高齢者の転倒予防|転倒の原因や対策方法・介護施設での取り組みまで解説

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「高齢者の方の転倒予防はどのようにするべき?」

このような疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

高齢者の方は筋力や骨が弱ってしまうので、転倒のリスクが高まります。

転倒をきっかけに、寝たきりや要介護状態になってしまうこともあるので、予防方法について知っておくことは重要です。

こちらの記事では、高齢者の方の転倒原因や対策方法などを解説していきます。

高齢者の方と同居している方に役立つ内容となっているので、ぜひ最後までお読みください!

高齢者の転倒予防についてざっくり説明すると
  • 転倒すると、骨折してそのまま寝たきりになってしまうことがある
  • 住居環境を整え、筋肉を維持するための努力は必須
  • 転倒を誘発する薬もあるので注意

高齢者の転倒は危険

高齢者の方は筋肉や骨がもろくなっているので、転倒に伴って大ケガに繋がってしまう恐れがあります。

転倒は非常に危険なので、できる限り予防する必要があると言えるでしょう。

最悪の場合寝たきりになる

転倒を起こして骨折してしまうと、入院生活を強いられることになります。

入院すると、身体を動かす機会が減ってしまい筋力低下のスピードが速まってしまうのは言うまでもありません。

また、転倒したことが恐怖心となってしまい、精神的ダメージを受けてしまう方もいます。

身体的にも精神的にも活力を失ってしまい、転倒をきっかけに最悪寝たきりになってしまうこともあるので要注意です。

転倒は介護が必要となる主な要因の一つ

高齢者の方の転倒事故を見てみると、立った高さからの転倒が8割となっています。

身体へ与えるダメージは非常に大きく、転倒により骨折してしまうことも少なくありません。

特に大腿骨頸部の骨折などが多く、歩行ができなくなってしまい要介護になってしまう可能性もあります。

要介護状態にならないためにも、転倒予防は非常に重要なのです。

転倒の原因とは

転倒してしまう要因としては、環境などの外的要因と高齢者自身の内的要因の2種類があります。

要因について知っておき、転倒予防に繋げていきましょう。

環境要因

環境要因としては、段差に躓いて転倒してしまうなどのハード面が主な原因です。

また、部屋が散らかっていると、無造作に置かれている物に足を取られてしまうことも少なくありません。

特に、電源コードなどは足を引っかけやすいので要注意と言えるでしょう。

また、風呂場などの水回りは滑りやすく、暗い場所はあたりの様子が分からないのでので転倒リスクが高い場所と言えます。

このように、居室空間においても転倒を引き起こしてしまう要因は多くあるので、適宜工夫を重ねることが重要です。

これらの環境要因は、家を改造してバリアフリー化したりすることで改善できるので、下記で紹介する内的要因よりも改善が簡単です。

高齢者自身の要因

内的要因とは、主に高齢者の方自身の問題です。

例えば、

  • 筋力が低下する
  • 視力・認知機能の障害
  • 心肺機能が低下する
  • 歩行に補助が必要
  • 薬の副作用

上記のように、様々な要因が転倒のきっかけになっていることが分かるでしょう。

下半身の筋力が低下したり、関節痛などに伴って足が思うように動かなくなると危険です。

加齢に伴って運動能力が衰えてしまうのは仕方のないことですが、健康寿命を延ばせるように工夫していきましょう。

転倒リスク因子

リスク要因 健康状態と比べたリスク
筋力低下 4.4倍
転んだことがある 3.0倍
歩行障害 2.9倍
バランスが悪い 2.9倍
杖などの補助が必要 2.6倍
視力障害 2.5倍
関節炎がある 2.4倍
日常生活活動の障害 2.3倍
うつ病 2.0倍
認知機能障害 1.8倍
80歳以上 1.7倍

出典:東京総合保健福祉センター

上記のように、転倒リスク因子として最も数値が高いのは「筋力低下」です。

左の項目に該当する方の転倒するリスクが通常時の何倍であるかを示しており、やはり筋力が低下することで転倒のリスクが高まっていることが分かるでしょう。

また、過去に転んだことがあることが恐怖心として残っている方や、歩行障害や歩くバランスが悪い方もリスクが高いです。

筋力の低下をできるだけ防ぎつつ、活動的に過ごすことが効果的な予防となります。

転倒を誘発する薬

転倒を誘発する薬もあるので、持病を持っている方や服薬量が多い方は注意しましょう。

なお、転倒を誘発する薬としては下記の表のものが挙げられます。

疾患 主な副作用症状
高血圧 血圧降下薬 めまい・ふらつき
風邪 抗ヒスタミン薬 眠くなる・ボーっとする
睡眠障害 睡眠薬 ふらつく
気分障害・認知症 抗精神病薬 脱力感・筋力の緊張低下

参考:聖隷淡路病院「転倒予防のススメ」

認知症などの高齢者の方に特有の症状もあれば、風邪のように身近な病気でも転倒を誘発する可能性があることが分かります。

服薬して普段と様子が違ったり、違和感を感じた場合は要注意と言えるでしょう。

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転倒して骨折する人の特徴

骨折しやすい方には特徴があり、具体的には下記のような方が該当します。

転倒による骨折のリスクが高い人
  • 骨密度が低い
  • 体重やBMIの値が低い
  • 骨折経験がある
  • 家族に骨折経験がある
  • 女性(椎体骨折や大腿骨頸部骨折をしやすい)

やはり、骨折と最も関連があるのは骨密度です。

また、他にも過去に骨折経験がる方なども骨折のリスクが高い傾向にあるので、要注意と言えるでしょう。

骨密度

骨密度とはカルシウムやマグネシウムなどのミネラルの量を測定した上で骨の強さを表しており、骨の強さを示す代表的な指標の1つです。

なお、人間の骨は下記のような役割を果たしています。

  • 姿勢の維持
  • 内臓保護
  • 運動の支点
  • ミネラル貯蔵
  • 血液作成

人間が生きていく上で欠かせない役割を果たしていることが分かるでしょう。

姿勢を維持できれば筋力を保つことができ、内臓を保護できれば強い衝撃を受けても骨が守ってくれます。

日頃からカルシウムなどを摂取して、健康的な骨を作っていきましょう。

骨粗しょう症

骨粗しょう症とは、骨のカルシウム量が減少して骨がスカスカになってしまう病気です。

骨粗しょう症になってしまうと、骨が弱くなって骨折しやすくなってしまいます。

つまり、一度の転倒で要介護状態に陥ってしまいやすくなるので、非常に危険な病気と言えるでしょう。

なお、骨密度は自然と減少してしまうので、定期的に検査を受けて現在の骨のコンディションを把握するのがおすすめです。

高齢者の転倒の対策方法

それでは、高齢者の方の具体的な転倒予防の対策について見ていきましょう。

出来る限りの工夫を重ねて、リスクを軽減していきましょう。

事故の原因をなくす

外的要因の対策をすることで、比較的簡単に転倒事故を予防できます。

例えば、

  • 照明を明るくする
  • 部屋をかたづける
  • 手すりを付ける
  • 段差を無くす
  • 転倒防止グッズを活用する

上記のような対策が効果的です。

特に、介護リフォームなどを行うと自治体から補助金がでることもあるので、自宅で長く過ごしたいと考えている方は利用を検討すると良いでしょう。

心身状態の確認

内的要因の対策としてもさまざまな対策が考えられます。

例えば、

  • 心身の状態を把握すること
  • 日頃から運動を行う

先述したように、筋力低下は大きな問題を引き起こしてしまうので、定期的に運動することが重要です。

下股の筋肉や体幹を鍛えるために、踵立ちやつま先立ちなどの運動を行ったり、ふくらはぎを伸ばしたりしましょう。

また、無理の範囲でウォーキングやジョギングなどを行うのも有効です。

転倒予防の運動

転倒予防を進めるためには筋力の維持が欠かせません。

  • 背伸び運動

姿勢を整えた状態で立ち、背筋を伸ばして壁に手を付けてかかとを上げる

  • 片足立ち

姿勢を整えた状態で立ち、片足だけで立つ

  • 椅子からの立ち座り

椅子に座った状態で、できるだけ筋力だけを使って立つ(これを繰り返す)

上記のように、自宅でも簡単に取り組めるものばかりなので、実践してみてください。

参考:聖隷淡路病院「転倒予防のススメ」

骨を強化する食事

骨や筋肉を強化するためには、食事にも注意を払う必要があります。

栄養素 摂取量目安 代表的な食品
カルシウム 80mg/日 乳製品
ビタミンD 10~20μg/日 魚・キノコ類
ビタミンK 250~350μg/日 納豆・牛乳・緑黄色野菜

上記の表のあるカルシウム・ビタミンD・ビタミンKは積極的に摂取しましょう。

乳製品やキノコ類などは身体にいい影響を与えてくれる優れた食品です。

主食・主菜・副菜をバランスよく食べて、様々な種類の食品を摂取するように心掛けてください。

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介護施設における転倒防止

介護施設内での事故における主な要因は以下の表のようになっています。

原因 割合
転倒・転落・滑落 65.6%
誤嚥・誤飲・むせこみ 13%
送迎中の交通事故 2.5%
ドアに体を挟まれた 0.7%
盗食・異食 0.4%

出典:介護労働安定センター「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」(平成30年)

このように、介護施設における転倒理由としては「転倒・転落・滑落」が最も多く、65.6%となっています。

自宅よりも介護施設の方がバリアフリー化などの設備面は充実しているのは確かですが、必ずしも100%安心できるわけではありません。

施設に入居する場合でも転倒による怪我には細心の注意を払い、安心して生活を送れるようにしましょう。

施設側としても、管理体制・連携体制の強化や見直しを行ったり利用者のヒアリング調査をするなど、ニーズを把握しながら改善する姿勢が重要です。

また、介助方法の改善やスタッフの教育を行ったり、用具などの設備の安全確認を行うことも欠かせません。

AIを使って転倒予防

AIを用いて転倒予防をケアし、高齢者の方の暮らしをサポートする取り組みも進んでいます。

転倒をきっかけにして、死亡に至らなくても思い後遺症などでその後の人生に重大な影響を与えてしまう恐れがあるため、民間企業もAI化を用いて転倒のリスクを可視化する技術を開発しました。

患者の看護記録やカルテなどのテキストデータ、転倒リスクがある副作用を持つ薬剤の使用有無などをトータルで評価して、1週間後の転倒や転落のリスクを判断するシステムです。

さらに、システムを導入している病院の過去1年分の看護記録や事故に繋がりそうになった事象などを事前にAIが学習し、病院側にリスクを知らせてくれます。

実際に、システムを導入している病院では転倒や転落の発生率が3分の2程度に下がり、スタッフの半数以上から「業務負担が減った」というポジティブな意見が寄せられています。

今後はこのシステムを導入する施設も増えることが予想されるので、施設へ入居する際にはシステム導入の有無を確認してみると良いでしょう。

高齢者の転倒予防まとめ

高齢者の転倒予防まとめ
  • 自宅の段差を無くすなど、転倒を防ぐための環境づくりが重要
  • 日頃から無理のない範囲で下半身の筋肉を鍛えることも重要
  • 骨密度を高めるための食事を心掛けよう

高齢者の方が転倒してしまうと、そのまま寝たきりになってしまうリスクがあります。

その結果、フレイルや認知症などを併発してしまう恐れもあるので、転倒予防が果たす役割は重要です。

こちらの記事を参考にして、転倒を防ぐための環境作りやトレーニングに励み、健康寿命を延ばしていきましょう。

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

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