「手足が震える・運動がゆっくり」などの運動症状です。このような運動障害が起こるのは、ドパミンという神経伝達物質をつくるドパミン神経細胞の減少が関係しているとされています。

ドパミン神経細胞が少なくなるのは、脳内に異常なたんぱく質(α-シヌクレイン)が蓄積する影響と見られています。しかし、その蓄積を認めない場合も存在するため、パーキンソン病の原因は複数の因子が絡み合っているとされています。

治療法としては、ドパミンを補う薬物治療が各種様々に開発されており、また、薬物治療が困難になったときなどには、症状の改善のために脳深部刺激療法が行われます。

治療法が進歩してきているのも事実です。原因は、未解明の部分が多いですが、必ずしも寿命が縮まってしまう病気ではありません。

パーキンソン病にかかりやすい人

パーキンソン病の日本での発症率は、欧米に比べるとかなり低いですが、日本でもごく一般的な病気になっています。

ここではパーキンソン病になりやすい人は、何か特徴があるのか見ていきます。

上でも説明したように、パーキンソン病は、男女にかかわらず主に中年以降に発症しています。若年性パーキンソン病や遺伝性が稀にみられますが、普通は遺伝性ではないとされています。また、食事や住んでいる地域、環境などで、原因となるような特別な事柄はありません。

パーキンソン病の発症を増加させる因子として、便秘、気分障害、殺虫剤への暴露、頭部外傷、農村生活、βーブロッカーの使用などがあげられていますが、十分な立証を持つ報告にはなっていません。ただし、うつや便秘はパーキンソン病の前触れ症状である可能性は指摘されています。

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パーキンソン病患者の主な症状

4大症状

パーキンソン病になると、脳の大脳基底核の機能が働かなくなり、四大症状があらわれます。四大症状とは「安静時振戦(ふるえ)」「無動」「筋強剛」「姿勢保持障害」の4つです。

また、睡眠障害、精神症状、頻尿・便秘などの自律神経症状、認知機能障害などもみられます。

パーキンソン病の症状は、長い年月をかけて徐々に進行していくのが特徴です。

安静時振戦(ふるえ)

まず、安静時振戦(ふるえ)です。じっとしていると手足がふるえます。しかし、ペンや箸を使う時にはふるえは止まります。安静時に振戦が見られたら、パーキンソン病を疑って診察を受けた方が良いかもしれません。

振戦は、親指と人差し指で丸薬をまるめるような「丸薬まるめ運動」といわれる動きが多く、歩行時にも見られます。また、「タッピング様振戦」と言って、床を踵で小刻みに打つような動きも見られます。

初めのうちは、左右どちらか片側の手足からふるえが始まるのが特徴です。数年経つと進行して、両方の手足に振戦がみられるようになります。

無動

無動もよく見られる症状です。運動麻痺や筋力の低下がないのに、日常生活での動きが少なくなり、動作が遅くなるのです。最初は上肢の動きの鈍さから始まり、動作緩慢はやがて大きな動作にも影響して、歩行、寝返り、着替えなどにも時間がかかるようになります。

具体的な症状としては、以下のようなものが見られます。

  • 仮面様顔貌(かめんようがんぼう):顔の筋肉がこわばり表情が乏しくなる
  • 小字症:書く字がだんだん小さくなる
  • 小声症:声が小さく単調になり聞き取り難くなる
  • 嚥下(えんげ)障害:飲み込みが悪くなる

自発的な行動が少なくなる結果、次第に筋力が低下し、一層活動が困難になってしまう悪循環に陥るリスクも高いです。

筋強剛

筋強剛は、筋肉の収縮と弛緩のバランスが崩れ、筋肉の緊張が進み、四肢が硬くなって動き難くなる症状です。固縮(こしゅく)ともいい、脱力感・関節のこわばりといった症状がみられます。

たとえば、手足の関節を他動的に動かすとき、ガクガクと歯車のように引っかかるような抵抗が断続的に見られる「歯車現象」が見られます。一方で抵抗が一定して感じられる場合を「鉛管現象」と言います。

筋強剛の症状は、患者自身では自覚し難いものです。実際には、医師が、患者の関節を曲げ伸ばしして、感じる抵抗で判断します。

姿勢保持障害

姿勢保持障害は、立ち上がるとき、歩くとき、方向転換するとき、などに体が傾き、体のバランスをとり難くなる症状です。転びやすいため、見守りが必要になります。

特に、次のような歩行障害が見られるのが特徴です。

姿勢保持障害の特徴
  • すくみ足:最初の一歩が出難い
  • 小刻み歩行:前傾姿勢で、歩幅が小刻みになり、腕の振りが小さくなる
  • 突進歩行:一度歩き始めると、どんどん加速して小走りになってしまい、自分では止まれない

姿勢保持障害は、次に説明する「ホーン・ヤールの重症度分類」のⅢ度以上になると見られる症状です。

症状の重症度による分類

ホーン・ヤールの重症度分類

パーキンソン病の進行速度は、人によって違います。パーキンソン病の進行度・重症度を示す指標としてよく使われているのが、「ホーン・ヤール(Hoehn & Yahr)の重症度分類」と厚生労働省の「生活機能障害度分類」です。

ホーン・ヤールの重症度分類」は、軽度のⅠ度から、ベッドで寝ていることが多く車いすが必要な重度のⅤ度まであります。多くの場合、生活の一部に介助が必要なⅢ度またはⅣ度までの進行は見られますが、必ずしもⅤ度まで進行するわけではありません。

Ⅴ度までになるのは、脳卒中や重い認知症などの合併症がある時や、骨折などで長時間安静が必要であった場合など、限られたケースです。Ⅴ度に進むのを防ぐために、血圧やコレステロールに注意したり、転んで骨折しないように歩き方に注意したりするなど、予防的な対応が十分可能です。

パーキンソン病の予防法はあるの?

ここでは、考えられるパーキンソン病の予防法を紹介します。基本的に大事なことは、ドパミンを増やすことです。

適度な運動をする

パーキンソン病の予防法は、まず運動することです。運動は筋力の低下を防ぎ、ドパミンの分泌を増やす効果があります。

健康な方であれば、たとえば、次のような運動がおすすめです。

  • 水泳
  • テニス
  • ジョギング
  • 柔軟体操

特に、体が硬い人はパーキンソン病になりやすい傾向がありますので、柔軟体操は効果的です。

ラジオ体操や散歩からはじめてみよう

手軽に始められる運動としては、ラジオ体操や散歩があります。ラジオ体操なら第一と第二の両方を行うと適度な運動量になり、おすすめです。散歩や体操は、費用もかからず副作用の心配もありません。

ただし、無理な運動は決して好ましくありません。膝や心臓などが悪い方は、ご自分の状況に応じた適度な運動にしましょう。

大事なことは、適度な運動を継続することです。

好きなことをしてストレス発散

好きなことや得意なことをすることも、パーキンソン病の大事な予防法です。家にずっと閉じこもってばかりいて、体もしっかり動かさないでいると、ストレスが蓄積してしまいます。

社会や人とかかわりを持ちながら、楽しいこと・好きなこと・得意なことをしていれば、ドパミンの分泌が増え、ストレスも解消できます。特に、目標を達成したときは、達成感・満足感でドパミンの分泌が活性化しますので効果的です。

難しいことでなくて良いので、達成できそうな目標を立て、達成するたびに楽しさや幸せを感じることができるようにすることが重要です。自分にできることを前向きに積極的に行うようにしましょう。

食生活に気をつける

パーキンソン病の予防法としては、食生活に気をつけることも欠かせません。特に乳製品や、果物・肉などの摂取が少ないと、パーキンソン病になりやすいと言われています。

好き嫌いを避け、バランスの良い食事を心がけることです。

チロシンを多く含む食べ物

チロシンは、タンパク質の一種で、ドパミンなどの神経伝達物質の原料となる栄養素です。チーズ・牛乳などの乳製品、豆腐・納豆などの大豆製品に多く含まれています。また、アーモンド、落花生、たらこ、かつお、などにも豊富に含まれています。

チロシンは、脳をやる気にさせ、集中力を高める効果があり、元気のもとになるとされています。ストレス解消やうつ状態の治療などにも効果的な栄養素です。

ヤマブシタケ

ヤマブシタケは知的機能の向上に効果があるキノコだと言われていますが、パーキンソン病の予防にも効果があることが動物実験で確かめられています。

脳の神経の維持・生存には、神経成長因子というタンパク質が不可欠です。ヤマブシタケは、このタンパク質を増やすことにより、パーキンソン病などの予防効果を期待されています。

ヤマブシタケの神経成長因子作用は動物実験で確認されていますが、人間への効果を確かめる研究が期待されるところです。

カフェインを含んだ飲み物を飲む

カフェインを含んだ飲み物を飲むことも、ドパミンの減少を防いで、パーキンソン病の発症を予防することにつながります。

コーヒー

コーヒーには、パーキンソン病の発症を抑える物質が含まれている可能性があると言われています。実際に、ハワイで行われた研究では、「コーヒーを多く飲む人ほどパーキンソン病が発症し難い」という結果が出ています。

コーヒーに含まれるコーヒー酸とクロロゲン酸によってドパミン神経を含む中脳の細胞(中脳アストロサイト)の障害を減少させることがラットやマウスの実験で示されています。また、マウスの実験でコーヒーに含まれるカフェインとEHT(エイコサノイル-5-ヒドロキシトリプタミド)の相乗効果によって、パーキンソン病の原因物資であるα-シヌクレインの蓄積が減少することも示されています。

以上のことから、コーヒーを1日2~3杯飲むのも良い予防対策と思われます。

緑茶

緑茶には、多くの病気の予防効果があると言われていますが、認知機能と記憶保持を助け、パーキンソン病の予防にも効果があるとされています。

緑茶には、緑茶カテキン(GTC)・カフェイン・テアニンなど、脳機能に良い影響を与える可能性のある化合物が多く含まれているのです。特に、緑茶のポリフェノールは、抗酸化作用、抗炎症作用、神経保護作用などがあることが知られています。しかしたくさん飲用すればするほどよいかについては証明されていません。

喫煙

喫煙がパーキンソン病の予防に有効という見方もあります。喫煙率とパーキンソン病の発生率には負の相関があるという報告や、喫煙者はパーキンソン病患者の死亡率が少ないとの調査結果もあります。

煙草に含まれるニコチンがドパミン神経を活性化させ、ドパミンが増えるため、パーキンソン病の症状の改善につながるという考えがあるようです。

しかし、喫煙がパーキンソン病の予防効果があるとしても、体や他の病気にマイナスの影響を及ぼすことを忘れてはいけません。喫煙はパーキンソン病の方の認知症を増やすことも報告されています。したがって、予防策として喫煙をすることは、決しておすすめできることではありません。

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症状が出たらどう対処すべき?

それでは、パーキンソン病の症状が現れたときには、どう対処すべきなのでしょうか。以下で詳しく解説していきます。

検査を早めに受けよう

まずは検査を早めに受けることが重要です。パーキンソン病かもしれないと少しでも疑いを持ったら、迷わずに医療機関で検査を受けましょう。

検査は、通常、症状についての問診に始まり、手足を動かしての神経学的検査、MRIなどを用いた画像検査が行われます。検査を受けて以下のような状態が確認されると、パーキンソン病と診断されます。

  • 脳血管障害や脳変性疾患でないことがわかっていること
  • 4つの代表的な運動症状(安静時振戦、筋強剛、筋固縮、無動・寡動、姿勢反射障害)が見られること
  • パーキンソン病の症状に類似した症状を引き起こす薬を服用していないこと
  • CTやMRI検査で脳に明確な異常が確認されないこと

薬や手術などの治療について

パーキンソン病と診断された時は、まずなされるのは、薬物療法です。薬の種類や量・組み合わせなどは、患者の状態により異なります。いずれにしても、医師の処方に従って服用しましょう。副作用など疑問点があれば医師に確認して、納得して治療を受けることが大切です。

L-ドパ剤薬を長期的に内服していると、薬剤性ジスキネジア(体がくねくねして勝手に動いてしまう)やウェアリングオフ症状(薬の有効時間が短くなって調子の良し悪しが日内変動する)などの副作用が出現してきます。

そのため薬物治療が困難になってくるため、薬の量を減らすことになりますが、その分、症状の悪化を来すことにつながります。そこで、脳の手術が検討されることになります。脳深部の神経核を電気刺激するためにリード線を脳内に留置させ、刺激を送る電池(パルスジェネレーター)を胸の皮下に植え込みます。これを脳深部刺激療法と言います。

これによって症状の底上げや副作用の軽減を目指します。また、振戦を主体とするパーキンソン病の場合で、かつ脳振部刺激療法ができない例では脳内の特定部位にMRI装置で集中的に熱を加える凝固術(MRガイド下集束超音波(FUS))が行われます。いずれの治療も保険適用として認められています。

ただし、手術は病気の進行度などによって効果に差があります。手術を受けるかどうかは、医師とよく相談して決めましょう。

リハビリしよう

リハビリをしっかり行うことも大切です。パーキンソン病になるとスムーズに体を動かせなくなります。そのため、どうしても活動が制限されやすくなります。

しかし、パーキンソン病だからといって運動を控えてしまうと、体の機能はますます低下していきます。運動機能を維持するために、日常生活の中にトレーニングやストレッチなどを忘れずに取り入れ、体の筋肉を鍛えましょう。

大事なことは、パーキンソン病の進行度に合わせたリハビリをすることです。症状が進行している場合は、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門家の指導を受けながら運動を取り入れていきましょう。

パーキンソン病のリハビリについては、以下の記事に詳しく書かれておりますので、是非こちらもご覧ください。

【専門家監修】パーキンソン病のリハビリ方法は?リハの重要性や自宅でできる運動も解説

パーキンソン病の検査・診断

ここでは、パーキンソン病の検査・診断方法について解説します。

MRI検査

MRIは、電波と磁石の力を使って人体の内部の画像を撮影する検査ですので放射線の被曝はありません。

MRIによって、脳の痩せ具合を評価できる「T1強調画像」や、梗塞や炎症などの病変がわかる「T2強調画像」など、目的に合う断面画像を撮影することが可能です。

ただ、MRIでパーキンソン病によって起こっている脳の変化を確認できるわけではありません。それでも、脳血管障害や脳腫瘍などパーキンソン病以外の脳の病気の可能性を判断し、これらを否定することがパーキンソン病の診断につながるのです。

MRIは磁力を使いますので、金属を身に付けている場合は注意が必要です。特に、体内に動脈瘤クリップや心臓のペースメーカーを装着しているときなどは、MRIが行えるか確認が必要になります。

CT検査

CT検査も体内の画像を撮影する検査です。こちらは電磁石ではなく、放射線を使用します。画像の解像度はMRIよりも劣り、脳の詳細な断層画像を撮影することはできませんが、パーキンソン病以外の病気についてスクリーニングするのにはよい検査です。

また、撮影時間が短く数分で済むことから、MRIのような負担を感じることなく検査を受けることができます。

MIBG心筋シンチグラフィ

MIBG心筋シンチグラフィは、MIBGという薬剤を注射する検査方法です。MIBGは微量の放射線を放出します。注射後の放射線を測定して薬剤の心臓への集まり具合を調べることができるのです。

パーキンソン病でなければ薬剤が心臓に正常に集まります。パーキンソン病の場合、集まる薬剤が減少するのです。ただ、糖尿病や心臓に持病がある場合、特定の抗うつ薬を服用している場合も、MIBGの集まりは減少します。パーキンソン病の初期段階の時は、発症していてもMIBGが正常に集まることもあります。

したがって、この検査だけでパーキンソン病と確定させることはできないのですが、パーキンソン病とパーキンソン症候群(脳の変性が原因でパーキンソン症状が出現する病気)との鑑別において威力を発揮するので、診断能力の高い検査と言えます。

ドパミントランスポーター(DAT)イメージング

ドパミントランスポーター(DAT)イメージングと呼ばれる検査方法もあります。この検査では、DATに結合しやすく、微量の放射線を放出する薬剤を注射し、脳への薬剤の集まり具合をチェックします。

DATは、ドーパミンの再利用を促すたんぱく質です。DATの働きを可視化することによりパーキンソン病と本態性振戦や認知症などを鑑別できます。

パーキンソン病では、ドパミン神経に障害が起こり、その影響によってDATが減少します。パーキンソン病の疑いがある時に、薬の脳への集まり具合を見ることで、診断の参考になるのです。

パーキンソン病の初期には低下しますが、進行期にはあまり低下しないので注意が必要です。

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パーキンソン病の治療法

パーキンソン病の治療ガイドライン

ここでは、パーキンソン病の治療法を紹介します。日本神経学会では、パーキンソン病の治療について基本的に上の画像のようなガイドラインを発表しています。

基本的な治療方針

パーキンソン病の治療方針は、病状の初期段階と進行段階で違います。患者の状態などを考慮して治療法を選択します。

初期段階

パーキンソン病が発症したばかりの初期段階は、まず経過を観察します。日常生活や仕事に特に影響がないようであれば特別な治療は行いません。

ただし、物忘れがひどい、高齢である、仕事に影響しないように症状を抑えたいなど、何らかの理由がある時は、薬物治療を始めます。たとえば、ドパミンの不足を補う「L-ドパ(レボドパ)」や、ドパミン同様の作用がある「ドパミンアゴニスト」を使用します。

進行期

パーキンソン病が進行期になると、運動系と非運動系の合併症が出始めます。

運動合併症対策は薬剤の変更です。服用中のL-ドパ薬にドパミンアゴニストを追加することで、オフ時間が短縮したり、L-ドパ薬を減量できたり、動きが改善したりする効果が期待されます。ただし、60題前半までの人には、これらの効果が期待されますが、より高齢の人では証明されていないので注意が必要です。

非運動合併症としては、便秘、排尿障害、睡眠障害、起立性低血圧、幻覚などの症状が見られます。詳しくはこの後説明しますが、これらの治療も必要です。

基本的には薬物治療

パーキンソン病の治療は、薬物治療が基本です。パーキンソン病の治療に使われる主な薬剤とその効果・効能は、次の表の通りです。

薬剤名 効果・効能
L-ドパ ほぼすべての患者に有効
代謝酵素阻害薬との併用で末梢での代謝(L-ドパ→ドパ)を抑制し、代わりに脳内でのドーパミンを効率的に補充
ドパミンアゴニスト ドーパミン受容体に直接作用し症状を軽減
徐放製剤や貼付剤は1日1回の服用・貼付でほぼ一日中効果が持続
L-ドパ賦活薬 抗パーキンソン病効果があるアマンタジンとゾニサミドを使用
抗コリン薬 抗コリン薬は静止時振戦の抑制効果がある反面、認知機能を悪化させる危険性もある
ドロキシドパ すくみ足や立ちくらみ(起立性低血圧)に有効
アデノシンA2a受容体拮抗薬 パーキンソン病の運動機能を改善
進行期のオフ時間の短縮に有効
MAOB阻害薬 セレギリンやセフィナミドはドーパの代謝を抑制し、脳内ドパミン濃度を上げる
COMT阻害薬 エンタカポンは抹消でのドーパの代謝を抑制し、効果を長持ちさせる

適切な薬を処方してもらうためには、患者自身の心身状態で困っていることを主治医にきちんと話すことが大事です。

副作用に注意

パーキンソン病の薬物治療は、薬の副作用に注意して、医師と相談して進める必要があります。副作用には、薬の服用を開始して間もなく起こるものと、薬を服用し続けることで生じるものがあります。

最初のうちに見られる副作用は、食欲不振・便秘・吐き気などです。ドパミンアゴニストの中には急な眠気を生じることや、定期的に心臓病の検査を受けなければならない場合もあります。副作用によっては、本人の自覚が少なく、周りの助言が必要な場合もあるので注意しましょう。

薬を長期間服用し続けることの副作用としては、1日の間で症状が改善される時間帯と悪くなる時間帯が出るウェアリング・オフ現象や、手足が勝手に動いてしまうジスキネジアなどの、現象もあります。いずれも、医師への相談が必要です。

場合に応じて外科治療(手術)

パーキンソン病の治療は基本的に薬物療法ですが、たとえば、上の副作用で説明した1日の症状に変化があるウェアリング・オフ現象や、手足が勝手に動くジスキネジアなどの症状に対しては、手術などの外科的な治療が行われることもあります。

脳深部刺激療法(DBS)

脳深部刺激療法の様子

パーキンソン病の手術でよく行われているのは、脳の深部に電気刺激を送る脳深部刺激療法(DBS)です。

頭蓋骨に小さな穴を開けて脳内に電極を挿入し、胸の皮下に埋め込んだ電気刺激発生装置とつないで、脳内に継続的に刺激を与えます。

脳に電極を埋め込むためにフレームを取り付ける手術(定位脳手術装置)と、神経刺激装置を胸部の皮下などに植え込む手術が必要です。

外科手術で効果が出ない場合

外科手術でパーキンソン病の症状をすべて改善できるわけではありません。

たとえば、薬物療法によって改善しなかった歩行障害や言語機能障害、認知機能障害、易転倒性については、手術を行ったとしても十分な改善効果を期待し難いと言われています。また、起立性低血圧や便秘、うつ気分などの非運動症状も改善は見込めません。

術後のリハビリ

手術をした後に大事なことは、リハビリです。術後は薬物治療を継続します。定期的に通院し、病状を観察してもらい、薬の調整などについて医師の指導を受けましょう。

脳深部刺激療法(DBS)を受けた場合は、症状や薬に合わせて与える刺激の強弱を変える必要があります。

パーキンソン病についてよくある質問

ここでは、パーキンソン 病についてよくある質問について、解説します。

パーキンソン病は治るの?

パーキンソン病は、発症のメカニズムが未解明の部分が多く、完治療法はまだ見つかっていません。ですから、症状の種類や程度に合わせて薬を服用したり、手術を行う対症療法がとられたりしているのです。

ただ、近年、遺伝が関係する家族性パーキンソン病の研究が進んでおり、非遺伝性の孤発性パーキンソン病の原因解明の努力も続けられています。

パーキンソン病は遺伝するの?

パーキンソン病は、ほとんどの場合、遺伝性ではありません。パーキンソン病患者は全国に100~300人/10万人くらいいると言われています。このうち、遺伝性パーキンソン病患者は、10人から20人に1人くらいです。大半は、突発的に発病する孤発型です。

親から子へ病気が遺伝する場合を「家族性パーキンソン病」と言います。若い年齢(特に50歳以前)で発症する「若年性パーキンソン病」も、家族性パーキンソン病です。

パーキンソン病の経過や寿命は?

パーキンソン病の経過や寿命も気になるところです。パーキンソン病は治療薬の開発が進んでおり、患者の平均寿命は全体的な平均寿命と大差ないと言われています。

ただ、パーキンソン病の患者は、経過中に転倒による骨折や誤嚥性肺炎を発症する人も少なくありません。ほかの病気にかからないように注意することが大事です。

パーキンソン病患者の介護をする際に気をつける事

パーキンソン病になると、さまざまな症状が現れます。そのため、症状に合わせた介護が必要です。

たとえば、以下のような症状に応じた対応を心がけましょう。

症状に応じた対応
  • 「便秘」:水分摂取・適当な運動・繊維の多い食事の摂取し、塩類下剤や大腸刺激性下剤を服用する。
  • 「すくみ足」:イチ、ニ、イチ、ニと号令をかけたり、床や周囲に複数の目印をつけておいたりすると歩きやすくなることがあります。
  • 「よだれ」:口腔の動きが減少していることが原因です。ドパ製剤を増量したり、口の開け閉めや唾液を飲み込むなどのリハビリをしたりすることも必要です。
  • 「首下がり」:抗パーキンソン薬の影響も考えられるので薬の量を調節する。
  • 「起立性低血圧」:ゆっくり起き上がる生活動作を習慣づけることが必要です。適度に塩分と水分を補給することと、弾性ストッキングも有効のことがあります。
  • 「幻覚、妄想」:ドパ製剤が原因になっていないか調整して確かめる。改善しなければ抗精神病薬が必要になることもあります。

パーキンソン病は指定難病

パーキンソン病は、指定難病の1つで、難病医療費助成制度が適用されます。ただし、医療費助成の要件などが、難病新法により2018年から変わっていますので注意が必要です。

認定要件と自己負担額

まず、認定要件です。難病医療費助成を受けることができるのは、パーキンソン病と診断された方で、次の要件に該当する方です。

  • ホーン・ヤールの重症度分類Ⅲ度以上で、生活機能障害度2度以上の方
  • 上記に該当しない軽症者であっても、1か月の医療費総額が33,330円を超える月が年間3回以上あれば助成対象(軽症高額該当)

自己負担額は、医療費の2割または自己負担上限額までで、それ以上の自己負担額分が助成されます。

助成対象となる医療・介護

助成対象となる医療・介護の内容は、次の通りです。

  • パーキンソン病の診療、調剤、居宅における療養上の管理及び治療に伴う看護等
  • パーキンソン病に対する訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、介護療養施設サービス、介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護医療院サービス

申請のためには、難病指定医が作成する診断書(臨床調査個人票)が必要です。特定医療費の支給認定申請書と、その他の必要な書類とともに、都道府県の申請窓口へ提出しましょう。

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パーキンソン病の対策についてまとめ

パーキンソン病の対策についてまとめ
  • パーキンソン病になると「安静時振戦」「無動」「筋強剛」「姿勢保持障害」の四大症状が現れる
  • 予防法はドパミンを増やすことであり、運動する・好きなことや得意なことをする・食生活に気をつけることが大事
  • パーキンソン病の治療方法は、薬物治療が基本だが手術もあり得る
  • 完治療法はまだ見つかっていないが、パーキンソン病の原因解明の努力は今日も続けられている。

パーキンソン病の原因や特徴、なりやすい人、発症を抑えるために知っておくべきことなどを詳しく解説しました。

パーキンソン病は、現時点ではまだ完全に治る病気とは言えませんが、効果的な薬剤も多く開発されており、治療方法の研究はどんどん進んでいます

パーキンソン病についていたずらに心配するのではなく、この記事を参考にされて、パーキンソン病の予防方法などの知識をしっかり身に付けて、それらを実践していきましょう。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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