【医師監修】気管切開(気切)とは?カニューレの扱い方から介護負担の軽減方法まで解説

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長

矢野 大仁 先生

「気管切開ってどんな手術?」

「気管切開する時の注意点は?」

このような疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?

もしご家族が病気で、気管切開(気切)が必要だと医師から説明されたら、どのような処置かわからず不安に感じる方も多いでしょう。

気管切開とは、人工呼吸器が必要な方や、がんで喉の一部を切除した方、気道が閉塞しやすく、呼吸が難しい方などにおこなわれる処置です。気切と省略されることもあります。

この記事では、気管切開について、そしてカニューレの扱い方や介護負担の軽減方法について詳しく解説しています。

気管切開についてざっくり説明すると
  • 確実に気道が確保される。
  • 患者さんは挿管チューブの負担から解放される
  • たんを出しやすくなる、または吸引しやすくなる
  • 唾液が気管に流れ込むのを防ぐ

気管切開(気切)とは?

気管切開とは、肺に空気を送ったり、痰を吸引しやすくするために気管を切開し、気管孔(きかんこう)という孔を造設することをいいます。

人が呼吸をするときには、鼻やのどで加湿された空気は気管を通って肺に送り込まれます。気管が何らかの原因で狭くなっている方は、呼吸がスムーズに行えなかったり、痰や分泌物が吐き出せないことがあります。

このような場合、気管切開を行うことで、呼吸や痰の喀出・吸引が行いやすくなるのです。

気管切開を行った場合、気管孔が閉塞しないように気管カニューレという管を入れます。気管カニューレとは、気切孔から挿入するチューブで、気道を確保し、人工呼吸器と接続することもできます。

気管切開は、患者の呼吸を助け、痰を出しやすくすることができる一方で、家族は医療的なケアを日常的に行う必要があります。

気管切開の手術後の流れ

気管切開の手術後に、どのような処置や治療が必要になるのかを、把握しておきましょう。

手術後7~14日で、初回カニューレ交換を実施します。このとき、術後の創部処置(抜糸など)も行われます。

退院前には、自宅での生活にむけた気切の方の療養上の注意点も説明されます。カニューレの固定ひもやバンドがゆるむと、カニューレが抜けてしまう危険があることや、カニューレの閉塞を予防するための吸引指導をはじめ、緊急時の対応方法など、さまざまな指導が行われます。

分からないことはそのままにせず、医師や看護師に質問して繰り返し説明を受けるようにしましょう。

なぜ気管切開は必要なのか

呼吸するための気道が狭くなってしまっている場合や、人工呼吸器を装着する場合には、まず口や鼻からチューブを気管まで挿入(挿管)することで、空気の通り道を確保します

しかし、患者さんにとっては口、鼻、咽頭、喉頭の異物感は強く不快であるため、挿管中はある程度の鎮静状態にする必要があります。

また、不衛生な状態で感染症を起こしやすくなり、また、些細なことでチューブが動いて抜けたり、位置がずれるなどのリスクがあるため、挿管チューブを固定するための固定テープも顔に貼り付けるなければならないなど、長期的に挿管のままで過ごすことは困難なのです。

気管切開に切り替えることにより、気道が狭窄している方でも確実に空気の通り道を確保することができ、口腔内、咽喉頭がすっきりして衛生状態を保つことができるようになります

声帯よりも下にある気管を切開するため、管は短く、体動時の窒息やズレのリスクも減少します。

また、気管切開は、鼻から挿入するチューブのようにテープでの固定が必要ないため顔周りがスッキリすることや、抜去のリスクが低いため、鎮静が不要となるという利点があります。

気管切開しても声は出せるのか

気管切開は声帯よりも下の位置で行われるため、声帯への影響はありません

しかし、後で説明するカフつきのカニューレでは、声帯まで息が届かないため発声はできません。

ただし、発声が可能なタイプのカニューレもあります。これらは、疾患の急性期を過ぎて、発声可能な状態になったときに選択が検討されます。

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気管カニューレの管理方法

気管切開で造設した気管孔の閉塞を予防する必要があるため、気管カニューレを挿入します。

気管カニューレにはさまざまな種類があり、患者さんの状態や生活スタイルに合わせて構造や材質が選択されることが一般的です。

意識がしっかりしていて言葉を話すことができる方には、スピーチカニューレという声を出すことができる気管カニューレが選択されることもあります

一方で、気管カニューレを使用することで起こりやすいトラブルへの注意も必要です。とくにカニューレから直接気道に空気が入ってくるため、肺炎を起こしやすいといわれています。また、カニューレが抜けたり痰によって閉塞してしまうと、緊急対応が必要となります。

その他、気管カニューレや固定バンドの刺激による皮膚トラブルや潰瘍の形成、といったトラブルも起こりやすいです。

このような事故やトラブルを防ぐためには、毎日の気管カニューレ管理やケア、そして観察が大切です。

毎日のケア

気管カニューレには、カフという風船がついている種類があります。カフとは、唾液が気管に入り込むのを防ぐはたらきをしています。

カフの空気は自然に少しずつ抜けていってしまうため、カフの空気量の確認と調整を毎日行うことが必要です。

カフの空気が少なすぎると、唾液が気管に入り込んでムセてしまう危険があり、カフの空気が多すぎると気道を圧迫して気道粘膜のトラブルの原因となります

口腔ケア

口の中が汚れていると細菌が増殖し、肺炎を引き起こすきっかけとなるため、口腔ケアは非常に重要です。口から食事を取っていない方でも、1日に1回は歯磨きや濡らしたガーゼやスポンジで口の中を拭って清潔を保つようにしましょう

加湿管理

気管カニューレを挿入している方は、空気が鼻腔や口腔で加湿されずにそのまま気道から肺に入ります。そのため気道は乾燥しやすく、感染症の危険を高めてしまいますので、気管カニューレに人工鼻という加湿フィルターを装着します

人工鼻での加湿が行えない方は、ネブライザーという機械を使用し、蒸気による加湿を行うこともあります。

ガーゼ交換、バンドの調整、皮膚のケア

気管カニューレを固定するためのバンドは、カニューレが抜けることを予防するために必要なものです。しかし、バンドの締め付けが強すぎると皮膚トラブルの原因となります。

バンドや気切のまわりを保護するガーゼは一見汚れていないように見えても、痰や汗、浸出液などで汚染されていることが多いです。

1日に1回は必ずバンドとガーゼを外して皮膚が荒れていないかを確認し、患部をきれいにしたあと交換するようにしましょう。

定期的に行う管理・ケア

気管カニューレは、2~3週前後に1回の頻度での交換が必要です。定期的な交換の他に、汚れやたんによる詰まりが疑われているときにも交換が行われます。

気管カニューレの交換は、原則として医師が行いますが、カニューレが突如抜けてしまったときなどには気管孔閉鎖の危険があるため緊急時には家族が行うこともあります。退院前の指導に限らず、在宅や施設に戻ってからも、方法を確認しておきましょう。

気管切開のメリット・デメリット

気管切開は、ALSや多系統萎縮症をはじめとする神経の病気によって長期的な人工呼吸管理を必要とする方や、がんで喉の一部を切除した人、慢性的に気道が閉塞しやすくなっていたり、痰が詰まりやすく空気が通りにくくなっている人などに適応するとされています。

メリットがある一方で、気管切開にはデメリットもあります。デメリットも理解しておくことで、異常を早期に発見したり、緊急時の対応が行いやすくなります。

ここでは、気管切開のメリットだけでなくデメリットについても詳しくご紹介します。

気管切開のメリット

気管切開のメリットまとめ

  • 確実な気道確保ができ、安定した呼吸環境が確保される
  • 呼吸を楽に行うことができる
  • たんをしっかりと喀出できるため、呼吸トラブルが減少する
  • たんの吸引が容易になるため、家族の介護負担が減少する
  • 挿管チューブが必要なくなるため、顔周りがスッキリする
  • 口や喉にチューブがないため、状況によって食事や会話が行える可能性もある
  • 人工呼吸器の装着が可能

気管切開のデメリット

  • 気管孔からほこりや菌が体内に入り込む危険がある
  • 呼吸で吸い込む空気の湿度や温度を維持できない
  • 人工物が気管に入ることによる、感染や気道閉塞などのリスク
  • 医療的ケアは継続的に必要で、本人や家族に負担がかかる
  • 就労、就学に制限がある場合も。

気管切開すべき人は?

実際に気管切開をするべきと医師が判断するのはどのような状況であるかについて説明します。

まず、声門や気道が狭く、呼吸が行えない危険がある方には気管切開が選択されます。声門や気道の狭窄は呼吸不全につながり、命の危険があるからです。

挿管チューブが入りにくい場合に、救命のために一時的な緊急処置として気管切開が行われることもあります。

加齢や疾病による嚥下機能の低下などにより誤嚥性肺炎が繰り返されたり、たんが自分で出せない方は、たんの吸引を行う必要があります。

口や鼻から吸引チューブを挿入して吸引する事も可能ですが、症状の安定が難しい場合には、より吸引をスムーズに行える気管切開を提示されることもあります

その他、長期的に挿管チューブによる呼吸管理が必要な場合や、人工呼吸器の装着が必要な場合などには気管切開が必要と判断されます。

長期間挿管が必要な場合

口や鼻から長いチューブ(挿管チューブ)を挿入して行う気道確保は、些細なことでチューブのズレが生じる危険があります。また、自己抜去のリスクもあり、鎮静や抑制が必要となることが多いです。

鎮静や抑制は、ご本人にとって苦痛であることに加えて、寝たきりとなったり筋力の低下や褥瘡発生のリスクにつながりかねません。

そのため、長期間の挿管が必要な状態の方は、気管切開の適応とされています。

人工呼吸器が必要な場合

一時的な人工呼吸器管理であれば、挿管チューブによる気道確保でも問題ありません。

しかし、挿管チューブよりも気管カニューレの方が無駄な空間(死腔)が少なく、空気を効率的に肺に送り込むことができます。

長期間にわたって人工呼吸器の装着が必要な方には、先に書いたように安定した呼吸環境を維持することが重要であるため、挿管よりも気管切開の方が適切と考えられます。

のどや咽頭が狭く息ができない場合

のどや咽頭が狭い方は挿管チューブを入れることが困難なため、気管切開が選択されることがあります。

のどや咽頭が狭くて呼吸が出来ない方は、挿管チューブによる気道確保が難しいため、気管切開が適切であるとされています。

気管切開を行っていることによって、気管カニューレを通して人工呼吸器の装着が可能となります。

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気管切開のチューブの種類

気管切開チューブの種類

気管切開の手術直後は、切開部からの出血があります。出血が治まるまでは、血液が気道に流れ込むことを予防するために、カフ付きのチューブが選択されます。カフがあることによって、血液の気道への流れ込みをある程度予防することができるからです。

ただし、子どもは気管の粘膜が弱く傷つきやすいため、一般的にカフのないチューブが選択されます。

多くの方は、気管切開を行う以前から口や鼻からの挿管を行われていることがほとんどです。

手術前に選択されていた挿管チューブがカフなしのものであった場合には、気管カニューレもカフなしのものを使用することが多いとされています。

また、カニューレには単管と複管があります。複管は、高価ですが、頻回に痰が溜まりやすい方には内筒のみ洗浄すればよいので負担が少なく、カニューレ内部を保つことができます

気管切開のためにはたん吸引が必要

痰の量には個人差がありますが、自力で痰を出すことが出来ない場合、たんの吸引をする必要性があります。

なぜたん吸引が必要なの?

たんが溜まっていると、空気が十分に肺に届かないからです。呼吸を楽に行うことができるよう、気管内のたんを取り除く必要があります。気管内にたんがたまってゼロゼロという音が聞こえるときや、入浴や食事の前後のタイミングで吸引をするといいでしょう。

たんが少ない時に無理やり吸引をする必要はありませんが、半日以上吸引しないでいると、カニューレの内側についているたんが、乾燥してカニューレを閉塞させてしまう危険があります。1日に数回程度、または適宜に吸引を行うようにしましょう。

たん吸引に必要な道具

吸引に必要な道具は、吸引器、カテーテル、アルコール綿、カテーテル洗浄用の水道水などです。必要な物品については、医師や看護師から説明があります。

また、医療保険で在宅気管切開患者指導管理を算定されている方は、毎月の外来受診時に、翌月の受診日までに必要な医療器材と衛生材料を受け取ることができます

通院先によって使用する器材や衛生材料の取り扱い数が異なるため、退院前にかかりつけ医やかかりつけ薬局への確認が必要です。

たん吸引を行う手順

たん吸引を行う手順について説明します。

①石鹸と流水で丁寧に手を洗い、アルコール消毒をします。あるいは医療用使い捨てビニール手袋(清潔)を装着します。

②吸引器の電源を入れて、吸引カテーテルを接続します。

③吸引圧を-20〜40kPaに調整します。吸引カテーテルを根元で折り曲げると吸引器の圧ゲージが上がることをチェックし、チューブに圧がしっかりとかかっている感触も確認します。

④アルコール綿でカテーテルを消毒します。気管に入る部分は直接触らないようにしながら、利き手で吸引カテーテルを保持します。

⑤患者さんに声をかけてから、人工呼吸器や人工鼻を外します。

⑥吸引カテーテルの根本を折り曲げ圧がかからないようにしてから、カテーテルを医師の指示した長さだけ気管カニューレに挿入します。

気管カニューレを挿入

⑦十分な長さまで挿入したら、カテーテルの根本を解放して圧をかけます。

⑧くるくるとカテーテルを指でねじるように先端を回転させながら、ゆっくりとカテーテルを引き抜いてたんを吸引します。吸引後は速やかに人工呼吸器や人工鼻を装着します。

⑨カテーテルをアルコール綿で拭き、コップに入った水を吸引し、カテーテルの内部も洗浄します。同様に鼻と口の中を吸引します。1回の吸引時間は5~10秒にとどめるようにしましょう。

⑩一回の吸引でたんが十分に引けない時には、無理に続けずにいったん中断しましょう。呼吸が落ち着くのを待ってから、もう一度吸引を行ってください。

⑪カテーテルをアルコール綿で拭き、コップに入った水を吸引し、カテーテルの内部も洗浄します。

気管切開についてまとめ

気管切開についてまとめ
  • 確実に気道が確保される。
  • 患者さんは挿管チューブの負担から解放される
  • たんを出しやすくなる、または吸引しやすくなる
  • 唾液が気管に流れ込むのを防ぐ

この記事では気管切開について説明しました。

気管切開の手術後、傷口や全身の状態が安定すれば自宅での療養が可能となります。また、状態によっては気管切開がなされていても食事や会話をすることも可能になります

気管切開の管理は覚えることも多いため、ご家族の負担が大きくなりすぎないように、医師や看護師に相談したり、さまざまな制度によるサポートを受けながらケアに取り組んでいってください。

この記事は医師に監修されています

中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)

矢野 大仁(やの ひろひと) 先生

1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。

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