認知症で入院はできる?退院させられてしまう理由から悪化しやすい症状まで全て紹介
更新日時 2021/11/13
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
矢野 大仁 先生
「認知症患者は入院できるの?」
「認知症患者が入りやすい施設はあるの?」
このような疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?
厚生労働省「認知症施策推進大綱」によると2019年の時点で年の時点で65歳以上の7人に1人が認知症であるといわれています。
認知症には、いろいろなタイプがあり、それぞれのタイプに合った介護の仕方や治療方法があります。
しかし、「認知症の対処法がわからない」、「仕事をしているので思うような介護ができない」という方も多いと思います。
そこで、この記事では、認知症の症状について解説します。また、認知症で入院できるのか、どういうときに退院させられるのかなどについてご説明します。
- 認知症で病院に入院できる
- 認知症が悪化すると退院させられることがある
- 認知症専門の病院への入院など各種制度を利活用しよう
認知症の症状は?
認知症は、病気の影響などにより脳の神経細胞に障害がでてしまい、脳の機能が低下してしまう疾患です。
脳の機能が低下することで、いろいろな症状があらわれます。症状が悪化すると、日常生活や社会生活が送れなくなってしまいます。
一口に認知症といっても、いろいろなタイプの認知症があり、認知症の型によって症状が変わってきます。
認知症の種類
以下では、認知症のタイプ4種類と、認知症に関連する疾患である正常圧水頭症についてまとめました。
- アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で起こります。
脳の中にタンパク質のひとつである 「アミロイドβ(ベータ)」が溜まることで、脳の神経細胞を壊し、脳を萎縮させてしまう疾患です。
特徴として、発症事例は男性よりも女性が多く、また、遺伝により発症することもあります。
現在使うことができるアルツハイマー型認知症の治療薬は根本的に治すことはできませんが、薬を利用することで病状の進行を遅らせることは可能です。
- 脳血管性認知症
くも膜下出血や脳梗塞、脳出血といった脳の血管の病気により脳血管障害を起こします。
脳血管性認知症は脳血管障害により脳に酸素や栄養が行かなくなることで、脳の細胞が死滅してしまい認知機能が低下します。
特徴として、発症は女性よりも男性が多く、また、高齢者に限らず40歳代や50歳代などの世代でも発症しています。
- レビー小体型認知症
脳の神経細胞が減少してしまうことで発症する神経変性の認知症です。
特徴として、見えない物が見える幻視や手のふるえ、睡眠中の異常行動の症状がでます。
上記2つとレビー小体型認知症を合わせて三大認知症と呼びます。
- 前頭側頭型認知症(ピック病を含む)
脳の一部である前頭葉や側頭葉が萎縮してしまうことで発症します。65歳以下での発症が多く見られます。
特徴として、前頭葉の機能である人格・社会性・言語が正しく機能しないため、万引きをしたり、暴力を振るってしまうことがあります。
また、側頭葉前方の機能である記憶・聴覚・言語が正しく苦悩しないため、うまく話せなくなります。
- 特発性正常圧水頭症
認知症の原因となる疾患です。
髄液が脳室にたくさん溜まってしまう病気です。
特徴としては、認知機能の低下のほかに、歩行困難や失禁といった症状が見られます。
認知症の症状は、大きく分けると中核症状と周辺症状(BPSD) の2つがあります。
ここで2つの主な症状をご紹介します。
中核症状
ここでは、6つの中核症状をご紹介します。
- 記憶障害
特に直前の記憶から数日間の記憶である短期記憶が失われる症状です。
一例として、昼食を食べたばかりなのに「昼食を食べてない」と考えてしまうということがあります。
一方で、幼少期など昔のことや数か月前に起きた出来事などの長期記憶は、しっかり覚えています。
- 見当識障害
日付や時間、今の季節、今いる場所、周りの人のことが分からなくなる症状です。
一例として、夏なのに冬と思い込み、厚手の服を着たり、自宅にいるのに「家に帰る」と言ってソワソワします。
- 実行(遂行)機能障害
何かするときに、頭の中で順序や段取りを決めて行動することができなくなる症状です。
一例として、食事を作るときに調理の段取りが考えられなくて、家電を使えなくなったりします。
- 言語障害
脳に記憶された 「言葉」を失ったり、言いたい言葉をうまく引き出せなくなる症状です。
一例として、人が言ったことを理解できなかったり、自分が話したいことを思うように言いえない(失語症)ために、無反応や無口になります。
失語症については、以下の記事でより詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
【医師監修】失語症ってどんな病気?症状や原因リハビリ方法までイラスト付きで紹介!
- 失行・失認
これまで生きてきた経験の中で蓄積された記憶を失ってしまう症状です。
一例として、箸の使い方が分からなくなったり、目の前の料理が分からなくなってしまい、食事を摂らなくなることがあります。
- 理解・判断力の低下
脳の機能が低下するため、聞こえた情報や見た情報、匂いの情報などに対する理解や判断が遅くなる、または、出来なくなることがあります。
一例として、道路を渡るときに車が来ているのが見えても、「行ける」、「間に合わないから戻る」の判断ができずに、そのまま道路に立ち止まってしまうことがあります。
周辺症状(BPSD)
ここでは、中核症状に伴って起きる6つの周辺症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)をご紹介します。
- 幻覚・幻聴
その場にいない人が見えたり、いない人の声や音が聞こえたりする症状です。
一例として、「壁から人が入ってきて話しかけてくる」とありえない話をします。
- 妄想(物盗られ妄想)
短期記憶が失われ、さらに強い不安から見つからない物は、誰かに盗まれたと思い込む症状です。
一例として、「嫁に財布を盗まれた」と訴えることがあります。特に、家族や周囲の人など身近な人を疑ってしまう傾向があります。
- 興奮
不安や感情のコントロールができなくなることから、興奮してしまう症状です。
一例として、大声を出したり、物を投げつけたり、怒りっぽくなることがあります。
- 不潔行為
失行・失認の影響により、「汚い物」が分からなくなり、触ったりするなど不潔な行動をとってしまいます。
一例として、便が何だか分からずに、素手で触ってしまうことがあります。
- 介護への抵抗
短期記憶が失われるため、介護者を忘れ「知らない人」と認識したり、理解力・判断力が低下するため自分が介護を受ける理由が分からずに、介護を拒否することがあります。
一例として、「知らない人は家にあげられない」、「自分は元気だから介護は要らない」と介護を断ってしまうことがあります。
- 徘徊、昼夜逆転
見当識障害により、自分がいる場所や時間が分からなくなり、ウロウロしたり、夜中に出かけてしまう症状です。
また、短期記憶が失われているため、出かけても帰り道が分からずにウロウロしてしまいます。
一例として、入院しているのに自宅と思いこみ、トイレを探したり、夜中なのに「仕事に行かなくては」、「買い物にいかなくては」と考えて出かけてしまいます。
さらに、外出したものの帰り道が分からず、迷子となり警察で保護されることもあります。
認知症対応が可能な施設はこちら!認知症ではなく「せん妄」の可能性も
認知症の症状のようにみられても、じつは認知症ではなく、せん妄という場合があります。
せん妄とは、数日から数か月の間、一時的に認知症のような症状がみられるものです。
せん妄が起きる原因は、配偶者が亡くなってショックを受けたり、入院により生活環境が大きく変わった時に現れます。
また、手術で使う酸素や鎮痛剤の服用による影響でせん妄を引き起こすこともあります。
せん妄と認知症を見分けるには?
家族が認知症のような症状が見られた場合、認知症なのか、それともせん妄なのか、どう見分ければいいんでしょう。
ここで見分け方のポイントを2つご紹介します。
項目 | 認知症 | せん妄 |
---|---|---|
症状 | 徐々に現れる | 突然現れる |
時間帯 | 1日中出る | 夕方〜夜間に強く出る |
入院したら急に認知症のような症状が出た場合は、認知症ではなくせん妄の可能性があります。
せん妄で苦しんでいる高齢者に対しては、とにかく落ち着くことが大事なので、次のような行動をしましょう。
- 優しく声ををかけましょう。
- 一緒にいる時間を作りましょう。
- 困っていることを聞いてあげましょう。
以上のように、不安を解消するために、寄り添ってあげましょう。
認知症で入院はできるの?
認知症で入院することは可能であり、実際に入院される方は多いです。
しかし、一般の病院では認知症以外の疾病がない場合や、症状が重すぎたり軽過ぎる場合は入院できない可能性もあります。
例えば、大声を出したり、物忘れや妄想によって近隣トラブルをもたらす恐れがある場合、それ以外にも徘徊してしまったり、暴力をふるう場合は病院への入院を断られてしまう可能性が高いです。
断られた場合は「この先ずっと家族で介護をし続けて大丈夫なのだろうか?」「この先もう入院はできないのでは?」と不安な気持ちになってしまうかもしれません。
しかし、認知症患者の入院に専門的に対応している病院もあります。
したがってそのような場合でも諦めずに、施設を探してみるのがおすすめです。
精神科のある救急病院などがおすすめ
安心して入院できる施設の一つに精神科が設置されている救急病院などがあります。
ここでは、精神科の医師や看護師は認知症患者への対応もよく理解しているので、認知症の患者さんを安心して任せることができると言えるでしょう。
それ以外にも認知症専門の病院などもおすすめです。
認知症の患者さんに理解のある施設を選んで預けるようにしましょう。
病院で対処できず悪化する可能性のある症状
認知症の症状の中には、病院でも対処できず、時と場合によっては悪化してしまうこともある症状が存在します。ここではその具体例について紹介していきます。
大声
認知症によって昼夜逆転して眠れず、夜間や早朝に大きな声を出したり、歌を歌ったりすることがあります。
これにより、本人が個室に入院していても、静かな病院の中で患者の大声が響き渡ってしまい、他の患者が寝不足になったり、ストレスに感じてしまうことがあります。
こちらの症状も、治療が上手く進まない場合もあるため、病院側も対応に困ってしまうようです。
徘徊
徘徊とは、病院内歩こうとする行為や、実際に歩き回ったりすることを指します。
例えば、骨折している方の認知症者の中には骨折していることを忘れて歩こうとする方もいたり、「自宅に帰らないと」という考えを抱いてしまいベッドで安静になれない方もいます。
このように、治療に影響がある場合は病院でも対応に困ってしまう場合があるようです。
暴力
認知症によってオムツ交換や、必要な点滴を行うために看護師が訪問すると、興奮して手を上げたり、上手くケアができないという場合があります。
本人としては「何か嫌なことをさせられる」という抵抗の気持ちから暴力へ発展しているのかもしれません。
この症状も適切な声掛けをすることで落ち着く場合もありますが、うまくいかないことも多いです。
その場合は入院を拒否されてしまう可能性もあるようです。
介護拒否・治療拒否
こちらの症状は暴力と近い状況です。
例えば、点滴をしている最中に、強引に点滴を外して出血したり、骨折後ベッド上で足を固定しているのに動いてしまい、骨折部分がずれてしまうということがあります。
またそれ以外にも、白衣を着た医師を見ると大声を出したり、物を投げたりすると診察することでさえ難しい場合もあります。
このような場合は入院が難しいと言えるでしょう。
認知症対応が可能な施設はこちら!退院を催促されたらどうなる?
入院中、認知症による症状が悪化し、看護師が対応に困るようになると、病院から退院を促されることがあります。
そんなとき、家族はどんな問題に直面するのでしょう?
転院するあてがない
認知症だけでなく、骨折などの治療が必要だったり、手術後でリハビリが必要の場合は、治療やリハビリをしてくれる病院を探して移る(転院する)ことができる場合があります。
しかし、認知症の症状が強く、とてもリハビリができる状態でない場合もあります。
例えば、リハビリのスタッフが「右手を上げて」と言われても、指示が理解できずリハビリが進まないことがあります。
また、リハビリの最中に「こんなの、やりたくない!」とリハビリを拒否したり、大声を出して他の患者に迷惑をかけることがあります。
さらには、認知症や精神科などの受診ができて、入院施設を持つ病院も多くはありません。
このようことがあるため、認知症がある場合は、病院側から受け入れを拒まれ、転院先が見つからないケースがあります。
入院可能な施設が少ない
高齢者の場合、退院後の受け入れ先として、病院以外に介護施設という選択肢もあります。
しかし、介護施設が高齢者専門の施設であっても、病院と同じように少ないスタッフで多くの高齢者の対応をしています。
介護スタッフへの暴力や暴言、介護拒否などは、対応が困難と判断されてしまう場合があります。
また、介護施設は原則として体を拘束することが禁止されているため、患者が施設内で暴れて骨折してしまうなど患者自身の危険性もあります。
このため、認知症の症状が悪化している場合は、介護施設であっても利用を拒まれ、受け入れ先が見つからないこともあります。
利用可能な在宅介護サービスがあまりない
退院後、病院や介護施設以外に、自宅で介護をする(在宅介護)という選択肢もあります。
在宅介護では、ヘルパーなどの訪問介護や、デイサービスなどの通所介護など、いろいろな介護保険サービスが利用できます。
しかし、介護保険サービスであっても、重度の認知症の場合は、対応が困難になるため、利用を断られることがあります。
例えば、ヘルパーを自宅に入れない、デイサービスの迎えの時間を忘れる、デイサービスに行っても「帰りたい」と繰り返し訴えるなど、適切なケアができないことがあります。
近くの訪問介護事業所を探してみる!退院が決まったときの対応方法
では、いま入院している病院から「退院です」と言われたら、どのようにすればよいのでしょう。
この章では、退院が決まったときの対応方法についてご紹介します。
病院の医療相談室を利用する
入院施設がある中規模や大規模の病院には、医療相談室(※病院によって「地域連携室」など名称が違います)があります。
医療相談室には、相談員(ソーシャルワーカー)がいるので、転院先のこと、在宅介護で必要な介護サービスなどについて相談するのも良いと言えるでしょう。
地域包括支援センターに相談する
全国の市区町村には、高齢者支援として福祉専門の相談窓口(地域包括支援センター)が設置されています。
地域包括支援センターには、介護支援専門員、社会福祉士、看護師といった福祉と医療の専門職が配置されています。
相談する場合は、対象者が住んでいる市区町村の地域包括支援センターに相談してみましょう。
町の認知症地域支援推進員
認知症の全般について相談ができる「認知症地域支援推進員」 を活用してみましょう。
認知症地域支援推進員は、市区町村の窓口または地域包括支援センターなどに配置されていることがあります。
認知症地域支援推進員は、地域にある入院施設や認知症、精神科などが受診できる医療機関、介護サービスなどの相談ができます。
認知症ケアパスは強い味方
「認知症ケアパス」というものをご存じでしょうか。
認知症ケアパスとは、本人や家族、地域の人たちが認知症を正しく理解するためのガイドブックです。
内容は、認知症の期症状や悪化した時の症状、利用できる公的サービス、相談できる窓口などが掲載されています。
各市区町村が独自に作っているもので、無料で手に入れることができます。ぜひ気軽に活用してみてください。
自宅で介護を行う
退院の際に、担当看護師などから本人の状態や必要なケア、今後の治療などについて確認しておきましょう。
そのうえで、自宅で介護をするというのであれば、「自分一人ですべての介護をする!」とは考えずに、介護保険サービスや公的サービスを使いましょう。
介護保険サービスの事業所のなかには、認知症特化型や認知症対応可といった事業所を選ぶことをお勧めします。
また、最近では民間事業者によるサービスも増えているので、ぜひ、検討してみてください。
例えば、徘徊探知機の貸し出しや、万が一の時に警備員が駆け付ける見守りサービスなどがあります。
受け入れてくれる病院へ転院する
自宅での介護が難しい場合は、認知症に特化した病院や認知症でも受け入れてくれる病院を探しましょう。
また、認知症の場合、精神科や心療内科が設置されている病院は受け入れてくれる場合がありますので、精神科がある病院も視野に入れてみましょう。
転院先については、いま入院している病院の相談室や市区町村などに配置されている認知症地域支援推進員に相談してみましょう。
認知症疾患医療センター
認知症に特化した病院として、認知症疾患医療センターが全国に配置しています。
認知症疾患医療センターは、専門の医療相談、治療方針、合併症の対応、地域の医療機関などとの連携を行っています。
また、病院に行くことを拒む場合は、医師を含めた関係者がチームとなって、自宅に訪問、診断する方法もあります。
認知症に特化した病院であれば、早期に入院できたり、早期に適切な治療が受けられます。
認知症疾患医療センターについては、地域包括支援センターに聞いてみましょう。
認知症者の入院についてまとめ
- 認知症で入院できるが症状が悪化すると退院を促させることがある
- 退院後は転院先か介護施設を探すか在宅介護を検討する
- 公的機関で相談して認知症に特化した病院や施設を利用する
認知症の症状には中核症状と周辺症状(BPSD)があります。
認知症で入院することはできますが、認知症の症状が悪化し、看護師が対応に困るような場合は退院を促されることがあります。
退院後は、病院や介護施設への転院、または自宅で介護をする方法があります。
いずれの方法であっても、認知症に特化した病院や施設、認知症の対応に慣れた介護事業所を選ぶ方がよいでしょう。
認知症の対応については、ひとりで抱え込まず、認知症地域支援推進員や認知症疾患医療センターなど活用することをお勧めします。
まずは、地域包括支援センターに聞いてみましょう。
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
中部療護センター長
岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野 教授(客員)
矢野 大仁(やの ひろひと) 先生
1990年岐阜大学医学部卒業、医学博士。大雄会病院などの勤務を経て、学位取得後、2000年から岐阜大学医学部附属病院脳神経外科助手。2010年 准教授、2013年 臨床教授・准教授、2020年4月 中部療護センター入職、2024年4月から現職。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医。脳卒中の他、脳腫瘍、機能的脳神経外科など幅広い診療を行っている。患者さんが理解し納得できるようにわかりやすい説明を心がけている。
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