高齢者虐待の実態|虐待の種類や原因、対策・予防の方法から介護施設の選び方まで解説
更新日時 2023/12/08
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
「高齢者虐待やいじめはどのような理由で起きるの?」
「介護施設でも虐待やいじめが起きているのはなぜ?」
このような疑問をお持ちの方、いらっしゃいませんか?
高齢者の虐待はいじめの件数は年々増えており、大きな社会問題となっています。
在宅介護だけでなく、老人ホームなどにおいて介護士が虐待に及んでしまうケースもあることから、虐待の実態や予防法について知っておくことは重要です。
こちらの記事では、高齢者虐待やいじめの種類や原因、予防法について解説していきます。
安心して介護生活を送るためにも、ぜひ最後までお読みください!
- 高齢者の虐待件数は年々増えているので、誰にとっても決して他人事ではない
- 虐待の種類にも産ざまあるので、実態や内容について把握することが重要
- 介護施設においても介護士などによる虐待やいじめが起きているので、任せきりにするのは危険
- 頼れる親族が近くにいない場合は介護鬱になりやすいので、近隣で頼れる存在を見つけることも重要
年々増加する高齢者虐待・いじめ
まずは、高齢者虐待やいじめの実態について見ていきましょう。
養介護施設従事者等(※1)によるもの | 養介護施設従事者等(※1)によるもの | 養護者(※2)によるもの | 養護者(※2)によるもの | ||
---|---|---|---|---|---|
虐待判断件数(※3) | 相談・通報件数(※4) | 相談・通報件数(※4) | 虐待判断件数(※3) | 相談・通報件数(※4) | 虐待判断件数(※3) |
令和3年度 | 739件 | 2,390件 | 16,426件 | 36,378件 | |
令和2年度 | 595件 | 2,097件 | 17,281件 | 35,774件 | |
増減 | 144件 | 293件 | -855件 | 604件 | |
(増減率) | (24.2%) | (14.0%) | (-4.9%) | (1.7%) |
出典:『令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』(厚生労働省)」
※1 介護老人福祉施設など養介護施設または居宅サービス事業など養介護事業の業務に従事する者
※2 高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等
※3 調査対象年度に市町村等が虐待と判断した件数(養介護施設従事者等による虐待においては、都道府県と市町村が共同で調査・判断した事例と、都道府県が直接受理し判断した事例を含む。)
※4 調査対象年度(同上)に市町村が相談・通報を受理した件数」
上記の表のように、ここ数年で虐待件数は残念ながら年々増加傾向にあります。
健康寿命を延ばして自立した生活を送れるようにすることが非常に重要ではありますが、高齢になると心身が衰えてしまうのは仕方のないことです。
そのため、やむを得ず介護施設を利用せざるを得ないケースも出てきてしまうでしょう。
超高齢社会に突入している日本において、高齢者が自分らしく幸せに暮らせるようにサポートする仕組みや環境づくりは非常に重要です。
つまり、社会保険制度を含めた介護や福祉の問題に向き合い、諸制度の活用を促す周知活動を行う必要があると言えるでしょう。
その中でも、家庭や介護施設における高齢者の虐待も大きな社会問題として取り上げられる機会も多く、未然に防ぐ体制整備が重要です。
家庭や施設における高齢者虐待は周りの人が気付きにくく、発見が遅れてしまう場合も多いため要注意です。
高齢者虐待は他人事ではない
介護を行っている方は心身に大きな負担を強いられることになるので、誰でも介護によるストレスを抱えてしまいます。
特に、認知症患者を相手にする場合はコミュニケーションも満足に取れないので、大きなストレスを抱えてしまうのは仕方のないことです。
ストレスを抱え込みすぎてしまうと、虐待やそれに近い行為をしてしまう可能性があるので、介護者にとっては決して他人事ではありません。
高齢者虐待の特徴として、虐待している側に「虐待している」という自覚がないケースが多い点が挙げられ、自覚のなさが虐待を助長することにも繋がりかねません。
実際、虐待が疑われた事例の10%程度は高齢者の命に危険がある状態になるレベルの過度なものであり、やかり高齢者の虐待は大きな社会問題と言えるでしょう。
なお、⾼齢者虐待が起こりうる要因としては下記のようなものが挙げられます。
- 貧困
- 身近にコミュニケーションを取れる人がいない
- 社会からの孤⽴
- 老老介護・単⾝介護
- 慢性的な介護ストレス
- 介護に関する知識不⾜
- 認知症患者の介護
様々な要因が虐待やいじめに繋がる可能性がある現実を把握し、「決して他人ごとではない」ことを念頭に起きましょう。
高齢者虐待の種類
続いて、高齢者虐待の具体例についてみていきましょう。
種類 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
身体的虐待 | 暴力行為や外部との接触を意図的、そして継続的に遮断する行為 | 平手打ち、殴る、蹴る、やけどさせる 薬を過剰に服用させる 無理やり食べ物を口につめこむ |
介護・世話の放棄や放任(ネグレクト) | 意図的かどうかを問わず、介護や生活の世話を行っている家族がそれを放棄や放任をし、生活環境や身体・精神的状態を悪化させていること | 入浴させない 水分や食事を充分に与えない 劣悪な住環境のなかで生活させる 介護、医療サービスを受けさせない |
心理的虐待 | 脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせなどによって精神的・情緒的苦痛を与えること | 罵声を浴びせる 嘲笑する 話しを故意に無視する 誹謗中傷 |
性的虐待 | 本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為またはその強要 | 裸の状態で放置する 性的行為の強要 プライバシーの配慮の欠如 |
経済的虐待 | 本人の合意なしに財産や金銭を利用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること | 年金・預貯金の無断利用・取り上げ 預貯金やカードの着服・窃盗 不動産・有価証券等の無断売却 |
上記のように、様々な虐待事例があることが分かります。
介護を始めたばかりの頃は大丈夫でも、介護期間が長引くにつれてストレスが蓄積されてしまい、上記のような虐待に及んでしまうのです。
「自分はそんなことをするわけない」と思っていても、介護ストレスが精神を蝕んでしまい虐待に及んでしまう方は多いので要注意です。
セルフネグレクト
自己管理が上手くできず、生活環境や栄養状態が悪化してしまている状態を指すセルフネグレクトも問題となっています。
一般的に、セルフネグレクトは「自分自身を大切にしない」ことを意味しますが、高齢者のセルフネグレクトは増えつつあります。
特に社会的に孤立している方に多く、孤独死のきっかけになり得るので要注意と言えるでしょう。
虐待防止法の虐待類型には該当しないものの、高齢者の尊厳が損なわれてしまっている状態には他ならず、孤独死などを防ぐべく行政の対策も進められています。
親が遠方に住んでいる場合であれば、孤独感を感じさせないためにも、こまめに連絡したり定期的に自宅に訪問するなどしてコミュニケーションを取ると良いでしょう。
老人ホームなど介護施設での高齢者虐待
出典:厚生労働省「令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」
上記の表のように、高齢者を受け入れるはずの老人ホームなどでも高齢者虐待が起きてしまっています。
在宅介護だけでなく、介護のプロである介護士もストレスを抱えてしまっているのが現実です。
老人ホームに任せきりにするのではなく、職員や介護士ともコミュニケーションを取ることは非常に重要です。
虐待を防ぐ・対処するための家族の対応
自分の大切な家族が虐待されるのを防ぐためにも、家族は定期的に面会へ行き職員へ声をかけると良いでしょう。
虐待は家族の存在が感じられない場合に発生しやすいので、意識的に家族が施設の職員とコミュニケーションを取るのは非常に効果的です。
もし虐待を受けてしまっていると、面会を通して「体のあざが日に日に増えている」「精神的なストレスで食事量が減った」などの症状を確認でき、虐待の兆候に気付きやすくなるメリットがあります。
また、職員が疲れ果てていたり、家族の面会を疎ましく思っている場合は虐待が起こりうる可能性が高いと言えます。
とはいえ、虐待を疑う相談をすると職員の神経を逆撫でしてしまい、逆に状況を悪化させてしまう恐れがあるので対応は難しいところです。
このような不安を解決するための方策として、利用者や家族が気軽に相談できるホットラインが設けられている施設もあるので、利用すると良いでしょう。
虐待が疑われる場合や本人がストレスを感じている場合は、施設側の改善を期待して入居を継続するか、新しい施設へ移ることを検討するか家族間で相談しましょう。
地域包括支援センターや自治体に相談
施設の利用に不安がある場合や不信感がある場合は、地域社会の高齢者の暮らしをサポートするための地域包括支援センターで相談すると良いでしょう。
地域包括支援センターでは、社会福祉士やケアマネジャーなどの介護のエキスパートが相談に応じてくれるので非常に心強い存在となってくれます。
虐待に限らず、医療や介護予防についても相談を受け付けているので、不安なことや心配事があればまとめて解決できます。
地域包括支援センターとは|役割・業務から高齢者介護の相談事例まで解説!
地域包括支援センター以外にも、市区町村にも苦情相談窓口などで高齢者の相談を受け付けているので、こちらも併せて活用すると良いでしょう。
場合によっては専門家や関連機関に繋いでくれるケースもあるので、解決へ導いてくれるはずです。
これらのサービスは住民であれば誰でも無料で利用できるので、積極的に活用してください。
介護職員による虐待が発生する理由
それでは、介護士をはじめとした介護職員による虐待が発生してしまう理由について解説していきます。
介護のプロといえども虐待を起こしてしまうことがあるので、現実について知っておくことも重要です。
過酷な労働環境
近年は待遇改善の動きがあるとはいえ、介護業界は常に人手不足の状態にあり仕事が激務な割には待遇が恵まれていません。
他の業界よりも賃金が安く希望者も少ないことから、介護業界を取り巻く就労環境は非常に厳しい現状にあると言わざるを得ません。
さらに、採用されても人間関係のトラブルですぐに辞めてしまうケースも多いことから、人手不足は慢性的なのです。
人手不足の状況だと、当然のことながら職員一人当たりの負担も重くなってしまい、必然的にストレスや疲労を溜め込んでしまいます。
その結果、ストレスのはけ口として利用者への虐待に及んでしまうのが現実です。
職員に十分な教育ができていない
先述の通り、介護業界は慢性的な人手不足な状況にあるので、新規職員や介護士に対して十分な教育や研修が行われないことも少なくありません。
介護士の中には、利用者の対応マニュアルや正しい介護知識などを十分に教えられることなく現場に出ている方も多くいます。
十分な知識やスキルが身に着いていない状態だと、慣れない仕事にストレスを感じてしまう方も少なくありません。
また、認知症への理解が不十分だったり、本来であれば雇わないレベルにある人材を人手不足とい都合でで雇ってしまったことで、虐待のリスクが起きてしまっている現状もあります。
その結果、知識もスキルの不十分なスタッフが入居へ虐待に及んでしまうケースが散見されます。
認知症ケアは難しい
認知症患者は自分を律する能力が衰えているので、暴言や暴力に及んでしまうことがあります。
認知症ケアは大きなストレスが伴うので、高齢者に対して溜め込んだストレスを虐待という形でぶつけてしまうケースも少なくありません。
また、介護者に対する適切なサポート体制が整っていないことも原因にあり、正しい認知症ケアを身に着けていないまま現場に出ている職員ほど虐待を起こしてしまいがちです。
2016年に行われた「平成28年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)報告書」によると、虐待されている高齢者の約84%に認知症症状が認められました。
つまり、認知症と虐待には非常に相関が強いので、認知症患者は要注意と言えるでしょう。
家族・親族による高齢者虐待も
出典:厚生労働省「令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」
老人ホームなどの介護施設だけでなく、在宅介護の中で身内の介護者が被介護者を虐待するケースも非常に多くあります。
介護スキルを備えていない家族にとって、介護の負担は非常に大きいので決して他人事ではありません。
「自分はそんなことをしない」と思っていても、介護に携わることで感じるストレスや負担は非常に大きいことから、過信することなく現実と向き合うことが重要です。
虐待者の内訳
出典:厚生労働省「令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」
家庭内において高齢者虐待をしている虐待者の内訳を見てみると、最も多いのが息子の40.5%、次いで夫の21.5%、その次に娘の17.0%となっています。
つまり、実の息子が虐待を行っていることが多いため、介護を行う予定がある男性は要注意と言えるでしょう。
この原因としては、家事よりも仕事中心に生活を送ってきた男性が慣れない家事や介護をする必要に迫られることから、ストレスを感じやすくなっていることが挙げられます。
つまり、身内における虐待を防ぐためには男性介護者への支援策も求められているのです。
家族形態
厚生労働省が虐待者と被虐待者の同別居関係について調査した結果、「虐待者とのみ同居している」という世帯が49.2%と約半数に上りました。
「虐待者および他家族と同居」の37.4%と合算すると、虐待を受けた高齢者の86.6%が「虐待者と同居していた」ことになります。
なお、虐待の起こった世帯の家族形態を見てみると「独身の子どもと同居」が33.0%と最も多く、「子ども夫婦と同居」の15.2%と「配偶者と離別・死別等をした子どもと同居」の12.1%を合算すると、被虐待者の60.3%が子ども世代と同居していたことになります。
ちなみに、「夫婦のみ世帯」で虐待が起こった割合は21.5%だったことを踏まえると「親子が同居している世帯」において虐待が多く発生していることが分かるでしょう。
親族による高齢者虐待の原因
在宅介護の場においても、様々な原因により虐待が発生してしまっています。
介護のプロである介護士でも虐待やいじめに及んでしまう以上、素人である一般の方が虐待を起こさない訳がありません。
高齢者の虐待の当事者とならないためにも、原因や理由について知っておきましょう。
介護鬱
2005年に厚生労働省が行った調査によると、介護者の4人に1人が介護鬱状態となっていたことが分かっています。
介護は心身に大きな負担を強いるので、介護と鬱は切っても切り離せない関係と言えるでしょう。
なお、介護鬱になってしまう原因としては、具体的に下記のようなものが考えられます。
- 精神的なストレス
- 身体的な疲労
- 貧困
- 協力してくれる・相談できる人がいない
- 介護に対する燃え尽き
様々な要因がストレスとなってしまうので、在宅介護に携わっている方は要注意と言えるでしょう。
上記の理由の中でも、特に協力者や相談者がいないということが鬱に直結しやすいです。
在宅介護を担っている方の中には、社会との接点がをほとんど持てずに孤独感を抱えているケースも少なくありません。
1人で介護を担っていたり、家族の協力が得られなかったりすることは大きなストレス要因となるので、協力者を見つけることが非常に重要と言えます。
近くに頼れる親族がいない方や、一人で介護をせざるを得ない方は要注意です。
介護鬱にならないために
介護鬱にならないためには、困ったことがあった時に相談できる相談者や頼れる存在を見つけることが非常に重要です。
ストレスや悩みを一人で抱え込むと鬱になりやすいことが分かっているので、家族や行政窓口など頼れる存在を見つけておきましょう。
また、近隣の方などに相談できる関係を作っておくことで、何かの拍子にサポートしてもらえる可能性があります。
鬱と孤独は密接な関係にあることに留意し、できるだけ孤独を感じないように工夫して未然に防ぐことが重要です。
なお、以下の記事では介護の悩みを解決するための具体的な方法を紹介しているので、併せて読んでみてください。
介護の悩み・負担を軽減するには|介護疲れの実態や頼れる相談先・おすすめ解消法も紹介
被介護者との同居
在宅介護に伴って、被介護者と同居していることで虐待につながるリスクが高まります。
これは、常に介護のストレスを感じてしまい自分の時間を持てないことが大きな要因として考えられます。
つまり、被介護者である親と介護者である子が同居しているケースで虐待を防ぐためには、介護の場にできるだけ多くの方に関わってもらうことが有効です。
家族で相談して役割を分担をしたり、必要に応じて介護サービスを利用することで虐待のリスクを軽減できるでしょう。
また、複数人で介護に対応することで介護負担を分散でき、一人あたりのストレスを軽減できる点も大きなメリットです。
要介護度が上がり在宅介護に限界を感じたら、有料老人ホームやサ高住などの高齢者向け施設に入居してもらうという選択肢も検討するべきです。
特に、介護業界でも大手である学研の施設は信頼して利用できることから、虐待も起きにくいでしょう。
認知症との関係
虐待を受けている高齢者の約8割が認知症を発症していることから、認知症と虐待は密接な関係にあると言えます。
認知症の方の介護はコミュニケーションを満足に取ることができないので、大きなストレスを感じがちです。
また、せっかく介護しているのに暴言や暴力を浴びるなどの理不尽な仕打ちを受けることも少なくないため、不満が爆発して虐待に及んでしまうことも少なくないのです。
つまり、介護者の思うようにいかないケースが多くストレスを感じやすいので、認知症患者の介護をする際には要注意です。
認知症の方に接する際の注意点について、以下の記事でまとめています。ぜひご覧ください。
【専門家監修】認知症の方への対応方法|家族の接し方・収集癖やせん妄等の対処法を紹介
独り身介護
介護をする子が独身の場合、介護のサポートを得にくいので心身ともに負担が大きくなりがちなので、高齢者虐待のリスクが高いです。
特に、男性は人間関係や社会関係が女性と比べて乏しく、地域の中でも孤立してしまうケースが少なくありません。
誰にも相談せずに一人で抱え込んでしまうことで、精神的な介護ストレスが蓄積しされ虐待に繋がってしまうのです。
介護を行う子のストレスを軽減するためには、地域のおけるサポートや行政による支援について把握し適切に利用することが重要です。
一人で介護を行うことになりそうな方は、早い段階から介護に関する支援や実態について把握しておくことが大切です。
高齢者虐待に関する行政の取り組み
痛ましい高齢者虐待を根絶するべく、行政側でも様々な取り組みが行われています。
今後高齢者人口はますます増えていくことから、行政の取り組みについて知っておくことは有意義です。
高齢者虐待防止法
高齢者虐待防止法とは、虐待の定義を明確にして通報・相談の窓口を設け、高齢者虐待の早期発見と防止・保護を目的に2005年に制定された法律です。(施行は2006年)
なお、正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」です。
この法律の中では、被虐待者の対象を65歳以上とした上で、虐待の種類をそれぞれ定義して明確化しています。
また、高齢者の虐待防止を目的としているため、虐待を受けていると疑われる高齢者を発見した場合、市町村窓口への通報が義務化されています。
介護事業者への呼びかけ
介護施設は高齢者の生活を支援する施設ではありますが、内部の職員だけで閉ざされた場所です。
また、介護を一任してしまう家庭も少なくないことから、虐待の事実が明るみに出にくいのも事実なのです。
介護事業者による虐待やいじめを防ぐためには、地域住民と積極的な交流を図ったり、地域支援事業の介護相談員派遣事業を積極的に活用して外部に開かれた施設にする必要があります。
多くの人の目に触れるようになれば、もし虐待が起きても早期発見に繋がりやすいでしょう。
また、高齢者の人口が増えていく現状もあり、行政としても施設長などを対象に研修や教育を実施し、法制度・介護技術・認知症への理解を促しています。
さらに、職員のストレス対策や虐待事案が発生した場合の迅速な報告体制の整備なども進められているので、このような行政の取り組みについても知っておきましょう。
市町村職員への取り組み
都道府県が市町村の職員を対象とした法制度などの研修を実施したり、Webサイトを活用して通報窓口の存在を広める広報活動も行われています。
Webサイト以外にも、市町村や地域包括支援センターが発行している広報誌・リーフレット・暮らしのガイドブックなどへ掲載することで、市民への周知を図っています。
安心して暮らせる地域作りを実現できれば人口増加などのメリットが期待できるので、自治体も高齢者虐待防止に力を入れていることが分かるでしょう。
地域住民対象の取り組み
多くの自治体では、地域住民向けのリーフレットを作成して高齢者の虐待防止や通報窓口の周知を図っています。
また、地域住民向けのシンポジウムを開催することで、第三者が高齢者虐待や介護いじめへの理解を深める機会も作られています。
地域住民が高齢者の虐待に関する知識や現実を知っておくことで、未然に防ぐ意識が高まっていくメリットが期待できます。
また、地域住民と積極的にコミュニケーションを取るように心掛け、良好な関係を築くことも重要です。
虐待対策ができている介護施設を選ぶポイント
介護施設での虐待はなかなか発見が難しいのが現実です。
施設を選ぶ際には、虐待やいじめ対策がきちんと行われている施設を選ぶことが重要です。
こちらのトピックでは、施設選びのポイントを紹介していくので参考にしてください。
見学時間が十分か
老人ホームなどの施設に入京する際には、事前に見学をするのが一般的です。
見学の際に、施設のサービスの説明や方針などについて短時間で済ませようとしたり、手短に説明しようとしている場合は要注意です。
介護への想いや仕事のやりがいが十分ではない可能性や、人手が足りていないので見学者への対応が満足にできない恐れがあるためです。
また、見学時間が十分に取られていたとしても、質問に対して回答を濁される場合や納得できる解答が得られない場合は、都合の悪い部分を隠そうとしている可能性もあります。
見学の際に違和感を感じるかどうか、施設のスタッフが誠実に対応してくれるかどうかは必ずチェックしましょう。
職員の対応はよいか
見学の際、老人ホームの職員やスタッフが入居者に対して明るい表情で丁寧に対応しているかどうかは必ず確認しましょう。
入居者と職員が冗談を言い合っていたり、コミュニーケーションがしっかり取れて笑顔が絶えない施設であることが理想ですが、和やかに過ごせそうかどうかは非常に重要なポイントです。
職員にとっては、老人ホームで勤務することで様々な辛い経験をしたりストレスを溜め込んでしまうケースは多くあります。
そのような状況の中でも、利用者が快適に過ごせるように笑顔を絶やすことなく振る舞えていれば、仕事をする中でも精神的に余裕があると判断できます。
職員や介護士の対応は注意深く観察して、自身が心地よく生活できそうかイメージしてみましょう。
外出・携帯電話の持ち込みに制限はないか
外部との連絡手段が遮断されている閉鎖的な環境だと、虐待やいじめが起きてもすぐに気付かれない場合があります。
そのため、外出や携帯電話の持ち込みに関する制限の有無は一つの判断基準となります。
携帯電話については、利用者の中にペースメーカーを埋め込んでいる方がいたり、共有スペースにおけるマナーの関係があるので、禁止されている施設も存在します。
そのような場合は、公衆電話の有無などをチェックして外部との連絡手段があるかどうか確認しましょう。
また、外出制限についても確認して、利用者が気軽に外出できるかどうか、施設のルールを質問すると良いでしょう。
施設外とのかかわりは持たれているか
地域住民にも開放されていたり、家族懇談会が定期的に開催されている施設は信頼できます。
家族と施設側がお互いの想いや考えを共有し、理解し合う家族懇談会がある施設であれば虐待が起こる可能性は低いと判断できるためです。
施設外での関わりが薄い施設だと虐待やいじめが発生しやすいので、外部との関係性についても調べてみましょう。
外部から施設の環境がオープンになっているかどうかも重要なポイントなので、閉鎖的な場合は要注意です。
労働者の滞在年数・離職率はどうか
厚生労働省の介護サービス情報公表システムのサイトを活用すると、施設の従業員やサービスについての情報を集めることができます。
これらの情報をチェックすることで施設の特徴を把握できるので、隅々まで確認してみてください。
従業員の経験年数も参考になりますが、「相談・苦情等への対応」「外部機関等との連携」などの運営状況に関する情報もチェックしましょう。
苦情に対する対応がしっかりと整備されていたり、外部機関と連携が取れている施設であれば虐待のリスクは低いです。
また、職員の継続勤務年数が長い施設や離職率が低い施設は職員の就労環境が整った施設と判断できるため、こちらも併せて参考にしてください。
高齢者虐待の実態や対策まとめ
- 在宅介護を行っている方は「高齢者虐待は他人事ではない」ことを念頭に置いておこう
- 被介護者と同居している方や独り身で介護する方は、自身の時間を確保できずにストレスを抱えがち
- 認知症患者を介護する方もストレスを抱えやすいので、特に注意が必要
- 老人ホームなどを見学する際には、職員や介護士の対応などをしっかり確認しよう
高齢者の虐待やいじめの件数は年々増えているので、高齢者虐待は決して他人事ではありません。
在宅介護はもちろん、老人ホームなどに勤務している介護士なども虐待に及んでしまうケースがあるので、当事者意識を持つことが重要と言えるでしょう。
特に、認知症患者を介護している方は強いストレスを感じやすいので、長期間に渡って一人で抱え込んでしまうと非常に危険です。
「自分は虐待なんてしない」と思っていても、介護が長期化すると誰しもが起こし得る問題である以上、現実について知っておくことは非常に重要です。
こちらの記事を参考にして、高齢者虐待の原因太予防法について知っておきましょう!
この記事は専門家に監修されています
介護支援専門員、介護福祉士
坂入郁子(さかいり いくこ)
株式会社学研ココファン品質管理本部マネジャー。介護支援専門員、介護福祉士。2011年学研ココファンに入社。ケアマネジャー、事業所長を経て東京、神奈川等複数のエリアでブロック長としてマネジメントに従事。2021年より現職。
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