福岡県の老人ホームの特徴と動向
福岡県における老人ホームの特徴と動向は以下の通りです。
福岡県の地理的特徴と介護施設の特徴
福岡県は、福岡市と北九州市、二つの政令指定都市を含む九州最大の県です。人口は、令和3年11月1日時点で、5,125,809人を記録しています。
福岡市と北九州市に限っていえば、高齢者にとって住みやすい街と言えるでしょう。というのも、福岡県の介護施設の状況には、現在はっきりとした二極化が見られるのです。
福岡市と北九州市の介護施設は充実度が高いのに対し、その他の市町村では、需要過多であり、施設の待機者数は増加傾向にあります。その中には、高齢化率が30%を超える町村も含まれており、中心部以外で施設の整備が追いついていないことは、福岡県が抱える大きな問題です。
一方で福岡市内に関しては、老人ホームの種類・費用ともに選択肢が豊富で、それぞれに適した介護施設を選択することができます。費用についてはこの後で詳しく解説します。
福岡県の介護施設価格概観
以下では、福岡県にあるココファンの介護施設の入居金・月額費用をまとめました。それぞれ平均値・中央値を、全国平均と比較する形で載せているのでご確認ください。
<入居金>
地域 |
平均値 |
中央値 |
福岡県 |
269,500円 |
269,500円 |
全国 |
297,256円 |
194,500円 |
<月額費用>
地域 |
平均値 |
中央値 |
福岡県 |
217,450円 |
217,450円 |
全国 |
169,518円 |
158,250円 |
上記を見ると、福岡県にあるココファンの施設の費用は、入居金・月額費用ともに全国平均よりも高いことがわかります。
福岡県の高齢者人口
上の画像は、福岡県が発表した各年4月の高齢者数・高齢化率をまとめたものです。
2021年4月1日時点で、福岡県の65歳以上の人口は1,415,506人です。人口全体と比較すると、65歳以上の高齢者人口割合は27.7%ということになります。
また上記の表を見てもわかる通り、福岡県の高齢者数・高齢化率はともに年々上昇しており、2040年には65歳以上の高齢者人口割合が35.3%に到達すると推測されています。
なお、介護施設の状況と同様、福岡県では高齢化率についても地域差が大きいです。全体としては高めですが、高齢化率が10%台の市区町村もあれば、高齢化率が約45%の市区町村も存在しています。
出典:福岡県の高齢者人口及び高齢化率の推移
福岡県の介護保険事業者・施設の状況
<福岡県の種類別施設数>
種類 |
施設数 |
75歳以上千人あたりの施設数(福岡県) |
75歳以上千人あたりの施設数(全国) |
訪問型介護施設数 |
2,467 |
3.53 |
3.02 |
通所型介護施設数 |
2,710 |
3.87 |
3.09 |
入所型介護施設数 |
1,645 |
2.35 |
1.96 |
特定施設数 |
249 |
0.36 |
0.30 |
居宅介護支援事業所数 |
1,604 |
2.29 |
2.17 |
福祉用具事業所数 |
541 |
0.77 |
0.73 |
介護施設数(合計) |
9,250 |
13.22 |
11.31 |
出典:日本医師会 福岡県
上記は、2021年9月時点の介護施設情報です。
これを見ると、福岡県の介護施設数は、全国平均と比較して多いことがわかります。特に訪問介護施設数と居宅介護施設数が多く、そのほか、入所型介護施設や特定施設から居宅介護支援事業所数、福祉用具事業所数に至るまで、全ての項目で全国平均の数字を上回っています。
そのため、数字だけ見れば、福岡県全体の介護施設数は充実していると言えるでしょう。しかし、実際問題では、地域格差にも着目しなければなりません。冒頭で解説した通り、福岡市や北九州市など、介護施設の充実度が高い地域もある一方で、施設が足りていない地域もたくさんあります。
福岡県の要介護・要支援認定者数
出典:福岡県「平成29年度 介護保険年報」
福岡県の発表によると、2018年の要介護認定者数は、26万4.982人です。
上記の表の通り、認定率は若干減少しているものの、福岡市の要介護認定者数は近年だけを見ても年々増加しています。
高齢者の増加とともに要介護認定者数は今後も増え続け、それと同時に少子化も進展していくと考えられます。
福岡市は、特に少子高齢化が激しいと言われているため、少ない介護の担い手でどれだけより良く高齢者の方々を支えていけるかが今後の課題と言えるでしょう。
そこで注目したいのが、地域のつながりを重視した地域密着型の介護保険サービスです。地域の人々と要介護認定者につながりを作り、地域全体で介護を担っていくことが、持続可能な少子高齢化社会には欠かせません。
実際、2006年の介護保険法改正を端に、全国的に見て地域密着型の介護保険サービスの利用率は、在宅型介護保険サービスの利用率とともに、大幅に増加しています。ちなみに地域密着型のサービスは主に要介護度2〜3の高齢者を、在宅型のサービスは要支援や要介護1・2の高齢者を対象にしています。
上の表を見てもわかる通り、福岡市では要支援や要介護1〜3の割合が多いため、今後は地域密着型および在宅型の介護保険サービスを、地域全体で拡充していく必要があるでしょう。
福岡県の高齢者相談窓口は?
福祉サービスに関する相談や苦情を受け付ける高齢者相談窓口は、それぞれの市町村に設けられた社会福祉協議会がこれを担います。
この社会福祉協議会に、悩み相談をしたり、不満を言ったりすると、生活相談員と専門員が派遣されて問題の解決にあたります。支援計画の変更を具体的に希望する場合は、社会福祉協議会との間で支援制度の利用に関する契約を結び、支援内容を改良することも可能です。
なお、認知症や重大な病気などで相談者本人の判断能力に問題がある場合は、第三者機関が支援員と相談者の間を仲介してくれるので、不当な契約を結ばされる心配はありません。
福岡県独自の介護サービスについて
福岡県が力を入れているのは、地域一体となって取り組む介護予防です。2006年の介護法改正で、介護予防の注目度は全国的に高まりましたが、福岡市ではそれ以前から介護予防が積極的に行われてきました。
開始が早かったこともあって、近年の福岡県では、身体機能の回復だけを目的にした介護予防ではなく、身体機能を回復させ、さらには活気のある日常生活を維持するための介護予防という先端的・発展的な取り組みが行われています。
福岡県独自と言える地域が一体となった介護予防の具体例は以下の通りです。
- 高齢者だけでなく、地域住民皆が参加できる運動機能測定会
- 高齢者の方々自身による健康維持のためのサークルの活動支援
- 介護予防の専門家を招いての健康づくりのイベント
- 福祉施設に対する介護予防のマニュアルの説明・指導
福岡県の地域包括ケアシステム
地域包括ケアシステムとは、住まい・医療・介護・予防・生活支援のサービスを一体的に提供して高齢者の自分らしい暮らしをサポートする仕組みのことを指します。高齢者の方々が要介護状態になっても住み慣れた地域でより良い暮らしを続けるために、この仕組みが必要です。
国は団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、この地域包括ケアシステムの構築を目指しています。なお、地域包括ケアシステムは、それぞれの市町村や都道府県が、各地域の特性に応じて自主的に作り上げていくものなので、その形式や内容は地域ごとに様々です。
福岡県では、県内各域に設置された地域包括支援センターが地域包括ケアの中心機関としてこれにあたります。地域包括支援センターは2006年に初めて設置され、現在は福岡県内に200近く存在しています。
各地域包括支援センターが支援の対象とするのは、高齢者の方々だけではありません。社会福祉士や保健師、看護師などを配置し、県民全員に細やかな支援ができるような体制が整えられています。高齢者向けには、主任介護支援専門員という専門家も常駐しています。
また福岡県では、介護リフォームの費用を、自治体が一部負担する「住みよか事業」も行われています。これも地域包括ケアの一環です。
今後高齢者の数が爆発的に増えていく日本では、高齢者向けの住宅に関する経済的な支援が必要不可欠であり、この「住みよか事業」のような取り組みのニーズは全国的に高まってくるでしょう。
胃ろうの方の老人ホーム選びのポイント
この記事は医師に監修されています
中部脳リハビリテーション病院 脳神経外科部長
矢野 大仁 先生
胃ろうを行っている方が、老人ホームを選ぶ際に重視すべきポイントについて解説します。
そもそも胃ろうでも老人ホームに入れるの?
2012年頃までは、老人ホームの約70%で胃ろうの方の受け入れを制限していました。
その要因は、胃ろう対応出来る環境が整っている老人ホームが少なかったためです。
しかし、2012年に行われた介護保険法の改正により、現在は胃ろう対応が出来る老人ホームが増加してきています。
とはいえ、胃ろうのケアは看護師や医師が行う医療行為であるため、どこの老人ホームでも受け入れられるわけではないのです。
胃ろうの方の老人ホームへの入居は、近隣の医療機関との連携や、介護職員の人員体制、看護師等医療職員の配置、老人ホームの設備といった、老人ホームの受け入れ体制が整っていることが条件になります。
胃ろうの方や、体調に不安がある方は、希望する老人ホームの医療の連携、介護体制について十分に確認した上で入居を検討しましょう。
胃ろうの基本情報
胃ろうについて、詳しく解説していきます。
胃ろうが必要な状態
胃ろうが必要になるには、下記のような状態にあることが考えられます。
寝たきりの状態で起こる床ずれの原因の1つとなるのが、栄養不足があります。
胃ろうで足りない栄養を補うことで、床ずれの悪化を防いだり、場合によっては体の機能回復に繋がることがあります。
認知症や意識障害、脳血管疾患や神経筋疾患などの影響で口から食べることが難しい場合や、点滴では栄養が不足するときに胃ろうで対応することがあります。
加齢や病気の影響で、嚥下機能が低下した場合に、誤嚥を防ぐ目的の1つとして胃ろうで対応することがあります。
腸ろうの場合
腸ろうは、お腹に小さな穴を開けて、そこから小腸まで栄養を通す管(カテーテル)を通し、直接小腸まで栄養を送る処置です。
本来は胃ろうで対応することが多いですが、胃がんなどの理由で胃ろうを作ることが出来ない患者さんへの処置として、腸ろうを作ることが多いです。
介護的なケアは胃ろうと同じように行うことが多いですが、腸ろうの場合は胃ろうよりゆっくりと栄養を流さなくてはならず、時間と手間がかかります。
人員確保の面で、受け入れが難しい施設が多いのが現状です。
その他の経管栄養の場合
経管栄養は、口からの食事が難しくなった場合、胃までカテーテルを通して栄養を送る方法です。
胃ろうも経管栄養の1つです。
胃ろう以外では、鼻から胃までカテーテルを通す、経鼻経管栄養などが代表的です。
経鼻経管栄養の場合は、手術をすることなく行えるので、身体機能の回復により取り除くことも可能です。
胃ろうも経管栄養の1つですが、経管栄養の方の受け入れを容認している施設でも、胃ろうの方の受け入れをしていない場合があるため、注意が必要です。
胃ろうの方の在宅介護は非常に大変
胃ろうは誤嚥の心配がなくなり、介護が楽になると言われることがあります。
楽になる部分ももちろんありますが、家族による胃ろうの管理は、非常に大変です。
管理が不十分だと、感染症などのリスクもあります。
本人の状態を悪化させてしまう可能性も考えられます。
そのため、介護サービスを利用するなどして、プロに任せることも必要です。
胃ろうのメリット
胃ろうのメリットとして、主に以下のようなものが挙げられます。
栄養素の確保がしやすい
胃ろうの最大のメリットともいえるのが、栄養素の確保がしやすいという点です。
口から食べることが困難になると、必要な栄養素が不足しがちです。
胃ろうの場合は、胃に直接送り込むことが出来るため、必要な栄養素を確保したり、必要なカロリーを摂取することに役立ちます。
口から食事もできる
口から食べることが困難になった方が胃ろうの処置をすることが多いですが、胃ろうの方も口から食事をすることが出来ます。
胃ろうは腹部にあるため、喉や食道にカテーテルが通っていない分、経鼻経管栄養などと比べると口からの食事はしやすいと言えます。
また、嚥下訓練もしやすい特徴があります。
洋服で隠すことができる
胃ろうは腹部についているため、洋服を着てしまえば見た目では胃ろうがあるかどうか分からない点がメリットといえます。
鼻からカテーテルを通す経鼻経管栄養は、隠すことが難しく、違和感などから引き抜いてしまう方もいますが、胃ろうは目立ちにくく、引き抜く心配が少ないというところがメリットです。
運動やリハビリへの影響が小さい
胃ろうがあっても、基本的な運動やリハビリで体を動かすことは可能です。
胃ろうは洋服で隠すことが出来る点や、カテーテルが見えていないことからも、運動やリハビリに支障が少ないことも特徴です。
また、口からも食べることが出来るため、嚥下訓練を行うことも可能です。
入浴可能
医師の許可があれば、入浴することも可能です。
入浴の際は特別な処置をすることなく、普段通り入浴をすることが出来ます。
カバーをすることなく入浴が出来るため、介護する人の負担軽減にも繋がります。
清潔を保つことは皮膚トラブルの防止にもなりますし、胃ろうが付いている周辺の化膿防止にも繋がります。
誤嚥性肺炎の予防に効果がある
胃ろうは胃に直接栄養を送るため、誤嚥性肺炎の予防に繋がります。
嘔吐物などの胃酸による化学性肺炎の防止にも効果があります。
ただし、唾液等の誤嚥による細菌性肺炎はリスクが上がる可能性がありますが、口腔ケアを行ったり、口から少量でも食事を摂ることで細菌性肺炎のリスクを予防することに繋がります。
胃ろうのデメリット
一方で、胃ろうには以下のようなデメリットも存在します。
手術の必要がある
胃ろうは腹部に小さな穴を開けて設置するため、穴をあける外科手術が必要です。
手術には抵抗がある人も多く、その点がデメリットといえます。
ただ、胃ろうの手術は内視鏡を使って行うため、30分程度の短い時間で終わります。
合併症のリスクも
胃ろうで起こる可能性がある合併症には、汎発性腹膜炎や創部感染症などのリスクがあります。
合併症に関しては胃ろうに限らず、他の経管栄養法でも発生する可能性はあります。
むしろ、胃ろうの場合には合併症のリスクが他の経管栄養法よりも少ないとされています。
口腔ケアが必要
口から食べる機会が減少することで、口臭や細菌の増加など、口腔トラブルが発生しやすくなります。
こうした口腔トラブルは、食べる機会が減ることで唾液の分泌が減り、自浄作用が低下することで起こります。
口腔内のトラブルを防ぐためにも、適切な口腔ケアを行うことが大切です。
逆流することがある
胃に注入する栄養剤は液体のため、逆流する可能性があります。
逆流してしまうと誤嚥に繋がることもあるので、栄養剤を注入している最中と、注入後は30度以上上半身を起こしておく必要があります。
また、体質的に胃に入れたものが逆流しやすい症状を持っている人もいます。
このような場合は、とろみのついた栄養剤で症状が抑えられる場合があります。
胃ろうの設置は本人の意思確認も重要
日本の胃ろう利用者は25万人以上とも言われており、世界的に見ても日本は胃ろう患者が多いことが知られています。
ただ、日本では胃ろうを望まないとする人が8割以下と少ない傾向があり、本人の意思と尊厳の重視に注目されています。
胃ろう設置の最大の目的は生命維持であることが大半ですが、決して胃ろうが延命治療とは断言できません。
胃ろう患者の介護施設受け入れも増えてきたため、介護施設入居にあたって胃ろうの選択肢を辞めるという必要性はほぼ無くなりました。
そのため、本人の意思をしっかり確認し、家族も納得した上で検討することが大切です。
胃ろうが必要な方の介護施設の入居条件
胃ろうは医療行為のひとつで、2012年までは主に看護師が行うケアでした。
現在は、看護師などの医療従事者以外に、家族や所定の研修を受けた介護職員が胃ろうの対応が出来るようになりました。
とはいえ、どの介護施設でも受け入れられるわけではありません。
胃ろう患者が断られる理由には、
- 看護師が日中、もしくは24時間常駐がない
- 介護職員への研修が進んでいない
- 胃ろう患者のための設備が整っていない
このような理由から断られることがあります。
胃ろうの方が施設を探す場合には、検討段階から胃ろうを使用していることを伝え、入居後安心して暮らせる環境かどうかをしっかり確認することが大切です。
胃ろう対応可能な介護施設選びで重視する点
それでは実際に、胃ろうの方が施設選びをする場合、どのような施設を選ぶべきか紹介していきます。
口腔ケアに精通している
胃ろうの方で、口から食べる機会が減ると、口腔内の状態が悪くなりがちです。
口から食べる機会が減ることで、口の中を清潔に保つ重要な役割を持っている唾液の分泌が減るためです。
口の中に細菌が繁殖すると、虫歯や口内炎になったり、口臭の原因になったりします。
肺炎にかかる可能性などもあります。
そのため、口腔ケアによって口腔内を清潔な状態に保つ必要があります。
口腔ケアをしっかり行っている施設を選ぶ基準にしましょう。
入居者の体を清潔に保とうとしている
胃ろうを設置していると、入浴が出来ないイメージがあります。
実際には胃ろうに特別な保護をしなくても、普段通り入浴をすることが出来ます。
入浴後も、胃ろうを入れ替えたり、消毒をしたりすることなく、普段通りのケアで充分です。
むしろ、胃ろうが不潔な状態になると、感染症などの心配もあります。
そのため、身体を清潔な状態に保つ必要があり、入浴や清拭によって体を清潔に保とうとしているかどうかは、必ず確認が必要です。
栄養剤にこだわっている
胃ろうで使われる栄養素には、タンパク質が分解された状態で含まれる「消化態栄養剤」と、分解前のタンパク質がそのまま含まれている「半化態栄養剤」の2種類あります。
この2種類の栄養剤から、胃ろうを設置している方の消化能力などを見て、どの栄養剤を使用するか、医師や看護師と連携をとりながら選択してくれる施設が望ましいです。
また、胃ろうの方にとって栄養剤等の補給は健常者の食事と同じです。
胃ろうのチューブに詰まらないように注意して調理されたものであれば、医師の診断の元、何を入れても大丈夫です。
普通の食事を作るように調理したものや、野菜ジュース、スポーツドリンクなども入れることが出来ます。
こうした胃ろうの方の"食事"にも気を配っている施設であれば、安心することが出来ます。