ボディメカニクスとは|腰痛予防につながる介護技術の8原則をイラストで解説

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「ボディメカニクスって、何を表しているの?」

「ボディメカニクスの原理について、詳しく知りたい!」

このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?

腰痛をはじめとして、身体の痛みに悩まされている介護職員は多くいます。

一部の筋肉だけでなく、身体全体の筋肉を使うことで身体的負担を軽減できるので実践してみましょう。

こちらの記事では、ボディメカニクスの原理や8原則について紹介していきますので、介護職に就いている方・介護職を目指している方はぜひ参考にしてください。

ボディメカニクスについてざっくり説明すると
  • 介護者と要介護者双方の身体的負担を軽減できるテクニック
  • 腰痛予防の効果的なので、積極的に取り入れよう
  • 重心を低く保ちてこの原理を使うなど、人間の関節や筋肉・骨が動作する際の力学が関係している
  • 要介護者とコミュニケーションを取ることが重要

ボディメカニクスとは

介護の世界でよく使われる「ボディメカニクス」という言葉ですが、言葉の意味などを解説していきます。

要介護者の移動・移乗に役立つ介護技術

ボディメカニクスとは「最小限の力で介護ができる介護技術」の一つで、人間の関節や筋肉、骨が動作する際の力学的関係を利用したものです。

介護職の中には腰痛に悩まされている方も多く、ボディメカニクスを取り入れ、実践することで腰への負担を軽減できるでしょう。

介護の負担を軽減できる介護技術として注目されているので、ぜひこの機に学んでいきましょう。

腰痛予防で有名

ボディメカニクスは、特に腰痛予防に効果的と言われています。

力任せに身体介助を行うことなくスムーズに介助することで、介護する側と介護される側の身体的負担を軽減できます。

介護・看護は腰の負担が大きいので、ボディメカニクスを知っておくことが長く安定して勤務する上で重要です。

さらに、ボディメカニクスを習得すると、仕事で活かせるだけでなくだけでなく育児や家族の看護・介護にも役立つメリットがあります。

ボディメカニクスの原理と8原則

ボディメカニクスには8原則が定められており、いずれもてこの原理や重力の関係を利用することが重視されている人間の身体の本来の機能を使った技術です。

これにより、小さい力で介護が可能になるので、ぜひ活用しましょう。

両足を開き、支持基底面積を広くとる

高齢者を抱える介護者

支持基底面積とは体重を支えるための床面積のことで、以上のイラストのように足を開くことで支持基底面積を広く取ることができます。

これにより介護者の身体が安定し、腰への負担を軽減できるのです。

また、前後左右に足を開くことで安定感が増すので、ぜひ実践してみましょう。

重心を低く保つ

重心が低いと骨盤が安定し、腰の負担を軽減して介護に安定感が生まれます。

重心を落としている人

以上のイラストのように、腰を下げながら重心を低くしながら介護を行うことで腰痛防止に繋がります。

重心が高いと腰痛やぎっくり腰などを引き起こすことがあるので、注意しましょう。

被介護者との重心を近づける

被介護者と重心を近づける

介護する際に、以上のイラストのように要介護者と身体を密着することで、重心を近づけて安定感を確保することができます。

重心を近づけることで力が伝わりやすくなる上に安定感も増すので、腰痛防止にも繋がります。

最小限の力で介護することを意識することで、身体的負担を軽減できるでしょう。

被介護者の体をねじらず小さくまとめる

要介護者の身体をねじると腰痛の原因にもなるので、以上のイラストのように要介護者に腕や膝を曲げてもらって身体全体を小さくまとめてもらうと良いでしょう。

このように、身体を小さくまとめることで力が分散しなくなり、摩擦が少なくなるため運びやすくなるメカニズムです。

ひねった姿勢だと力が入りにくい上に姿勢が不安定になるため、腰への負担が大きくなってしまいます。

身体全体を利用し、大きい筋群を使う

体全体を使って高齢者を支える

介護は腕力に頼りがちですが、一部の体の部位や小さな筋肉を使うと負担が大きくなってしまいます。

そこで、腰・脚・背中などの全身の大きな筋肉を一緒に使うことを意識することで、身体の一部分への負担を軽減できます。

身体全体を使うことを意識し、特に大きな筋肉である背中や太ももを使うことで、身体的負担を軽減できるでしょう。

水平移動を行う

水平移動で高齢者を持ち上げる

介護は要介護者の身体を頻繁に持ちあげるイメージがありますが、持ち上げようとすると腰へ大きな負担がかかってしまいます。

しかし、水平移動には重力の影響がないため、上下に持ち上げて移動するよりも小さな力で移動させることが可能です。

上のイラストのように、できるだけ「持ち上げる」動作を省略することで身体的負担を軽減しましょう。

手前に引く動作を意識

手前に引く動作

押す力より引く力の方が小さい力で済むので、以上のイラストのように手前に引く動作を意識しましょう。

押す動作は腰への負担が重くなってしまうので、ぎっくり腰や慢性的な腰痛を引き起こしがちです。

介護する側も介護される側も楽なので、ぜひ「押す」動作を意識してみてください。

上手にてこの原理を用いる

てこの原理で持ち上げる

理科の授業で習ったように、支点・力点・作用点を意識しててこの原理を活用することで、小さな力でも大きなものが動かせるようになります。

例えば、要介護者の膝や肘を支点にして遠心力を利用することで、小さな力で起こすことが可能です。

身体的負担を軽減するために欠かせないポイントなので、ぜひ意識してみてください。

ボディメカニクスを行う上での注意点

それでは、ボディメカニクスを行う上での注意点について紹介していきます。

しっかりと注意点についても把握し、実践する際に意識してみましょう。

利用者に声をかけながら行う

介助作業を行う際には、利用者に声掛けを行うことが重要です。

これから行うことを介護者に知ってもらうことで、利用者の不安が解消されるだけでなくスムーズに介助に着手できます。

また利用者に声掛けを行うことによって、彼らの意思や意見を尊重し、自立心を促すこともできます。また、コミュニケーションを通じて利用者との絆を深め、より良い介護サービスを提供することができます。

コミュニケーションを取りながら日々の介助を行い、信頼関係を構築していきましょう。

利用者ができることはしてもらう

必要な介助をすることは大切な仕事ですが、利用者が自力でできることがあれば自分でやってもらいましょう。

本来は自力でできることまで介護してしまうと、身体の機能がどんどん低下してしまい、できることが少なくなってしまいます。

介護者は適切な支援や指導を行いながら、利用者が自分でしたいことをしたり、自身で体調管理することを促すのも役割の一つです。バランスの取れた介助を心掛けることで、利用者の自尊心と生活の質を向上させることができます。

少しでも身体機能を維持できれば介護者の負担も軽減できるので、何でもかんでも介護するのはおすすめしません。

ボディメカニクスが役立つ場面と具体例

それでは、ボディメカニクスが実際に役立つ場面や具体例について紹介していきます。

実際の事例に当てはめて考えることで、より具体的なイメージができるでしょう。

ベッドから起き上がるとき

ベッドから要介護者を起こす作業は、腰に大きな負担がかかります。

まずは介助しやすいようにベッドの高さを調節し、持ち上げるために腕を胸の上で合わせるなど、身体を小さくまとめてもらうと良いでしょう。

その後、腕を首とひざの下に入れて介助者を引くようにしながら、おしりを支点にしててこの原理を活かしながら起こすと、腰への負担を大きく軽減できます。

体の向きを変えるとき

仰向けになっている要介護者の体勢を変えたり体の向きを変える際にも、ボディメカニクスは活用できます。

ベッドから起こすときと同じように、身体を小さくまとめてもらってから「てこの原理」を使うことで、簡単に体位変換ができます。

体の向きを変える場面は介護の場面で多くあるので、ぜひ実践してみましょう。

立ち上がるとき

要介護者に座った姿勢から立ち上がる際に、介護者はしっかりと支えてあげる必要があります。

そこで、腰への負担を軽減するために重心移動を意識してみましょう。

要介護者の腕を介助者の肩に回してもらい、腰を落として重心を下げてから一緒に立ち上がることで、身体の筋肉全体を使った介助ができます。

また、立ち上がった際に要介護者の重心線が支持基底面に収まっていると、姿勢が安定しやすくなります。

座るとき

立ち上がる動作とは逆の、座る場面でもボディメカニクスは活かせます。

要介護者に座ってもらう際には、支持基底面を広く取った上で要介護者と一緒に腰を落としながら座らせてあげましょう。

ゆっくりと行うことで、介護者と要介護者がより安定して体勢を変えることができます。

車いすからベッドなどへの移乗のとき

車いすからベッドへ移乗する際には、まずベッドを車いすよりやや高い程度に調整しましょう。

続いて、自分の足を前後に開き、前の足を相手の両足の間に入れてから要介護者の腕を肩に回してもらい、身体を近付けましょう。

次に、足先を車いすに向けながら方向転換し、一緒に腰を落としながらゆっくりと座ってもらうと安全に移乗できます。

このような以上も介護の場面では頻繁にあるので、ぜひ何度も実践して慣れていきましょう。

ボディメカニクスを学ぶメリット

続いて、ボディメカニクスを学ぶメリットについて紹介していきます。

しっかりとメリットを把握し、現場で活かしましょう。

被介護者への負担の軽減

ボディメカニクスについて理解し、実践することで要介護者も無理な姿勢になることなく介護を受けることができます。

無理に身体を動かされることが無くなるので、自然と身体を痛めることも少なくなります。

つまり、介護者・要介護者双方の身体的負担を軽減できるメリットがあるので、介護職に就いている方であれば習得するべきスキルと言えます。

介護職員・看護師の身体的負担の軽減

ボディメカニクスを用いて介助を行うことで、腰をはじめとした身体負担を軽減できます。

一部の筋肉だけでなく、人間本来の力を用いながら身体全体を使うため、身体の一部分を痛めることが少なくなるでしょう。

またボディメカニクスは、介護者の身体的な負担を軽減するだけでなく、キャリアの継続にも効果が期待できます。

身体を痛めてしまい介護職を辞めてしまう人は多いことから、ボディメカニクスを学んでおくことで長く安定した就労に繋がります。

双方の心理的負担も小さくなる

ボディメカニクスを用いて適切な体勢での介護を行うことで、被介護者側も安心して介護を受けることができます。

また、介護職員・看護師側も移動・移乗が楽になるので、ストレスが緩和され気持ちも楽になるメリットが期待できるでしょう。

心身のストレスが軽減されることで、余裕が生まれ、より良い介護サービスの提供が可能となります。

このように、双方の心理的負担を軽減しながら精神的な効用も期待できるので、ぜひ積極的にボディメカニクスを学んでいきましょう。

ボディメカニクスまとめ

ボディメカニクスまとめ
  • 紹介した8原則を常に意識し、場数を踏んで慣れていこう
  • 声かけを行いながら解除することで、要介護者も安心できる
  • 介護の様々な場面で役立つので、実践してみよう
  • 身体的負担・精神的負担を軽減できるメリットがある

ボディメカニクスについて学び、実務スキルを習得することで介護に関連した身体的負担を軽減できます。

要介護者と介護者の双方にメリットがあるので、積極的に学び実践してみましょう。

マスターできれば長く介護職として安定して働けるので、介護職についている方や介護職に興味がある方は、参考にしてみてください!

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

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