地域包括ケアシステムとは|意味や定義から今後の課題までをイメージ図付きで解説!

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

「地域包括ケアシステムって何?」

「意味や定義は?今後の課題としてはどんなことが挙げられる?」

などと疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

地域で介護サービスだけでなく、医療サービスや生活支援、住まいの提供などを、包括的に受けられたらと理想的だとは思いませんか。

少しでもそう思われた方は、ぜひ「地域包括ケアシステム」について把握しておくべきだと言えます。

今回は地域包括ケアシステムについて、意味や定義、5つの構成要素などを解説します。目的や歴史、今後の課題なども適宜イメージ図を用いながら説明しますので、ぜひ最後までお読みください。

地域包括ケアシステムについてざっくり説明すると
  • 介護や医療などのサービスを地域で包括的に提供する仕組み
  • 5つの構成要素のうち、特に重要なのは「介護予防」
  • 認知度の低さや人材不足などが課題

【イラストで定義を解説】地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムの概要

地域包括ケアシステムとは、高齢者の支援を目的とした総合的なサービスを地域で提供する仕組みのことを意味します。

戦後のベビーブームで生まれた世代、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上を迎える2025年をめどに、厚生労働省は住まい・生活支援・介護・医療・予防が一体となった同システムの構築を目指しています。

これが実現すれば、高齢者の方々は本格的な介護が必要となった後も、住み慣れた地域でその方々らしい暮らしを最期まで継続することが可能です。

また今後は認知症高齢者の数もますます増加すると考えられるため、認知症高齢者の生活を各地域で支えるための地域包括ケアシステムの構築も重要視されています。

地域包括ケアシステムの構築には、地域住民の参加や意見を積極的に取り入れることも重要です。地域の声を反映させながら、持続可能で包括的な支援を提供できる体制を築くことが求められています

なお、地域包括ケアシステムは、それぞれの都道府県や区市町村が、各々の自主性・主体性に基づいて、各々にあった形に作り上げていくことが大切だと言えます。

例えば、人口密度の高い都市部と人口減少の傾向が顕著な町村部では、高齢化の進展状況や課題などが異なります。地域包括ケアシステムの理想的なあり方は、各地域によって様々といえます。

地域包括ケアの意味と目的

地域包括ケアシステムは、急速に進展する少子高齢化に対応すべく、医療・介護サービスを作り替えることを目的に構築されます。

昨今は高齢者や要介護認定者が増加する一方で、被介護者を支える介護職は大いに人手が不足しており、既存の介護保険サービスだけでは高齢者・介護認定者を支えられない現実があります。

また核家族が主流になり、家族に支えてもらえない単身高齢者が増加していることも大きな問題です。

こうした現状を受けて厚生労働省などは、従来国主体であった介護サービスを「自治体主体のもの」に変えようと取り組みを行っています。

国家的なサービスだけでなく、地域の力も存分に使って高齢者を支える仕組み、これが「地域包括ケアシステム」なのです。

なお、全国的に介護施設が不足している問題もあることから、ケアの場を施設から自宅に移すことも重要な課題とされています。

地域包括ケアシステムの歴史

現在全国各地で構築が進んでいる地域包括ケアシステムですが、その起源は1980年代、広島県御調町(現在は尾道市)の「みつぎ総合病院」という公立総合病院になります。

同病院の医師・山口昇氏は、「寝たきりゼロ」を目的に、医療・行政が連携した実践的な取り組みを主導しましたが、その取り組みに「地域包括ケアシステム」という名前がつけられたのです。

その後、地域包括ケアシステムに関する研究は進み、2008年には介護分野だけでなく、医療分野とも協働し、さらにはそこに予防・生活支援・住まいといったジャンルまで統合して考えていくべきだという提案がなされるようになりました。

そうして醸成されていった地域包括ケアシステムのアイデアが具体化された政策の一例が、2014年に施行された「医療介護総合確保推進法」です。

同法律では、医療・介護を同等に取り扱い、地域包括ケアシステムを構築することが明記されました。これにより、高齢者や障害者などの在宅での生活を支援し、地域で継続的かつ包括的なケアを提供するための基盤が整備されたのです。

医療介護総合確保推進法を契機に、地域包括ケアシステムの構築を目指すための各地域の連携やネットワーク形成が進められ、実際の地域での取り組みが活発化していると言えるでしょう。

介護予防が重視されている

地域包括ケアシステムの重大な課題は、介護を要する状態になる前に実施される「介護予防」を充実させることにあります。

高齢者に介護が必要になる主な原因は身体的な衰えですが、衰えの度合いによってフレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームと呼ばれる病態を示すようになります。そうした状態に陥ることを防ぐために必要なのが、「介護予防」の援助です。

具体的には高齢者に社会参加を促したり、社会的な役割を担ってもらったりすることで、彼らの心身の充実や生きがいの実感などが目指されます。

地域包括ケアのメリット

地域包括ケアシステムの構築には、主に以下4つのメリットが存在します。

医療ケアが必要でも自宅で過ごせる

地域包括ケアシステムが普及すると、在宅医療を提供する医療機関と、介護サービスを提供する事業者の連携が進み、要介護者は在宅で一環した医療・介護サービスを受けられるようになると考えられます。

かつては地域内の医療分野・介護分野に連携体制がなく、サービスはそれぞれの分野から独自に行われていました。

そのため、介護ケアとともに医療ケアも必要となる重度の要介護者に対しては、スムーズに全てのサービスを提供するのが難しい状態だったのです。

以上を踏まえると、地域包括ケアシステム構築のメリット・利点は、普及が進むことで介護・医療の連携が強まり、在宅医療の土台が整備されることにあると言えるでしょう。

高齢者の社会参加が活発に

心身ともに健康な高齢者に関しては積極的に社会に参加してもらい、支援が必要な高齢者をサポートしてもらうというのも、地域包括ケアシステムの一つの側面です。

同システムにおいて「高齢者」は、支援を受ける側と支援をする側の2種類が存在しています。

支援をする側の高齢者の社会参加とは、具体的には介護予防に関するイベントや老人クラブ、ボランティアなどに参加してもらいます。そうした社会参加は支援する側の「生きがい」になることも多い、当人の介護予防にも寄与し、一石二鳥です。

元気な高齢者に活躍の機会を与え、彼らの生きがいの場になれるというのも、地域包括ケアシステムを構築する大きなメリットだと言えます。

高齢者が自分らしい生活を営みながら、地域の中で関わりを持ち、支え合いながら生活を送る一助となるでしょう。

ニーズに合った様々なサービスが誕生する

地域包括ケアシステムが発展すると、自宅で生活する高齢者に対して、必要なケアを細やかに提供できるようになります。

例えば、後述する買い物や見守りなどの「生活支援」、安心して暮らせる「住まい」の提供、「介護予防」への取り組み、24時間体制の定期巡回など、豊富なサービスを状況に応じて柔軟に提供することが可能です。

それぞれの要介護者のニーズを的確に判断し、それに合った適切なサービスを提供することで、肉体的な負担のならず精神的な負担・ストレスも軽減できるので、彼らの在宅生活を充実させられます。

認知症の高齢者と家族の暮らしが整う

地域包括ケアシステムとともに、認知症患者を地域で支える体制を構築していけば、認知症の発症後も住み慣れた地域・自宅での生活を続けられる状態を作れるというメリットもあります。

事実、地域包括ケアシステムを導入と同時に地域支援ネットワークが構築されており、それを活用した「認知症サポーター」や「認知症カフェ」には増加傾向が見られます

ちなみに認知症サポーターとは、認知症に関する確かな知識を有し、地域などで認知症の方やその家族を支援する人々のことです。

認知症カフェは、そんな認知症サポーターをはじめ、認知症患者を介護している人が集まる場所を指します。

また「認知症初期集中支援チーム」という認知症の病状の評価や介護サービスの案内、生活環境・介護方法に関するアドバイスを行う団体も存在しています。

このチームが地域内で医療・介護のサービスを十分に活用できていない認知症の方を支援しているというのが昨今の状況です。

認知症カフェとは?目的・運営者による種類の違いから介護面のメリットまで解説!

【イメージ図で解説】地域包括ケアを理解する5つの構成要素

地域包括ケアシステムのあるべき姿

地域包括ケアシステムは、以下で紹介する5つの構成要素で語ることができます。

「住まい」と「生活支援」という生活の前提となる2つの要素に、「介護」「医療」「予防」という3つの専門的な要素が加わり、それぞれが連携することで在宅生活を支えるのです。

上の植木鉢の図のように、それら5つの構成要素が地域包括ケアシステムの中でうまく連携し合い、有機的な全体を構成しています。

各構成要素の詳細については、以下の解説を参考にしてください。

医療

地域包括ケアシステムの医療には、かかりつけ医や地域の連携病院、その他急性期病院、亜急性期・回復期リハビリ病院などが含まれます。

それぞれの役割分担ですが、日常的な医療をかかりつけ医や連携病院が担い、病気の際の入院などを急性期病院ほかが対応するというイメージです。

なお、日常的な医療と緊急性のある医療を繋げるには、関係機関同士で情報共有を行い、役割分担や主体の切り替えなどを柔軟に行う必要があります。

これは後述する介護と医療の関係においても同様であり、両者がシームレスに連携することで在宅生活から入院へ、退院から在宅生活へといった切り替えにより良く対応することが可能です。

住まい

地域包括ケアシステムにおける「住まい」とは、自宅や各種介護施設を指します。本質的に言えば、高齢者が人生を最期まで暮らす場所のことです。

単に住宅を提供するというだけでなく、賃貸住宅に入居する際に必要となる保証人を確保するなどといった手続き関係も支援も、地域包括ケアシステムには含まれます。

なお、住む場所がなければ生活は成り立たないため、住まいは地域包括ケアシステムの中心的・土台的な要素です。

住む場所に困った高齢者により良く住まいを提供していく策としては、高齢者向け住宅・施設の拡充や、空き家の有効活用などが挙げられます。

介護

地域包括ケアシステムの介護は、在宅系サービスと施設・居住系サービスに二分できます。

在宅系サービスとは、必要に応じた訪問介護・訪問看護など、在宅生活を支援するためのサービスです。

一方で施設・居住系サービスに、特養や老健、介護療養型医療施設などの施設のほかに、小規模多機能型居宅介護のような地域密着型サービスもあります。後者のほうがより臨機応変な対応が可能です。

なお、2種類のサービスは途中で切り替えることもできます。例えば、常時の介護が必要になり、在宅の介護から入所施設での介護に変更するといったことが想定されます。

生活支援

「生活支援」では、自治体や老人会、ボランティア、NPO法人などが主体になって、カフェやサロンの開催・運営、配食、買い物支援、見守り、安否確認などのサービスが提供されます。こうした生活支援は、高齢者の方々が日々を元気に暮らすためには欠かせません。

なお、生活支援は、医療や介護に比べて、専門性を要しない分野です。そのため、行政や専門の業者のみならず、地域住民にも積極的な協力・参加を呼びかけたい分野だと言えます。

実際、地域住民が主体となって生活支援の取り組みを実施し、安全・安心な地域づくりを進めている自治体もたくさんあります。

予防

生活支援・介護予防サービス

「介護予防」は、地域包括ケアシステムの要・土台となる要素です。

介護予防の取り組みは、高齢者の自立を促し、健康な状態を維持することにつながります。これによって高齢者が介護が必要な状態になるリスクを低減し、より長く自宅での生活を継続することができるのです。

介護予防サービスを積極的に活用しながら、要支援1・要支援2の方でも快適に在宅生活が送れるような体制が整備されます。

また地域交流・社会参加の機会の提供、家事援助や外出援助などの自立支援なども介護予防の一環です。こうした内容は、上記で解説した生活支援とも密接に関わってきます。

このように各要素が互いに連関し合って形成されているのが、地域包括ケアシステムなのです。

【イメージ図で解説】地域包括ケアを理解する4つの助

地域包括ケアの4つの「助」

地域包括ケアシステムの構築には、以下で解説する「自助」「互助」「共助」「公助」が必要です。

それら4つの「助」が連携して、様々な生活課題を解決していくという取り組みが、地域包括ケアシステムには欠かせません。

自助

自助は、介護予防や健康寿命を伸ばすことなどを目的とした自分自身で行うケアのことを指します。高齢者になっても地域に変わらず住み続けるには、自分の健康に気を配り、主体的・積極的に介護予防活動に取り組むことが重要なのです。

それぞれが自発的な課題解決力を有することは、介護分野・医療分野の負担を和らげることにもつながるため、自助は地域包括ケアシステムの基盤であると考えられています。

なお、自助には、自費で介護保険外のサービスを利用し、介護予防に励むといったことも含まれています。

公助

公助は、生活困窮者の支援を目的として行政が主導する生活保障制度や社会福祉制度のことを指します。具体的には生活保護支給などの行政サービスのことです。

「貧困」をはじめ、自助や後述する互助では対応できない問題もあるため、行政による公助が地域包括ケアシステムには欠かせません。

なお、公助は税によって成り立っており、生活保護だけでなく、人権擁護や虐待対策などの取り組みも行われます。

公助は大きな効果を期待できる要素ですが、「税」を拠り所にすることから、少子高齢化や財政状況を踏まえると、大きく拡充するのは難しいと言えます。

互助

互助とは、家族や親戚、知人などが互いに助け合い、生活課題を解決していくことを意味します。

人材や費用が限られた状況においては、家族同士の協力やご近所付き合いといった、インフォーマルな(公的でない)社会資源を積極的に活用していくことも非常に重要なのです。

なお、互助はあくまで自主的な支え合いであるため、費用の負担や人員の配置などに関する制度はありません。公的な制度に則らないプライベートな助け合いの仕組みです。

ちなみに住民同士のつながりが比較的希薄な都市部では、この互助に大きな役割を期待するのは現実的でないと言えます。

一方で、財源や人的資源に乏しい都市部以外では、互助にそれなりの規模を求めることが必要になってくるでしょう。

共助

共助とは、介護保険・医療保険サービスといった制度に基づく相互扶助の仕組みです。互助とは異なり、共助は必ず制度化されたものに則って行われます。

医療や年金、保険など、被保険者の相互負担によって成立する制度が共助の代表例です。

なお、少子高齢化の影響で被保険者の数は減少していくため、「公助」同様、共助にも今後の規模拡大は期待できません。よって地域包括ケアシステムには、地域住民や民間団体主体の「自助」および「互助」がより重要であると言えます。

地域包括ケアシステムを構築する流れ

各市町村は2025年に向けて3年ごとの介護保険事業計画を策定・実施し、地域の自主性・主体性に基づいた地域包括ケアシステムを構築することになっています。

それは各地域の特性を反映したものになるため、そのあり方は一様ではありません。各地域がそれぞれ独自の地域包括ケアシステムを作り上げていきます。

以上より、地域包括ケアシステムは多様なものだと言えますが、その構築のフローには、概して以下のような手順が存在します。

課題・ニーズの把握と社会資源の発掘

提供すべきサービスを考えるには、第一に地域に暮らす高齢者がどのような課題を抱えているのかを調査しなければなりません

その課題の解決策となるものが、提供すべき理想的なサービスと言えるからです。

また地域住民のニーズを的確に把握するには、支援を要する人がどのくらいいるのか、具体的にどのような支援が求められているのかなども調べる必要があります。

さらに現状実施されている支援について反省・検討することも重要です。これには「地域ケア介護」というのが活用されます。ここで現在の支援内容について個別の検討が実施され、地域内の課題を把握・分析するわけです。

加えて医療・介護サービスの担い手となる地域ボランティアやNPO団体などを発掘し、人材を確保していくことも欠かせません。

会議等の開催と対応策の検討

上記でも少し触れましたが、地域包括ケアシステムの構築過程では、区市町村レベルで「地域ケア会議」が開かれます。これは地域内の関係者で課題を共有し、全体でより良いケアについて検討するための会議です。

この地域ケア会議には、役所の職員をはじめとする関係者が参加し、地域内に存在する課題を抽出、政策につなげるための具体的な策を議論します。そしてその中で優先順位の高いものが具体的な解決策として上がってくるわけです。

また困難ケースへの対応については、地域包括支援センターという機関が、地域ケア会議も活用して関係職種を集め、当事者にどのようなサービスを提供すれば在宅生活を継続できるかが協議されます。

なお、困難ケースとしては、高齢者の心身の健康や権利が侵害されている事例、周辺住民が迷惑をこおむっている事例などが挙げられます。

施策の決定と実行・整備

地域ケア会議などで課題への具体的な解決策および地域住民のニーズを反映した支援サービスの内容が決まったら、最後はそれを介護保険事業計画に盛り込み、実現させる段階です。

こうして各区市町村の実情に合った地域包括ケアシステムが構築されます。

なお、地域包括ケアシステムの構築後は、適宜それについて検討・反省・修正の機会を設けることが必要です。

具体的には「日常生活圏域ニーズ調査」や、地域ケア会議での個別事例の検討によるニーズの再把握などを通じ、適切な対応策が取れているか、確かな効果が出ているかなどを継続的にチェックしていくことが大切になります。

地域ケア会議とは

地域包括ケアシステムを構築するには、高齢者各人への支援を充実させることだけでなく、その支援を実現する社会基盤を整備することも重要です。

両者を同時に進めていくための手法として、厚生労働省は先ほどからも少し触れている「地域ケア会議」を推奨しています。

地域ケア会議は、役所の人間やケアマネジャー、介護サービス提供事業者、医療機関および社会福祉協議会の関係者、町内会・ボランティア団体の代表者、さらには民生委員まで実に様々な立場の人が参加する会議です。

色々な人がそれぞれの立場から意見を出し合うことから、地域の高齢者に関するよりリアルな問題を明らかにすることができます。

これが地域包括ケアシステムの構築に向けた地域づくりや、それに欠かせない資源開発に役立っていくわけです。

以下では、そんな地域ケア介護の意義について、もう少し詳しく解説していきます。

地域ケア会議の意義①ーミクロとマクロをつなぐ

地域ケア会議では、自治体よりもさらに小さい各圏域レベルの「ミクロ」の議論と、区市町村全体レベルの「マクロ」の議論が両方行われます

主にミクロの議論がなされるのが圏域レベルの地域ケア会議で、マクロの議論がなされるのが区市町村全体レベルの地域ケア会議です。

まずはミクロの視点から、個別事例の課題を把握していき、次にそれを総合することで自治体全体が共通して抱えているマクロの課題が抽出されます。

そうして上がってきた課題について、解決に必要なサービスや社会基盤を検討するので、ミクロもマクロも押さえた政策を実現することが可能です。

地域ケア会議の意義②ー5つの機能

地域ケア会議には、以下5つの機能があります。

  • 個別的な課題を解決する
  • 関係者間のネットワークを形成する
  • 地域の課題を的確に捉える
  • 地域の社会資源を発掘する
  • アイデアを政策に反映させる

以下では各機能の詳細を説明します。

個別的な課題を解決する

特に圏域単位で実施される「ミクロ」の地域ケア会議には、個別的・具体的な課題を発見し、それぞれに対する解決策を打ち出していくことが求められます。

地域に暮らす高齢者が目の当たりにしている困難を地域ケア会議がしっかりと吸い上げることで、市区町村レベルの施策がポイントを押さえたより良いものになっていくわけです。

関係者間のネットワークを形成する

地域包括ケアシステムの肝は、5つの構成要素が一体となったサービスを提供できる体制を作ることです。そのためには、介護分野と医療分野をはじめ、異なる分野の関係者同士に連携が生まれなければなりません

この連携作りをする上で、様々な関係者が参加する圏域レベルおよび区市町村レベルの地域ケア会議は、非常に重要な役割を担います。

地域の課題を的確に捉える

圏域単位の地域ケア会議の役割が主にミクロな問題に対処することにある一方、区市町村単位の地域ケア会議が扱うのはマクロレベルの問題です。

各圏域から上がってきたミクロの問題を総合し、多くの圏域、つまりは地域全体が抱えている共通の問題を発見しなければなりません。

この抽出作業を行うことで、多数が必要とするより効果の大きい政策が実施できるようになります。

地域の社会資源を発掘する

より良い地域包括ケアシステムを構築するには、限られた社会資源をできるだけ有効活用する必要があります。

そのためには、埋もれた社会資源を発掘したり、資源をより良く分配したりすることが重要です。

そうした社会資源の有効活用に関する取り組みを行うことも、地域ケア会議の大きな役割だと言えます。

地域ケア会議には、役所の職員や各事業所の関係者、ボランティア団体の方など、多様な方々が参加するので、社会資源を発掘する良いチャンスなのです。

アイデアを政策に反映させる

地域ケア会議には、多種多様な面々が参加するため、それぞれが抱いている有用なアイデアを吸い上げることができます

そのアイデアを政策という形で実現することも、地域ケア会議の大きな機能です。

各団体の規模では構想だけで終わってしまうことも、地域ケア会議において全体でそれを共有すれば、実現できる可能性が高まります。

地域包括ケアの具体的な取り組み例【厚生労働省より】

以下では厚生労働省の「地域包括ケアシステム構築へ向けた取り組み事例」を参考に、地域包括ケアシステムの先駆的な事例を紹介します。

地域包括ケア全般に関わるものをはじめ、医療・介護・予防・生活支援・住まいの各分野に特化した取り組みなど、全国各地から様々な事例を取り上げるのでぜひ参考にしてください。

具体例①-千葉県柏市

千葉県柏市では、行政と医師会が協同し、在宅医療および医療・介護の連携が推進されてきました。

具体的には行政が医師会をはじめとする多職種との連携を積極的に行い、在宅医療のサービスが拡充されました。

また医療・看護・介護の関係団体のほうでも、多職種連携に関するルール作りなどの議論が進み、連携がより一層強化されたようです。

行政と医療・介護関係者が連携して地域の課題に取り組み、高齢者の生活を支える総合的なサービスが提供されている例と言えるでしょう。

具体例②-埼玉県川越市

埼玉県川越市では、認知症対策と家族支援の施策が推進されてきました。

例えば、3回1コースの認知症家族介護教室が地域包括支援センターによって開催され、そのほかにも月に1、2回程度、約2時間の「オレンジカフェ」が通所介護施設や公民館で開催されているそうです。

こうした取り組みは、地域包括支援センター受託法人による定期的な開催や介護者の自主活動として広まっていき、定着しました。

また関係者だけでなく、地域住民にも積極的な姿勢が見られ、市民後見推進事業における市民後見人講座には61人が、養成講座には26人がそれぞれ受講したと言います。

具体例③-熊本県上天草市

熊本県上天草市では、離島における在宅生活の基盤づくりが推進されました。

具体的には、島内の婦人会や老人会、民生委員などによる住民主体の検討委員会の設置や、全島民を対象にした聞き取り調査による現状の把握・分析などが実施されたようです。

またホームペルパー養成講座の開催のような、マンパワーを確保するための施策も行われました。

きめ細かい取り組みによって、住民主体の介護予防と適切な生活支援サービスの基盤整備が行われた好例だと言えるでしょう。

具体例④-新潟県長岡市

新潟県長岡市では、小地域で医療・介護・予防・生活支援・住まいの5要素全てをカバーできる一体的なサービスを提供するという取り組みが実施されました。

具体的には、長岡駅を中心としたエリアに13箇所のサポートセンターを設置し、そこが5要素のサービスを独自に組み合わせて一体的に提供したと言います。

また地元町内会と事業所が連携して行事を行い、地域住民との信頼関係を築いたことも功を奏しました。

今後介護サービスの主たる対象者になるであろう団塊の世代の人々と関係ができたことで、彼らがサービスを利用しやすいような雰囲気ができたのです。

具体例⑤-大阪府大阪市

大阪府大阪市では、NPO法人が主体となって多様で包括的なサービスを提供する体制が整備されました。

主要な役割を果たしたNPO法人は、親の介護に関する悩みを抱える50代の主婦が集まって結成されたもので、自分たちの悩みを出し合うことでニーズを正確に把握し、より良い互助的な介護サービスの提供を目指すようになったそうです。

その結果、ヘルパー派遣やデイサービス、ケアプラン事業所、配食サービス、コミュニティ喫茶など多様なサービスが展開されるようになりました。

また介護保険事業や福祉有償運送を公的事業として運営しつつ、見守りサービスやたすけあい活動、各種行事などの法に則らない活動を自主事業として行うなど、「公助」や「介助」と「自助」の棲み分けおよびそれらの共存も見られます。

地域包括支援センターとは?

地域包括支援センターの人員構成

地域包括支援センターとは、高齢者の保健医療の向上ならびに福祉の増進を包括的に支えるために区市町村に設置される中核的な機関のことです。

地域の高齢者に対する総合相談や権利擁護、地域の支援体制の整備、介護予防のための援助といった多角的な地域包括ケアを実施します。

地域包括ケアシステム(厚生労働省)によると、2020年4月時点で、この地域包括支援センターは全国に5,221箇所、ブランチ(支所)を含めると7,335箇所設置されています。

なお、地域包括ケアシステムの実現に向けた中核機関である地域包括支援センターの設立は、2005年の介護保険法改正に伴って始まりました。

現在は在宅介護支援センターの運営法人や社会福祉法人、公益法人、医療法人、NPOなどが区市町村から委託を受けて、この地域包括支援センターを運営しています。

同センターには保健師や社会福祉士、主任ケアマネージャーなどが配置されており、「介護保険支援事業」と「包括的支援事業」という2種類の業務に取り組んでいます。各業務の詳細は以下の通りです。

介護予防支援事業

介護予防支援事業とは、指定介護予防支援事業所が実施する要支援者へのケアマネジメントのことです。

代表例としては、地域包括支援センターのケアマネジャーが作成するケアプランが挙げられます。

ケアマネジャーは、要支援者の心身の状態や生活環境、本人および家族の希望などを踏まえて、介護予防サービス計画を作ります。

なお、この業務は地域包括支援センター自身が行うほか、ケアマネ事業所へ委託して実施することも可能です。

包括的支援事業

包括的支援事業は、地域支援事業の一環であり、それには以下4つの業務が含まれます。

  • 介護予防ケアマネジメント
  • 総合相談・支援
  • 権利擁護
  • 包括的・継続的ケアマネジメント支援

上記のような包括的支援事業の役割は、医療や福祉などの地域内の色々な社会資源を活かし、制度的な枠組みを超えて、各高齢者に適したサービスを案内・提供することです。

また高齢者が抱える生活上の困難に対応することも役割であり、例えば、総合的な相談に乗る場となり高齢者を狙った詐欺や悪徳商法の消費者被害などに対処します。

さらに高齢者虐待の早期発見および防止のための取り組みも、包括的支援事業に含まれる業務です。

加えて地域包括支援センターが行う包括的支援事業には、高齢者を支えるケアマネージャーをサポートする業務も含まれています。

地域包括ケアの今後の課題

地域包括ケアの4つの課題

現状、地域包括ケアシステムは以下のような課題を抱えています。今後はこれらの課題に以下に対処していくことが重要です。

低い認知度

この記事をご覧になるまで、地域包括ケアシステムを知らなかった方もたくさんいらっしゃるはずです。

地域包括ケアシステムの認知度は決して高いとは言えないため、認知度を向上させていくことは大きな課題だと考えられます。

支援の当事者である高齢者やその家族に知ってもらうことはもちろん、医療機関や介護事業所、その他の法人、地域住民への理解を求めることも重要です。

そのため、地域包括ケアシステムの目的やそれに関係する各事業所などの役割を明確にした上で、地域全体で同システムを構築できるよう、普及啓蒙や協力依頼を実施していかなければなりません。

サービスの地域格差の是正

地域包括ケアシステムにおける一つの本質は、高齢者を支えるサービス提供者の主体が、国から自治体へ移行するという点です。

この観点から課題を考えると、自治体ごとに財源や人的資源の質および量が大きく異なるということが挙げられます。

財源や人的資源の内容に差があるということは、自治体によって地域包括ケアシステムで提供されるサービスの質および量が変わってくるということです。

それに伴い、一部の地域では充実したサービスが受けられない、人気の高い自治体に人材が流出してしまうといった事態が想定されます。

日本全国で地域包括ケアシステムを普及させていくには、そうした地域格差をある程度是正しなければなりません。

担い手不足の解消

医療や介護サービスはもちろん、在宅生活を継続するための配食や見守りといった日常的な生活支援を必要とする高齢者も増加していくと考えられます。

そのため、より一層充実した地域包括ケアシステムの構築が求められるわけですが、それには現状だと人的資源が足りません。

よって各自治体は、それぞれのサービスに従事する担い手をきちんと確保するための策を打つことが重要です。

行政の人材のみならず、NPOやボランティア、民間企業など私的な人材も活用し、重層的な支援体制を構築することが課題になります。

地域コミュニティが消失しつつある昨今、人材確保は容易ではありませんが、その中でも地域社会に貢献したいと考える人をうまく集めていかなければなりません。

なお、限られた人的資源を有効活用するには、元気な高齢者に社会参加を促し、生活支援の担い手として活躍してもらうことも有効です。

これは活躍する高齢者自身の生きがいや介護予防にもつながるため、優先順位を高めるべき取り組みだと言えるでしょう。

医療との連携

高齢者がいつまでも自宅などの住み慣れた生活環境で暮らし続け、自分らしい生活を維持できる地域を作るには、地域の医療・介護の関係機関が連携し、在宅医療・在宅介護のサービスをより一層拡充させていかなければなりません

医療・介護が一体となって包括的・継続的なサービスを提供することが、高齢者の在宅生活の充実に必ずつながっていきます。

しかし、医療分野と介護分野には、「メンタルバリア」という目には見えない障壁があると言われています。

そのメンタルバリアを取っ払い、医療・介護両分野の結びつきを盤石なものにすることが、より良い地域包括ケアシステムの構築に欠かせません。

事実、厚生労働省も、多職種協働で関係機関が連携し、在宅医療・在宅介護のサービスを一体的に提供できる体制づくりを推進しています。

地域包括ケアシステムまとめ

地域包括ケアシステムまとめ
  • 少子高齢化に対応した医療・介護サービスの変革
  • 高齢者が在宅生活をしやすくなる
  • 地域格差もなくしていなければならない

地域包括ケアシステムについて、イメージを用いながら詳しく解説しました。

地域包括ケアシステムは、少子高齢化の備えた医療・介護サービスの変革です。

これが構築されると、介護予防や医療、生活支援などのサービスを地域で一体となって提供することができるようになります。

多職種の連携によって、介護サービスだけでなく、医療サービスをはじめとする色々なサービスを在宅で受けやすくなり、今後高齢者は住み慣れた地域での生活がしやすくなるでしょう。

ただし、それを実現するにはまだまだ課題もあり、認知度の低さやサービスの地域格差、人材不足などを解決する必要があります。

以上を参考に、ぜひ一度地域包括ケアシステムの構築を含めたより良い地域づくりについて考えてみてください。

この記事は専門家に監修されています

介護支援専門員、介護福祉士

坂入郁子(さかいり いくこ)

株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。

監修した専門家の所属はこちら

この記事に関連する記事

地域包括支援センターとは|役割・業務から高齢者介護の相談事例まで解説!

地域密着型サービスとは|各種類のサービスや対象者の特徴まで徹底解説!

小規模デイサービス(地域密着型通所介護)とは|サービス内容や料金・利用条件も解説

介護問題とは|高齢者・老人に身近な10の課題からおすすめ介護施設まで紹介!

全国の老人ホーム・介護施設・高齢者住宅を探す

介護施設の種類
介護施設の比較
介護施設の費用

上に戻る 上に戻る