低体温症はどのような状態?原因や症状が発生した際の正しい対処法を紹介!

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「低体温症って冷え性とは違うの?」

「凍死は冬山や豪雪地帯で起こること。家の中にいれば問題ないはず」

低体温症が重症化すると、命の危険につながる場合があることは、あまり知られていないようです。

高齢者や病気を持つ方は、とくに注意が必要とされています。

この記事では、低体温症の起こる原因や対処法について、詳しく解説しています。

低体温症についてざっくり説明すると
  • 体温が下がりすぎて生命にも危険を及ぼすリスクのある状態
  • 循環器や神経疾患のある人は重症化する危険がある
  • 室内でも発症する可能性があり、熱中症よりも死亡件数が多い
  • 高齢者や子供、病気を持つ方は注意が必要

低体温症はどのような状態?

低体温症は、体から失われる熱が運動をすることで作られる熱量や日光や暖房などの外部から得られる熱を上回り、体温が低くなった状態を言います。

寒い環境にさらされて発生することも多いため、寒冷障害と呼ばれることもあるようです。

特定の病気がある方や高齢者などは、低体温症のまま過ごしてしまうと意識を失うリスクが高くなります。とくに心臓病、血管疾患、神経疾患がある人では意識消失や死亡の危険もあります

冷たい地面に直接座わったり、水に浸かったり、風にあたったりすると、身体の熱は放散されやすくなります。非常に冷たい水に急に浸かると、5分から15分で命にかかわる重症な低体温症を引き起こす可能性があります。

その他、脳卒中や転倒、低血糖などのハプニングによって倒れて動けずにいる場合には、身体を動かして寒い場所から移動する事ができないので、命の危険につながりやすくなります。

体の冷えを避けるために適切な服装や暖房を利用し、安全な環境を確保することが大切です。

凍死での死亡者数

「気温による死亡のリスク」と聞くと、多くの人が熱中症を思い浮かべるのではないでしょうか。

気温の高いところにいることで体調を崩し死に至るリスクもある熱中症は、近年テレビや新聞で取り上げられることも多く、その対策の重要性が広く認識されています。しかし、実は熱中症以上に危険とされているのが凍死です

以下のグラフは過去5年の凍死による死亡者数を表しています。

凍死での死亡者数

出典:e-Stat「人口動態調査 人口動態統計 各定数 死亡 不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(5歳階級)別死亡数・百分率」

厚生労働省が発表している『人口動態調査』の2021年によると、凍死による死亡者は1,245人となっています。

また、この凍死者のうち、65歳以上は1042人となっており、凍死全体のうち、実に80%以上が高齢者となっています。低体温症は特に高齢者が注意すべき症状であることがわかります。

乳幼児や高齢者は要注意

若い成人よりも寒さへの適応力や、体を暖かく保つ能力が低いため乳幼児や高齢者では、とくに低体温症に注意が必要です。

高齢者は、寒い時にふるえて熱産生をする能力が下がったり、体の表面の血液を中心部に効率よく戻せなくなったります。加齢により皮下脂肪が減るため、体の熱が放散されやすくなっているため、体温が下がりやすいのです。

乳幼児や高齢者が低体温症になっても、自覚症状が薄いために周囲が症状に気付くのが遅くなりやすいと言われています。適切な治療が行われずにいることで低体温症が重症化しやすく、場合によっては命に関わる危険も潜んでいます。

気温の低い冬は、周りの人が低体温になっていないかチェックするとよいでしょう。

乳幼児や高齢者は体を暖かく保つために、暖房や暖かい衣服を利用するだけでなく、適度に体を動かすことも効果的でしょう。

低体温症の症状

低体温症は、体の深部の温度が35度以下になることを言います。

一般的に、体の深部温度が35度になると、体温を維持するために血管の収縮や、熱を生産するためのシバリングと呼ばれる体の震えなどの症状が現れます。この段階では命に関わる状態ではありません。

しかし、深部体温が31度以下になってしまうと、シバリングができなくなってしまいます。筋肉の硬直や脳の活動が低下して、反応が鈍くなったり、錯乱や幻覚の症状が発生します。

さらなる体温の低下はと脈拍や呼吸の減少、血圧の低下などを引き起こし、28度で昏睡状態となります。適切な治療が行われないままでいると、25度で仮死状態となり、20度で心肺停止してしまうとされています。

年齢や持病などによっては、20度まで下がらなくても死に至るリスクもあり、特に乳幼児や高齢者は28度以下になるとその危険は高まるため、注意が必要です。

低体温症と冷え性の症状の違い

低体温症と冷え性には違いはあるのでしょうか。

冷え性とは、体質に影響されることが大きい症状で、周りの人が寒さを感じない程度の温度でも、手足などが冷えているように感じることです。会社で暖房が効いているのに足元が冷たく感じたり、布団の中でも手足が冷たくてつらいといった症状が挙げられます。

実際の体温は下がっていないことや、冷え性の人の手足を触っても冷たく感じないこともあるようです。

一方で先ほど説明した低体温症は、寒さや手足の冷えを感じることは少なく、深部体温が35度以下になることを指します。

低体温症は深部体温の低下を伴う体の緊急状態であり、冷え性は体質や末梢血流の問題による感覚的な冷えが特徴と言えるでしょう。

アルコールと低体温症

アルコールによって低体温症が引き起こされることもあります

お酒を飲むと体が温まるイメージがありますが、実際アルコールには発汗作用やアルコールを分解するために多くの水分を消費するため、体温は下がってしまうのです。

アルコールは血行を悪くし、判断能力を低下させてしまうことから、低体温になっていることに気が付かないまま重症化しやすくなります

実際に日本救急医学会の報告によると、寒冷曝露によって低体温症を引き起こした症例について原因として、「酩酊状態が原因」とされた例は316例中25例となっており、アルコールは凍死の危険を高めてしまうことがわかります。

そのため、特に寒冷な環境下では、アルコールの摂取による体温低下による危険性に留意する必要があります。

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屋内での低体温症発症が増加

低体温は、真冬の屋外や雪山などの、極端に寒い場所でなくとも起こるリスクがあります。寒い部屋に何時間もずっと動かずにいるだけでも、屋内で低体温症になってしまうことがあるのです。

実際に、日本救急学会が2013年に発表した調査報告によると、低体温症で救急搬送された患者のうち75%以上が屋内で発生しています。

また、低体温症の患者の平均年齢は70歳を超えており、高齢者に発症のリスクが高いことがわかります。高齢化による一人暮らしの高齢者の増加により、自宅で低体温症になっても発見されにくいというケースも少なくないようです。

出典:日本救急医学会「本邦における低体温症の実際」

低体温症の正しい対処法

低体温症には正しい対処法が重要です。低体温だからと急いで体を温めてしまうと、急激な体温変化で身体に負担をかかり血圧低下・ショック状態を招く危険があるからです。徐々に体温を回復させるための、適切な対処方法についてチェックしてみましょう。

低体温症になった高齢者の日常生活動作

低体温症の発生件数

低体温症になるリスクのある高齢者の生活の特徴をみてみましょう。

低体温症は、高齢者で男性の発症が多いと言われています。低体温症は、屋外よりも室内での発祥の方が多いことは前述しましたが、高齢になるほど重症化しやすいという特徴もあります。

低体温症を発症した高齢者の日常生活動作を紹介します。日常生活動作(ADL)とは、食事や排泄、入浴、外出がどの程度自立して行えるかを表す指標です。

低体温症を発症した方の日常生活動作別にグラフに表すと、意外ことに寝たきりやあまり活動をしない方よりも、完全に自立している方や外出する機会のある方の発症数が多いことがわかります。自立した日常生活を送っている元気な高齢者の方が低体温症を発症しているのです。

病院での対処法

低体温症で病院に搬送された場合の処置について紹介します。

急激な体温上昇はショック状態に陥る危険があるため、少しずつ体温を上昇させるために、温めた酸素の吸入や温めた薬液の静脈点滴が行われます。

重症な場合は、さらに血液を体外に送り出して温めてから体内に戻す血液透析や、人工心肺装置を使用することもあります。

心停止の場合には、心肺蘇生として、心臓マッサージや人工呼吸器管理が行われます。低体温症は、救命処置による回復事例もあるため、医師が生存の兆候を確認できる間には、蘇生のための医療処置が積極的に行われるのです。

病院外での対処法

病院外での対処法について紹介します。

意識がはっきりとしていて水分摂れる方は、温かい食べ物や飲み物を取るようにしましょう。その際、アルコールはからだを冷やしてしまうので控えましょう。

衣服が濡れている場合は、脱がせて暖かい毛布でくるむなどして、体を乾かしながら温めます

意識不明で発見された場合には、体温が低下することを防ぐ処置を行いながら、救急車の手配をして、暖かい場所で待つようにします。その際、頭や手足なども可能な限り保温するようにしましょう。

中度以上の低体温症の高齢者には要注意

中度以上の低体温症の人を発見した場合、まず救急車を呼んで医療機関への搬送手段を確保することは重要です。そして救急車が来るまでの間には、どのような対処が適切でしょうか。

深部体温が33度から30度の中度の低体温症では、シバリングが弱くなり意識が朦朧としてくる人もいます。中度の低体温症では、少しの刺激で不整脈などの命に関わる重篤な状態を引き起こす可能性があるため、体を動かさないように注意することが必要です。急激な加温を避けてわきの下や鼠径部、頭部などを温める程度にしましょう。

呼吸や心拍に問題がないかチェックしながら、救急隊が到着するのを待ちましょう。

低体温症についてまとめ

低体温症についてまとめ
  • 体温が下がりすぎて生命にも危険を及ぼすリスクのある状態
  • 室内でも発症する可能性があり、熱中症よりも死亡件数が多い
  • 正しい対処法を知って重症化を予防しよう

低体温症の症状や対処法について紹介しました。

熱中症よりも死亡件数が多いのに、対処法や屋外よりも室内での発生が多いことなど、あまり知られていない低体温症。そのため、発見が遅れがちになり重症化しやすく、凍死につながる危険もあります

熱中症と同じように、低体温症の予防や対処法についても知っておくことが重要です。

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

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